YAWARA !

La fin d'un voyage
  ~ひとつの旅の終わり~


今日子は、セーヌ河畔の Café で虎次郎を待っていた。
つかのまの陽射しを求める人々で、オープンテラスは賑わっている。
ほんの数日前の夜を、今日子は思い出していた。
ブリュッセルで出会い、その日のうちに抱かれてしまったこと。
恋人がありながら、虎次郎の腕の中で何度も絶頂を迎えたこと。
後悔はしていなかったが、
もう一度会いたいという気持ちを抑えきれない自分に、ただ驚いていた。

多分来ないだろうと思う。旅先でのつかの間の戯れ。おそらく。
しかし、もしここに虎次郎が現れたなら、また抱かれてしまうのだろう。
そしてその厚い胸に抱かれて、おだやかに眠るのだろう。
今日子はとりとめもなくそんなことを考えていた。
男の声がそれを中断するまでは‥

「待たせたな」

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ブリュッセルでは二泊する予定だった。
ツァーは、パリ周辺やライン川沿いの名所ではなく、
少し雰囲気の違うところに連泊するタイプ。
鶴亀トラベルに勤める友人、猪熊柔に選んでもらったものだ。
結婚の前に最後の一人旅を、ヨーロッパの落ち着いた街並みを見て。
この旅行はその思いを100%かなえてくれている。
さすがに本当の一人旅ではつらいので、ツァーにアレンジしてもらったけど。

夕食は、港近くのオープンレストランで団体予約されていた。
そこは、新鮮な魚介類をアットホームに提供してくれる店だった。
お客さんも地元の人が多い。

ヨーロッパとはいえ漁港であることに変わりはなく、
魚、いか、たこ等々、食材は日本と同じようなものだった。
テーブルの上の見慣れた景色に、妙に落ち着きを覚える。

途中で化粧室に立ったとき、すれ違った男性に見覚えがあった。
地味なジャンパーにハンチング帽。
がっしりした体と四角い顔。
数歩行ったところで思い出した。ふりかえる。

「猪熊‥‥‥ さん?」
こちらに振り返る男。間違いない。

「猪熊虎次郎さん‥‥ ですよね?」
「?? 私には、あなたのような可愛い女性の知り合いは
 無いと思ったが?」

無骨な表情から出てきた言葉に、
社交辞令と分っていても、顔が赤くなってしまう自分がいた。

「私、あの‥‥ 日蔭今日子と申します。
 三つ葉女子短大の柔道部で‥ 柔さんと一緒に‥」
「あぁ、思い出した。たしか、送り足払いの名手だ」
知ってたんだ。
「いえ、とんでもありません。名手だなんて。
 在学中は柔さんにご迷惑かけっぱなしで‥‥‥
 きょうは、」

「なにしてんの~ 日蔭さ~ん! もうそろそろ行くわよ~」
同行のツアコンから声が飛んできた。
「すみません、ツアー旅行なもので。これで失礼します」
「あぁ。じゃ、また」

「お待たせしました」
「別に待ってはいなかったんだけど、
 ナンパされてたみたいだから、声かけてみたのよ」
「え?」
「さっきのおじさんよ!」
「? あっ、あの人はちがいます。お友達のお父様なんです」
「な~んだつまんない。
 日蔭さんて、なんか断れないタイプに見えたから」
「気を使ってもらって有難うございます」
振り返ってみたがその姿はもうなかった。

「よくあるのよね、ツアーの女性相手にナンパって。
 ま、気をつけてね。旅行って、女性もつい大胆になっちゃうから」

そんなことはないだろう。私に限って。

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部屋に入ったのが午後7時。
すぐに電話がかかってきた。何人かはツアコンと街に出るようだ。
私は出かけないことにした。少しのんびりしたかった。

それにしても寝るには早い時間。
ホテルの中を散歩してみることにする。
いろいろなお店があった。
書いてある文字がフランス語ベースで、
細かいニュアンスがいまひとつわからないけど。
日本では見かけないものがいろいろあって、けっこう飽きない。

喉が渇いて、Cafe と書いてある店に入った。
カウンターに座る。アルコールが中心のようだ。
ついこの間、彼に教わったマティーニを見つける。
これなら飲める。カウンターの中の青い目の人に注文した。
なんとか私の発音で伝わった。ひと安心。

