YAWARA !

初詣


初詣を終え、二人は車の中にいた。
まだ大学生にすぎない花園の車は、当然のことながら中古車。
それも、かなりガタが来た年代物で、
富士子を乗せるために、つい先月購入したもの。
しかし、今夜のために精一杯ピカピカに磨き上げられている。

時折、不思議なノイズがエンジンのほうから伝わってきても、
二人にとっては、素敵なBGMぐらいにしか聞こえなかった。
このあとは、初日の出を見るために海まで行く。
夜明けまでには、まだ時間がある。

今まで、こんな長い時間を、二人だけで過ごしたことは無かった。
隣にいるこの人。そして自分がいて。
これまで感じていた漠然とした思いは、確信へと変わりつつあった。
さっきまでの弾んだ会話は、もう交わされてはいない。
今、自分たちの間に何かが訪れようとしているのを、
二人とも感じていた。

言葉もないまま、車は闇の中を走ってゆく。

「なんか‥‥」
「え?」
「あたし、眠たくなって‥ きちゃった‥‥」
「いいですよ。寝てください。自分は大丈夫ですから。
 あの石段、結構角度が急で、きつかったと思います」
「でも、花園くんだって一緒に登ったじゃない?」
「自分は男ですし。あれぐらいは日頃の鍛錬からすれば」

赤信号で車が停止する。


「そうだ。車、とめたほうがよければ、そう言ってください」
「それより、わたし、横に‥‥なりたい‥」
「? あぁ、それならシートの横のリクライニングボタンを、」
「ちがうの。どこかで、ゆっくり、したいな‥‥ って」

その言葉とともに向けられた視線の先、
交差点の向こうには、ひときわ輝くネオンサインがあった。
今まで出会ったことのないこの状況に、花園の頭は混乱状態になる。
数秒後、やっと、二つを結びつける答えらしきものが浮かび上がる。
‥‥もしかして?

「あ、あの」
「な~に?」
「そ、そこで、や、や、や、休んで、い、いきましょうか?」
「うん!」
「いや、自分はいやらしい気持ちではなく、た、ただ‥‥富士子さんが‥
 え? 今、なんて?」
「だから、うん、って言ったの。 あ! 信号青になってる!」


部屋に入って、ダブルベッドを前にして花園は固まっていた。
ガチンガチンと言う音が聞こえるくらい緊張して。

富士子がそんな花園の胸にもたれる。
「やっと、二人きりになれた」
その言葉に、我に返る花園。
「ハ、ハイ!」
「花園君の胸‥‥ たくましくて‥ あったかい」

花園の両手が持ち上がり、おずおずと富士子の背中に回される。
そして徐々に、力が加わっていく。

富士子は顔を上げ、花園を見つめる。
そしてゆっくりと目を閉じる。
しかし、またしても花園は彼女の行動の意味を理解できない。

不思議に思い、もう一度目を開ける富士子。
そして花園の目を見つめたまま、ニコッと微笑む。
その瞬間、残されていた理性は、あとかたもなく吹っ飛んでいた。
求めるように唇を重ね、激しく富士子を抱き寄せる。

二人にとって一番長い時間が過ぎる。
唇を離し、見つめあう。
いくつかの時を経て、やっとめぐり合った人は、
ずっとそばにいたこの人だった。
お互いの気持ちは、すきまもなく重なり合っていた。
そう、ずっと前から。運命で決まっていたことのように思えた。


しかし、その安堵とともに、
体の隅々から起きてくる、全く別な思いがあった。
欲しい。この人の全てが欲しい‥‥

「富士子さん‥ 自分は、自分は‥」
「花園君の‥ 好きにして‥ いいのよ‥」
ゴクッ‥。
その甘い言葉に、花園の全身が再びガチンガチンになる。

花園から離れ、富士子はベッドに腰掛ける。
「来て」
そう言いながら、両手を差し伸べた。

今自分が口にした言葉が、あまりにもあからさまなのに気づき、
またたくまに頬が赤く染まる。
でも、今この人に抱かれたいって思ったのは本当の気持ち。
世界でただ一人‥‥ 花園君だけに‥ 私を‥

