2016-09-17 06:00

「おはよう」

午前6時。
鳴り響く携帯を手に取り最初に耳にしたのがこのセリフ。
早い。どう考えても6時は早い。
だからオレはもっと怒ってもいいはずだった。

しかし、相手は香澄だった。

「どうした?」
「窓の外を見て欲しい」

こいつとはガキの頃からつきあいだが、
いたずらとか嘘とかには無縁の人生を送ってきた、
そんな不思議な奴だ。
論理の塊であるところの彼女は、
決して思いつきで行動したりはしない。

オレはなんの反論もすることなく、言われたとおり、
パジャマのままベッドから出て、片手で窓を開けた。

9月中旬。晴れた空。
窓の外はガキのころから見慣れた景色。
背が伸びた分だけ、昔とは視点が違ってるぐらいで。

「別に、かわったことは……」
そう言いかけたとき、微妙な違和感を感じる。
何がそう思わせるのか、オレは必死で考えた。

そして……気がつく。街に誰もいないことに。
人影も、チャリも、車も、なんにも。
目をこらしてみても、なんの姿もない。
まったく動くものがないなんて、そんな。

「誰もいない……ちょっと待て」

ふと思いつく。妹は? オヤジは? お袋は?

ダッシュで部屋を出て、隣の妹の部屋を開ける。
誰もそこにはいなかった。
階段を駆け下り両親の寝室をあける。もぬけの殻だ。
オレは茫然自失となり座り込む。

「達也!?」
オレの息づかい以外聞こえない静かな空間、
手元の携帯から香澄の声が響く。

「……いねぇ!」
「家族のことか?」
「あぁ」
「妹さんとご両親だった……かな」
「あぁ、それがみんな居ねぇんだよ!
 なんなんだよいったい、これは!」
「同じか」
「……えっ、じゃあ、おまえんとこも」
「あぁ、こっちは兄と両親が忽然と消えてしまった」

「なんで」
「原因はわからない。
 さっきテレビをつけたが、全てのチャンネルが、
 テストパターンか、音楽クリップを流していた。
 おそらく自動設定のものだと思う。
 インターネットコンテンツも、
 3時間前に更新が止まっている。
 日本だけじゃなく、世界中の全てのコンテンツが」

オレは絶句した。

「今、私は達也の家の前にいる。
 悪いんだが、着替えて外に出てきてくれるか?
 いくつか確かめたいことがある。つきあってくれ」
「あぁ、わかった。すぐ行くよ」

習慣で学生服用のYシャツに手を通しそうになったが、
気が変わってプルオーバーとジーンズにする。
玄関を出たとこに香澄は立っていた。
彼女もジーンズにパーカー姿だった。

別の高校に入ってからは、
あまり顔を合わせることはなかったが、
半年ではそれほど雰囲気も変わってはいなかった。

「まず、達也の携帯のメモリーすべて、かけまくってくれ」
「OK」
メモリーの最後まで試したが、全てアウト。

「やはりな」
オレの報告に香澄は冷静に答えた。
「先ほど私もやってみたが、全滅だった」

「……駅に行ってみるか?」
「そうだな」

おそらくこの街で一番人が集まるはずの場所。
多分そこで全てがわかる。

いつもならこの時間に開いてるような店が、
軒並みシャッターを下ろしていた。
住宅のカーテンはそのほとんどが閉まったまま。
家から漏れるTVの音も聞こえない。
人も車もいない街は、限りない静寂を保ち続けていた。

一軒だけ店が開いていた。24時間営業のコンビニ。
自動ドアは何の問題もなくオレ達を迎え入れてくれる。
だが、客の姿は当然のようになく、
レジにも店員が居なかった。

「すみませ~ん」
呼びかけに答えはなかった。
バックヤードに入ってみたが同じ。

「行こうか」
「あぁ」

このままあけっぱなしでいいのか、
って思いが頭をよぎったが、意味が無いことに気付く。
品物を無断で持ち去ってしまう方の人間もいないのだから。

「事態は最悪だが、ライフラインが生きてるのは、
 不幸中の幸いというべきだな」

確かに香澄の言うとおりだ。
少なくとも生活には困らないだろう。当面は。

というか、なんでこいつはこうも冷静なんだろう。
しかし、オレの次の発言もどっこいどっこいだ。
同じ人種かもしれない。

「どれくらいのスパンで、
 供給設備が無人であることが許容されてるか……だな」

「私もそれが心配だが、確認のしようがない。
 原子力発電所の安全装置とか、
 そんなのは普通の高校生じゃ知りえない範囲だ」

そんな話をしているうちに駅に着く。
上り電車がホームから少し離れてひっそりと止まっていた。

「入場券、買うか?」
「いや、この状況では不要だろう」
「まぁ、そうだな」

ひとつだけ自動改札のないところを通ってホームに入る。
見渡した線路、左右とも遥か先まで動くものはなかった。
ホームの先に止まってる電車は灯りを消して真っ暗な状態。
モーター音もしない。

