アイツなんて大ッ嫌い!
―― 学園異能戦士たちの活躍 ――

Part.1 発端

「えっ?!」
師匠のその言葉にあたしは自分の耳を疑った。

「も、もう一度おっしゃって頂けますか?
 なんか聞き間違えた気がしましたので――」
「そうか? じゃもう一度」

耳をダンボなみの大きさにしたつもりで、
あたしは師匠の言葉を待った。

「……奇跡を起こし、妖魔を討ち倒すこの能力(チカラ)は、
 …幼き頃を共に過ごし、 心身ともに通じ合える異性……
 詰まり『幼馴染み』と一対でなければ発動しない。
 君の場合は、『彼』という事になるな……」

――やはり聞き間違いではなかった。
要するに、妖魔と戦うには『あいつ』と組む必要があると、そう言ってるのだ。
でも、その必然性についての疑問なんてあるわけない。
師匠への信頼はあたしの中で常に100%なのだから。

ただ……
一箇所だけ、どうしても納得できない点があった。

「師匠!」
「なんだ?」
「ひとつだけ、教えてください」
「ほう、いったい何かな?」

「師匠のおっしゃってる『彼』って……
 え〜っと、あの矢島大輝のこと……ですよね?」
「あぁ、そのとおりだ」
「確かにあいつとあたしは幼馴染ですが、
 『心身ともに通じ合える異性』ではないような気がするのですが?」

「そうなのか?」

「だって、そうじゃないですか。
 彼、矢島大輝は単なるアキバおたくで、日曜日にはフィギュア求めて、
 内神田近辺を這いずり回ってることがほとんど。
 着るものは全部ユニ○ロ。
 理由は、服に金かけるよりコミケで一冊でも多く本が買いたいから。
 それに、頭のてっぺんから足の先まで、くまなくスケベ心満載で、
 なんかエッチなものがあると表情がいっぺんにオヤジ化しちゃう、
 とてもじゃないけどつきあいたくない! そんなヤツですよ?!」

「――ふむ。君はその……
 十分、『彼』のことをわかってるいるように、わしには見えるが?」

えっ… そ… それは… ち、ちがうと…

「実は、おまえとペアを組むことによって、
 退魔士となることが可能な者は他にも存在する。
 当然、同様に幼馴染なわけだが」

じゃ、そっちでいいじゃん。わざわざ大輝じゃなくても……

「待ちなさい。彼をパートナーとしたのには重大な理由がある。
 大輝君とおまえのシンクロ率は最初から 41.3% あったんだ」

……って、じじぃ! 細かいとこ、なにげに盗作するんじゃねぇよ!

「コホン。どちらにしろ、目前に迫っている妖魔の脅威に対し、
 退魔能力のあるもの同士が協力するのは当然のことではないかな?
 たとえパートナーが『スケベなアキバおたく』だったにしても、
 妖魔に対し無力な街の人々を、危険に晒すわけにはいかないのだ」

――確かに師匠の言うとおりだ。
今、あたしの個人的な好き嫌いを優先する訳にはいかない。
ていうか、あたしが「正義」の文字に弱いこと、
師匠は十分に知ってていざとなるとそれを前面に出してくる。

「……わかりました」
「そうか。わかってくれたか」

なんかなぁ〜 いつも同じ落ちだよな、これって。

「さて話もついたことだし、まずは衣装合わせといこうか」
「はい」

返事は素直にしたけど、あたしの気持ちとしては「またかよ…」だった。

師匠はなぜかそれぞれの任務の度にあたしの戦闘服を替える。
といっても、退魔能力の無いあたしは、
戦闘に巻き込まれそうになった一般市民の誘導とか、
いろんなアイテムを持ってて師匠に渡したりとか、
そういうことがメインなんだけど。

でも、師匠はそんなあたしの衣装に異常なこだわりを見せる。
過去、戦隊もの風味だったり、巫女スタイルだったり、いろいろ。
ミニスカサンタの格好をさせられた時には、あたしもさすがにキれた。
だって、どう考えたってそんなの意味ないし……