小さなお店なので、テーブル席は既に一杯になっていた。
私の席から一つ置いた隣に、お客さんが来た。
男の人。
流暢なフランス語で何かを頼んでいる‥

こちらを見た。そしてすぐに気づく。
「また会ったな」
猪熊さんだった。
「このホテルに泊まってるのか?」
「えぇ」

なんとか答えた。ほんの偶然。2回目の。

「たしかパリで柔道を教えていらっしゃるとか?」
「あぁ」
「大会か何かでこちらに?」
「まぁ、そんなところだ」
「私は‥ これが最後の一人旅なんです。
 あ、別に深刻な話じゃなくて、
 あの、日本に戻ったら結婚する予定なので‥‥」
「そうか。それはおめでとう」
「ありがとうございます」

言葉が途切れる。
繋ぐ話題もなく、そのまま。

突然、こちらを見ることもなく、
グラスを抱えたまま話し出す。
「それなら、もっと楽しく過ごしたほうがいい」

「えっ?」
「私と話すより、他にもっと楽しいことがあるだろう」
「ここに‥ 居ては‥ いけませんか?」
「そんなことはないが」
「ここに居たいんです、今」

「ごまかすのは、やめたほうがいい」
何を言われたのか、分らなかった。
「それは‥ どういう意味ですか?」
「いや、君はこの旅行を楽しんでるように見えない。それだけだ」

私が楽しんでない?
そんなはずはない。そう思って口を開きかける、

「人は悩み事があるときに明るく振舞う。
 本当につらいときは、それを忘れるために。余計に」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

言われるまでもなく、本当はわかっていたのだ。
結婚することに、今になって迷ってる自分がいることに。
それをこの人は気づいてしまった。ほんの一瞬で。

いつのまにか、私は自分の胸の思いをすべて打ち明けていた。
この人を相手にして。
何も口をはさまず、ずっと話を聞いてくれた。

「気が済んだか?」
言葉が途切れたところで初めて口にする。

気が済んだ? そう。誰かに話したかっただけ。
そうかも知れない。もしかしたら。

「あとは自分の気持ちに素直になったほうがいい」

その言葉と同時に、ルームキーを持って立ち上がる。
早口でバーテンと話して、支払いを済ませていた。

「その分まで払っておいた。早く部屋に戻って寝なさい。
 今夜は何も考えないほうがいい。
 明日の朝起きた時に、どうするのが一番いいのか、
 自分で決められるはずだ」

そう言って、足早に消えていった。

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部屋に戻り、シャワーを浴びてテレビをつける。
なにかのバラエティーのようなものをやっていた。
客席が大笑いしているのがアップになる。

濡れた髪をタオルで拭きながら、さっきのことを思い出していた。
言葉少なく、ぶっきらぼうではあっても、
あの場面で、私のことを気遣ってくれていたことは、
間違いのない事実だった。

あっ、私、お礼も、ごちそうさまも言ってなかった。
幸い、先ほどカウンターに置きっぱなしだったルームキーで、
部屋番号は覚えてた。

服を着て、エレベーターに乗り、その部屋に向かう。
そう、御礼を言いに行くんだから。それだけ。

ドアをノックする。フランス語で何か言ってる。
何も言わずにいたらドアが開いた。私だと分かる。

「どうした?」
「あっ、あの‥‥」
「忘れ物でもしたか、あの店に?」
「ち、ちがいます。さっき、お礼を言わなかったので」
「別に。マティーニ一杯ぐらいのことで」
「いえ。私の愚痴を聞いて頂きましたし。
 有難うございました」
頭を下げた。

「わかった。もう忘れたから。気にしなくていい」

あまりにもプライベートなことを話したのを気にして‥‥
そう取られたのかも知れない。
しかし、私への言葉はあくまで優しかった。
少なくとも、負担をかけまいとする応対だった。

「あの‥‥」
「まだなにかあるのか?」

自分でもどうしてそうしたのか分からない。
ただ、その時とても寂しかったのは確かだった。
そして目の前に、暖かく私を迎えてくれるものがあったのも‥

私は虎次郎さんの胸の中にとびこんでいた。

「どういうつもりだ?」
言葉の調子は何もかわらない。まるで普通に話すように。
「意味のないことだ。わかってるのか?」
私を引き離そうとした。
本気になれば、それはとても簡単なはず。
でも、そうはならなかった。

「困ったお嬢さんだ」
本当に困ったような言い方。

でも‥ 気づいてた‥ さっきから。
押し当てた胸の奥で、とても早い鼓動が打たれてたのを。
私の頬を強く押し返すように。ドクドクドクって。

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廊下ではらちがあかないと思ったようだ。
部屋の中に入れられ、応接用の椅子を勧められた。
虎次郎さんは反対側の椅子にドッカリと腰をおろした。

