謎解きはベッドのあとで

Prologue

「影山!」
「はい、お嬢様」

相手がドアのところにいるとばかり思っていた麗子は、すぐそばで返事が聞こえたため、ビクッと体を震わせた。

「あ、あなた、いつのまに、そこに?」
「32秒前からですが」

秒単位か!? と、そう突っ込みたかった麗子ではあったが、この男のことだ、どうせ寸分の狂いもない数値なのだろうと思い直して、スルーする。

それよりも、

「全然気づかなかったわ。だいたい、なんで二人しかいない部屋でさりげなく足音消したりするわけ? 変でしょ? あなた特殊な訓練でも受けてきてるの?」

「いえ特にそういうわけではないのですが…… 単にお嬢様がいつものように
ボ~~~~~~~~~~~~ッ
とされてたために、お気づきにならなかっただけかと」

「……あなたね、なんでそこだけ嫌みったらしく長~~く伸ばすの? 言葉の内容だけじゃなく、言い方がさらに不愉快だわ」

「それは失礼しました。ではこれ以降、お嬢様に見習って記号は2個までということにさせていただきます。それでよろしいですか?」

「…………」

Chapter 1

この男が麗子の執事として雇われてから1ヶ月になるが、この程度の暴言は日常茶飯事だ。
そのたびに麗子は怒りを覚えるのだが、発言の中身がほぼ真実に近く、また、いくら突っこんでもノラリクラリとかわされてしまう為、最近ではやや諦め気味になっている。

「だいたい、私はさっき、単に、ボ~~ッとしてただけじゃなくて」
「わかっております。冗談でございます。お嬢様は、本日の殺人事件のことを、特に密室殺人の謎について深くお考えだったのでしょう?」

「そ、そうよ。決まってるじゃない。 ……でも、なんであなたそこまで詳しいの? まだマスコミには」

「それはもう。私、お嬢様の執事でございますから、それぐらい知っていて当然と申しますか」

いや、全く当然なんかじゃないでしょ……と麗子は心の中で呟く。

「ただ、あのときは、殺人のあった隣の部屋で壁越しにお話しされてるのを伺いましただけですので、もっと詳しく教えていただければ、お嬢さまのお役に立てる可能性があるやも知れません。というのも、ちょうどティータイムと重なって、録音だけの部分があり、その中に聞き取れない場所がいくつかありまして」

言うまでも無いことだが、この毒舌の執事にとっては、ティータイムの休憩は全てに優先する重要な事柄だ。

「あと、風祭警部の発言はすべてチェック済みです。あの方は、なぜか真実に肉薄する能力がおありのようで、最近は行動の全てをもらさず記録するようにしております」

真実に肉薄した挙句、あさっての方向にいってしまう、という問題点については、あえて触れない。二人ともその程度には大人だった。

たとえ数時間前の現場で、被害者の胸に刺さったナイフのことなど忘れたように、「これは事故です」という結論が出された、という事実があったとしても。

     ----- Film flash back -----

「という感じかしらね、だいたいのところは。まったく解決の糸口すら見つからないのよ」

「失礼ながら」
「なに?」
「誠に申し上げにくいのですが」
「だからなによ? ちゃんとおっしゃい!」

「では遠慮なく……お嬢様の目は『ふ・し・あ・な』でございますか?」
「あ、あ、あなた!」

記号を3こ使ってるじゃない!
と、一瞬麗子は思ったが、流石にそこに食らいついていい場面ではないと自制する。

「つまり……ただいま、お嬢様から伺った話と私の持っている情報を総合しますと、犯人は誰の目にも明らかかと……だたし、お嬢様を除いて」

「そんなわけはないわ。私だけじゃなく、捜査本部もお手上げの状態なんだから」

「いえ、今回の密室の謎は簡単なトリックに過ぎず、子供だまし……とも言えるようなしろものでございます」

「じゃ、じゃあ、言って御覧なさいよ。くだらないあなたの推理、聞いてあげるから」

「それはちょっと」
「なんで? どうして出し惜しみするの?」

「それは…… お嬢様が刑事として…頭をしぼっているのに、一執事に過ぎない私が簡単に答えを出してしまっては失礼にあたりますから」

全然そんな謙虚なこと考えて無い癖に……
それに『頭を』の前に『無い』を入れて『無い頭をしぼって』にしようとしてやめたのも麗子はうっすらと気づいていた。

「わかったわ。降参よ。あなたのくだら……なくない……その、とっても素敵な推理、聞かせて?」
麗子がこの言葉を発すると、彼女の葛藤に気づいたのか影山の唇の端がかすかに上がった。

