夢の途中            
                        Part.2  アクシデント
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地下鉄に乗っているときに、急に気分が悪くなる。
運悪く最終に近い列車で、かなりの数の乗客で込み合っていた。
座るどころの状態ではなかった。

ただ目をつぶって、私は耐えていた。次の駅まで。

「大丈夫ですか?」
遠くで声が聞こえた。ゆっくりと目を開ける。
「気分、悪いんですか?」
目の前に私を気遣う表情が見えた。

私と同じぐらいの年齢の男。
グレーのスーツを着たサラリーマン風。
心配そうな顔をしてる。

「大丈夫です‥‥」
病気ではないのだから、そう言うしかない。

「でも、顔が真っ青ですよ。次の駅で降りたほうが‥」

列車が不意に大きくゆれ、その瞬間にふわっと意識が飛んだ。
ヒザがガクッと折れる。
両方の二の腕が、強い力でつかまれた。
それがなければ、私はきっと、
そのまま床に座り込んでいたに違いない。

もどりつつある意識の中で感じていた。
とても暖かい手。泣きたいくらいあったかい。

「あ、ごめんなさい。痛かったですか?」
腕に加わっていた強い力が、言葉とともに緩められる。
「いえ」
「もう、大丈夫ですか?」
手が離れていく。
「なんとか」
でも、まだ少しぼんやりしていた。

窓が突然明るくなる。
列車はホームに滑り込んでいた。
「とりあえず降りたほうがいいみたいですね」
促されるままにホームに下り、ベンチに座った。

「あの‥ ありがとうございます。
 ちょっと立ちくらみしてしまったみたいです」
御礼もしてないことに気づいて、そう言いながら頭を下げた。
そして、ここで休んでいくので、
心配は不要だと伝えた。

「でもなんか心配ですね。顔、青いし」
親切が逆になんとなく面倒になってきていた。
体の中の不快感が強くなっていて、怒りっぽくなっている。
いつも、最初の日はこんな感じになってしまう。

「毎月のことなので、慣れてますから。
 行って下さって結構です、もう大丈夫です」
つい、強い語調で言ってしまった。
しまった、とすぐに後悔する。

「え? あ! あぁ‥‥‥」
わかったようだ。顔がみるみる赤くなる。
「あ、そ、そうですか。はい」
なんかとても対応に困ってるようだった。
話の中身と、私の態度に。

言うんじゃなかった。
気まずそうに彼は去っていく。
次の電車が来て乗車してからも、そして発車するまで、
心配そうにこちらを見ていた。

悪い男ではない、と思う。
しかしその時の私は、そんな気分ではなかった。


家に戻り、そのままベッドに入る。
着替えるのもしんどい。
女であることの二乗のダメージ‥ 
目覚まし時計のタイマーを確認し、目を閉じた。

眠りに落ちる一瞬、
私は、電車の中で私を支えてくれた手の暖かさを思い出していた。