香澄は少し離れた場所で時刻表を見ていたが、
すぐに戻ってきた。

「あの列車はこの駅始発の一番電車だ。
 本来ならば午前四時に入線予定だった。
 少なくとも昨夜の終電以降現在に至るまで、
 電車はこの路線を走ってない。
 これはネット上の状況と符合している」

「そっか」
わかっちゃいたことだったけど、
目の前の事実はあまりにも重い。
おまけに移動手段として電車が使えないのが確定した。

のどが渇いてカラカラになってた。

「なんか飲むもの買ってくる」
そう言って、オレは少し離れた場所に向かう。

自動販売機で、アイスコーヒーと苺牛乳パックを買った。
ホームのベンチに座り、オレはプルタブを開け、
隣ではストローを刺してる。

「覚えてたんだな、私の好みを」

言われて初めて気付いた。
香澄の分として、なんのためらいもなく苺牛乳を
チョイスしたことに。

「まあな」

オレはボーッとしたまま空を見上げる。
ここまでに判明した分だけでも、十分に衝撃的だった。

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「……達也」
「なんだ?」
「突然で悪いんだが、手を握ってくれないか」
「え?」

見ればパックを持つ彼女の手が震えていた。

「怖いんだ。正直に言うと」

オレは無言のままそっと手を添える。

見ると、中身がストローの先からあふれてきていた。
オレの力が入りすぎてるのかと思ったが、
そうじゃなかった。
香澄の指がガチンガチンに強張っていた。

こいつもオレとおんなじで、事態の見極めがつくまで、
無理して自分自身を冷静に保ってた…というわけか。

あわてて、もう一方の手で固まった指をはがす。
パックを横の席に置いて、
汚れた彼女の手をハンカチで拭く。

「すまない、こんなときに感情をコントロール出来なくて」
「全然。
 だいたいこんな事態で平然としてられるヤツなんて、
 そうはいない」

「でも達也は」
「怖いのは一緒さ。
 でもオレって見栄張るのは昔からうまかったろう?
 だいたい、女の子の前でオイオイと泣くわけにも
 いかないんだ、男って」

「……達也が私を女の子として見てくれてるとは、
 正直驚きだな。この発見は、唯一この事件に
 感謝すべき点と言えるかもしれない」

珍しく冗談を言って、ぎごちなく香澄が笑った。

そんな彼女を抱きしめたのは……オレが悪いんじゃない。
あまりにも可愛かったんだ、そんときの香澄が。

突然の行動に香澄は一瞬驚いて体をこわばらせたあと、
力を抜いてオレにもたれかかってきた。

香澄のにおいが鼻腔からとびこんできて。
腕と胸から女の子の柔らかい感触がしてて。
彼女を落ち着かせるためにしたことで、
逆にオレは不安定な状態に陥る。
ありていに言えば、下半身の一部が強烈に反応してた。

ここは君の出番ではないんだ、
と説得するも全く効果がない……

オレがそうして煩悩と戦ってるさなか、彼女が体を離した。
見ればさきほどの震えは、
すっかりおさまっているようだった。

「ありがとう。もう大丈夫だ。おかげで落ち着いた」
「そっか… じゃ、帰ろうか」


帰り道は来たときと同じだった。景色には何の変化もない。

コンビニに寄って、
朝食用にサンドイッチと紅茶のペットボトルを買う。
一応お金は置いといた。


「やっぱり、どこもかしこも、
 最終更新は日本時間の午前3時。
 ブラウザのキャッシュ残りなんかじゃない」

オレの部屋でサンドイッチをかじりながらネットを検索し、
ソースまで確認した上でオレは結論を出した。

「決定か」
「認めたくないけど答えはひとつ」

どうやらこの地球上で残ってるのはオレと香澄の二人だけ。

いや、インターネットの繋がらない場所に、
誰かが残ってる可能性もあるが、
こればっかりは確認のしようもない。
オレが飛行機を飛ばせるとか、
海を越えられるほどの船を動かせるなら話は別だが。

「達也」
「なんだ?」
「達也は神を信じるか?」

「……やぶからぼうに、すごい質問だな。
 そんな言葉、おまえに似合わない気がするけど?」

「いや、科学は全てを証明したわけじゃない。
 実際の所、科学の不可知領域と神の領域は
 言い方の差にしか過ぎない。
 いまさらアインシュタインでもないが、
 観測できない事象に関して人間は無力だ。
 できるのは推測しかない。
 冷静に見れば、現在の私達の知識量でこの事態を解明し
 復旧するのは、おそらく不可能と見るべきだろう」

「それは同感だな」

彼女が大きく息を吐いた。そして言葉を繋げる。

「そこでふたつの考え方が選択肢として出てくる」

「神が私達二人だけを地球上に残したとするなら、
 なんらかの意図があるのだろうから、
 それに沿って進めば、
 神の御心が私達を助けてくれるだろうというもの。
 クリスチャンになるか仏教徒になるか、
 アラーの神を信じるか、どの宗教であろうと、
 『先方』の希望が明確ならそれに従えば済む事だ。
 ただ、今までの所、なんのメッセージも来てない点に、
 問題がある」