「では早速……と言いたいところなのですが」
「なんなのいったい? どこまでもったいぶれば」

言葉が完結する前に、後ろから伸びた影山の両手が、麗子の胸の上に置かれた。
やわらかく包み込むように手のひらが麗子の乳房の上でうごめく。

さらにキスが首筋に落とされると、麗子は思わず体を震わせ、かすかなあえぎ声を漏らす。

「謎解きは……ベッドのあとでよろしいでしょうか?」

Chapter 2

「あ、……だ、だめ!」
「これは驚きました。ベッドでは嫌だと。なるほど…そうですか。このテーブルの上ですぐに……がよろしいのですか? やはりお嬢様も、時として我儘になられるのですね」

「ちが…  あっ、ふぁ、はぁ……」

既に影山の片手は麗子の太ももの上を自由自在に動き回っていた。
ひざの辺りまで行ったかと思うと引き返し、付け根の辺りで、うぶ毛に触れる程度の距離を保ったまま撫でまわす。

「恥ずかしがらなくとも大丈夫です。お嬢様が淫乱だということは気づいておりましたから、 ……最初から」

影山がこの屋敷に来て一週間が経った頃、麗子は、彼氏に振られたはらいせに深酒をしてしまい、寂しさもあって、自ら誘って影山と繋がってしまった。

そのこと自体に後悔があるわけではないが、その日以降、毎日のように影山に抱かれ、その愛撫に全く抵抗できなくなっている自分が、我ながら不思議でならなかった。

そしてまた、このままでは再び官能の渦に巻き込まれてしまうのは確実に思われ、麗子はかろうじて自分を立て直そうとした。

「か、かげやま!」
「なんでしょうか? お嬢様?」
「あ、あなた、こんなことをしていいと」
「こんな……こと?」
「だから、私に対してこんな」
「こんな? もう少し具体的におっしゃって頂かないと、わかりにくいのですが」

そう言いながら、影山の手は太ももの付け根、クロッチ部分へとたどりつき、人差し指はゆっくりと上に向かい始めていた。当然、目標は……

「あっ、イヤッ!」

的確な指の動きが、敏感な突起を下着越しにスッと刺激したため、おとがいをのけぞらせて麗子は声をあげた。

「これも『イヤ』なのですか? ほんとに困ってしまいますね、お嬢様の我儘には」

そう言う間も、焦らすようにクリトリスの周囲をめぐる指。
一方で、セーターとブラ越しにピンポイントでの乳首への刺激が続いている。

もたらされるいくつもの刺激の連続に、椅子から滑り落ちそうになった麗子は思わず影山の腕につかまる。

そのはずみで、影山の手のひらを股間に強く押し当てる結果となり、そして気づく。
今、自らのはざまからヌルリと粘液が滲みだしたのを。

今はまだショーツの内側だけが濡れているのだろうが、外から見てもあからさまな状態になってしまうのは時間の問題だった。

「か、かげやま」

それは彼女にとって恥辱以外の何物でもなかった。
使用人にそんな状態を気づかれたりすることは。

だから、なんとしても……
力をふりしぼり、
股間にある、先ほど意識せずつかんでしまった影山の腕を遠ざけようとした。

しかし、彼女の試みは成功しなかった。いや、逆効果だった…と言えるのかもしれない。

押しやろうとした腕を逆につかまれ、横へと導かれる。
そう、影山はいつの間にか麗子の横に立っていた。
たどりついた先は上質の柔らかい布の手触り。
しかし手のひらの感触はその中に固いものがあるのを伝えてくる。

それは大きく脈打っていた。

「あっ……」
「はい、正解でございます。お嬢様の大好きな……アレでございます」

影山のとどめの言葉と同時に大量に漏れ出した粘液が、ショーツをべっとりと濡らしてしまう。
麗子の手を導いたあと、 再び布越しの愛撫を繰り返していた影山の指が、驚いたように止まる。

「なるほど。そんなに好きなんですか、これが。お嬢様は正直な方ですね、ほんとに」

顔は見ることが出来なくとも、麗子には確信があった。
影山の唇の端がいやらしく2ミリあがっているであろうことを。

「では、参りましょうか?」
「……?」

たゆまない巧妙な刺激の中、既に麗子の意識は半分以上飛びかけていた。

そんな彼女の返事を聞くこともなく影山は、
細くはあるがそれなりにボリュームのあるボディを軽やかに持ち上げ、ベッドルームへと向かう。

Chapter 3

既に、ベッドの中の二人は何も服を着ていない。

あまつさえ、麗子の両膝が軽く立てられ開かれた間には影山が座り込む形となっていて、固く上向きにそりかえったモノの先端が、 はざまをゆっくり上下になぞるように動いていた。

