「何度も言うようだけど、動物実験から見てこの薬の持続効果は推定4時間。
 あと、人間が服用した場合の副作用に関しては全く未知数。だから…」

アポトキシン4869の効果は理論上可逆性を持つはずだった。
しかし彼女が組織にいる間はそこまで研究が進んでいなかった。
阿笠博士の研究室で記憶をもとに作り上げたこの解毒薬に関して、
十分な検証はできてはいない。薬の有効性はどちらかが試すしかなかった。

「オレ体力には自信あるから、テストはオレでいいよ」
「でも本当は私が先に」
「いいって、オレがやるよ。どっちがやってもいいんだろ?」
「それはそうだけど…… なんか、工藤君、急ぐ理由でもあるの?」
「いや、別に…」
「それならいいんだけど。ん、そうね… まぁ問題はないかな…」

彼女のOKが出たので、オレは裸になり、
大人用のバスローブを着てベッドに横たわった。

「体の組織が再構成される瞬間、かなりの負担があるのは確かなの。
 薬が効き始めるときと、そして切れてもとに戻るときと」
「わかった」

注射針から透明な液体が体内へと送り込まれる。

「つらいと思うけど、がまんしてね」
すぐに体が熱くなり始める。









Holy Night









その二時間前、オレは蘭の部屋にいた。
「ねぇコナン君。新一はいつか本当に帰ってくるのかな。
 電話は時々掛かってくるけど全然会えないし。
 もう、待ってるの、つらいの。
 あたし、そんなに強い女じゃない……」
そう言いながら小学生のオレにもたれかかって彼女は泣いた。

どうしようもないはがゆさの中、オレはただ彼女の髪をなでていた。
そのまま何分か経ってから、身を起こした彼女がまざまざとオレを見つめる。

「どうしたの? 蘭ねぇちゃん」
「……なんか新一に頭なでられてたような気がして。
 あ、ヘンだね。コナンくんなのに」
「いいんじゃない? 蘭ねぇちゃんの気持ちが落ち着くなら、
 いつでも僕はかわりになってあげるよ」
「ありがと。コナン君、優しいんだね」

蘭のことばにオレの胸は激しく痛んだ。

そのときオレの携帯にメールが着く。薬の完成を告げる灰原からのものだった。
「蘭ねぇちゃん、今日はこれからどうするの?」
「う~ん。多分ずっと家にいると思う。でもなんで?」
「別に、ただなんとなく聞いてみただけ。僕、外に遊びに行ってくる」

オレはそのときにもう決めていた。
今夜、工藤新一として蘭に会うことを。


体が熱くなり全ての筋肉と骨格がきしんで、激しく痛む。そのうち意識が遠のいた。
覚醒したところで時計を見たら3分経過していた。痛みが徐々に消えてくる。

「どう? 気分は?」
「最悪だけど、なんとかなりそうだ」
ゆっくりと起き上がったオレは部屋の端に行き、全身を映す鏡を見る。
17歳のオレがそこに立っていた。
少し体がふらつくがなんとかなりそうだ。

「じゃ、オレ出かけてくる」
「え? それはどうかしら。ちょっと危険な気も……
 あぁ…… そうか、そういうことなのね。今日はクリスマスだし」
なにもかもお見通しのように彼女が笑った。

「それなら、予想外に早く効果が消えたときの為に、着替えを持っていったほうが…
 なんだ、しっかり持って来てるのね。準備いいわね」

ポンと背中を叩かれた。
「いってらっしゃい、気をつけて。十分に愉しんできなさい。
 ……あと、彼女によろしくね」


蘭にはさっき携帯から連絡を入れておいた。もちろん工藤新一として。
駅前、彼女は巨大なツリーの下に立っていた。オレの姿を見て走ってくる。
ひとめも気にせずオレに抱きつく。そのまま小さいな声で呟く。
「バカ!」
次の瞬間、蘭はオレをうるんだ瞳で見上げ目を閉じる。催促かよ。しょうがねぇ。
クリスマスイルミネーションが輝く街で、オレは彼女にキスをした。
落ち着いたところで手をつなぎ、スクランブル交差点を渡る。

