おしゃべりなブラウニー             (1)

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ブレッツェル。
チョコレートブラウニー。
そして、フィナンシェ。

「ガトー・シャンティ」の工房は、焼き菓子のオンパレード。
クリスマスケーキばかりだった2・3日前とは、
別の店のようだ。
工房全体が茶色く染まったような気がする。

しかし、これは全国の洋菓子店で、
今、普通に繰り広げられている光景にすぎない。

帰省のおみやげや、年始の挨拶回りに持っていくために、
お客さんが買っていくのは、日持ちするものが中心になる。
そこで、焼き菓子とかパウンドケーキとかが登場する。

定刻には当然帰れないが、そこそこにはなんとか、
そんな日が続く。

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すでに冬休みに入ってるユカが、昼過ぎに店にやってきた。
朝、メールで時間を打ち合わせずみ。
昼の休憩は、お客様が途切れる午後1時ごろ、交替で。

明るい陽射しの中を、ユカと一緒に『ブラン』に向かう。

「ごめんな」
「何が?」
「クリスマス忙しかったし、年末年始もずっと仕事で。
 プレゼントだってあげてないし」
「ううん。ぜんぜん。ノープロブレムだよ」
「ほんとに?」

『ブラン』のディスプレイの前で立ち止まり、
隣のユカの表情をうかがう。

「あ、心配してくれてたんだ。ありがと。
 でも、大丈夫。
 だって‥‥
 旦那様のお仕事なんだから、
 今から慣れておかないと‥‥ ね!」

伸び上がるようにして、ユカはチュッっとキスをしてきた。

一瞬の隙を突かれ、俺は呆然と立っていた。
「ほら、なにしてんの? 入ろう?」
手を引かれ店に入る。

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「わぁ〜、そうしよ!
 うんうん。楽しみだな〜」

ユカの反応は予想できないほどの強烈なもの。
「ブラン」の他の客が驚いて、何の騒ぎかとこっちを見てる。
マスターは大笑いしてるし。

さっき話してたら、彼女、年越しの初詣に行ったことなくて。
じゃ行こう、って誘ったらこの騒ぎ。

殊勝なこと言ってたけど、
やっぱり、しばらく会えなかったのが寂しかったんだろう。
そう感じた。

「わかった。わかったから、大声出すのやめてくれ」
「えっ?」
気づいてない。
時々、小学生並みの行動パターンになるのが、
ユカの一番の欠点。
とはいえ、それはそれで可愛いと思ってしまう、
俺がいたりするので困る。

「どこ行くの?」
「駅の向こうの八幡神社。知ってる?」
「あ、知ってる」
「あそこなら歩いていけるし。普段地味な感じだけど、
 大晦日は結構賑わってるよ。
 それに川崎大師とかだと、1時間ぐらい歩かされちゃうし」
「りょ〜かい。で、何時にお店に行ったらいいの?」
「多分11時過ぎになると思う。去年それぐらいだったから。
 いや、待て。
 危ないから、俺がユカん家に迎えに行くよ、それで」

おっと、いけない。忘れるとこだった。
目の前の女の子は未成年だ。いちおう真夜中のデートだし。

「その前に。まず、お母さんに許可を得なくちゃ」
「そんなの。タカシさんと一緒ならOKって言うよ、絶対」
「ともかく」
「わかった、聞いてみる」

携帯をもって外に飛び出すユカ。
思い立ったが吉日。ユカの座右の銘かもしれない。
店の前で電話してる。

普通に話してるが、表情がくるくる変わる。
そして最後にはこっちを向いてガッツポーズ。
非常に分りやすい。

「で?」
「うん! 保護者付きということで余裕でOK」
「保護者って?」
「何言ってんの。それはタカシさんのこと」
俺が保護者ねぇ‥‥

俺的には、
保護者みたいな気分じゃなくなってきつつあった。
微妙に。

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いろんなたわいのないことを、ユカと話しているうちに、
あっという間に時間は経っていた。

「そろそろ行こうか?」
「どこに?」
「何、馬鹿なこと聞いてんだ、決まってんだろうが」
「あ! ホテルとか?」
「な、なにを‥」
「冗談ですぅ」

「‥‥だいたいそんなセリフ、
 女の子の口から出る言葉じゃないだろうが!」
「あ、ふる〜い。オヤジみたい」
「いや、俺は今日から保護者だ。文句は言わせない。帰るぞ!」
「ハイハイ、オヤジさま。
 マスター、また来ますね〜」

どうしても、ユカには引っ掻き回されてしまってる。

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