ヌチャという淫靡な音が連続して部屋に響く。
あふれ出す液体は途切れることがなく、影山の欲望の証を覆うコンドームを伝って、その一部は中ほどからベッドへと滴り落ちて、シーツに染みを作り始めていた。

性器同士が触れ合う刺激の強さと、されている行為の恥ずかしさ、さらにそれらを証明するかのような卑猥な音、その間にも唇、髪、耳、首筋、胸、腕、と、届く範囲の全て場所に、ついばむようなキスが落とされ、麗子は既に限界点近くまで押し上げられていた。

自らを律するよりも、全てを解き放って官能の喜びに身を浸したい……
その思いが彼女の心のかなりの部分に広がっていた。

麗子は自らの思いに従うことを決断した。
たとえそれが結果として影山という男に対しての敗北であったとしても、構わない。

さらに彼女は、今、最も欲しいものを男に伝えようとする。
両手で影山の肩をつかみ、目を合わせる。

「なんでしょうか? お嬢様」
「お、お願い」
「はい?」
「…入れて……そんなんじゃなくて……もっと奥に。
 あぁ……ん、もう…もう…あたし…… ダメ! 入れて! はやく!」

恥辱の言葉を口にしたことで、いっそう体の奥底から充足への渇望が湧き起こる。

しかし、一方の影山は先ほどまでの動作をくりかえすのみで、肝心の欲望の塊も、懇願するかのようにひくついたままの入り口には気づかぬように通過するのみ。

背中を波打たせ、首を横に振り「いやいや」を繰り返していた麗子は、ついに両足を影山の尻にあて、両腕を背中に回して、力ずくで引き寄せようとする。

満たされぬ思いは、とっくに彼女の身も心も埋め尽くしていた。

欲望に支配され自我の全てを投げ捨てた女を見て、影山は満足そうにつぶやいた。

「わかりました」

その言葉とともに、動きが止まり、先端はうごめく入り口にあてがわれ、侵入を開始した。

ふさがれた内部をかきわけるように雁首のところまで埋まったところで動きが止まる。
切望していたモノの形を、先端、そしてくびれた部分まで続く曲線の全てを、自らの粘膜を通してあますことなく麗子は感じていた。

さらなる侵入が始まる。
ゆっくりと、麗子の奥を左右に押し広げながら、少しずつ影山のモノが埋没していく。
麗子は、押し込まれていくモノから得られる感触を寸分たりとも逃すまいと、息を止めたままだ。
そう、この快感こそが、待ち焦がれたものなのだから。

ついに麗子の中は影山により埋め尽くされた。
圧倒的なその存在感に、先ほどまでの飢えは嘘のように消え去る。

自分のこの感情の一部でも伝えたいと思いながら、麗子はじっと影山の目を見つめた。

影山は瞬きをすることもなくしばらく麗子を見つめ返したあと、ついばむようなキスを唇に落とし、続けて耳元に顔を寄せる。

「まだ、わたくしは満たされていないのです」

アイコンタクトで麗子の先ほどの思いは届いていた。
そして今度は、私が彼の一番の希望をかなえる番だ。
そう思った麗子は同じように耳元でささやく。

「影山の……好きにして……いいから」
そう言ってから微笑んだ麗子を見て、目の前の男の顔に驚きの感情が加わる。
麗子の中をすきまなく塞いでいたはずの固いものが、グッとこわばりさらに体積を増す。

「では、遠慮なく」

壊れ物でも扱うように、ゆっくりと先端を残すだけの位置まで引き抜かれたかと思うとこんどは、こすれあう互いの皮膚の感触を粘液越しに楽しむかのようにじわじわと押し込まれる。

自らの体内に侵入しているものの形の隅々までわかってしまうことに、 麗子は驚かされた。

そうして幾度か往復が繰り返されたあと、全てが収まった状態のまま、じんわりとゆるい圧力で影山の腰が麗子に押し付けられる。ゆっくりと回転を加えながら。

唇も重ねられ、二人の舌は迷うことなく境界を超えて、互いの口腔をまさぐりあう。

気づけば、一番奥にたどりついた男の先端に、麗子の内部のなにかが触れ始めていた。

麗子にはわかるのだ、なぜか。その感触が。
からみつくように、おもねるように、誘うように、ぐねぐねと、動き回るなにかが。

それは、麗子の意思とは無関係に。

「お嬢さま、お気づきですか?」
「なにが?」
流石に素直に、気づいてる、と答えることはできなかった。

「お嬢様の女としての本能が…私がその……射精するのを待ち焦がれていて、奥にたっぷりと…そのように誘っていて」
「ば、馬鹿言いなさい!」

その途端にぐっと押し込まれ、麗子の反撃の芽はつみとられる。

「とはいえ、結婚もしていない男女が子作りをするのは、個人的にはどうかと思っておりますので、せっかくのお嬢様のご希望ではありますが、今はご容赦を」

影山は必ず最初の段階で避妊具をつける。それはあの晩からずっと。
麗子もその点において安心していたために、こうして幾度となく抱かれているわけだが、自らの本能がこの男の精子を欲しがっている……という影山の指摘に、思わず反論はしたものの、否定しきれない部分があるのには気づいている。

