:::::::: Scenes :::::::::::::::::::


Scene.1 ラ・ボエーム

あのハンバーガーショップの隅のほうの席。
ぼくらの朝食はいつもそこだった。
窓の外、商店街の花壇にはスミレが咲いていた。
何もない僕らには、二人で眺める景色さえ美しかった。

君の書く詩に僕が曲をつけた。
それはいつだって甘いラブソング。
メンバーを説き伏せてライブでやって、
そのあとはおきまりのように、
夜明けまでみんなで激論を交わした。

ラ・ボエーム
君はとても可愛かった
ラ・ボエーム
たったひとつの朝のセットを、ぼくらは二人で分けて食べていた。

君はテレクラのサクラをやっていて、
ぼくのほうは、ティッシュを配ったり、
コンビニの夜間のバイトとか、転々としていた。
カラーコーディネーターをめざす君との、
二人分の生活費が稼げればそれでよかった。

曲が書きあがってベッドにもぐりこんだときには、
僕らは冷え切った唇を重ね、
腹をすかした子供のように、性急に愛を交わした。
部屋にはコタツとベッドがあるだけだった。

ラ・ボエーム
君の笑顔が好きだった
ラ・ボエーム
将来を疑うなんて、考えたこともなかった


何年かぶりに、思いついてあの街に行ってみた。
二人で暮らしたアパートは、既に姿を消していて、
その場所には綺麗なマンションが建っていた。
角のたこ焼き売りのおばさんも、もういない。

整理された街並みの角に立ち、空をしばらく見上げた。
時の流れに思いをはせて、ぼくは帰り道につく。
ハンバーガーショップは、違うチェーン店の名前に替わっていた。
でもスミレの花だけは、あの頃と同じように咲いていた。
君が綺麗な色だと言った、あの時のままで。

ラ・ボエーム
君のことが大好きだった
ラ・ボエーム
僕らはその時を生きていた

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古いシャンソン(シャルル・アズナブール/1965年)を
リメイクしてみました
原曲をお聞きになると、もっと素敵だとわかるでしょう


Scene.2 記念日

「今日は、何の日、だ?」
麻美がこれを言い出したときには要注意。

初めてキスした日。
初めて手をつないだ日。

彼女の誕生日はこのリストに含まれていない。

  なぜ?って聞いたそこの君。そう、君だ。
  君にもその意味が分かる日が来る。いつかきっと。
  なるべくその日がおだやかに終わることを、
  私は君のために祈っておくよ。

続ける。
初めてデートした日。
初めてクリスマスを二人で過ごした日。
初めてあなたのために料理を作った日。
それから‥‥それから‥‥

え〜い! そんなことしたら二人の記念日で、
1年365日が埋まってしまうではないか!!!

ということは決して口にしてはいけない。
1年前に、このことは既に俺は学習済みだ。

学習の結果はこうだ。
「え〜っと‥‥ え〜っと‥‥ 」
思い出すふりをしてから、
「ごめん、なんだったっけ?」
とふる。

「やだ〜、すぐ忘れちゃうんだから。
 ほら、」
すらすらと話し出す。
「そのときさ、あなたがこうして、私がこう言って、、」
シナリオのように延々と続く。

そんなときの麻美の顔は、幸せそうに輝いてる。

どうやら麻美は、いつまでもシナリオを追加する予定らしい。
麻美と俺だけのストーリーを。ずっと。



Scene.3 隣

夜中に目が覚める。
なんか視線を感じて、横の彼女を見た。
涙目でこっちをじっと見てた。

「なんだよいったい?」
「‥‥‥‥」

「こんな夜中にどうしたんだよ?」

「‥‥もうさびしい思い、しなくていいんだ、って‥‥」

腕枕で寝なおす。
あっという間に彼女は静かな寝息を立て始める。
とびっきりの笑顔のまま。俺の腕の中で。



Scene.4 車で

運転してる時、
あいた左手を私の右手に重ねてくれることがある。

彼の手はとってもあったかくて。
最初は膝の上で両手で挟んで。

それから今度は頬につけて、猫のようにすりすりしてしまう。
そんな私を横目で見て、彼は隣でクスクス笑ってる。

そうしてると、だんだん眠くなってくる。
寝不足だというわけでもないのに。

膝の上で両手で包み込んだまま、うつらうつらする。
この時間が私は大好きだ。