カキ氷  part.1 next


夏が終わろうとしている。

悲しい思い出は、さっき拾った貝殻につめこんで。
そして、砂浜に置いて家に帰ろう。

いずれ満ちてくる潮が、すべてをおおいつくして。
私の涙も、伝えきれなかった思いも、すべて……

……シャッシャツ……

そう、伝えきれなかった思いのすべて。そして、切なさであふれた、

……シャカシャカ……

切なさで……え~っと、どこまでいったっけ?

……シャッシャカ、シャッシャカ……

「うるさい!!!」
「えっ?」

そいつは、カキ氷の山から顔を上げて、私を怪訝な顔で見てる。
茶髪で片耳ピアス。
見た目は変わっても、表情はかわってない。昔のまま。

「あんたがうるさくて、わけわかんなくなったじゃない」
「???」
「そのカキ氷の食べ方、なんとかならないの?」
「でも、こうするの好きでサ、ガキの頃から。知ってんだろーが、ユリ」

この夏、片思いの先輩を射止めることは出来なかった。
で、結局、私はここにいる。
なんか去年も同じだったような……
そしてその前の年も。
私って……やっぱり世界で一番不幸な女?

気づくと、カキ氷男はスプーンで氷の山を崩すのも終わって、
半ばジュースと化したものを、やおら食べ始めてる。

「ほんとに、そんなふうにしちゃっておいしいの?」
「うん。とっても」
幸福そうだ。本当に。
世界中の幸せを独り占めしたときのような満ちたりた顔をしてる。

「あんたは幸せそうでいいね、いつも」
「ありがとう」
皮肉が通じない……

最盛期には人で埋まってしまう砂浜も、今はだいぶ寂しい。
それでも、今年の夏を惜しむように、カップルと家族連れが結構来ている。
その中に、この男、幼馴染の雄介と私はまぎれこんでいた。

シュッ、ポッ。変な音がした。
かたわらを見ると、雄介がタバコをくわえていた。
「あれ、雄介がタバコ吸ってる!」
「まずい、おまえ風紀委員だったっけ?」
「あれは学校だけ。見なかったことにするヨ」
「Thanks!」
「でも、いまどき、はやんないよタバコなんて」
「別に流行に追われて何かをするわけじゃないし、おれ」

こいつは、こういうやつだ。
何にもとらわれることがない。
流行にも。意見にも。規則にも。常識にも。
そのために停学寸前までいったこともある。それも友達のために。
しかしこいつの言うことはとても筋道立ってて、
その時だけは、なぜか担任がかばってくれて、
なんとかおさまったけど。

「ちょっと貸して!」
タバコを指にはさんでポーズをとる。
「どう?悪い女っぽく見える。男をたらしこんでるよ~な」
しばらくこっちを見てた。
「だめだ。想像できね」
「どうして?」
「悪い女ってのはさ、やっぱそれなりにセクシーで美形でさ、
 少なくともユリみたいな体育会系じゃないだろ。それに……」
「それに?」
「現実は…… 男に振られつづけてるわけで……」
カチンと来た。怒りにまかせてタバコを思いっきり吸い込んだ。


「無理すんなよ。ほらほら。
 だめだよ初心者が奥まで吸い込んじゃ。
 ゆっくり慣らしていかないと。ほれ!」
雄介が渡してくれたウーロン茶を飲んで、やっとセキが止まった。

そのあとしばらく海を見つめて、
することもなくなって、帰ることにした。
だって、いちゃつくカップル見てても落ち込むばかりだし。
こいつと一緒じゃ、感傷にふけることなんて全然できないんだもん。


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