操り師

Prologue

朝。9月も終わりになるというのに、昨夜からの暑さが街には残っていた。

7時10分発の列車はいつもと同じように混んでいた。
エアコンは動かず、扇風機が無駄に熱気をかき回す中、
汗ばむ乗客はハンカチで額をぬぐい、扇子で首筋をあおいでいる。

入り口から離れた車両の連結部に、一人の詰襟の高校生が立っていた。

まだ周囲の高校生は夏服だと言うのに、彼だけは漆黒の制服。
しかし不思議なことに、少しも汗をかいている様子がない。
手すりに寄りかかり、体は軌道の生み出す揺れに任せてはいたが、
眼鏡の奥の鋭い双眸はただ一点を凝視している。

視線の先にいるのは夏服の女子高生だった。おそらくまだ1年生ぐらい。
化粧といえるのは薄いリップ程度、ごくナチュラルな雰囲気。
体型と顔立ちにおいてはかなりの美形と言っても差し支えないレベルで、
お約束のようにかなり短くなったスカートを身に着けている。

その彼女は揺れる車内を、今ゆっくりと移動している。
目指す場所は、明らかに連結部にいる漆黒の高校生だった。

この二人は互いに全く面識がない。
同じ電車に乗り合わせているだけの関係……のはずだった。

しかし、彼のもとにたどりついたその顔には、
いとしさ、とでもいうべき表情があふれていた。
まるで半年ぶりに出会えた遠距離恋愛のカップルであるかのような。

黒服の彼に正対した彼女は、そのままひざまずく。
カバンを横に置き、彼のズボンのファスナーに手を掛けた。
不慣れなのが見て取れるほど手間取りながら、
その奥の下着をかきわけ、目的のものを取り出す。

それはまだ縮こまったままで、彼女の手の上に載っていた。
上を見上げる。かすかな微笑とともに。

彼女の無言の問いかけに黒服の視線がからんだ。
数秒の間があった。

視線をはずした彼女は少し前かがみになって手元のそれを口に含んだ。
すっぽりと、すべて。彼女の小さな口に収まる。
そしてすぐにクチュクチュという音が聞こえてきた。
唾液をまぶしながら、愛撫をくわえている。

いつか男の腰を抱き、激しく音をたてて吸いたてる。
目を半開きにしたその表情で、行為に没頭しきっている。

奇妙なのは、これほどのことが行われているにもかかわらず、
車内の誰も注意を払おうとはしないことだ。
ほとんど声もない行為であるとはいえ、閉鎖空間の中で目に付かないはずもない。

しかし、その二人の男女が存在しないか如く、
車内はおだやかなノイズに満たされている。
車輪の立てる音。高校生が話す声。窓が立てる風切音。
ヘッドフォンから漏れ出すパーカッションのリズム。
その中にかすかに混ざる卑猥な音。

すべてがいつもとかわらないかのように、時は列車の中を正確に流れていた。

彼女が口を離す。姿をあらわしたそれは硬度を持った塊となっていた。
ちょうど彼女の胸元、ブルーのリボンの前で生き物のように動く。
上下に小さく、持ち主の脈動に同期して。

再びかがみこむようにした彼女は、その下にもぐりこみ舌先を伸ばした。
根元のほうに舌を着地させ、ずりずりと尿道を刺激しながら亀頭へと移動する。
鈴口へ来たときに舌先をつぼめ、小さな穴に押し込む。
そのまま唇で亀頭を覆い、口腔の中で舌を亀頭の周囲にめぐらせる。

脈打つものを口にくわえたまま、彼女は視線を上に向けた。
かすかに彩られた唇に男の性の証がしっかりとくわえられていた。
再び一瞬の間。交差する視線。

唐突に立ち上がる彼女の口からそれははずれる。
既に支えなどなくても十分な硬度を持ったそれは、
ズボンから生えた異物のように、斜め上に向かって己を主張し続けている。

