優 子  part.2


翌日、珍しく朝から大学に行った。

春はキャンパスにたくさんの学生があふれていたけど、
今はもうパラパラ。
人の通らない並木道に銀杏の葉が舞っている。
たまにいるのは、怪しい新興宗教の勧誘のお姉さまぐらい。

春頃しか行ったことのない選択科目が1限と2限にあった。
どっちかで彼女を見たような気がしていた。

1限目。はずれ。
この単位とっていないのか、来てないだけなのか、
分らないが、今ここにはいない。

2限目。始まる直前に駆け込んできた学生がいた。
彼女だとすぐわかる。
階段教室の一番後ろに俺はいた。
彼女は、どの学生からも敬遠されてる前の方の席に座った。
教壇のまん前。

授業が始まると100%睡魔に襲われ陥落してしまう俺は、
さすがにそこには座れない。
これでも礼儀ぐらいは心得てる。
自分の話の際中に、目の前でコックリコックリされるのは、
誰でもイヤだろう。俺が教授なら、その学生殴るな、多分。
いや、寝なければいいだけの話なんだけど。

遠くに見える彼女の後ろ姿。
こんな風にじっくりと彼女を見たことはなかった。
黒いセミロングの髪。ストレート。
ピアスじゃない控えめなイヤリング。
横にいるのは女友達らしい。何か話してる。
話しながらときおり見せる笑顔。
俺は彼女がほほえむたびに息をのんでた。
なんか‥‥‥ これって‥‥

来たな、と思った。
高校3年の頃につきあってた子に派手に振られてから、
しばらく忘れてた思いが、胸によみがえっていた。
チクチクって、あの感覚が。

もういいよ、あんなのは。
そう思って、クラスメイトや同じ同好会の仲間から誘われても、
俺は合コンとかは不参加にしてたけど、
突然こんな形で始まるとは。

「じゃ、ここまで」
教授がテキストを閉じる。2限が終了だ。
途端に教室がざわめき始める。
ほとんどが昼食メニューに関する話題。だと思う。
授業内容の検討、なんてことは全くありえない。

彼女が突然振り向いた。
俺のほうを見て手を振ってる。笑顔で。
気づいてたんだ。

そばの友達にふたことみこと話をしたあと、
大きめのバッグを持って、階段を上ってくる。
何も考えてなかった。
ここにくれば、彼女に会える。それしか考えてなかった。
なんて言えばいいんだ?

「この前はどうもね、市川君」
彼女のほうから話し掛けてきた。

「ああ、びっくりしたよあんときは」
「うちに帰ってからね、あのときのこと思い出して笑っちゃった!」
「なにが?」
「お水を持って行ったとこ」
彼女は楽しそうに笑ってる。確かにあれは笑えるシーンだった。

「あの時すごい緊張してて。チョンボが続いてて、
 お客様にくれぐれも失礼のないように、って
 店長にきつく言われたばっかりでね」
「そうか。どうりで」

「前から知ってたの? あの店」
「あぁ、時々むしょうにピザが食べたくなるんだ、あの店の。
 そうなると止まんなくなって、月に1回ぐらい行ってるな」
「『たっぷり野菜のピザ』?」
「そう。あれ」
「女の子に大人気なんだけど、あれって‥‥‥‥‥」
「そうなんだ。でも俺、あそこのピザの中で一番うまいと思うな」
「同感!」


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