クリスタルガラスの一輪挿しには、さりげなく花が投げ入れられていた
初秋の風は、いたずらっ子のようにその花びらを揺らしている
差し込む光の中で繰り広げられる、そのおだやかなたたずまいに
なぜかほっとする自分がいた
やっとここまで‥ 来られたんだ‥


秋桜 〜コスモス〜



俺は後ろを振り向く。
キッチンにいるのは弥生。
彼女はおぼんの上に白いティーポットを載せるところだった。

「弥生、これ‥ どうしたの?」
「え?」

ポットを置いて、こちらに向きなおる。

「あ、それ? さっき買い物の帰りにアパートの入り口で見つけたの」
「玄関の横のとこか‥ 全然気がつかなかった」
「あんまり目立つ花じゃないからね。
 でも、そうしてあると、けっこうかわいいでしょ?」
「あぁ」

‥‥‥君とおなじぐらい素敵だ。
のど元まで出かかったその言葉をあわてて飲み込む。
いくらなんでも、俺の柄じゃない。
咳き込みそうになる。
そんな挙動不審の俺を弥生は不思議そうに見ている。

「どうしたの? コウちゃん、なんか変だよ」
「いや、なんでもない」
「ほんとに?」
「ほんとだよ、なんでもない!」

「それならいいけど」
そう言って弥生はキッチンに向かう。

おだやかな昼下がり。
カップの触れ合うカタカタという小さな音。
遠くではしゃぐ子供たちの声。


俺は、風に揺れるコスモスをずっと見つめていた。



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