「悪いんだけど、やっぱりきょうも3時間ぐらいしか会えないんだ」
「うん」
「…あれ、蘭、怒んないの?」
「いいの、新一に会えたから。この時間が大切だから。
 ケンカする暇なんて、ないもん」
例によって怒り出すかと思ってたオレは拍子抜けした。

坂道の途中で蘭の手をひいたまま右に曲がる。
ネオンのきらめく建物のひとつにそのままに入る。
階段をのぼったところの無人のスペースで、空いてる部屋のボタンを押し鍵をもらう。
蘭は何も言わずおとなしく付いてくる。

エレベーターをのぼり、部屋の鍵をあけ中に入る。
ブラックライトだけが唯一の灯り。
壁には鮮やかにトナカイやソリや、いろんなアイテムが映し出されていた。
「きれい…」
蘭は気に入ってくれたようだった。

後ろから抱きしめる。オレの手を持ち頬にあてる。
「新一がここにいるんだね。ほんとにここに」
向き直らせてキスをした。そしてベッドに並んで座る。


「あのさ、オレ、ほんとはさ、どこか蘭の喜びそうな綺麗なとこで、
 とかいろいろ考えてはいたんだ。せっかくのクリスマスだし」
「そんなこと気にしなくてもいいのに」
「でもさ、やっぱり」
「だって新一は私と、その… こ~ゆ~とこに来たいって一番に思ったんでしょ?」
「あ、あぁ。まぁ、そうなんだけど」
なんか身も蓋もない状態で、オレの性欲が蘭にばれちまってる。おいおい。

「いいのに、新一の思ったとおりで」
蘭はそう言いながら着ていたコートを脱ぐ。椅子にそれをかけて彼女は動きを止めた。

「それに」
「?」
「わたしも、その、新一と… あの… 外で会うより… こういう…」
「蘭!? おまえ…?」
「あたし、お風呂入れてくる!」
照れ隠しのようにそう言って蘭はバスルームに消えた。
なんだよ、あいつもやっぱりオレと同じこと考えてたのか。

戻ってきた蘭にそのまま抱きついたら、しっかり拒絶された。
「お風呂入ってから!」
「別にいいじゃねぇか。汗かいてるわけじゃないんだし」
「いやなの! どうして男の子って乙女心がわかんないのかなぁ~」
「なにが?」
「だから、綺麗にしてからじゃないと……」
「別におまえの体が汚いなんて、オレは一度も」
「そうじゃないの」
かみあわない会話の中に、バスルームからのアラーム音が割り込む。


「あ、お湯が一杯になったみたい。私、先に入るね?」
「どうぞ」
しかし立ち上がった蘭は、そのまま動かないでこっちを見てる。
「どうしたの?」
「あの… むこう向いてて欲しいんだけど?」
「えっ?」
「恥ずかしいから…」
「…だって蘭、オレたちもう」
オレが悪の組織に子供にされちまうまえ、オレと蘭は2度ほど、その…
だからいまさらそんなことを、

「それとこれとは関係ないの!」
真っ赤になって主張する蘭の迫力に、オレはおとなしく背中を向けた。
衣擦れの音がして、かすかな足音とドアの閉まる音がした。

頃合を見て、裸になって浴室のドアをそっとあけた。
素直に引き下がれるような状態じゃないんだ、今のオレは。

多分侵入したオレのことは気付いているのだろうけど、
大きなバスタブの中、蘭はむこうを向いたまま何も言わない。
彼女の背中を抱くような体勢でお湯の中につかる。
肩越しに乳房が見えた。なんか前より大きくなってる?

