ROMEO AND JULIET  〜ロミオとジュリエット〜

「ベンヴォリオ? ほんとに大丈夫なのか?」
「なにが?」
「だからさ、仮面着けててもさ、結構普通にばれちゃったり」
「んなことないって。ロミオって意外と気が小さいんだな」

ロミオが心配するのもある意味では当たり前だった。
彼の生家モンタギュー家と、キャピュレット家は犬猿の仲。
両者の召使同士で流血事件! なんてのも日常茶飯事で。

近々、キャピュレット卿主催のパーティーが催される予定で、
貴婦人や貴族が大勢招かれるが、モンタギュー家の人間は当然圏外。
そこにモンタギュー家のあととりが仮面をつけて内緒で出席してしまおうと、
そういう無謀な作戦が話し合われていたのだった。

「君の愛しいロザラインに会えるんだぜ?」
「あぁ、それはとても魅力的なんだが」

「あと、ヴェロナの多くの美女にもね。
 もしかしたらロミオの白鳥がカラスに見えちゃったりして?
 いや、そうなってもオレは責任とらないけどね」

「おまえと一緒にするなよ。ぼくはプレイボーイじゃない。
 ……わかった、行くよ。彼女に会いたいし」
「そうこなくちゃね」

そもそも、今回のベンヴォリオの行動には裏があった。
ロザラインのロミオ評が人づてに聞こえていたのがその原因。

「キモイ! だいたい暗いし。
 あたしがロミオの彼女? ありえな〜い。それに(以下略)」

ともかく、他の女性を見せて友人の恋の病を治してやりたい。
そんな思いがベンヴォリオの中にはあったというわけで。

ロミオ・ベンヴォリオ、そしてもう一人の友人マーキューシオ、
三人はパーティー会場に乗り込む。

「おっと〜 イケ面トリオ登場〜
 これじゃ足に豆ができて踊れない人以外の全女性が、
 ひきもきらず押し寄せるのは間違いないな。
 まぁ、わしも若い頃は仮面つけてブイブイ言わせたもんじゃよ」

主催者のキャピュレット卿は陽気に三人を迎え入れた。


そして、

「And Now--- Here Comes the Dancing Time !」


「あ………」
「おーい ロミオ〜〜 どうしたんだ〜〜」
「は?」
「は? じゃねぇよ。は?じゃ」
「いや、あの」
「フロア見つめて凍り付いちゃって……」

ベンヴォリオはロミオの視線をたどる。
その先にいたのは……

「あのコか? お目当ては」
「あ、あぁ」
「超美形だな」
「うん。なんていうか、カラスに混じった雪のように白い鳩?」
「あぁ、んな感じだな。てか、おまえはっきり言いすぎ」

まずいことに、そんなロミオの言葉を聞きつけた男がいた。
誰あろうキャピュレット卿の甥であるティバルト。
なんと声だけでロミオとばれてしまった。

ティバルトの右回し蹴りがロミオの側頭部を狙って放たれる。
ロミオは見切ったように軽やかに左手で受け流す。
天下一舞踏会とH&Hでの歴戦の勇者は(以下ページ数の問題で略)

ティバルトの叔父やキャピュレット卿が事態に気付いて、
二人の間に入り争いを止める。

「やめんか、お客様に迷惑がかかる」

少なくともロミオはここでは紳士的に振舞っていたし、
ヴェロナ中の人間がロミオを好青年として受け入れていたからだ。

「こんど会ったらちゃんと償ってもらうからな」
ティバルトはそう言い残してパーティーから姿を消した。

ダンスタイムが終り、チークタイムを期待したロミオは、
いつまでたっても「メリージェーン」がかからないのに業を煮やし、
つかつかと先ほどの美女のもとへと歩み寄る。

なお、ロミオが、
仮面をつけていたために気が大きくなっていたのは内緒である。

ロミオは彼女の手をとる。
「あぁ、憧れの聖地にやっとたどりつけました。
 もし私の手が触れたためにあなたの手が汚れたなら、
 赤面した巡礼でしかない私は、償いのために口付け致します」