「もうひとつは、
 なんらかの原因で、不確定性原理的に、
 私達二人が偶然残されたというもの。
 根拠は、俺たち二人揃って最も優秀な個体であった、
 という可能性がゼロに近い、という点だ。
 このようなスタートラインから見て、この世に今現在、
 他の意思など存在しない、
 単になんらかのさいころが振られたに過ぎない……
 という前提からするならば、
 これからどうするかについては、
 二人の話し合った結果が全てであって、
 決定権はあらゆる意味において私達の手にある、
 ……そう考える」

「このふたつに集約していいと思う。
 で、達也はどう考える?」

「オレは第3の意見」
「ほう」
「なるようになる。適当にする。以上」

「はは。いかにも達也らしいな。
 なるほど。それもいいかな。
 当面の方針としては正しいのかもしれない。
 情報量の少ない今の状態で方向性を決めてしまうのは、
 リスクが高い」

二人だけのサバイバルっていうべき状況ではあるんだけど、
木の皮をむいて食べるとか、川の魚を採るとか、
別にそういう状態になってるわけじゃない。

少なくとも2~3日の余裕はありそうだから、
神につくか科学に頼るか哲学者になるか独裁者になるかを
決めるのは、今じゃなくてもいいはず。

オレ達はそんな仮の合意の下に、
とりあえず緊急課題として昼飯のことを考えることにした。

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「香澄は麺は固いのと柔らかいのどっちがいい?」
「普通で。しかしほんとにいいのか? 手伝わなくて」
「たかがインスタントラーメン。慣れてるから大丈夫だ」

ガスは使えた。そして水道も。

食堂のテーブルに差し向かい。二人で麺をすする。

「おまえとはもうじき会えなくなるな」
オレはラーメンにぶちこんだキャベツを、
箸でつまんで語り掛ける。

「野菜だけは自分達で作る必要があるな。
 しかしキャベツを作るのは敷居が高そうだ。
 本当にお別れかもしれない」
「ほうれん草とか小松菜とかトマトとかが、
 オレ達のお友達かな?」
「たぶんその辺だろうな。難易度からみて」

つかのまの満腹状態で、朝からの緊張が多少和らぐ。

「ごちそうさま」
同時に口にしたオレ達の言葉は、
文字通り感謝の思いに満たされていた。

「結局、なんつーか、この社会って、
 えらく沢山のひとの分業制によって成立してたんだ、
 ってこと、いまさらながら思うよな」

「ああ、そのとおりだと思う。
 私達がいくら頑張っても、
 昨日まで消費していた商品に関して、
 一つたりともちゃんと作れないだろう。
 多分何年掛けてもな。
 それぞれの工程のスキルを一人で得るのは不可能だし、
 だいたい数多くの人間がたずさわらなけりゃ、
 どんなものも作れないし」

「逆に今ある残存物を消費するだけだから、
 二人ならなんとかなるわけだが」

「長い時間をかけ、
 人間が培ってきた生産に関するノウハウも、
 そして、社会という枠組み自体も、全部パァか~」

「つくづく思う。なりゆきではあるんだが、継承者として、
 自分自身の力不足が慙愧に耐えないというか」

「ハハ。まったく香澄は真面目すぎるな。
 この際、過去の常識や価値観は一切捨てたほうがいいぞ」

「だいたい、高校一年生二人じゃなんもできやしないさ。
 誰も期待してないだろう、救世主じゃあるまいし」

「なるようになる。適当にする……か?」
「そういうこと」

そんなわけで、オレたちは危機的状況と関係なく、
ゲームを始めることにした。
一日で蒙ったとんでもない衝撃を和らげるために、
リラックスタイムも必要だろう。

しかし、香澄は異常に強かった。12連鎖をくらい、
オレの陣地は一瞬にして、黒いもので埋め尽くされる。

「おまえ、強すぎ」
「いや、達也が弱すぎるだけだ」

そんなこんなで、中途半端な人類滅亡の初日は過ぎ、
夕食の時間になった。

「なんか手伝おうか?」
「今はいい。というか、達也は何か作れるのか?
 インスタントラーメン以外に」
「いや、全然」
「やっぱりそうか。気にしなくてもいい。
 食事を作るのは嫌いじゃないから」
「ヒューッ、助かった」
「母親が働いていたせいで、それなりの物は作れる」

出来上がったものは、決して『それなり』じゃなかった。

「めっちゃうめぇ~
 こんな料理が毎日食べられるなら、
 今すぐ嫁さんにしたいところだな、ハハ」

「喜んでくれるのは嬉しいが、三つ目の段落に関しては、
 かなり難しい問題を含んでいると思うんだが?」

香澄はきゅうりの酢の物を口に運びながら、そう言った。

「三つ目? あぁ、『嫁』ってとこ?」
「そうだ」

……なるほどね。
今現在は衣食住の全てにおいて困ってはいない。

そして、この世界に残ったのはどうやら香澄とオレだけ。
現在、恋人同士でもなんでもない、
幼馴染ってだけの二人は、これからどういう関係に?