あれ? どうしたのかな?
動かない花園を不審に思い、手を軽く引っ張る。
花園は直立不動の姿勢のまま倒れこんでゆく。
もつれあうようにベッドに重なる二人。
しかし長い間の柔道の経験で、花園はとっさに前方受身をとる。
肘で支えた姿勢で富士子を見下ろす。
動きが止まる。

首をほんの少しかしげて、大きな背中に手を回し、
恥ずかしそうに富士子がつぶやく。
「好き! 大好き!」


もう、花園に迷いは無かった。
「うぉ~~~っ!! 富士子さ~~ん!」

花園のキスが富士子の顔面を襲う。
ありとあらゆるところに降り注ぐキスの嵐。
そのあまりに激しい愛し方に、さすが一瞬とまどう。

しかし、荒れ狂うその行動の奥にあるものにふと気づく。
この人はこれほどまでに私のことを‥‥
富士子はその嵐のような愛情表現を受けながら、
生まれて初めて、女としての幸せを感じていた。

セーターとブラウスが一気に脱がされていく。
そしてブラは上へと押しやられた。
今、花園の目の前には、
ふたつの小ぶりな乳房が、まばゆいばかり白く輝いている。
そのふくらみの上には、薄紅色の乳首が恥ずかしげに姿を見せていた。

ごつい手が左の胸をわしづかみにする。
あまりにも強すぎる力に、思わず富士子が声を出す。
「痛いっ!」

そのの言葉に、我にかえりあわてて手を引こうとする。
しかし、白くしなやかな手が、その動きをおしとどめる。
そしてゆっくりと首が左右に振られた。


「いいの」
「でも、自分は馬鹿で、つい力が入ってしまって」
「いいの‥」
「いや、あの」

「続けて欲しいの‥ おねがい‥‥
 花園君に‥‥ 愛されたい‥‥ 好きなようにして欲しいの。
 わかってる。わたし胸も小さいし、セクシーでもないけど」
「そんなことはありません! 富士子さんはとっても素敵です。
 世界で一番です。自分にはもったいないくらい。
 こうして富士子さんといられるだけで、自分は、自分は‥‥」

花園は男泣きを始める。
ぬぐうこともなく、涙は富士子の胸にポタポタと垂れていく。

暖かかった。
花園の落とした涙が、そのまま胸の奥へ、
熱い思いとなってしみこんで来るような、そんな気がした。
それが胸の中をすべてうずめつくしたとき、
富士子の目からは、
真珠のようにきらめくひとしずくが、こぼれて落ちていった。

頬を伝い落ちる涙の感触。そして胸をしめつける切なさ。
目の前で号泣しているこの人に、
そう、この人に愛されるために私は生まれてきたんだ。

そう感じたとき、富士子の中で強烈な欲望が湧き起こった。
触れて欲しい。抱きしめて欲しい。奪って欲しい。
そして、私のすべてを愛して欲しい‥‥


富士子の両手は迷うことなく、泣きじゃくる花園の頭をつかみ、
自分の胸に押し付ける。

何が起きたか、一瞬分らなかった。
しかし、とぎれとぎれに聞こえるすすり泣きの中、
頭をなでるその指先の切なさに気づいた時、
自分が許されたこと、そして望まれていること、
そのすべてを花園は理解した。
この人は今、自分を求めている。この世の中で、自分だけを。

唇で乳首を吸う。舌を押し当てる。
頼りないほど形を変えるものがいとおしく、
その感触にとりつかれるように愛撫を繰り返す。

不器用ではあっても、思いを込めて続けられる愛撫に、
富士子は、今まで出会ったことの無い感覚に襲われていた。
乳首に刺激が加わるたびに、声が出てしまう。
同時に体が硬直して、背中をそらしてしまう。
この人に気づかれたら恥ずかしい‥‥
そう思っても、止めることはできなかった。