両手でつかむ。頼りないほどの柔らかさが気持ちいい。
蘭の手がその上に載せられた。さらにまったりと揉む。
そのうちに蘭の息遣いが微妙に不規則になる。
乳首を両方いっぺんにそっとつまむと、ビクンと彼女の体がはねた。
「し ん い ち……」
感極まったような声。


かすかに触れた状態のまま指をひねるように回すと、
可愛らしいその口から喘ぎ声がとぎれなく出始める。

片手を離し下のほうへと向かわせる。おなかを通過し陰毛の感触と出会う。
蘭は首筋をのけぞらして耐えている。両足は固く閉じたままで。
幾度か太もものあたりを手でさすって、ゆっくりと開こうとした。
一度は反射的な抵抗を見せたけども、次にはかすかに隙間が出来た。
手のひらで押し開くようにして、蘭の大事な部分をすっぽり覆う。
ちょうど中央の部分がヒクヒクと動いた。
それは蘭の息遣いと見事にシンクロしている。

中指をゆっくりと曲げた。ぬるっとした粘液に指が包まれた。
「あっ!」
蘭の体がこわばる。

蘭のなかにオレの指が第一関節まで埋まっていた。
上半身だけをひねって蘭はオレの唇を求める。
キスをしながらも、オレの指は柔らかい場所をかきまわす。
それにつれて彼女の喉の奥で「うっ!」とくぐもった音がする。

下半身からの刺激にキスを続けることができなくなって、
蘭は唇を離し、オレの手をぎゅっと握る。
「新一! だめ、そんな、いやっ!」
バスルームに蘭の声が続けざまに淫らにこだまする。

中指を奥まで埋めながら、親指をクリトリスの包皮の上で遊ばせる。
片手は乳首を刺激し、首筋にキス。


あっという間だった。
とてつもない大きな声を発したあと、蘭の体はピクピクと痙攣をくりかえす。
蘭の中のオレの指は、ひきちぎられるかと思うほどしめつけられた。

「んもう」
ゆっくりと目を開けた彼女は、最初にその言葉を口にした。
「なんか、不満なのか?」
「ちがうの。あの… 今日は私が新一に… その…」
「え?」
「私、新一に、まだぜんぜん…」
「それはまたあとで、ベッドでしっかりと」
「いや! 私だって…… わかった!」

彼女はそう言うが早いか、オレを浴槽のふちに腰掛けさせ、
湯船の中に再び入る。
「お、おい」
オレの困惑をよそに、両足の間、固くなってる奴の正面にすわりこむ。

オレのとご対面した蘭は、予想通りギョッとした表情をした。
なにせ明るいところでそいつを見たの、彼女としては初めてのはずなんだから。
「あ、あの」
少し顔を背け気味にしてる。オレは意地悪く蘭の反応を愉しむことにした。

「え、ちょっと、あの、これが、そうなの?」
「あぁ、そうだけど」
しげしげと見てたかと思うと、思い切ったように唇をゆっくりと近づける。
しかしすぐそばまで接近したあと、さすがになかなか踏み切れないようだ。
「いいよ蘭、無理しなくても。その気持ちで十分だからオレ」
「ううん、やる」


おぼつかないようすのまま、オレのを無理してくわえたはいいが、
すぐにむせて離してしまう。
「だからもういいって」
オレの言葉を無視して再びくわえ、さらに奥まで入れる。
あたたかい唇の感触が呼び起こす快感より、
伝わってくる蘭の気持ちのほうがオレの心を浸してゆく。

手を伸ばし彼女の胸をつかむ。明らかに乳首が硬くなってる。
ゆっくりともみあげる。
「ウッ、ウッ」と喉の奥からくぐもった喘ぎ声が聞こえ、
オレのものはより一層、彼女の口の中で固くなっていった。
そろそろかもしれない。

「蘭… いいよ…… すごく……」

オレの声にこちらを見上げる蘭。その口にはオレのが入ったままで。
そしてとどめを刺すようにニコッと微笑んだ。
その瞬間、オレはターニングポイントを一気に超えた。
蘭にそれを伝える暇なんてあるわけがない。