ヒトという種を残すために、
個人の感情なんて無視して子作りに励む……

なんてのも、考え方としてはある。

しかしそれじゃオレたちってパンダとかトキなみ。
よく言えばアダムとイブかもしれないけど。

一方で、
種の保存に義務を感じなくて、二人にその気もなければ、
何十年か先にオレたち二人が順番に死んで、
結果として人類が滅ぶわけだ。
ま、別に胸は痛まないけど。
正直『人類』なんてカテゴリー、でかすぎ。

「結構難しい問題なんだな、冗談のつもりだったけど」
「実は昼頃からずっと考えてたんだ、最優先課題として」

「それにしてもすごいな。
 イエスノーの次にはもう選択肢がない状態って。
 『ノー』といった瞬間に一生独身が決定するってどうよ」
「あぁ、世界中の誰も考えたことのない事態だ」
「ま、2・3日考えるよ」
「そうしてくれ。私も考えておく」

お茶碗を台所の食洗機にぶちこんで、食後のお茶にする。
黒糖だけを使った究極の羊羹に、二人で舌鼓をうつ。
昨日おふくろがどっかから買って来た超高級品だ。

「眠いな。早起きしたし、頭使ったし、腹はいっぱいだし。
 で、今夜はどうする?
 別々の家で寝るのはないだろう、こんな日に」

「さしせまった危険もなさそうだが、
 こんな日に一人はつらいな、正直」

「よし! じゃ、香澄の所に行こうか?!
 オレどこでも寝られるから、
 香澄のお兄さんの部屋で寝るよ」

話が決まり、ジャージを抱えて、二軒隣の香澄の家に行く。

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「景気づけに枕投げでもしてみる?」
「いや、遠慮しとく」
と、香澄はさりげなく拒否。
キャラ的に合ってないのは確かだ。

香澄の部屋。二人ともパジャマ代わりのジャージ姿。
二人してベッドに腰掛けてる。微妙な距離を置いて。

意外にも、彼女の部屋は結構女の子っぽかった。
お人形があったり、可愛い硝子細工とか、いろいろと。
なにより香りがなんというか……

「父親がなんだかんだと買ってくるんでこうなってるが、
 全部が私の趣味ってわけじゃない」
変に顔を赤くして視線をそらす香澄。

部屋の中に女の子と二人だけ。
今朝起きるまで考えたこともないシチュエーション。
しかしワクワクの気分なんてちっとも起きない。
明日からのことに心が行ってて、
頭がそっちに行かないみたいだ。

でもこの際、さっきのことは言っちまったほうがいいか?
だな。考えても考えなくてもおんなじなんだから。

「さっきの話だけどさ」
「?」
「いや、嫁がどうのこうのの話。
 先に言っておくわ。どうせ答え決まってるんだから」

「そうか、じゃ、聞こう」
冷静な言葉の割にはなんかおどおどした感じの香澄。
なんだ、こいつ。

「オレ、香澄のこと好きだったんだよね、ずっと前から。
 こんな状態で告白っていうのもどうかと思うけど、
 ま、はっきりしておいたほうがいいんだし」

香澄はオレの言葉にポカンとしたままこっちを見てる。

「中学の卒業式の日に告白するつもりが、
 やっぱ勇気なくてさ。
 高校が別になって、もう終わったと思ってたんだけど、
 こんな形で言うことになるとはね。
 でも、ちゃんとこうして気持ち伝えられて、
 オレ的にはすごく満足」