そんな状態を気に掛けるふうもなく、彼女は反対側の手すりにつかまる。
背中をそらし彼のほうに尻を向ける。

彼は無言のまま近づく。

無造作にスカートをめくり、のけぞった細い腰へと乗せる。
白地に可愛い模様のついた下着を、邪魔者でも扱うように膝まで一気に下げた。

見れば開き気味の彼女の太ももの内側に、透明な粘液が滴り落ちている。
元をたぐれば直ぐ上、ぷっくりとした陰唇の中心が、
大量の粘液のために光っていた。
ひだは今も液体を吐き出しながら、微妙にすりあわせるようにうごめいている。

彼女の腰をつかんだ男は、そのまま陰茎を膣口へとあてる。
次にくるべきものを理解した女は息を止め、その瞬間を待つ。

ぐっ……

はざまを苦もなくかきわけた陰茎は一気に膣内へと挿入された。
女の口から激しい吐息が漏れる。
剛直に押し開かれた痛みなのか、それとも交接の快感なのか……

背中が極限にまで反り返り、顔が天を向き、白いのどもとがあらわになる。
突き出された胸を龍輝は両手でつかんでいる。

腰がゆっくりと引かれる。膣口に亀頭がひっかかった状態で止められる。
ヒダがうごめき、隙間からは内部からあふれた液体が陰茎へと伝わり流れる。

再び激しくうちつけられる。
そしてそれはいくどとなく。

悩ましい声が女の口から漏れている。
まぎれもなく今、彼女はとらわれている。
膣内を蹂躙する男の陰茎に。そしてこすれあう粘膜の快感に。
……そして官能に否応なく流されている自分に。

押さえることもなく女の口からは次々と淫猥な言の葉が紡ぎだされる。
すでに獣の吼える声に近いほどの音量で、それは車内に響き渡る。
しかし、乗客たちはまったく反応を見せない。

そして大きく引かれた腰が、膣の奥、
子宮へと打ち据えるが如く繰り出され、そのまま射精が始まった。

大量の粘液を床にまで垂らしていた女は、
子宮口付近に熱い塊がぶつかるのを感じて、自らも絶頂を迎えた。
膣の収縮は、射精の脈動を繰り返す陰茎をいとおしむようにくわえこむ。

男の射精が終わってもそのまま二人は動かない。
女のたてる荒い息が大きく響くが、男は今も普通の呼吸のままだった。

ヌルッ……

男が腰を引くと、精液と女の体液、そして破瓜の血が混じったものが、
陰茎の形にぽっかり開いたままの膣口から流れ出る。
白い太ももにピンク色の筋がつく。

男のものを口に含み、心残りをあらわすかのように、
異様に丁寧に唇で残滓をすくいとったあと、
女はかたわらのカバンからティッシュを取り出し、綺麗に仕上げをした。
そして硬度を失ったものを元の位置に収め、ジッパーをあげる。

それが済んでから、自らの下半身を事務的に拭いて、
下着をあげ、スカートを下ろし、そして床を濡らしたものも拭く。

カバンに使用済みのティッシュを押し込んで、そのまま男のもとから離れる。
一度だけ振り返り、恋人に投げかけるような微笑を見せた後、
彼女は仲間のもとへ向かう。

友人たちのそばに到着した彼女は、すぐに談笑を始める。
今この場所でおこなわれたことなど、夢であったかのように。

Section.1

男の名前は狩野龍輝。古くから伝わる操り師の末裔。
彼の家に残る古文書によれば、もともとは言霊つかいの家系であったようだ。

シャーマニズムは、古の人々にとっては生活の必需品であって、
収穫の良・不良や天変地異に関し占いを用いていたことは、
世界の各地で文献として残されていて、枚挙に暇がない。

しかし言霊つかいを探求していく過程で、
彼の先祖はひとつの副産物を得てしまった。

それは『操り』のわざ。
文字通り人の心を自由に操る方法。

しかしそれがわかった瞬間、その『わざ』とともに先祖は地下に潜った。
自らが『操り師』であることを他人に知られたなら、
その強大な力ゆえ、自分たちも平穏に暮らすことができなくなると、
そう気付いたからだ。

