優 子  part.3


悩むほどのことじゃなかった。
とても気さくに話し掛けてくる彼女に、
身構えることなく言葉を返すことが出来た。

「学食にいこうか? お昼だし」

色っぽくない誘い方だけど、
もう少し彼女と話していたかったから。

「そうね」

簡単に答えは返ってきた。
連れ立ってキャンパスの奥の学食に向かう。
黄色い銀杏の葉が、並木道を埋め尽くしていた。

カツ丼を頼んだ。彼女はスパゲティのランチ。
席について、
「いただきます」と箸を持ったまま手を合わせたら、
彼女も同じようにして「いただきま〜す」

「おんなじだね?」
「うん。さすがにおどろくね、目の前で他の人がやると」
「家庭の習慣だろ? それって」
「そう、子供の頃からやらされてたから」

俺がカツ丼を口にかきこんで、ふと視線をあげると、
彼女が俺のほうを見てた。食べるのをやめている。
やばい、せっかくのお食事タイムが。
いつものくせでデリカシーのない食い方してる。
でも、彼女は呆れてるわけじゃなかった。
笑ってる。にやにやと。

「おんなじだな〜」
「え?」
「お兄ちゃんと」
「お兄ちゃん、って?」
「2歳上の私のお兄ちゃん。
 食べ方が全く同じ。市川君とお兄ちゃん。双子みたい。
 その、丼で顔が半分隠れちゃうとこまで、そっくり」
「そ、そうなんだ」
これ以外に言いようなんて、ない。

「あ、嫌いなんじゃないんです。そういうの。
 なんか男っぽくていい感じ。そう、男だな〜って感じで」
そういうもんか?
とりあえずこの場で減点されたわけじゃないのがわかって、
落ち着いて食事を続けた。

食後のコーヒーを飲みながら、思いきって言ってみた。
このままじゃ、単なるクラスメートで終わっちまうから。

「あのさ」
「なんですか?」

彼女がまっすぐにこちらを見てる。
いかん、どぎまぎしてしまう。
中学生じゃないんだから、落ち着け! 俺!

「こんど、外で会ってくれない?」
「えーっ! それって〜」
う、まずかったか‥‥

「もしかして、デートの申し込みですか?」
それ以外にあるわけないだろ。
断るんなら引っ張らないで早く言ってくれ、ダメならダメって。
お願いだから‥‥

「それ‥‥ OKです」
ん? 今、なんて?
いつのまにかテーブルを見てた俺は顔を上げた。
目の前に乗り出した彼女の顔がどアップで見えた。
驚く俺の前でゆっくりと唇が動く。
「OKです! 聞こえてる?」
「あ あぁ」

ふぅ‥‥ よかった。
でも、いいのか? こんなに簡単で。

こうして、たった1週間で、
水沢優子は俺の彼女になっていた。


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