コーヒーメーカーからカップへと、コーヒーを注ぐ彼女。
 テーブルに濃い香りが広がる。
 彼女の手が自分のカップを持ち上げる。
 「何、見てんの?」
 「いや、なんでもない」
 「変なの」
 立ち上がってテーブルを回り、
 座ったままの彼女の顔を両手ではさむようにした。
 キスをする。そして唇を離し、その体を抱きしめる。
 「ダメだってば、トースト冷めちゃうよ〜
  困った人ですね〜」



『モカマタリをストレートで』 Part. 2


「どうなさったんですか?」
心配そうに俺を見ている顔。加奈だ。
どうやらコーヒーカップを抱えたまま、
少しの間トリップしていたようだ。

「あっ、ちょっとね。気にしないほうがいいよ。
 俺、起きぬけはいつもこんな感じだから」
あわてて誤魔化す。
「へぇ〜 そうなんだ〜 朝弱いんですか〜」
笑顔が俺に向けられる。


30分前。朝8時。
素敵なコーヒーの香りで、俺は目を覚ました。
台所に行くと、加奈は白黒のメイド服で朝の挨拶をして来た。

「おはようござます」
「おはよう‥」
「どうかしましたか?」
「あっ、いや、あの、それって、ゆうべと違うけど‥」
「あぁ、この服ですか?
 やっぱりメイドですから、こういうのもいいかなって。
 お好きですか? 弘志さん?」
「あ、あぁ、まあ一応」
「よかった。もうすぐトーストが焼けますから、
 座っててください。
 そうだ、目玉焼きはしっかり固いのがいいですか?
 それとも半熟?」
「俺、固いの苦手」
「わかりました」

目玉焼きとトーストが並び、コーヒーが注がれた。
その香りをかいでいるうちに、
いつのまにか俺は、記憶の中の久美子と再会していた。
モカマタリの香りの中で。


「今日はさ、予定あるの?」
全てを食べ終える頃、ふと思いついたことがあった。

「いえ、別に」
「研究所とかは?」
「私に異常が発生しない限り、行く必要はありません」
「じゃ今日は遊園地に行こう」
「え?」
「だから、パーッっと二人で遊ぼう?」
「でも私はメイドロボですから‥‥」

「メイドって、日本語だと女中とか召使とかだよな?」
「ええ、そうですけど」
「だったら、ご主人様の命令には従うはずだろ?」
「はい、いちおうそのようにプログラムされてますけど。
 あ、当然、強盗とか殺人とかはフィルタリングチェックで、
 実行不可能になりますけど」
「だったら俺の命令で遊園地に行くのはOKでしょう」
「変な命令ですね。でも、たしかに‥OKっぽいですね」
「だろ? じゃ決まり。かたづけが終わったら行こう」
「はい!」

外に出るのがこわかった。なさけないことに。
たとえアンドロイドであっても、誰かが一緒にいて欲しかった。

「あの‥‥」
「?」
「もう少し動きやすい服に着替えようかとも思ったんですが、
 もし、弘志さんが、この服のままのほうがいいんでしたら‥‥」

あやうくうなずきかける俺がいた。
やっとのことで自制する。
「いや、普通のかっこで‥ いい」
「わかりました、そうします」


 Part. 3