左の乳首から来る舌の刺激と、右の乳房をもみほぐす手の感触に、
初めて知る喜びがあった。

気持ち‥‥ いい‥‥ とっても‥‥


ゆっくりとした愛撫が続く。
異性に触れられているという恥ずかしさよりも、
満ち足りた思いの方が強いのが、富士子としては意外だった。
左右の胸から押し寄せるものは、官能的な快感というよりも、
花園の優しさそのものなんだと気づく。

花園の手が止まる。唇が離れた。どうしたんだろう?
「ふ、富士子さん‥」
その声に、知らず知らず閉じていた目をあける。
見えたのは花園の恥ずかしそうな顔。必死で何かを伝えようとしている。

「?」
「あ、あの、富士子さん‥ の‥」
「?」
「だ、だから‥ 富士子さんのあそこに‥ 手でさわっても‥」

何を求めているのかが理解され、富士子の顔は一気に赤くなる。
しかし、何も言うことができない。そんなこと‥ 聞かれても‥
無言の時間。

花園の顔がうつむき加減になる。
ちがうの。ちがうの、そうじゃないの。
好きにして欲しいの。さわってほしい。どこでも‥‥

富士子は花園を抱きしめ唇を重ねる。
そして顔を離し、ぎごちなく微笑む。精一杯思いが伝わるように。

いっときのとまどい。そして花園は許されていることを理解する。
胸をつかんでいた右手はそこから離れ、おずおずと下に向かう。
富士子はいたたまれず花園の胸に顔を埋める。


抜けるように白い二つの腿。
そのつながるところに、ごつごつした手がたどり着く。
しかし、それは緊張のあまりしっかりと閉じられたまま、侵入を拒んでいる。
頭をずらし、富士子の耳元で花園はささやいた。
「富士子さん‥ もっと力‥ 抜いて‥」
そう言われて初めて、自分が思いと逆の行動をしていたことがわかる。
そして、ゆっくりと両足が開かれていく。
手はその動きに合わせるように奥へと向かい、
ついには大きな手がすっぽりと富士子を覆う。あますところなく。

柔らかい‥ 手のひらから伝わる感触は女性特有の柔らかな弾力。
さきほど胸に触れたときよりも、もっとたよりない感じがする。
いくどとなく柔道場の上で稽古をした、そして笑顔の素敵なこの人が、
まぎれもなく女性であったことを、花園は知る。

確かめるようにゆっくりと手が動く。円を描くように。
それにつれて手の中のものは、自在に形を変え、
まるで花園の手のひらに吸い付いているかのように、動く。

しばらくは、体の上で今おこなわれていることの羞恥に身のおきどころもなく、
ただ耐えていた。
しかし富士子は気づく。じんわりと背筋を通り、くりかえし押し寄せるものに。
経験のない彼女は、それをなんと形容していいのかが分らない。
これは‥‥  気持ち‥ いいの?
そう考えた瞬間のことだった。

動いていた花園の手が、意識することなく、
一番敏感な場所に直接触れてしまった。
知らなかった強烈な刺激に、富士子の体は「ピクン!」と跳ね上がる。
「あっ!」同時に声が出る。


「?」怪訝そうな顔で富士子の表情を見る花園。
しかしそこに拒絶の色がないとわかり、続ける。
花園の気持ちの中に、もう迷いはない。

富士子はいやおうなしに気づいていた。
さきほど触れられた場所が、今は固く大きくなっている‥‥
まるで、さらなる愛撫をもとめるように。
触れている手のひらへアピールするように。

直接触れられてるわけではないのに、
さっきより強い刺激が生み出される。つづけざまに。
呼吸が荒くなり、かすかな吐息が刺激のたびに漏れる。
おさえようもなく。

奥のほうが熱い。
一番奥のほうから、その熱さが中を伝わっていくのを感じた。
そして花園の手の置かれた位置のすぐ近くへ向かっていく‥‥
閉じられたひだの内部が噴き出した何かに満たされる。
それは粘液のような感触。

あ‥‥ 濡れて‥‥ いる‥‥ の?

