恋のあれこれ10ピース piece.1  next

電車のつり革につかまって、彼女の横顏を見ていた。
京浜東北線は、もうじき大森につく。
話すべき言葉がない。
彼女から誘ってくれたデートも終わろうと言うのに。

高校1年の夏が終わろうとしていた。
そして僕の初恋も。

始まりは、僕のラブレター。中学3年の冬。
古典的な手段だったが、不器用な人間には唯一の方法だった。
結果はOK。でも高校受験が終わってからの条件付き。
それは別にかまわなかった。時間はいくらでもある。
学校で顔を合わせてるくせに手紙を書く。

最初のデートは多摩川のそばの彼女の高校。
学園祭に来る?うん行く。
5月にしては陽差しの熱い日。
近くの駅から彼女の高校につくと、汗ばんでいた。

私の顔を見て「ちょっと片付けてくるね」と彼女。
店の中でアイスコーヒーを飲んで待っていた。
彼女のクラスは喫茶店をやってたから。
「お待たせ」

学内を二人で歩く。
いろいろな説明をしてくれた……と思う。
僕は舞い上がっていた。何も覚えてはいない。

そして今日、FMの公開放送を見に来てる。
2度目のデート。

「はい、こちらのカップルはどちらから?」
「大森です」
「じゃ、彼女、リクエストは?」

彼女のリクエスト曲がかかる。
悲しみを押さえるように語りかけるボーカル。
ピアノが心の揺らぎのままにサブメロディを刻む。
それは、この頃、僕が一番好きな歌だった。

帰り道。
大森に向かう京浜東北線の中で、何かを話し掛けたかった。
でも思いは言葉にならない。

彼女は何が好き? わからない
彼女はどうしたい? わからない
どんな気持ちで僕と付き合ってるんだろう? わからない
僕は彼女が好き? そのはず………
じゃ、誰が誰を好きになったの?

ぼくの「思い」は、外形だけ存在していた。
箱のフタをあけてみたら……中には何も入ってなかった。
そんなはずはない。ありえない。
そう思って、いくら探しても、何も見つからない。
僕は泣きたくなった。

自問自答を繰り返すうちに電車は大森駅についた。
彼女の家の前で別れた。
「じゃーね」

その日、僕の初恋は終わった。
そして再び彼女に会うことはなかった。
キスどころか、手を握ることもなく。

人を好きになることなんか、僕にはできない。
そう思った。

こうして初恋が終わったあとに、
僕を、もっとつらい季節が待っていた。



目が覚めると、見知らぬ男たちが僕の顔を覗き込んでいた。
男たちは白衣を着ていた。
横になった僕の体が異様に揺れている。ここはどこだ?
「家に帰る、家に帰る!」
僕は恐怖の中で叫んでいた。小学生のように。
救急車の中で暴れる僕を、複数の人間が押さえつける。
その中に家族の顔を見つけた。
とても心配そうだった表情が、ずっと記憶にある。

そのあとのことは、ほとんど覚えてない。
ただ入院もせずに家に帰してもらえた。

睡眠中にけいれんの発作が起こる病気だった。
後で聞いたところでは、外傷性のもので、
特定の薬さえ飲んでれば起きないようだった。

どっちにしても、失恋の痛手と、病気の恐怖に包まれて、
最悪の二学期が始まるしかなかった。

唯一楽しみにしていた部の秋合宿にもいけず、
僕は、窓辺の席から校庭を見つめるだけの生活を始めた。
何度席替えをしても、同じように窓の席を確保した。
僕は誰とも話す気にならなかった。

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