「じゃこれ」

師匠から渡された箱の中身を見て、
今度ばかりはほんとに絶句するしかなかった。

衣装箱から出てきたのは、ゴスロリのメイド服。
ご丁寧にパニエ・ヘッドドレスそしてチョーカーまである。

「どうだ? なかなかこの色のコンビネーション…」

師匠の言葉は途中で途切れる。
あたしがすばやく師匠の後ろにまわり、
一瞬で鮮やかにスリーパーホールドを決めたからだ。

「なっ、なっ、なにを……」
「師匠… いい加減にしていただけますか?」
「く、く、くるし……」

あたしのこの技から逃れた者は、いまだかつて居ない。
師匠と言えども例外ではない。

「苦しいですよね、そうですよね、苦しいですよね。
 じゃ、あたしのいうこと聞いてもらえますよね?」
顔を真っ赤にして、師匠は床をタップしてギブアップをした。
あたしは技を解く。

師匠はゼイゼイ言いながら荒い息をしている。

「毎回毎回、飽きずにいろんな衣装を用意して、
 師匠は楽しくていいかも知れませんが、
 それを着て妖魔戦に同行するあたしの身にもなって欲しいんですけど?」

「べ、別に、物理的な格闘をしてもらうわけじゃないんだから
 そんなに気にしなくても…」
「じゃ、このあいだのスカート丈をつめまくった女子高生の制服は?」
「あぁ、あぁ、あれね。あれはかなり評判が良くて……」

あたしの絶対零度の視線に気づいて語尾が消えていく。

実際、あのときは参った。

なにせ師匠がボスキャラを相手にしてる間、
ざこキャラがあたしにからんで来て、非戦闘員のあたしが相手せざるを得なくて。
まぁ、そいつら滅茶苦茶弱かったからあたしの通常戦闘能力で十分で、
師匠もあえてフォローしなかったし。

ただ、地中に姿を消すタイプの妖魔で、
戦ってるあいだじゅう、あたし下から覗かれまくり。
モグラたたきのモグラみたいに、次々ポコンポコン出てくるから、
妖魔と戦ってるんだか、盗撮魔と戦ってるんだか、って感じだった。

そもそもこっちは、ちょっと前かがみになるとパンツが出ちゃう状態で、
たぶんあたし、戦ってる間ずっと赤い顔をしてたと思う。

思い出したら余計に腹が立ってきた。
しかし、どの服も一応、魔力攻撃を防ぐ素材で作ってあって、
戦闘に不可欠なアイテムだったことは認めざるを得ない。

あたしは不毛な議論をあきらめ、
その服、『ゴスロリメイド』を持って、別室で着替える。

終わったところでそばの鏡に向かい自分の姿をじっくりと見た。

――なんだかんだ言ったって、結構可愛いじゃない?

つい勢いで、はにかみポーズを取り始めてしまう。
だが、すぐにその行動のアホさ加減に気づき中止する。
調子に乗りやすい自分のキャラに警告を与えたあと、師匠の部屋に向かった。

「着ました。これでいいでしょ」
「ほぅ〜 なかなかだな。チョーカーもぐっと…くるな」

もういいや。あたしは言いたいだけ言わせておくことにした。
師匠はさらに調子に乗る。

「そういや、ほら、二丁目の魚屋の徳さん、知ってるだろ?
 あの人、この前の君の戦闘服姿(JK制服)を見たあと家に戻って、
 奥さんと…… その、まぁ、なんだ。そういうことで。
 聞いたら15年ぶりだとか、まぁそんなふうに君のコスチュームは」

――あたしはじじぃのおかずか?!
――老年夫婦のバイアグラなのか?

考えるよりも早く、あたしは空中首四の字に入ろうとしていた。

その刹那――


「――み・や・び・さ〜〜〜ん」


――聞いてはいけないものを聞いてしまった。
あの間延びした声は……… まぎれもなく………


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