「ま、そういうこと。報告終わり」

「よくわかった。次は私の番だな……
 結論から言うと、私が達也の配偶者となる案について、
 私は全面的に賛成だ」

いや、あの、いま、法案審議やってるんじゃないんだけど?
まぁ、賛成だと言ってるわけで、イイっちゃいいんだけど……

「あ、今のは正確な表現ではなかった。
 達也がどうも誤解してるようだ。
 改めて言う。
 私も達也のことが好きだ」

「これでわかって貰えただろうか?」

オレはまじまじと香澄を見つめてしまった。

「恥ずかしいからそんなに見つめないでくれないか?」
「いや、香澄、そんなそぶり全然見せてなかったし」
「それは達也も一緒だろ」

ま、そうだけど。それにしても。

「人類滅亡の日に告白か。
 もし明日の朝、間違って新聞が発行されたら、
 一面トップだぞ、これは」

「あぁ、他にニュースはないしな。
 三大紙を筆頭に、駅売りのスポーツ新聞も全部。
 朝のニュースでも一番に私達のアップが映ることだろう」

笑える光景だ。

「ということで最重要課題はこれでかたづいたが、
 他の課題がまだまだ……」

「考えたくないほど山積みだな。
 食料の確保。残存人類の捜索。その他にもいろいろ。
 明日はまず、チェックリストを作ることから始めようか」

「あぁ、それは必須だな」

「しかし16才でこれだけの難問を抱えることになるとは、
 わからないものだな、人生というものは」

「あぁ、できることなら今すぐ普通の高校生に戻りたいよ」
「そうなったらほんとに嬉しいと私も思ってる」

「明日の朝起きたら、さりげに元に戻ってたなんてことは」
「多分ないとは思うが、希望を持つのは必要な事だと思う」

言うべきことは言った。そして明日は明日の風が吹く……

寝るか。
本日の寝室へ向かうためドアを開けたとこで振り向き、
彼女に声をかけた。

「じゃおやすみ、『オレの嫁さん』」

一拍間が空く。さーっと香澄の顔が赤くなった。

「……おやすみ」
彼女が小さな声で答えた。

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「目玉焼きとスクランブルエッグ、
 達也はどっちが好きかな?」
「目玉焼きにしてくれると嬉しい」
「了解。あ、念のために聞くが、ピーマンは大丈夫か?」
「んだよ、ガキじゃねぇし」
「それは初耳」
「言ってろ」

朝。オレたちは二人だけの世界にいた。
しかしそれが比喩的表現じゃないのが激しく素敵だ。

朝起きたとき、世界は元に戻ってなかった。
窓の外を見て落胆はしたが、実際、昨日ほどの衝撃はない。

というか、エプロンつけた『彼女』が、
キッチンで朝食を作ってる光景ってどうよ。
個人的には、この事態がそれほど悪くは思えなかった。
正直言うと。

朝食を終え、ダイニングで作戦会議が始まる。

電力を失ったとき、東京という街は住むのに厳しすぎる。
夏は暑いし冬は寒いし。それに野菜の確保が困難だ。

移動手段を確保し、
温暖で食糧自給に最適な居住地を見つけ、
そして生活のベースをそこで作り上げることになるだろう。
少なくとも冬が来る前に。

そこで暮らし、そして……

「そこでオレ達『子作り』したりするのか?」
「まぁ、流れ的にそういうことになるな」

空白の時間が流れる。

「いや、こんなことを冷静に朝から語れる自分が怖い」
「私も同感だ」

言葉は相変わらずクールだが、香澄の頬は、
心なしか赤かった。

「……だけど……医者がいない」
「出産だけじゃなく、普通に病気とかも怖いな」

「あと歯医者もいない。
 歯磨き励行がお題目じゃすまない世界ってわけだ」
「いいんじゃないか、達也も、いい機会だし」
虫歯になっても誰も助けちゃくれないんだよな、やっぱり。

作り上げたチェックリストの優先順位に従い、
まずオレは車の運転を練習開始。
なににせよ絶対必要な技能だ、移動手段として。

二人でネットを駆使し、
取り出し可能で長く持ちそうな冷凍食品保管場所をチェック。
これから先も生き続けるために必要なことを、
オレ達は協力しながらこなしていった。


そんな日々を過ごすうちに、気付けば一週間が経っていた。

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「笑わないで欲しいんだが」
そんな前置きをして居住まいを正した彼女。

オレたちの今後の生活も、
不確実ながらなんとか見通しがつき始めていた。

夕食の片付けも終り、今オレたちはジジババっぽく、
二人でお茶をすすってたんだが、
そんな穏やかな雰囲気を叩き壊すかの如く、
彼女は爆弾を投下した。

「達也と私の子供が欲しくなった」
「な、何を唐突に」

「ありとあらゆる制限事項がここには存在しない。
 規範も法律も道徳も。なにもかも。
 その上で、私が今一番欲しいものを考えてみた。
 答えは、達也と一緒に居ること、
 そして達也との間の子供だった」

「一番目は既に達成した。
 そして二番目のためにはプロセスが必要だ。
 ……いや、正直に言うべきだろう。
 プロセスとは全く思ってはいないことを。
 そう。簡単に言ってしまえば、
 私は今、達也に抱かれたいと心から思ってる」

オレは言葉を失い、彼女は話を続けた。

「もうちょっと事態が落ち着くまで、
 ということなんだろうが、
 達也はそんな雰囲気を、つまり男としての欲望を、
 ここまでかけらも見せてこなかった。
 私の知る範囲では、
 男はもっと積極的で性的な存在のはずだ。
 しかし遠慮はいらない。
 私の心の準備は十分にできている。
 また、結果として子供ができたなら、
 それもまた喜ばしい。
 このことに関して、達也の率直な意見が聞きたい」

……すごいな、あいかわらず香澄は一直線だ。

しかしここはガツンと。

「……まぁ、おおむね賛成……なんだけど、
 ちょっと、それはないんじゃない?
 って思うとこが一箇所ある」
「どこだろう?」

やっぱ全然わかってない。ま、いいか。
実力行使!

