会える日  part.2


目の前に健太がいる。
二人でコーヒーを飲んでる。
本物の健太がすぐそばにいる。
この時間が、今の私にとって、一番大切なもの。

寂しかった。ずっと。
そりゃ、携帯で声を聞くのは簡単だし、メールで気持ちを伝えることも出来る。
でも、それだけじゃ駄目な日があって。

なんか健太の受け答えが、なげやりに感じてしまった日。
私の思いだけが、会話の中で上滑りしているような気がして。
ふとした私の言葉に対するリアクションがちょっと遅いだけで、
あ、なんか考えてた、って思って。
でも、それが聞けない。
目の前にいれば、どうしたのよ〜、と言える事が言えない。

電話の後で、なんかあったんだろうか健太、って考える。
そしたら、悪いほうへ悪いほうへ考えがいってしまって。

健太、私のこと嫌いになったのかな?
重荷に感じてるのかな?

そんなわけないだろ! って自分を叱っても、
次々とわきおこる思いをコントロールできなくなる。

なんで健太のことが信じられないんだろう?
たった何ヶ月か離れてただけなのに。
なんで素直に受け取ることが出来ないんだろう?
世界で一番大好きな人の言葉を。

そんな日、胸をかきむしられるような思いの中で、
私は、眠れなくなってしまう。

「寂しかったかそんなに‥‥」
「?」
「いや、今、そんな顔したから‥‥‥
 うん。そうだ! 真梨、あのさ、」
「?」
「これからさ、会ってる時は、無理しないことにしよう」
「無理しない‥‥‥って?」
「だから、目の前にいるときはお互い好きなこと言おうよ」
「え?」

「だって、電話だと、なんかまどろっこしいことあるだろ?」
「うん。ある」
「言葉って便利だけど、目の前にいないと伝わらないこともあるし」

あ、健太もおんなじこと考えてたんだ。

「顔を見ていられるときに、色んなこと好きなだけ話そう」
「うん。そうする。‥‥‥‥でも、」
「なに?」
「じゃあ、あとで‥‥‥ここじゃ出来ないけど、
 150回ぐらい『寂しかったよぉ〜』って言っても、
 健太、ちゃんと聞いてくれる?」

プッってコーヒーを吹き出した健太。
あわててナプキンでテーブルを拭く。

「150回か‥‥‥ そんなにストックがあるのか。驚きだな。
 いいだろう、今日はなんでもありで」


「真梨さ。ついでにちょっとおまえに文句言いたいんだけど」
「えっ?」
なんだ? なんだろう? なんかしたの、私? わかんないよ。

「おまえさ。なんで自分だけが寂しかったって思うわけ?」
そう言いながら、私の目をじっと、健太の目が見つめてる。

‥‥そうか ‥そうだよね
私、鈍すぎ。そうだったんだ。健太も。
あたりまえだよね。

「全然考えてなかったのか?」
「‥‥‥‥‥」
「いや、気にすんな。真梨は真梨で大変だったってわかってるから。
 じゃ、そういう事で俺は151回な?」
「なんで私より1回多いの?」
「真梨は俺が寂しがってることに気付いてなかったから、その分」

私、この言葉聞いたとき、
自分は世界で一番幸せな女だって思った。
これからも健太とずっと一緒に居たい、そう思った。


部屋に向かう途中でふと考える。 正直言って俺、自信なんてまるでなかった。
遠く離れて暮らしても、これまでのようにつきあえるか? なんてこと。
一つだけあった確信は、
俺が真梨を好きで、真梨が俺を好きだということ。
でもそれだけで乗り切れるのか? 全くの未知数だった。

電話をするたび、真梨の声に不安の色が増していくのを感じた。
ああ、彼女だいぶこたえてるんだなって。
明るく振舞ってるだけに、その分、けなげさが胸にしみる。
そんなときは、力いっぱい抱きしめてやりたかった。

電話越しで伝えられないもどかしさの中で、
無言の時間が続いたこともあった。
そのとき真梨は声を殺して泣いていたのかもしれない。
同じ思いを二人が持っていて、なにも出来ない状況で、
俺も真梨と同じように追い詰められていた、と思う。今、考えれば。

やっと時間が取れて、こうしてデートの日取りを決めて。
その日になって、会ったときにどういう顔すればいいのか、分らなかった。
毎日のように会っているときは、そんなこと考えたこともなかった。
一杯たまった思いをどれから出していけばいいのか。
でもそんな心配は要らなかった。
真梨は会った瞬間に、すべての思いをストレートに俺にぶつけてきた。
全部が理解され俺の気持ちの中にちゃんとおさまったとき、
二人の空白の時間はかき消された‥‥‥‥と思う。

今、俺の腕にぶら下がるように横を歩いてる真梨を見る。
「な〜に?」視線に気づいて見返してくる。
前とおんなじ真梨がそこにいた。不安も何もない真梨が。

「今夜は‥‥‥‥寝かさないよ、真梨」
「えへ」
「ほら、しっかり考えてたんじゃないか、真梨ちゃん」
「あ、ずる〜い。それって誘導尋問じゃない?」
「誘導して悪いか?」
「‥‥‥‥いいけど‥‥」

そんなこと‥その笑顔で‥いわれたら‥
部屋の前で抱きしめてようとした。
真梨が俺の胸を押し返す。
「あせっちゃだめ、部屋に入ろう?」

ドアを開けて、言うとおりにするふりをしておいて、
突然真梨を抱えあげて、だっこした。
「!」
ビックリしてる。狙いどおり。
「では、姫様。私が部屋までお連れいたします」
すぐにのってくる。いつもと同じに。
「くるしゅうない」
両手が俺の首に巻かれる。
キスをしたまま部屋に入り、俺は足でドアを閉めた。


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