「どうした? 座ればいい。遠慮は要らない」

私は虎次郎さんのそばに行く。
ひざの上に腰をおろし首に手をかけ、抱きついた。
しばらくそのまま時が過ぎる。

ぎゅっと両肩をつかまれ胸から離される。
目の前に虎次郎さんの顔がある。
じっと見つめてる。
私も目をそらすことなく見つめ返した。

そして‥‥ キスされた。私の背中に手が回される。
最初は背中に触れる程度だったものが、少しずつ力が加えられる。
唇を割って舌が入り込む。私の舌を絡めとるような動きが始まった。
二人の唇が立てる淫靡なその音が、静かな部屋の中を満たす。

抱き上げられた。とても軽々と。
ベッドの上に降ろされる。

覆い被さって来た。髪がなでられる。そしてキス。
何かを求め合うように、唇を重ねたまま顔を二人して動かす。
私の太ももの間に足が入り込む。
ちょうどあそこのあたりに太ももがあたってる。
ぐるぐると動かされる。
中途半端な刺激がもどかしい。
もっと強い刺激を求めて、足を開いて押し付けるようにしてしまう。

私の服が性急に剥ぎ取られる。
ベッドの中に入れられた。電気が暗くなる。
次の瞬間には、その太い腕の中に私はいた。
子供のように抱きしめられて。

あまりにも大きな安らぎの中で、私は泣いていた。
気づいたのだろう。体が離される。
そして無言で、太くゴツゴツした指が私の涙をぬぐう。

両手で顔をはさまれ、キスをされた。

もう十分だった。心が欲しがっていたものはすべて与えられていた。
ただあと必要なのは、私の体の隙間を満たしてくれるもの。

両足が私の足の上に来た。
同じ思いだと気づく。

足を徐々に開いた。そのすきまに両足が入ってくる。
そして太ももまで。
欲望に逆らうことも出来ず、足を上げて腰に絡める。
お願い、うずめて欲しい。心からそう思って。

あそこに‥ あたってる。
虎次郎さんのが。

そしてすこしずつ‥ 私の‥ なかに‥ 
ひだを押し分けるように、やさしく、少しずつ。

奥まで収まった瞬間、私の奥で何かがはじけた。
勝手にそこがうねり始める。私の意思とは無関係に。
虎次郎さんの固いものをつかむように、ギュって。
「ウゥッ」
声が聞こえた。
中のものが一層固くなって、大きくなった。
それがもたらす強烈な快感の中で、私は絶頂を迎えた。

でもすぐに、次の刺激で覚醒する。
中のものが、ゆっくりと出て行く感覚があったから。
だめ! やだ! 出て行かないで!
心の中で思わず叫ぶ。
恥ずかしくて言葉は出せない。
そのかわり、両足で腰をはさんで引きとめようとした。

その瞬間、グッ、って逆に押し込まれた。
おもわず声が出てしまう。とても大きな声が。
ゆっくりと引かれるたびに、腰が追いかけてしまい、
押し込まれると、自分のものとは思えない声が出てしまう。

何度も繰り返されるうちに、私は奴隷のように、
男のものの動きに快感を求める女になっていた。
ただ、官能の奴隷として。

いくどとなく絶頂を迎える。
今までになかったほど、淫乱な私がそこにいた。

虎次郎さんの動きがはやくなった。
そして突然止まる。
中のものが大きくなる。そしてピクンピクンって‥

私の中、一番奥のところに、
たてつづけに熱い精液が注ぎ込まれるのが、わかった。
それと同時に、私は再び達してしまった。

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目覚めたときに、ここがどこなのか、わからなかった。
でも隣で聞こえる大きなイビキで、思い出す。
虎次郎さんと、一夜を過ごしてしまったんだ、私。
ごめん、柔さん。そして玉緒さん。
なんて事をしてしまったんだろ。
いくら寂しかったとしても、許されることではなかった。

そっとベッドを抜け出し、服を着る。
靴を履き、ドアを開けて出て行こうとした。

「忘れろ、このことは」

振り向かなかった。ドアに向いたまま、ただうなずいた。

「そう、それでいい」

廊下に出て、後ろ手でドアを閉めたとき、
わけもわからず涙があふれた。
そのままズルズルと、ドアにもたれたまま、床まで滑り落ちる。
廊下に座り込んだまま泣いた。声も出さずに。