オレはテーブルを回り香澄を後ろから抱きしめた。

固まってる彼女の耳元でささやいた。

「香澄を抱きたい」

見る見る目の前で、香澄の耳が真っ赤になった。
口ほどじゃないんだ、こいつ。

オレ的にはギャップ萌え。

首筋に唇を落とす。くすぐったそうにしてる。
かまわず続行。

「や、やめ!」
「ダメだ。オレのセリフを奪った罰だ。大人しく我慢しろ」

意味がわかったのだろう、
くすぐったさを必死で我慢してる。

いい加減かわいそうなので中止する。
そして頬を両手で挟んでこっちに向けた。
至近距離で見つめあう。

オレが顔を近づけると、香澄はそっと目を閉じた。
初めてのキス。頭の奥まで衝撃が走った。
接触した粘膜が強烈な刺激を絶え間なく発してる。

オレたちはしばらくそうしてた。

唇を離してすぐ、
半分飛んでたオレの意識が急速に戻り始めた。
しかし目の前の香澄は、目を閉じたまま唇は半開き状態。

ほっぺたを指先で軽く叩いた。
目がうっすらと開く。しかしまだ焦点が定まらない様子だ。

徐々に開いた目がいつもの輝きを取り戻すのに、
数十秒かかった。

「結構強烈なんだな、これって」
オレの言葉に香澄は恥ずかしそうにうなずいた。
カクカクと。

「部屋に行こう」
香澄を立たせて歩こうとしたが、
彼女の足取りがおぼつかない。

「うわっ」
オレが彼女を抱え上げたときの悲鳴だ。
「キャッ」じゃないとこが香澄らしい。

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香澄の部屋のベッドにそっとおろす。
そのまま熱いキスをかわす。
彼女の両腕がオレの背中を抱きしめてる。
唇をこすり合わせるようにして互いの気持ちを伝え合う。
自然に。

少し体を離し、キスをしたまま彼女の胸に触れた。
柔らかい感触。下にブラはつけてないようだ。
オレの手の動きにあわせ、それは形を自由に変える。

唇を離し、手も離して、
体を半分起こした状態で彼女の胸を見る。
ふくらみの頂点が、
ジャージ越しにしっかりと盛り上がってた。
左右とも。

誘われるように指先でそっと触れてみた。

「うっ!」
うめき声とともに香澄の体がビクッと震えた。
反対側も。ついでに。

「ハアッ」
恐ろしくなまめかしい吐息が香澄の口から漏れた。
両方の手の指で、乳首をいじくりまわす。

香澄は俺の腕をつかみ、
とぎれとぎれの喘ぎ声を出しながら、
体をのけぞらせるように耐えている。

「しんどい?」
中断して聞いてみた。

「……それは……ない……けど」
「けど?」
「よくわからない感覚で、非常にとまどっている」

痛くないのなら問題ないだろうと、勝手に決めつける。

ジャージをめくりあげる。おっぱいとご対面だ。
柔らかくてまるいものがふたつ、目の前にある。
真っ白な乳房の上の乳首はきっちりふくらんでて、
おいでおいでと、いかにもオレを呼んでる風情だった。

