Will you love me tomorrow?   * 1 *


「あ、和枝か? 俺だ」
かたわらの携帯をとると、聞きなれた夫の声が耳元でした。

「あら、今日遅くなるの?」
「あぁ。たいして掛からないとは思うけど、先に食べといてくれ」
「ううん、待ってる。一人じゃご飯おいしくないし」
「ま、腹減ったら食っとけ」
「ありがと。我慢できなくなったらそうさせてもらう。
 帰り道、気をつけてね」
「わかった。じゃ」
電話が切れる。

携帯を置いて、中断した料理を続ける。
二人で買った携帯だけど、私の着信記録はダンナの名前だけ。
ま、あっちもおんなじようなものかも。ちがったりして?
用もなく長話しすることはない。
そんな年でもない。

それにしてもなんか最近‥ 残業が多い気がする。
あと2週間で定年退職だというのに。

退職直前って、普通は業務引き継ぎだけで、
のんびりとリタイアの日を待つもんだと思ってた。
こんなご時世だから、そうはいかないのだろうか?

昔からあの人は結構マメで、
遅くなるときは必ず電話をかけて来る。

でも、一人で食べるご飯って、全然おいしくない。
子供は二人とも、とっくに結婚してこの家を出て行ってる。
普段は特にさびしい気もしないんだけど、ご飯だけは別。
一人で食べると、テーブルの上の無駄に空いた隙間で、
なんとなくわびしくなってしまう。
やっぱり待とう。

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「おかえりなさ〜い」
「ただいま。あれ? まだご飯食べてないの?」
「まだ。先にお風呂にする?」
「いいのか? じゃそうする」

お風呂には一緒に入る。
別に昔からそうだったわけではない。
何年ぐらい前だったろう?
たしか、子供たちがいなくなって、すこし経った頃だった。
「一緒に入ろうか?」
ってこの人が突然言い出して、私はびっくりした。

「こんなおばあちゃんと一緒に入って‥‥ 楽しいの?」
恥ずかしさを隠すために、皮肉っぽく聞いてみる。
「照れなくてもいいんじゃないか? 誰も居ないし」
読まれてた。自分の顔が赤くなるのが分る。

「ま、ガス代の節約と言うことで。
 それと、ボケ防止のためにスキンシップが必要だって、
 どっかで読んだ気もするし。いやか?」
「‥いいけど‥ ボケ防止って、まだ早いんじゃない?」
「冗談だよ、本気にするな」
断る理由は別に無かった。


風呂場から大きな水音が聞こえた。
急がなくちゃ。あの人、出るの早いから。
ベッドの上の背広を、ハンガーにかけ、
ウォークインクローゼットにしまおうとした。

違和感。
最初は、なにがそう感じさせるのか、わからなかった。

突然気づく。

匂い‥‥ そう、匂いだ。
ファウンデーション。それが汗と混じり合ったときの香り。
少なくとも、私の使っているものではない。
で‥?

浮気?
あの人が?

あわてて打ち消した。
家でも会社でも、およそそんなことに似つかわしくない人。
想像することすら出来ない。
どうせ電車でOLかなんかに付けられたんだろう。
結論を出し、お風呂に入ることにした。


この人が?
やっぱりありえない話だわ。
どうかしてる、私。

「なに見てんだ?」
「え?」
「俺の顔じろじろ見て」
「別に」
「男っぷりのよさに、改めて惚れ直したか?」
「それはありえないわね」

「対象外だって言いたいのか?」
「ううん、ずっと惚れっぱなしだから」
「おっと‥ 言ってくれるな、恥ずかしげもなく」
頭を撫でられた。

この人を疑うなんて、
やっぱり私、どうかしてる。そう思った。

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