夢の途中            
                        Part.1  デジャブ
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ベッドから天井を見上げていて、体の異変に気づく。
ちりちりした感覚が、絶え間なく背筋をかけのぼってきている。
そろそろ始まるんだろう、おそらく。

ベッドから起き上がり、先ほど脱いだ服を探す。
服は、ベッドの周りにあるはず。
暗くてよくわからない。それでも灯りをつけるのはためらわれた。
ベッドを抜け出す。ブラウスだけは見つかった。
とりあえずそれを肩にかける。

男が身動きした。
「どうした?」
「ちょっと」

バッグから小さな包みを取り出し、バスルームに向かう。
ドアを閉めてから灯りをつける。

鏡の向こうに写る女。
25歳。独身。
ショートカットの髪。パールのイヤリング。
でも今は、表情のかけらもなくぼんやり鏡を見つめてる、ただの寂しい女。

薬指から指輪を外して、洗面台の上に載せる。
カタッと小さな音がバスルームに響く。

薬指、指輪の跡。
時が経てば、それはあとかたもなく消えてしまう。
この人と過ごした記憶が薄れていくのとどっちが先なのだろう。

あらがえない流れが、私をここまで運んできた。
振り返っても、やりなおせるものは、もうなにも残ってない。


私は、何週間も前から、この日を覚悟してた。
既に愛されていないことは、分りすぎるほど分っていた。
私に触れるときの、ほんのちょっとした体の動き、手のためらい。
男のそんな小さな変化は、
単なる違和感ではすまない何かの存在を、私に教えていた。

今日、初めて別れを告げられたのに、
そのシーンは、デジャブのように見慣れた光景だった。
すまなそうな彼の表情も。ことばも。
そして私の感情さえも。すべてが。

今夜を最後に、この男と二度と会うことはない。
彼がくれていたぬくもりも、
明日からは、私の知らない女に与えられるものになる。

それがわかっていて私は抱かれた。
抱かれたかった。
この何年間かで男の愛撫に馴染んだしまった肌に、
本当の最後だとわからせるために。

私から抱いて欲しいと言ったとき、男は驚いていた。
重ねて懇願する私を、男は最後のわがままとして許容した。
そうして、私は抱かれた。

激しい時を過ごして、男が寝息を立て始めたとき、
私の目からは涙があふれて、両頬を伝って落ちていった。
それでも不思議に悲しくはなかった。
すべてはわかっていたこと。


バスルームから部屋に戻ると、灯りがついていた。
男は下着だけを身に付け、煙草を吸っている。
服を拾い集め、バスルームに行く。
今までのように、男の前で着替えることはできない。

私たちは他人だった。もう既に。

「私、帰ります」
「帰るのか‥‥ 送っていくよ」
「いいです、一人で帰ります」
「‥‥そうか」

あえて無理に送るとは言ってこなかった。

さよならを言い、玄関を出る。
まっすぐにエレベーターに向かう。

振り向くことはしない。それでは私があまりにもみじめだ。

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                      * Part.2