迷うことなく口でむしゃぶりついた。

「アッ!」
盛大な喘ぎ声。のけぞる背中。
唇と手と指と、全部を総動員して、
香澄のおっぱいをオレは好きなだけいじくりまくった。


上を脱がし、下もおろして足から抜き去り、
そう、目の前の香澄はパンツ一枚の裸。

「きれいだ」
「……ありがと」

とっくにオレのモノはがちがちになってた。
ほんとは、食堂でキスしてからずっとだったけど。

あとはあのパンツを脱がして、
そしてこいつを香澄の中に……

「あっ」
「どうした?」
「コンドーム買ってない……
 ……けど、おれたちには必要ないか」

彼女の第三の希望に沿えば、避妊する必要性がない。
そしてオレも同意してる。
それが証拠に、ベッドの香澄は笑顔でうなずいてるわけで。

そうとなれば、あとは……

多分その瞬間、オレの頭の中は『けだもの』状態だったんだろ。
初めてなんだから優しくしなければ、と、
直前までは思ってたんだけど、もうそんなの完全にぶっとんでて。

気付いたら、香澄がオレの胸を押しながら、
「痛い!」と大声で叫んでた。

彼女の下半身を広げるようにオレの腰が割り込んでて、
下のほうを見ると、
先っちょが少し入ったぐらいの状態だった。

「ごめん」
おれは素直に謝り、腰を引いた。

「いや、だいじょうぶだ。続けてくれていい」
「でも」
「我慢する。達也に気持ちよくなって欲しい。
 それが私の一番の望みだ」

オレを見つめる香澄の目は、
彼女の思いの全てを映し出していた。
ここで引いちゃ、
彼女のせっかくの気持ちを踏みにじることになる。

「じゃ、いくよ。遠慮しないから」

言葉とは裏腹に、オレが奥へ挿入しようとする間ずっと、
香澄は抵抗を続けていた。
しかしある瞬間、オレのものがすべて香澄の中に収まった。

あったかい。
そしてオレのものは香澄にギュッと締め付けられてる。
ずっと荒い息を吐いてた彼女が、
ぎごちなくオレに笑顔を向けた。

「うれしい」
「そうか」

目の前で盛大に痛がっていた香澄に対し、
さらに動かしたいという欲望に支配されつつあったオレは、
正直、途方に暮れていて、返事が半端になる。

「動いてくれていいから」
「?」
「そうしないと気持ちよくならないのだろ? 男は」
「そうなんだけど、でも」

香澄がキスをしてきた。そして耳元で囁く。

「もう私は達也の妻だ。
 神父も神主もいないけど、私達がそう決めた。
 夫である達也の願いに従うことは、
 同時に妻である私の希望でもある。
 だから、ためらう理由はどこにもない」

ほんの一瞬その言葉の意味を考えた。
そしてオレは香澄の中に埋まっていたものを動かし始める。

苦痛でゆがむ彼女の顔を見ながら、
その優しい思いやりとオレに対する限りない愛情の中、
すぐにオレは限界点までたどりついた。

「行くよ」
「……きて」

その言葉と共に、彼女は両手両足をからみつけるように、
オレの体を力いっぱいひきつける。

奥に挿入したものを更に奥へといざなうような動きは、
まるで射精される精液をとりこぼすことなく、
子宮の内部へと迎え入れたい欲望に、
彼女が支配されているかのようだった。

同時に発生した香澄の粘膜の激しい締め付けに、
一気に限界点を越え、オレは射精を始めた。

香澄の中へと欲望の証を注ぎ込みながら、
オレは香澄の唇に唇を重ねる。

愛おしかった。こいつの全てが。
表情も、体も、性器も、性格も、瞳も、おっぱいも、
思いも、肌も、全部が。

ようやく射精が終わったとき、
あらためて香澄を抱きしめる。

「ありがと」
「私こそ、こんな幸せな気分になれて感無量だ」

後始末をして、腕枕で香澄をかかえた状態で、
オレは眠りについた。

あたたかい思いとともに……

 ---- * ---- * ---- * ---- * ---- * ---- * ----

目が覚める。
半端な覚醒状態の中、強烈な違和感に襲われた。

その正体は音だった。

ノイズのように押し寄せる音の正体は、複合した音たち。
この1週間、無音のこの街で聞いたことのない音。
そしてそれは……
以前、人々が沢山いたときにオレが普通に耳にしていた……

ベッドから飛び起きると、
そこはゆうべ居たはずの香澄の部屋ではなかった。
オレの部屋、間違うこともない、いつもの部屋。
隣に彼女の姿はなかった。

窓を勢いよく開けた。
街には人がいた。

たくさん。ここかしこに。普通に。

力が抜けたオレは、窓際でへたり込む。
大きく息を吐いた。

どんな理由にせよ、世界に二人だけ、
っていう事態は解消した。
とりあえず今。

何の気なしに携帯を手に取る。
表示を見た。

2016-09-17 06:00

自分の目を疑う。
これは、全てが始まった、一週間前のあの日。
オレの感覚からすればあれから一週間経っていて……

電話をかける。香澄に。つながった。

「きょうは何日なんだ?」
前置きなんかまどろっこしすぎた。

「どうやらリセットされたようだ」
「リセット?」
「あぁ。私もついさっき、日付には気付いた。
 家族のものにさりげなく聞いてみたが、
 彼らにとっては普通に連続した日のようだ、
 今日という日は」

「でも」
「そのとおりだ。
 少なくとも今こうして話している達也と私にとっては、
 二回目だ。
 しかも、ちゃんと一回目の一週間の記憶は、
 保持されている」

「……あの一週間が、
 なんかの夢だったりとかいうオチは?」
「それはない」
「どうして?」

「下半身の一部が現在も強烈に痛い。
 これは9時間前にあった出来事の十分な証拠といえる」

うおっ!
一瞬、香澄の肌の感触を思い出してしまったオレ。
ゆうべ二人で、あんなことやこんなこと、うわっうわっ!