いくらなんでも口の中に出すのは避けたくて、あわてて蘭の顔を引き離す。
間一髪間に合ったが、蘭の目の前で嵐のような射精が始まった。
目、鼻、口、髪… 暴れまくるオレのものが白い液体をかけまくる。
あわてて手で下に向けたが、今度は蘭の乳房に白いしみが作られる。
蘭はその光景に驚いて、声も出さずに見つめていた。

やっと一段落したとき、蘭の髪、顔、胸、ありとあらゆるところに、
オレの欲望の証が生々しく残されていた。


「んもう~ 新一! ひどいよ~ 目、痛いし」
「ごめん」
結局二人ともまたシャワーを浴びる羽目になってしまった。

ベッドの上でバスローブのまま二人で戯れる。
顔を寄せると蘭の髪からいい香りがした。
手で髪をもてあそびながら、耳たぶにキスをした。
「くすぐったいから、やめて」
「いやだ」
後ろから彼女をはがいじめにして首筋に唇をはわせる。
蘭はくすぐったそうに体をひねる。
その拍子にバスローブの足元がめくれあがって、白い太ももが顔を出す。
それを見て、さっき大量に放出したはずのオレのモノが元気になる。

蘭を押し倒し紐を解いてバスローブを左右に開く。
重力に負けないで盛り上がる乳房が感動的だった。
そしてその先端の薄紅色の乳首にそっとくちづける。
蘭がピクンと背中をそらす。もう片方にも。
オレの頭を彼女の手がつかむ。オレが刺激を与えるとその手に力が入る。
しばらくそんなことを愉しんだ後、ゆっくりと唇を彼女の下半身へと動かす。

「新一……? だめ! いや! 見ちゃダメ!!」
逃げようとする体を両手で押さえ込み、目的の場所にたどり着く。
かすかにめくれたその奥は、うっすらとしたピンク色をしていた。
「やだ… やめて… 新一… お願いだから…」
オレはあきらめることにした。蘭を泣かせたいわけじゃないんだし。

手早くコンドームをつけてベッドに戻る。
あらためてキスをしながら、蘭の体の上におおいかぶさる。


両足で彼女の足を広げる。
「いいか」
返事はない。
蘭は目を閉じたまま頬を赤く染めて、そしてかすかにうなずいた。

入り口は抵抗を見せた。しばらくぶりだから当然かもしれない。
しかし次から次へとあふれる粘液がオレの心配など杞憂に変える。
すこし腰をすすめただけで、ヌルンという感じで入ってしまった。
「アッ!」
二人揃って声を出していた。

「蘭…」 「新一…」
キスをしながら、オレは我慢できずに下半身を動かし始める。
さっきバスルームで抜いたことは何の関係もなかった。
あまりの気持ちよさに我を忘れたオレはそのまま腰をうちつける。
奥まで挿入するたびに蘭はうわごとのように、
オレの名と「好き」という言葉を交互にくりかえす。
あっというまにオレの終りがきた。

蘭を強く抱きしめたまま、
どこまでも奥へと注入したいかのように、痙攣は続いた。


意識が戻る。肩口にぬくもりがあった。蘭の顔だった。眠っている。
どうやらエッチが終わったまま二人とも眠ってしまったようだ。
でも… へんだ。体が熱い。
いやな予感がして時計を見る。まだ3時間しか経ってない。

でも… まちがいない。こいつは効果が切れる予兆だ。
やばい、オレはあわててバスルームに駆け込んだ。

5分後、鏡の前に居たのは見慣れた江戸川コナンの姿だった。
よかったぜ、ほんとに。着替え持ってきておいて。
バッグに詰めてきた服を身に着ける。
そっとドアを開け、ベッドの上を見た。
蘭は満ち足りた顔をして眠っていた。
テーブルの上にホテル代を置く。
渡しそこねたプレゼントのネックレスもその隣に。