ごくごく普通の人間として暮らす。
それがこの家に生まれた者の守るべき、唯一のしきたりだった。

一子相伝。

他の誰にも伝えることなく、それは世代から世代へと受け継がれてきた。
そして龍輝もまた、この夏に父親からそれを渡された。

とはいえ、遺伝子レベルで組み込まれている能力に対し、
教えはそれを開放するだけの役割しかもっていない、
単なる脳内の念唱がその正体だった。

だから夏休みの間にそれは習得できたのである。

あるいは世界中の誰もが持っている能力であって、
ただ暗号解読のキーワードがないだけと言う可能性もある。
しかし、それを試したものは過去におらず、
龍輝自身もあえてリスクを犯す気など毛頭なかった。

DNAに組み込まれた暗号と公開鍵。
その鍵のかたわれが今、龍輝の手の中にある。

昔であったなら、この能力は狭い範囲でしか通用しなかった。
しかし今は、無限に近い数の離れた相手を操れる可能性がある。
テレビを通じて。

現代において世界中の核爆弾を集めたよりも危険な影の存在、

……それが『操り師』龍輝の正体だった。

Section.2

「なんか、相変わらずバケモノ状態だな、龍輝」
昼休み。龍輝に話しかけてきたのは達也だった。

「そうか? オレ自身は至ってまともな高校生だと思ってるよ」
「どこがまともなんだよ!」
「手も足も二本だし、指だって片手に五本ずつだし。
 触手が生えているわけでもなく、ましてやスライムに変身するわけでもない。
 どこらあたりがいったいバケモノなんだ?」

「そんな話じゃなくて…… 
 だっておまえ、進路指導の谷口の野郎が、
 『狩野君は好きにしていいよ。どこの大学でも受かっちゃうんだから』
 なんて本校始まって以来のセリフ吐いたって、そう聞いたからさ」

「努力してるんだからあたりまえだろ」
「おまえなぁ……いっつもオレと一緒に遊んでてさ。
 それでこれだろ?
 努力だけじゃ済まない問題って思うんだけどね」

「いや、そこは陰に隠れてだな、血のにじむような特訓を地下の」
「わかった、もう聞かない。無駄なことした」

そんなセリフを吐く達也の背後のオーラは、
ほとんどが『好意』で構成されている。

オーラ。

様々な感情が絵の具を混ぜ合わせたパレットのように表象化したもの。
それは操り師にしか見えないヒトの感情の配合比。
視野のモードを切り替えるだけで、それが龍輝には見える。

視覚的な色彩とは少し違ってて、それはもっと直接的に龍輝の脳に伝わる。
攻撃、嫉妬、好意、愛情、無視、軽蔑………

思い返せば今朝の件も、元はと言えばこのオーラが原因だった。

9月になってから、龍輝は電車の中で『わざ』の練習をしていた。
割り込みの常習犯のリーマンをコントロールして途中下車させてみたり、
車内で声高に携帯で話してるヤンキーに、携帯を派手に落とさせたり。
どれもこれも、あくまでいたずらに近いものだった。

対象にフルコントロール能力を使い、周囲には部分コントロールを用いる。
認識して欲しくない情報のみを対象に、
取り込まれた情報が脳内で認識される前に消去されるようにする。
そして情報を受け取ったことさえワイプアウト。

ここまでの実験では完璧にそのどちらも使いこなせていた。
ただ龍輝はその力をなにかのために使う気はなかった。
一度使ってしまえば、今の平穏な生活はなんらかの形で歪んでゆく事は必至。
龍輝の望みは普通の生活、ただそれだけでしかなかった

今朝そのコがこちらをチラチラ見ているのは気付いてた。
正直可愛いコとは思っていたがそれだけのことだった。
決して『わざ』を使ってどうにかしようなんて考えても居なかった。

しかし今日は違った。
彼女の背後に見えたオーラは異様にくっきりとした状態にあった。
それは三つの感情から構成されていた。

羞恥・愛情・性欲…………
それらはまぎれもなく龍輝に向けられた感情。
正直ありえないとは思った。

龍輝が試してみたくなったのも、ある意味仕方がなかったのかもしれない。
フルコントロールではなく、ひとつの感情だけをブロックしたなら……
選択した感情は『羞恥』だった。