「でも、よかった」
「?」

「私だけが記憶を持ち、
 そして達也の記憶が消えていたら……
 その可能性に思い至ったとき、
 私の思考は停止してしまった。
 その瞬間だったんだ、達也から電話が来たのが。
 最初の一言で、私の心配は杞憂にすぎないとわかった」

「私はその時、とてもうれしかった……」

二人して無言になる。

この一週間の間に二人で築き上げたものが、
ちゃんと残っていると分かり、心から安堵した瞬間だった。

「……まぁ、誰に話しても、
 絶対信用してもらえねぇとは思うけどね」

「いいんだ。少なくとも、私達の間では真実なんだから。
 それ以上はいらない。必要もない。
 まして、あの一週間は、
 私にとって至福の時だったのだから」

「いやいや、それは間違いだよ、香澄さん」
「?」

「終わってない。というか始まったばかりだよ、オレたち」
「……そうだな。うっかりしてた」

オレと香澄は話し合い、
普通にそれぞれの生活に戻ることにした。

ガッコに行った帰り待ち合わせをして、話す。
どこにでもいる高校生のカップル、それがオレたちだった。

キスまではしたが、それ以上のことはしなかった。
急ぐ必要がないことは、
二人の暗黙の了解事項だったのだから……

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普通の世界に戻ってから三週間ほどが過ぎた頃、
昼休みにオレの携帯が震えた。
珍しく、彼女からだった。

「今、いいか?」
「だいじょうぶだけど」

心なしか彼女の口調が固い。いったいなにが……

「いや、あの…まぁ、どうやら……子供ができたようだ」
「へっ?」
「さっき病院に行ったら妊娠してるとドクターに言われた」

って、それは…… あっ! あの日!
すっごい身に覚えが……

「それって一分の一の確率?」
「ということになる」

いやいや、驚き。あるんだ、そんなこと。

「この件に関して、達也にすまないと思ってる」
「え、なんで?」
「いや、あのとき私がわがままを言って、
 そのせいでこんな事態になってしまって本当に」
「はいそこまで!」
「???」

同級生に、この時点で情報が漏れるのは得策ではないので、
廊下の端っこ、人気の少ないとこに移動していたオレ。

「わがままというなら、それは二人とも。
 香澄が子供が欲しいと言って、
 オレもそれでいいと思った。
 そしてその思いは……今でも全然かわってない」

「?」

「つまり、その子は生を受けるべき命だったんだよ。
 二人だけの世界で意思決定された、
 いってみれば全世界で祝福された子供なんだよ」

「ということで、香澄。
 その子、気合入れて生んでくれ。そして二人で育てよう」

泣いていた。香澄が携帯の向こうで。はっきりと。

「とはいってもハードルが滅茶苦茶高いな~
 オレ、結婚可能な年齢じゃないし、
 まず、両方の親の説得とか……
 うわぁ~ 大変だぁ~
 ……でもなんとかする。
 少なくともオレたちの決めたことなんだから」

「……うん」
鼻水をすすりながら彼女が答えた。

「でも……多分……うちの親は……大丈夫だと思う」
「え?」

香澄の話は驚くべき内容だった。

以前から彼女の母親は『早く孫の顔が見たい』と言ってて、
『いいのよ香澄ちゃん。
 好きな人が出来たら子供つくっちゃっても。
 あなたが高校卒業するまでは私がちゃんと面倒みるから』
と口癖のように繰り返していたんだそうだ。

仕事は? と聞いても、
『そんなもん、なんとかなる』と即答だったって。

「だから私の家のほうは全然心配要らないと思う」
これで少なくとも第一ハードルはクリアか。

オレんちは面倒そうだけど、なんとかするしかない。
正念場だ。

「あと、オレたちに関しては、
 避妊もできないバカップルと認定されるだろう。
 あの一週間の終わりに二人が選んだことだったんだけど、
 世間がそんなオレたちの事情を知ることは、
 未来永劫、絶対にない。
 だからこれは二人で耐えていくしかない事柄になる」

「それは大丈夫だ。
 10年も経てば笑い話にしかならないことだと思う。
 だいたい、達也と私と『この子』が一緒に暮らす生活と、
 世間体と、 重要なのがどっちなのかは、
 検討する必要がないほど明白だ。
 今回のことは、予定のコースに関し、
 タイミングが前後しただけに過ぎない」

オレはそれを聞いた瞬間、彼女が可愛くて、
すぐにこの腕で抱きしめたくなった。


「しかし、どこの神様だか知らないけど、
 すれ違ったオレ達の未来を、
 強引に結びつけてくれただけじゃなく、
 子供のおまけまでつけちゃうなんて、
 よっぽどせっかちなヤツなんだな」

「いや、もしかしたら、
 縁結びの神と安産の神を兼任してる忙しい神様で、
 ノルマをふたつ同時に達成したかっただけかもしれない。
 よくあることだ」

ねぇよ!

「じゃ、両親には話しておくから、
 今晩うちに食事に来てくれるか?」
「あぁ、そうする」

「あと、今はまだ受胎直後なので、
 セックスは控えたいところだが、
 これからしばらく、体を触れさせることもないまま、
 夫を欲求不満に陥らせるのは妻として本意ではないので、
 今日の所は、代替的に口と手、
 あるいは素股とかいうやり方で」

「やめんかい!」

いやいや、オレの人生、
これからいろんな意味で楽しくなりそうだ……

    Fin

初出:2009/10/27 女の子と二人きりになってしまった 4回目 236-253

2010-09-29 iPhone4用に最適化