「巡礼の方。あなたのご信心は行儀良く上品に思われます。
 聖者にも手はありますから手が触れたぐらいはなんともないことです。
 でもキスはいけませんわ」

「聖者には唇がないのでしょうか? そして巡礼には?」
「お祈りをしなければいけないのですから、唇はあります」
「なら、私の愛する聖女様。私の祈りを聞き届けてください。
 そうでなければ私は絶望の淵に追いやられてしまいます」

意味不明の会話をエンドレスに交わす二人。
しかし彼女の母親が呼びに来たため、彼女はどこかへ行ってしまった。

「あの人はいったい?」
「あのお嬢様か?
 キャピュレット卿の跡取り娘ジュリエットさ。知らなかったのか?」
「え〜〜〜〜っ!!」

そうと知らずに思いを寄せた相手が敵(かたき)だった……
しかしロミオは愛を捨てることなどできなかった。

一方のジュリエットも彼に一目ぼれしていた。
そして彼の名前がロミオであり、モンタギュー家の一員であることを知った。

真夜中になりパーティーはお開きとなる。
途中まで一緒だった友人からそっと離れ、ロミオはUターンをした。
そしてジュリエットの家の裏手、果樹園の塀をかろやかに飛び越える。
少しでもそばに居たい。それだけが彼の思いだったのだ。

人の気配がした。見上げるとジュリエットが頭上の窓に姿を見せていた。
その美しさはまるで朝日のように輝き、
中空の月は新たに出現した太陽の前で悲しみに沈み青ざめて見えた。

手すりの上に頬杖をつく彼女を見て、
「あぁ、ぼくは手袋になりたい。そうすれば彼女の頬に触れられるのに」
などと、ロミオは怪しい世界に妄想を飛ばしている。

「あぁ」
深いため息をつくジュリエットは、
すぐそばにロミオがいることなど知るわけもなかった。

「おお、ロミオ、ロミオ」
「どうしてあなたはロミオなの?
 私のことが好きなら、あなたのお父様のことは忘れて、
 お名前も名乗らないで下さい。
 それがダメなら私への愛を誓ってください。
 そうすれば私はキャピュレット家の名前を捨てますから」

「すべてを捨てて、私の全てを奪ってくれればいいのに……」

『ロミオという名前がイヤなら、恋人とか好きに呼んでくれれば……』

……この青年はいまいち考える方向がずれているようであった。
そして、ひとりごとのつもりがきっちり大声だったことに気付いてなかった。

ジュリエットは庭からの声に驚いた。でもすぐに愛しい人の声だと気付く。

「危険です、そんな所にいては。
 もしこの家の親戚のものに見つかったら殺されてしまいます!」

「彼らの刀20本よりあなたの瞳のほうが私には恐ろしい。
 もしあなたが優しく見つめてくれるなら、彼らの敵意などどうでもいい。
 あなたの愛もなく命長らえるくらいなら、死んだほうがましです」

「……どうやってここに。誰の案内で?」
「愛に導かれて」

「案内人などいりません。
 たとえあなたが遠くにいても、私はあなたを求めて旅に出、
 かならず見つけ出します。
 それがはるかな海に広がる砂浜だとしても」

ジュリエットの顔は真っ赤だったが、夜の闇の中ロミオには見られずに済んだ。
いないと思って言ったひとりごとを全て聞かれてしまい、
できるなら言葉を呼び戻したいとも思ったが、それは叶わぬこと。

礼儀正しく、そして貞淑な令嬢として、恋人に距離を置きたかった。
簡単に手に入る女だと思われたくなかった。
しかしもう遅い。覚悟を決めたジュリエットはこう告げた。

「さきほど私の申し上げたことは全て本心からのことです」

「うるわしのモンタギューさま。
 私が簡単に心を許したのを見て、軽い女だと思わないでください。
 心の思いをあなたに明かしてしまったのは、そう、夜の偶然のせい」