彼とて期待がゼロだったわけではない。
突然迫られてキスぐらい……だったらいいか、とは思っていた。
しかし訪れた結果は予想を遥かに越えたものだった。

「お〜い、龍輝〜、おまえはどこに行っちゃんたんだぁ〜」
達也の言葉に龍輝はふと我に帰った。
目の前には薄笑いを浮かべた悪友の顔があった。

「朝、電車で会ったかわいい女の子のことでも考えてたんだろう、どうせ」
「!」
「なんだよ、図星かよ」
「ま、まぁな」

「そっかぁ、龍輝君もいよいよ恋するお年頃になったわけね」

「んで、龍輝。その」

さらに達也から詳しく突っ込みが入りそうな瞬間にチャイムがなった。
龍輝はほっと一安心した。

Section.3

帰り道、龍輝は今朝の出来事を繰り返し反芻していた。
少なくとも自分は彼女の意思を奪い、意のままに操っていたわけではない。
それなのになぜ?

その答えが見つからないまま歩くうちに、
気付けば自宅の門の前にたどりついていた。

「ただいま〜」
玄関から、とりあえずダイニングに向かった。
体が猛烈に麦茶を欲していた。

足を踏み入れると、誰かがダイニングの椅子に座っているのがわかる。
なんか制服を着た女の子のようで……

「今朝ほどは、どうも」

龍輝は向けられた笑顔を見たまま凍りつく。

なぜ? なぜ彼女がここに?

派手な音を立ててドアが開き、龍輝の母親が大きな袋をかかえて入ってきた。

「帰ってたんだ、龍輝。クリーニング屋さん混んでて、もう大変」

部屋の隅に袋を置いた母親は異常な状態の龍輝に気付く。

「なに固まってんの?」

「……あぁ、このコね。可愛いでしょ? 紹介するわ、弥生ちゃん。
 でね、弥生ちゃん、この子が龍輝」

龍輝は更なる衝撃に言葉も出ない。
母親が彼女を知ってる……?

「あらまぁ、どうしたのかね、この子は。ともかく座んなさい」
ギクシャクした動きで龍輝は椅子に座る。

「弥生ちゃんは二週間前、家族揃って日本に帰ってきたばっかりでね、
 えっと、そう、龍輝から見たら従姉妹になるのかな。
 小さい頃にカナダ行っちゃったから、龍輝は知らないかもね」

「そうですよね〜」
あいづちを打ちながら彼女は天使のような微笑を浮かべる。
ふと今朝の彼女とは別人ではないかと、龍輝は一瞬考えた。

「でも、今朝、お会いしてるんですよ私たち」

龍輝は紛れもない真実をつきつけられた。

「え、どこで?」
「電車で」
「へぇ〜、そうなんだ」

「やっぱり、なにかあるのかもね、あなたたちって」
龍輝はその意味するところを図りかねて不思議な顔を見せている。

「もしかして、お父さん、あなたに言ってないの?」
「……?」
「まったく、役に立たないんだから、あのダメオヤジ。
 龍輝、あなたと弥生ちゃんは、『いいなずけ』なの。どうやら初耳らしいけど」