そんな麗子の思考は中断させられる。再び影山の腰が前後に動き始めたからだ。
左右におしわけながら奥まで入り込んだあと、引かれる際には雁首が内壁を刺激しながら後退する。
徐々にそのスピードがあがるにつれ、部屋の中は、粘液の立てる卑猥な音と、麗子の放つ喘ぎ声で満たされていく。

麗子は、突然、快感が増したのに気づく。
当たって……いる。そこ…… いいっ……!

奥の正面ではなくややずれたところに麗子のポイントがあることに、初めて繋がった日、すぐに影山は気づいたようだった。
それ以来、終わり近くには的確にそこを突かれ、麗子は結果として毎回、極限の絶頂を得ていたのだった。

今、麗子は両足を自ら胸元までひきつけ、
影山が自由自在に麗子を攻められるよう、協力していた。考えることもなく。

「そこっ! いいの! すごい! あっ」
間断なく攻められ続けた麗子は、背中を波打たせ、首を激しく左右に振る。
影山が下半身を動かせたまま唇を重ねると、強烈な吸引力で唇を吸い返す。
くぐもった喘ぎ声を漏らしながら、切なそうな表情とともに。

「お嬢様!」
「影山!」
それは終わりへの予感、二人の思いはそれぞれの言葉の中にあふれていた。
 同じ気持ちで。

今までに無い激しい抜き差しが始まり、麗子は極限まで背中をそらし、のど元を突き出す。
強烈な快感に襲われ、今の彼女は呼吸すら出来ない状態となっていた。

ほんの十秒ほど。そして、

「あっ! イクっ!」
「うっ!」

麗子の内部が激しく収縮を開始するのと、その中に埋め込まれた影山の剛直が、激しく精液を噴出し始めるのは同時だった。

射精が終わった後も、麗子の両腕は影山の体を強く抱きしめ、両足は腰の上で交差され、奥に入り込んだものを逃さぬような体勢を維持していた。

ピクッ、ピクッ、と、今もなお、麗子の体は断続的に小さく痙攣をしている。
先ほどまで息を詰めていたために、荒い呼吸を繰り返し、 その乳房は大きく上下を繰り返す。

麗子が落ち着いた状態になってから、影山は体を離す。
その瞬間、「あっ」と思わず麗子は声を出してしまう。
しかし、そのなまめかしい声が、相手の男にどんな感情を呼び起こしているかについては、彼女のあずかり知らぬことではあった。

避妊具の始末を終えた影山は、すぐにベッドに戻ってきて、麗子に口づける。
当然のように冷たい水が唇越しに注ぎ込まれ、ゴクゴクと音を立てて麗子はそれを飲み干す。

そして、用意された腕枕の中、麗子は小さな子猫のように丸まって、影山の胸の中に安住の地を見つける。

そう、いつもと同じように。

epilogue

「……というわけなんですよ。お分かりいただけましたか?」
つかの間のまどろみから目覚めた麗子に、噛んで含めるように影山の謎解きは行われた。

結局、密室トリックはほんとに子供だましのようなものだった。

それ以外の点でも影山の推理には一分の隙もなかった。
実際の事件もほぼその通りに行われたに違いなく、重要参考人として拘留したあと、あとは証拠を集めるだけで十分と思われた。
そう、明日から国立署刑事宝生麗子としての仕事が始まる。

しかし今は……

「あともう少し、このままでもよろしいでしょうか」
彼女の思いを先取りするかのように、目の前の男が控えめな表現で聞いてきた。
麗子は無言のまま影山の胸に顔をうずめ、その体にしがみつくだけでよかった。

そのとき、麗子のスマートフォンのアラームが鳴り出した。

自分を抱きしめ髪を撫でていた影山の腕をどかし、起き上がった麗子はアラームを止めることなく枕元のリモコンを操作し始めた。

「どうなさったのですか?」
「ごめん、こういう場面で非常識だとは思うんだけど、
 この番組だけは見ることにしているの。許して」

その番組、ワールドビジネスネットワークは、経済関連ニュース専門の衛星放送番組だった。
子供の頃から見ていたために、麗子にとってはなんの抵抗もなく、逆に民間のニュース番組などで残虐な事件を報道されたりするほうが嫌いだった。