オレは足音を忍ばせて廊下へ通じるドアのところに行く。
こんな形で置き去りにしたら、目覚めたとき彼女は怒るだろう。
でもこればっかりはしょうがねぇ。
そう言い訳しながら、もう一度最後と思い後ろを振り返る。

振り返ると彼女は寝返りを打つところだった。
白く丸いお尻となだらかな腰の織り成すラインが見える。
じゃーな、蘭。なるべくはやいうちにまた来るよ。
Merry Christmas! オレの女。

ホテルの従業員に見られないように、オレは非常階段へと出た。

工藤新一を送り出したあと、私も注射をした。
体重の分少し量を減らしたけど、持続時間はほとんど同じになるはずだ。

先ほどのテストとほとんど同じ経過をたどり、そして私は宮野志保へと姿を変えた。
そのプロセスの全てを可能な限り克明に記録する。
時間制限のない完全な解毒剤を作り上げるために、これは必要不可欠なのだ。
あとはこの効果が切れるときの状態をメモするだけ。あと4時間待って。それから。

工藤君は今頃、蘭ちゃんとデートの真っ最中なんだろう。
いつもクールな彼が珍しく冷静さを失ってたのがその証拠。
東の名探偵である彼も、こんなときは普通の男の子になるということか。
彼のそんな姿を見て、少しうらやましい気もしてた。
でも、私にそんな人……

30分後、私は大人の服を着て、六本木の街に出ていた。
なじみのショットバーはまだ残っていた。
ドアををくぐり、迷うことなくカウンターに座る。

私の会いたい人、と考えたとき、脳裏に突然浮かんだひとりの男。
クールで何を考えてるか分からない人。人の命の重さなんて気にしてない冷酷な機械。
私が抱かれた唯一の男。そして私の姉の命を奪った殺人者……

そして私は今、この店に一人でカクテルを飲んでいる。
なんで? 彼に復讐するために? それとも… 抱かれるために?
私の心の乱れを嘲笑うように、カウンターの端でツリーが冷たく光っていた。

ドアのカウベルが鳴る音がした。一瞬客のざわめきが静かになる。
その男の持つオーラが店の空気を凍らせていた。


男が隣に座る気配。視野の端に黒づくめの服装が見えた。
「ビフィーター、ロック、ダブルで」
そう短く言うと、くわえた煙草にマッチで火をつける。

ほどなく透明な液体と氷の入ったグラスが届く。
男はグラスを左手に持ち、軽く目の高さにあげてからグラスを口につけた。

私も同じようにしてカクテルグラスを持ちあげる。
心の中で彼と同じ言葉を繰り返す。その意味するものは違うとしても。
「メリークリスマス。再会を祝して」

どうして私がこの姿でここにいるのかさえ、この男は聞こうともしない。
言葉を交わすこともなく時だけが過ぎる。バーテンも何も言ってこない。

3杯目のグラスがカラになったとき、彼は席を立つ。
私もあとを追うように立ち上がった。

なにもかわらない。組織にいて彼と付き合っていた頃と。
そして驚いたことに、私の気持ち自体も全く変わっていはいなかった。
一緒に店を出る。腕を組むこともなく歩く。

突然路上にある車のそばで彼が立ち止まる。
リモコンを使ったのだろう、車のライトが一瞬光った。
ディテールまで見えたその車はポルシェ356A。彼の愛した車。
「乗れ」
運転席に半身を入れながら、彼が抑揚のない声でそう言った。


窓の外、街の明かりが相当のスピードで飛び去っていく。
このまま組織に連れて行かれ、二度と戻れない可能性もある。
しかし、私はあの店に行く前から論理的判断を放棄していた。
私の意思。それだけが今夜の私を支配している。
後悔はしない。