花園の手の動きにつれ、内側からひだが開き始める。
そして一部が開かれた瞬間に、花園の手にそれはまとわりつく。
手の動きが止まる。

気づかれてしまった‥‥
富士子はあまりの恥ずかしさに、花園の体を強く抱きしめる。


そんな急な動きを見て、
花園は、さきほど手のひらに得た感触がなんであったかを理解する。
目の前にいる富士子が、とても可愛く、素敵に思った。

この人といつまでも一緒に居たい、そしていつまでも大切にしたい。
そう思った瞬間、強烈な欲望が体中に沸き起こって来る。
自分でも驚くほどの強さで。

止めることはできない。
いや、それは二人が待ち望んでいたこと。もうずっと、前から。
求め合う思いは、今、誰にも止められはしない。

手をはずし、足をからめ、両足を富士子の足の内側に性急にこじ入れる。
それが何を意味するのかを理解しても、
富士子はもはや、おびえることも恥じることもなかった。
愛する男の欲望の全てを自分が受け止めること。
それこそが自分の幸せだと言う事に、何の疑いもなかったのだから。

押し付けられた固いものが、強引にひだをかきわけていく。
十分に濡れていることがより一層それをスムーズにする。
入り口にたどりつく。


一気に押し込めようとする花園。
しかし、それは拒絶される。
痛みでベッドの頭のほうに富士子の体が逃げる。
手を添え、二度目が試される。
首と方を押さえつけた花園は、ゆっくりと押し付けるように挿入を開始する。
道のない場所をむりやり引き裂かれるような感触に、
富士子は体をこわばらせ無意識の抵抗をする。
花園の胸板を押して遠ざけるような、はかない抵抗を。
しかしそのことで花園がひるむようなことはなかった。

そして奥までたどりつく。
富士子の抵抗がおさまる。中は周期的な痛みをもたらしてはいたが。

「ふ、富士子さん。 今‥ 」
「うん、うれしい‥」

二人は熱いキスを交わす。
この部屋に入った時とは異なる、安堵のキス。満たされた証のキス。

富士子の表情に、周期的に痛みの表情が見え、
動かしたい欲望に従うのをためらう花園がいた。

「‥‥‥」

「いいの」
「でも‥ 」
「花園君だけじゃなく‥ 私も‥ そうして欲しい‥ から‥‥」


「うぉ~~~~~っ」

激しい動きとともに、
花園の欲望は富士子の内部を迷うことなく蹂躙しつくす。
強い痛みのなかで、富士子は耐えている自分よりも、
愛されてる自分を強く感じていた。
満たされているこの時間は、かけがえのない二人だけの時間。
ここにたどり着くために、私は生まれてきた。
きっとそういうことなんだと。

「うっ」急に動きを止めた花園が声を出した。

奥で、じわっとひろがるなにかがあった。
胸の上に体重がかかる。
そうか。イったんだ。

目を合わせる。
この人。この人が大好きだ。すごく好きだ。
ずっと前から好きだった。
不器用だけど、すごくまじめで。

そう。私の‥ 私のチャンピオンなんだから。


結局、そのまま、二人は眠ってしまった。
あわてて部屋を出た頃にはすっかり元旦の朝になっていた。

「どうしたら‥ いいもんか‥ 」
「え?」
「ご両親になんて言えば‥  初日の出は見てないし」

運転しながら花園は律儀に考え込んでいる。
油断するとエンストしそうなエンジンを、うまく操りながら。

「わかるわけないでしょ? こっちから言わなきゃ?」
「はぁ‥ それはそうなんですが」

「それとも‥ 後悔してる? ゆうべのこと‥」
「そんなことはありません!
 この花園薫、天地神明にかけて絶対に!!!!!!!」

助手席を向く花園の顔をつかんで前に向ける富士子。
「ちゃんと運転して。
 冗談なのに。もう律儀なんだから。
 だったら、夕べのことは二人だけの秘密。
 誰にも分らないでしょ?」

車は、新年のさわやかの風の中、二人を乗せて走っていく。
どこまでも。


しかし、富士子の中で愛の証が芽生えていた事実を、
今の二人はまだ知るわけもなかった。


fin