龍輝は驚いた顔をしていたが、弥生は平然としたままだった。
どうやら彼女にとっては既定の事実であったらしい。

「で、今朝どんなふうにあなたたちは……?」

龍輝が弥生をにらみつけている。
どんな能力も必要とせず誰でもわかる強力な視線。

しゃべるなよ……

「まぁ、あの、お友達になれたかな、ぐらいの」
龍輝は意図が通ったことに安堵のため息をつき、肩の力を抜く。

「……それ以上は聞かないほうがよさそうね、龍輝を見てると」

「ま、なにがあったか知らないけど、悪い感じじゃないからいいかな?
 ほんとはすご〜く知りたい所なんだけどね」

「そうだ! 弥生ちゃん、晩御飯食べていけるよね?」
「はい、大丈夫です、お邪魔じゃなかったら」
「じゃ、腕によりをかけて作っちゃおうかな」

「それまで龍輝、じっくり話したら? ……『婚約者』と」

龍輝は麦茶を盛大に噴出す。

母親は笑いながら台所へと姿を消した。

Section.4

部屋の唯一の椅子に龍輝、ベッドに弥生が腰掛けている。
この状態になってからすでに5分が経過してる。
二人とも無言だ。

「あ、あのさ」
龍輝が勇気を出して口火を切る。

「はい?」
部屋の中を面白そうに見ていた弥生が振り向き答える。
龍輝の挙動不審を明らかに楽しんでいる。

「今朝のことなんだけど……」
「それが?」
小悪魔のように弥生は微笑む。

力関係において龍輝が圧倒的に不利なのは、両者の表情に表れている。

「ごめん! 決してああなることを望んでは」
「言わないで!」
「??」

「あれは……やっぱり……思い出すと恥ずかしいから」
「あ、あぁ」

ほとんどアダルトビデオ状態というべき光景が脳裏に蘇る。
そりゃそうだろうと龍輝は思った。

「それに、後悔してませんから」
「だって……あの、その、初めてだったんだよね?」
「えぇ、そうです」
平然と言い切る弥生。

「しょうがないんです。私、龍輝さんのこと好きになっちゃいましたから」
激しく咳き込む龍輝。弥生がその背中をさする。

「前の日に電車の中で、すぐに龍輝さんだって気付いたんです。
 親の決めたいいなづけとは言っても、嫌な人だったら断ろうと思ってて、
 でも本物見たら、もう一目ぼれ、しちゃったんですよ」

「そしたら今朝突然、『抱かれたいなぁ〜』って気持ちになっちゃって。
 だって、私まだ16歳だし、そんなこと考えたこともないのに。
 これってなんだろう、意味わかんないよ〜 って大混乱しちゃって」

「その瞬間だったの。龍輝さんが私の感情から『羞恥』を外してしまったのは。
 龍輝さんに悪意がないのはわかってました」

「計算外だったのは、残った感情が私の思った以上に強かったことです。
 龍輝さんに対する私の思いは……多分あれがありのまま…なんです」

さすがに弥生の顔は赤い。

「でも、オレはまだ弥生ちゃんのことを」

「いいんです。今回のことは私が勝手に突っ走っちゃっただけですから。
 ……できれば私の今の気持ちにいつか追いついてもらえると嬉しいな、
 とは思ってますけど」

「たぶん、それは大丈夫だと思う。安心していい」
「……よかった」

Section.4

「ただ問題がひとつ……
 コンドームもなしにやっちまった、という事実が残っている」

「ですよね〜」
全く深刻な表情を見せない弥生に龍輝は疑問を感じる。

「心配じゃないの?」
「妊娠……しちゃったかも知れないってことですか?」
「そうなんだけど」
「経験がないことなのでちょっと怖いとは思いますけど、まぁ、それほど」
「それほど…って」

「だって、もう私のスケジュールでは
 龍輝さんと結婚して子供作って、楽しく暮らしていくのが決まってて」
「決まってない! あ、いや、まだ正式決定には至ってないという意味で」

「もしかして……今朝のことに責任を負いたくないとか、そんな」
そう言う弥生の顔は、まるで「般若」か「シバ神」のような怒りを内包していた。

「そ、そ、それはない!」
「じゃ、いいじゃないですか、これで。
 ちょっと順番が違ったかなぐらいで、大勢に影響はないかな、と……」

なにがどういいのかについて、龍輝は考えることを放棄した。
さきほどの一瞬、感じた身の危険は味わったことのないしろものだったから。

「でももし出来てたら、その子はものすごく優秀な子になりますね」
「?」
「だって操り師の両親から生まれた超優良のサラブレッドみたいな」

「……あの、今、なんて」
「だから、超優良のサラブレッドみたいな」
「いやその前」
「あぁ、『操り師の両親から』ってとこですか?」

「ということは君は…」
「はい、龍輝さんと同じ操り師ですけど? それが?」

え〜〜〜〜っ!!!
龍輝の驚愕は筆舌に尽くし難いものがあった。
父親の話では一子相伝であり、この世に一系統しかない操り師だと……

「たぶんうちのパパと同じで、冗談好きなんですね。だって兄弟ですし」

あいつ……真面目な顔してフカシ入れてたのかよ。
龍輝のはらわたは煮えくり返る。

しかし冷静になって考えれば、
先ほどからの弥生のことばの端々にそのことは現れていて。

だいたい今朝のことを彼女が覚えていた時点で、
このことは予想すべきことだったともいえる。

Section.5

「でも、ほんとによかったのか?」
「なにが?」
「いや、初めての体験が電車の中でっていうの」
「でも、龍輝さんはあの時そうしたかったんでしょ?」
「いや、そうなんだけど」
「私も同じだったし」