手持ち無沙汰となった影山はベッドを出てバスルームに向かう。
何も着ずにこちらに背を向けた男の体は惚れ惚れするほど引き締まっていて、麗子はそのギリシャ彫刻にも似た美しさに、瞬時見とれてしまう。

『次に、先週、シカゴセントラル銀行を手中に収めウォール街を驚かせた、あの会社の最新情報です』
ドア越しにシャワーの音がする中、女性キャスターによるニュースが始まっていた。

麗子はその会社の名前に記憶があった。
確かこの3年で6社ほどの買収をしてきた会社だったはず。
CEOは若く、大学在学中にIT業界で巨万の富を得て、そのままビッグマネービジネスへ移り、そこでも成功をおさめている。

年齢は35歳。そして驚くことに日本人だという噂だ。
マスコミに顔写真や詳細な経歴は一切公表されていない上に、
名前すら MR.K と呼ばれるに過ぎず、全てが謎に包まれている。

その会社の広報担当が公式会見をおこなった様子がフィルムに出る。同時通訳だ。

『CEOは1ヶ月前から3ヶ月の休暇を取得中です。これは以前にお知らせしました。今回の記者会見は当社のCEOからビッグニュースが用意されたためのものです。その内容は……休み明けには妻をお見せすることになるでしょう……というものです』

画面が切り替わる。老齢の黒人の顔が写る。どうやらお抱えの運転手のようだ。

『旦那は、昔好きだった女を口説きに行くんだって、えらい張り切ってたよ。んでさ、昨日さ、電話貰って、なんかもう、すごく順調だって。そのコと。旦那があんなはしゃいだ声を出すの、初めて聞いたね。いやいや、秘密じゃないよ。聞かれたらしゃべってもいいって、旦那に言われてるし』

『なんか、とってもロマンチックな長期休暇のようですが、今日はこの件でさらにニュースが入ってきてます』

ちょうどそこにバスタオルを巻きつけた影山が入ってくる。

『3時間前、このMR.Kの写真がトマソンドイター通信により配信されました。さて、世界中が注目するその写真は……60秒後にこのチャンネルでご覧ください」

プチッ。TV画面が消える。
気づけばベッドの隣に立つ影山が、操作の終わったリモコンを枕元に置くところだった。

「なんで消しちゃうの? いいとこだったのに。どんな男か見たいでしょ? あなたも」

そう言いながらリモコンを手探りで探そうとした麗子だったが、
かがみこんだ影山が上掛けをはぐり、その乳首を唇に含んだために、
「あふっ」という吐息とともにその手の動きは、
リモコンを掴んだところで止まってしまう。

間髪をいれず、影山の片方の手はもう一つの乳房に、さらに余った手は太ももの奥へと。

「あ、だめ、もうだめだってば……」
首をのけぞらせ、甘いあえぎ声とともに吐き出される拒絶の言葉には、
どれほどの効果もなかった。
この件に関しては、影山でなくとも答えはひとつだ。
男がやるべきこと……という意味においては。

造作もなく麗子の体をうつ伏せにした影山はその手のリモコンを奪い取りながら、
背中への愛撫を始める。

それを枕元に戻そうとして影山は一瞬ためらった。
思い直したように、そっとスイッチを入れすぐさまミュートボタンを押す。
背中、尻、太ももに愛撫を繰り返しながらも、その目は画面へと向かっていた。

30秒後、再び画面が暗くなった。用の済んだリモコンはヘッドボードの上に置かれる。
絹のようにきめ細かな手触りの麗子の肌を撫でながら、影山は小さく呟いた。

「もうちょっと腕のいいカメラマンを使えばいいのに。
 それもダウンタウンの一番混みいった場所で、絵柄的にもいまいちだし、
 ま、いいか、戻ってから」

「なんか……言った? …あ、うぅ」
再び押し寄せる快感に翻弄されている麗子の耳にも、影山の呟きがかすかに届いたようだった。

「なんにも。お嬢様」
さらに全身への愛撫が続けられるうちに、麗子は質問をしたことすら忘れてしまう。

この時間、この部屋の中で。執事でもなくお嬢様でもなく。
二人は、夜の帳の先まで互いを貪り合おうとする、二匹の獣となっていた………

The End



初出 2011/12/13 - 2011/12/16
[2ch] 謎解きはディナーのあとでエロパロ
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1321530327/34-49