そんな私の覚悟とは裏腹に、
ポルシェのたどり着いた場所はラブホテルの駐車場だった。

30分後。
シャワーを浴びたあと身に着けたバスローブは足元に落ちていて、
私は裸で立ったまま彼に抱かれていた。

私の体の上を彼の手がゆっくりと触れていく。
首筋、背中、お尻。大切なものをいとおしむように優しく。
お尻が両手でぎゅっとつかまれると同時に、首筋にキスされる。

背筋を電気のような衝撃が駆け抜ける。
首筋に当てられた唇が徐々に下に向かい始める。
ためらうように立ち止まったあと、乳首が口に含まれる。
「あっ」
私の口から出た声は、まるで他の女の声かと思うほど淫らだった。

そして、反対側の胸へと愛撫の対象がかわる。私は彼の頭を無意識に抱えていた。
そうでもしていないと膝が崩れ落ちそうだったから。
ベッドに押し倒される。すぐそばに彼の顔がある。
なつかしい香りがした。鼻をくすぐるこの匂いが私は大好きだった。
ずっと昔も。そして今も。


足元にGINがいる。私の足は大きく開かれたままで、私の全てが彼の目の前にある。
その中心にあるはざまを彼の舌がくりかえし往復する。
あふれかえった粘液のくぼみと、期待に大きくなったクリトリスと、
それらを覆う肉のひだと、あますことなくすべてに同等に刺激を加えてくる。
私は既に思考力の半分を失い、彼の与える刺激を待つロボットと化していた。
彼の愛撫は巧妙で、私が触れて欲しいと願う場所を着実に察知しているかのようだった。

徐々に高みに押し上げられていくのがわかる。
「そこ… イィ! すごく… 気持ちいい!」
心の中に思ってることなのか実際に口にしてるのかは、既に区別できなくなっていた。
次々と押し寄せる快感のなか、私を止めるものはなにもなかった。
「あっ! ダメ、 いや、 もっと、 もっと!」
絶頂は突然に訪れた。

しかしその余韻を愉しむ間もなく、固くなったものが私の濡れた場所に押し付けられる。
両サイドのおおいをかき分けた場所でそれはピタリと動きを止める。
入り口に彼の熱いものの先端を感じた私は、たまらなくなって腰をくねらす。

こんなふうに彼は意地悪だった、いつだって。
私は無言で腰を近づけようとする。しかし巧妙に逃げられる。
こんなときの駆け引きに私は勝ったことなんてなかった。

「…いれて」
「いれて! はやく! もっと奥に! お願いだから」
私の言葉が終わらないうちに、GINは一気に私の奥へとそれを押し込む。
彼のもので埋め尽くされ、息ができなくなる。
その快感だけで意識が一瞬飛びかける。


しかしすぐに新たなる刺激に私は現実に呼び戻される。
激しく動くのではなく奥へ奥へと押し付けるようにしてくる。
彼の先端の部分が感じる場所をこねくり回すように動いている。
再び私の淫らなカーブが頂上へと駆け上がってゆく。
「好き! 好きよ! GIN もっと、もっと!!!」
恥じらいもなくそんな言葉を口にする私がそこにいた。

彼の動きが更に激しくなり私が幾度目かの絶頂を迎えた後、
突然にその動きが止まった。
耳元で小さなささやきが聞こえる。

「淫らな牝犬には… これがお似合いだろ」

言葉が終わると同時に、ズンという衝撃と共に奥まで激しく貫かれる。
巨大な津波のような快感の中で、私の意識は White Out した………

「GIN? どこ?」
朦朧とした意識が戻ろうとする中、私の頭に最初に浮かんだ言葉はそれだった。
同時に煙草の匂いがした。
窓際を見ると見ると、彼は椅子に腰掛けて夜景を眺めていた。

そばに寄って、彼の首に腕をからませる。
キスをしても拒絶はされなかったけど、無表情な顔は全く変化しなかった。
それでもよかった。こうしていられれば。
彼の匂い。体温。ことば。愛撫。
どれひとつとして、忘れたことなんてなかったのだから……

膝の上から私は降りた。
何事も無かったかのように、彼はサイドテーブルの煙草をとろうとしている。
その一瞬のスキに、私は迷うことなく麻酔針を彼の首筋に打ち込んだ。

阿笠博士の作品はどれも命中精度が高い。そしてその効果も確実だ。
今、目の前でベッドに寝ている男は、完全に無防備な状態にある。
あと30分は目を覚ますことがないだろう。