そう言ったあと、弥生がうつむく。気になって龍輝は彼女を見つめる。
その肩が細かく振るえ、それは体全体を揺るがす状態に変化していった。

「フフッ……フフッ……ハハハハハ!」
「?」
「もう、やめよっか嘘つくの」
「?」

「ごめんなさい。正直に言います。
 今朝、あなたが私の羞恥感情をとばしたのと全く同じ瞬間に、
 私のほうもあなたの負の感情を解放してたの」

つまり……

「二人とも、常識とか、恥とか、そういうの捨てちゃっていたというわけで」

二人が自分の感情に忠実に行動した結果が、今朝のあれ、だと。
そう言われて龍輝はあっさりと納得してしまった。
操られていたわけではなく、二人の意思がああいう方向性であったわけで。

「エロいんだな、人間って」
「ですね」

龍輝は立ち上がり、弥生の隣に腰を下ろした。
無言のまま肩を抱き唇を重ねた。

唇が離れるとしみじみと弥生が言った。

「これ、私たちのファーストキスなんですね」
「あぁ、激しく順番が違っちゃってるけどな」
そう言いながら、なぜか龍輝が赤い顔をしている。

「どうしたの?」
「いやちょっと」
なぜなのかを言おうとしない龍輝の様子に、彼女もようやく気付く。

「……もしかして?」
心なしか彼女の顔も赤い。

「あぁ、恥ずかしい話しだけど、そのとおりだ。
 今朝のは唐突でなんか興奮状態だったから、もう一度ちゃんと、って、
 こう、主張する奴がいてさ」

「遠慮しなくても…いいよ?」

龍輝は弥生をベッドに押し倒し、再びくちづけをかわす。
胸元に手をやり、その感触をたのしみ、そして……

「だめだ」
「?」
「コンドームがない」

「大丈夫」
「?」
「ピル飲んでるから」
「………………」

「……随分、計画的だったんだな、弥生ちゃん」

しまったという顔の弥生。

「うわっ、ばれちゃった」

「……ということでお仕置き決定だな。
 まさかとは思うが、これ、娘、異存はないな?」

「なるべく穏便にお願いしますだ、お代官様」
「断る」

弥生は龍輝の背後のオーラをそっと盗み見る。
見慣れぬ色相がそこにはあった………

なにこれ………
え、え、えすえむ〜〜?!

夕食に現れた弥生は、心なしかやつれた顔をしていた……

Epilogue

「彩花はねぇ」
「なんだい?」
龍輝は3歳になった娘をお風呂に入れている。

日曜日の夕飯前のいつもの習慣。風呂をあがると、カルピスとビール、
そして弥生の作るおいしいご飯が二人を待っている、という寸法だ。

「大きくなったら、パパのお嫁さんになる!」
「そ、そうか」

風呂をあがってきた龍輝の様子がおかしくて、弥生は理由を聞いた。

「彩花が、大きくなったらパパのお嫁さんになるって」
「そうなんだ。よかったじゃない」
「まぁ、嫌われるよりははるかにいいんだが」

弥生は笑いを押し殺す。
龍輝がにやけそうになる顔を必死でこらえているのが可笑しくて。

彩花にパジャマを着せるために出て行った二人を見送り、
弥生が小さく独り言をつぶやく。

「操り師のワザなんていらないのよね。女には。
 ほんのひとことであんなふうにメロメロだし」


  Fin





あとがき

どうみてもいらねぇじゃんMC設定!    はいごもっともです
MCは中途半端で陵辱も書ききれてなくて、 仰るとおり、根性ありません
同じようなこと前もやってたよな?     はい、三度目です
できそこないのギャグ連発して       自覚してます

でも書きたかったんですよ〜 もどきでもいいからMC!
m(__)m すみませんでした