会える日  part.3


カウントダウン。
あと10時間。

朝、目が覚めたら、隣には健太が大の字で寝てた。
私のお腹の上の左手をどかす。
たぶんこのせいで目が覚めたんだろう。
結構重いんだよね。腕って。

二人ともハダカ。
そのまま寝ちゃったんだ、ゆうべ。
ベッドを揺らさないようにそっと抜け出る。
体に毛布巻きつけて、椅子に座った。

テーブルの上の携帯見たら、7時ちょうど。
今日はこれから、岬の先端のほうに行って、
フェリーで島巡りをする予定。

健太と同じ景色を見て、一緒にご飯食べて、
いっぱい話をして。
ぴったりくっついて。
たとえあいつが嫌がってもぴったりくっついて。
今日はずっと一緒にいられる日なんだから。
気分的にはトイレまでついていきたい、そんな感じ?

5時の列車。
次に会える日まで、覚えておけるだけ、
出来るだけたくさん、健太を私の中に詰め込んでおきたい。

コーラで喉の渇きをおさえたあと、さっそく実行。
ベッドに戻って健太にビターッてはりつく。
いいんだ、これ。ぬくぬくして。


目が覚めたら、何かが体にじっとり貼りついてた。
横を見る。当然のことながらそこにいるのは真梨だ。
こいつの正体は軟体動物か、と思うぐらいに。

髪をなでながらキスをする。
「おはよう」
「おはよう」
「朝から盛大に張り付いてるね」
「うん!」
「楽しい?」
「うん!」

真梨とくっついたまま、しばらくそうしてた。
二人の心の温度が同じになるまで。
体がすきまなく暖まるまで。

「もういいだろ。そろそろ起きて、朝ご飯にしよう」
「うん」

「起きような?」
「うん」

「‥‥‥‥あのさ‥」
「なーに?」
「返事とやってること、ばらばらだろ〜が、おまえ!」

真梨の両腕は、俺の腰をガシッとつかんでる。
起きようとすると、力を入れて引き止める。
知らん振りするその顔もわざとらしい。
そうかそうか、そう来るか。
それなら‥‥‥こうしてくれる!!

「ダメッ! それ‥‥反則だョ‥‥‥やだ‥‥
 ‥‥‥健太‥‥そんな‥‥‥‥」


で、結局、
俺たちが朝ご飯にありついたのは、
それから1時間以上も経ってから、になったわけで。

朝食をとって、チェックアウトして。
バスに乗り、フェリーに乗って。
ずっと真梨の笑顔はまぶしかった。

「真梨?」
意味もなく声をかける。
「な〜に?」
わかってて、笑顔が返ってくる。


カウントダウン。
あと2時間。

喫茶店で、ケーキセット。
気づくと真梨がケーキを見つめたまま固まってる。
「真梨?」
俺の声に気づいて目を上げる。
なにも言わず、手を伸ばし真梨の頬に当てる。
真梨はその手を掌で包むようにする。
「食べよう?」
「うん‥‥」

バスで駅に向かう。
並んで座って。手を握る。他の人に見えない位置で。
二人とも視線は窓の外、流れていく海ぞいの景色。
駅に近づくにつれて、握った手に力が入ってくる。
真梨の手が、すべての思いを俺に伝えてくる。
横を見る。泣きそうな表情。こらえてる。
何かを言ってやりたいと思っても、適当な言葉がない。
できるのは、力強く握り返すことだけだった。

二人の帰りの列車は時間差があった。
真梨の列車のほうが先。俺は見送ることになる。
どっちでも、離れてしまうことには変わりない。


カウントダウン。
あと30分。

おみやげ、決まんないな。
全然集中できない。頭の半分がよそに行っちゃってて。
「真梨さ〜、決まんないなら、目つぶって適当に指差せば?」
「そうだね」

目をつぶって指差す。
「真梨、それは無理だよ、大きすぎる」
「いやだ! もって帰るの!」
困りきった健太の顔を見て、いけないって思った。
「ごめん‥‥ 冗談になってないね」
「‥‥いいよ‥‥ 別に‥‥
 俺も、これ、持って帰りたいって思ってたし」
健太が指差す。


カウントダウン。
発車5分前。

私、もう顔を上げることが出来ない。
ホームで列車が待ってる。
目の前に健太。

顔を上げて健太の目を見たら、絶対泣いちゃう。
もうだめ。こんな思いするなら、会わないほうがいい。
この二日間の楽しかったいろんなことが、
今は悲しさを倍にしてしまう。

乗降口まで二人で行く。
「行くね」
やっとのことでそれだけ言った。

肩つかまれた。キスされた。

発車のメロディがながれる。
背中を押され、列車に乗った。

ずっと健太の顔を見てた。
無理に作ってる笑顔がバレバレ。
演技ヘタだよ、健太。ヘタすぎるよ。だめだよ。

プシュって音を立てドアが閉まった。
二人の間に立ちふさがるように。
もう、だめ。
やだ〜 帰るのやだ〜 健太のそばにいる〜

列車が動き出す。
ドアの窓に張り付いて、遠ざかる健太を見てた。
涙でぼやけて、景色の中に溶けていく。
目をごしごしこすっても、もう見えなくなっていた。

席に着く。

涙が止まらなかった。
なんでこんなにつらい思いをしなきゃいけないんだろう。

でも、大好きだよ、健太。こんな思いしても、やっぱり。
‥‥‥我慢する。世界で一番好きだから。

メールの着信音がした。健太からだ。

「寂しいよぉ〜」×152

ハハ、いっこ増えてるんだ。

正直な奴だ。可愛いな、おまえは。
男にしてはなかなかだな。
結婚してやってもいいぞ。
本気だぞ。



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