すやすやと寝息を立てているこの男は、
組織に私への拷問を指令されたとしても、顔色一つ変えずそれを実行するだろう。
あるいは私がそのために死んでしまっても、
なんの感慨もなく次の仕事の手順を考え始めるに違いない。
そういう男だ。

自分に問い掛けた。
どうするの? 志保?
あとはあなたがしたいようにすればいいのよ……

ゆっくりと私は彼に近づき、上から見下ろす。
静かな室内に私の荒い呼吸だけが響く。


……そして私に出来た唯一のこと。
それは眠り続ける男の唇に唇を重ねること。それだけだった。

突然私の体に変調が起きた。どうやら効果の切れる時が来たようだ。
予想より早かったが、中途半端な場面でなかったのはラッキーだった。

10分後、灰原哀となった私は、廊下に出ようと部屋のドアのノブに手をかける。
そのとき、背後でかすれた声が聞こえた。

「シェ…… リー…」

夢でも見てるのだろうか… あんなに嫌ってた私の名を呼ぶなんて。
あるいは私を拷問してるシーンなのかもしれない。
どちらにしても、今、私が彼の心の中にいることだけは確か。

廊下に出てドアを閉める。
誰もいない廊下で Holy Night! とちいさくつぶやいた。
私が憎んで憎んで憎みきって、それでもなお愛してる男へ。
少なくとも今夜だけは私の夢を見ていて欲しい。なぜかそう願う自分がいた。


でも現実に戻れば、彼がこのまま私を帰すつもりだったわけもなく、
おそらくホテルの入り口には、
当然のごとく彼の手下が張り込んでいて、私を待ちかまえてるはずだ。

とりあえずエレベーターを避け、非常階段に向かう。

[Epilogue]

目を慣らすためにオレが踊り場でたたずんでいると、かすかな物音がした。
壁沿いの明かりが届かない場所に体を押し付け、オレは気配をうかがう。
近づいてくる。誰が? オレを狙ってるのか? つけられてたのか?

腕時計をかまえる。イブの冷たい風の中、オレは珍しく汗をかいていた。
かすかに姿が見える。そして……

「なんでこんな所にいるんだよ!?」
オレの声に向き直った灰原は、オレを見ても驚いた風には見えなかった。
「それは… 多分おんなじ理由かもね。それより……」

「一階に組織の人間が複数お待ちかねで、
 私のパーティーを企画してるってもっぱらの噂なんだけど、
 あなたも一緒に来たい?」
「…見慣れた顔に思いもかけない場所で会った、と思ったら… それかよ!
 さっきまでは最高のクリスマス気分だったんだけどな、オレ」
「それは残念だったわね。でも、ここで私と一緒に捕まったら、あなたも」
「だよな。ま、こういう緊張感、オレ嫌いじゃないし」

「聖なる日に似合わないふたりで」
「うまく脱出できたら拍手御喝采! …というところかな」

その言葉を最後に、オレと彼女は闇の中へと身を潜ませる。
壁の隙間から見える街は、色とりどりのきらめきの中にあった。
Holy Night  ちょっと素敵な冒険が、今オレたちを待っている。








        - The end -






... Ending Theme ....


     原案:裏方  脚色&監修:Onakan Sisters


  制作: Holy Night 制作委員会




「みなさまにいいクリスマスが訪れますように… はぁと」

「……灰原、おめぇそんなのんきな挨拶してる場合じゃないだろ?
 でっけぇ奴が入り口に立っててさ、ありゃ相当まずくねぇか?
 あ、みんな、そんなわけでオレ忙しいんで、
 また、正月スペシャルのときにでもこの話の続きはするよ。
 オレたちそろそろ行かなきゃいけないから。 じゃあな!」

「じゃあね、みんな。よいお年を!」