涙が出尽くした後、気を取り直して部屋に戻る。
椅子に座って、港が夜明けを迎えるのをずっと見ていた。
眠れる気分ではなかった。

朝食の後、部屋に内線をかけてみた。誰も出ない。
念のためフロントで聞いてみる。
既にチェックアウトした後だった。

翌日は定番のゴディバの店に行ったり、
しゃれた宝石を見たりして、一日を過ごした。
忘れようとする試みは、次の日パリについたときには意味を無くしていた。

この街に、居るはずだから。

どうしても‥‥ 会いたかった‥‥

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「えー? キョンキョン!? 今どこなの?」
「パリです。とっても楽しい旅行、してます」
「うらやましいな~」
「あの、おととい柔さんのお父さんに会ったんです、ブリュッセルで‥」
「へー、すごい偶然だね。そうか会ったんだ。レストランで?
 うん、なんかそっちで大会があるって言ってた、この前」
「でも時間がなくて、ちゃんとお話できなかったんです。
 だから‥ パリでの住所と電話番号教えてもらえます?
 今日は午後から、フリータイムだから」

教えてもらった電話番号にかけた。すぐに出た。
よかった‥‥‥
もう一度会えるかもしれないという期待の前に、
親友を裏切っている後ろめたさは希薄になっていた。

「日蔭です」
「‥‥忘れろといったはずだ」
「でも‥」
「二度と電話するんじゃない」

「お願いです、聞いてください。
 今日の午後4時、Batobus 船着場の前の
 Café Pont Lui で待ってます」

電話が切れた。何も言わずに。



   私は、今ここで待っている。あの人が来るのを信じて。

   そして‥‥‥‥‥

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虎次郎さんは、ギャルソンと談笑しながら注文をしている。
「フランス語、御上手なんですね」
「いや、食い物がらみの話題だけだ。得意なのは」
表情を変えずに話す。

すぐにコーヒーと、白い小皿が届く。
中には‥‥ 柿の種?
「これって?」
「そうだ。柿の種だ」
「でも‥」
「いや実は」

この店の主人と仲がよくて、特別に置いてもらってるらしい。
最近では仕入れてオリジナルメニューに加えてるようだ。
結構日本人観光客の多いこの場所では、喜ばれてるらしい。

「なんで柔道なんか始めたんだ?」
虎次郎さんは、ミルクと砂糖を大量にカップに入れている。

「私、小さな頃から体弱くて。
 そんな自分を変えたいなって思ったところに、
 伊東富士子さんが柔道部員の募集をしてて」
「そうか。それで今は?」
「ええ、とっても丈夫になりました」

ぽりぽりと柿の種を食べ、ズルズルってコーヒーをすすっている。

「どうやって技を習得したか、覚えてるか?」

「柔さんと滋悟郎先生に、1・2・3のタイミングを教えられて。
 毎日ず~っとそのタイミングを口ずさんでいました」
「なるほど」

「それで?」
「ええ、さやかさんの学校の柔道部の人に一本勝ちしました。
 相手は、私と同じように、柔道を始めて間もない人でしたけど。
 それからバリバリの柔道部の人から、有効を‥‥」

そこまで言って気がついた。虎次郎さんが何を言いたかったのかを。

「そう。今なら君にも分るだろう。
 君は結婚する相手のことを大切に思っている。だから迷ったんだ。
 でも今は、何も考えずに、自分の気持ちを信じたほうがいい」

「逃げては‥ いけないんですね‥」
「そういうことだ。それを伝えるためにここに来た」

セーヌ川を見つめながら虎次郎さんの口から出た言葉を反芻する。
なんども。くりかえし。
少しずつ、少しずつ、迷いがふっきれていく。

顔を上げたとき、虎次郎さんの姿はそこになかった。
かたわらのギャルソンに身振り手振りで聞いてみる。
だまって川沿いの道を指差す。
遠くに後姿が見えた。
セーヌ河は夕陽にきらめいていた。

私の視線を感じたのだろうか。
むこう向きのまま、片手を挙げて振っている。
虎次郎さんのシルエットは見る間に小さくなり、
夕陽のきらめきの向こうに消える。

テーブルの上の小皿に、ひとつだけ柿の種が残っていた。
つまみあげて食べる。辛さが口の中に広がる。

私の一人旅は、終わっていた。
ひとつの素敵な思い出を、記憶に刻みつけて。

fin



懐かしYAWARAのエロパロ
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2002/10/28 - 2002/10/29