愛あるレイプ

http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1197985819/

1 :名無しさん@ピンキー:2007/12/18(火) 22:50:19 ID:4PVLo3+U
愛するが故にレイプor強姦or無理やりしてしまうシチュが好きな奴は集え!
二次でもオリジナルでもおk。
襲う側に深い愛情があればおkおk。
相思相愛なら尚更おkおkおk。
逆レイプもおkおkおkおk。

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30 :部室にて 1:2007/12/31(月) 20:02:30 ID:vSohP0nN
愛ある逆レイプっぽいシチュを妄想で書きなぐりました。
SS初めてなので稚拙な部分はご容赦下さい。




「せっかくの春休みなのに呼び出して悪かったな」
「いえ、どうせ暇だからいいんです」
野球部の部室の片付けにマネージャーである私が呼ばれたのだ。
「思い出のある部室だからなー。少し掃除してやらないと」
ずっと憧れていた先輩は今年で卒業だ。
マネージャーになって一生懸命アピールしてきたつもりだけど、告白まではできなかった。
その先輩と今日、二人きりになることができた。
春からは海外へ行ってしまうのでこれを最後にもう会えなくなってしまう…。

「先輩、そろそろ一休みしましょう」
そう言って持ってきたお茶を差し出した。
お茶を受け取った先輩がベンチに座った。
「そうだな、疲れたしちょっと休憩するか」





「ん…。あれ?俺、寝ちゃってた?」
男が体の異変に気が付いた。
平らなベンチを並べた上に寝かされ、タオルによって手足の自由が奪われていた。
「先輩、ごめんなさい」
少女が静かに涙を流している。
「高瀬?!どうしてこんな…」
「先輩ごめんなさい。好きです。好きなんです。ごめんなさい。ごめんなさい…」
男は事態が飲み込めず呆然としている。
少女は泣きながら男に近づいて口付けをする。
最初は遠慮がちに、だが徐々に激しく舌を絡み付けている。
「んっ、ふ、あ」
少女は夢中になって男の口内を貪る。唾液の交じり合う音が響く。
男はいつもの少女からは想像もできない行動に困惑し、されるがままになっている。

31 :部室にて 2:2007/12/31(月) 20:03:35 ID:vSohP0nN
恍惚の表情を浮かべながら、
「先輩、一度でいいんです。先輩を下さい」
そう言って、少女はベンチの側に膝をつき男の服に手をかける。
「ちょ… 待てよ。自分が何をしてるか分かってるのか?」
シャツのボタンを外していく。
「分かってますよ。動かないで下さいね」
Tシャツもハサミで切り開いてしまった。
上半身を裸にし、その鍛えられた胸に頬ずりをしてそっとキスをする。
キスを繰り返し、下腹部へと降りていき、ジーパンのベルトを外す。
チャックを開けてそろそろと腿のあたりまで下ろした。
黒のボクサーパンツの股間はかなり膨らんでいるように見える。
「先輩、どうしたんですか?ここ」
下着の上から、そのふくらみをつ、となぞる。
「う…、硬派を気取ってたって男は男だよ」
「さっきのキスで感じてくれたんですね。嬉しい…」
天使のような穏やかな笑みを浮かべている。
「分かったよ。もう分かったから。高瀬の好きなようにしていいよ」
諦めたように呟いた。
純粋な少女の好奇心だろうから、ある程度自分の体をいじれば開放してくれるはずだ。
少女を傷つけたくない。

パンツを下ろすと男のペニスが勢いよく顔を出した。
「これが先輩の…。大きい…」
息がかかるほど間近で見つめられ、それはさらに反り返った。
少女の小さな舌先が触れ、動き、唇に挟まれる。
手は玉袋をなでられ、ペニスの根元を握られ、表面をゆるゆると擦られる。
「男の人はこうすると気持ちいいんですよね?」
手を動かしながら、はむっと口に咥えられた。
「う、あっ」
どこで覚えた知識なのか純真な少女のものとは思えない攻めに耐えかねて男は声が出た。
男のものは大きく、少女の口に収まりきらず、苦しそうに息をしながら舐め続けている。
「はあっ、ふ、あふっ、んんっ…」
「高瀬、そこまでだ。もうやめてくれ。頼むから」
ずっとこらえてきた男に限界が近づく。
「どうしてですか?こんなに苦しそうなのに」
苦しい。しかしずっと可愛がってきた後輩の口内に射精するのは躊躇われる。
年下に良い様に弄られそのまま出してしまうことも少し自尊心がうずく。

32 :部室にて 3:2007/12/31(月) 20:04:20 ID:vSohP0nN
「分かりました…。私の口じゃ嫌なんですね」
突然、少女が着ていた服を脱ぎ始めた。
あっという間に生まれたままの姿になり男の目の前に立つ。
「ち、違う、そういう意味じゃなくて!」
「先輩の全てが欲しいから、私の事も見て欲しいんです。今だけでいいんです、どうか」
言葉では否定しつつも男は少女の体から目を逸らせない。
元気で優しい性格からは想像も出来ないほど大人っぽい体つきしていた。
ベンチの上に乗って、男の体を跨ぐ。
「ほら、見てください。先輩のを触ってたらこんなになっちゃったんですよ」
自身の手で薄い茂みを掻き分けて秘部をあらわにした。
そこは見ただけでぐっしょりと濡れているのが分かる。
男の股間が熱くなった。

「先輩、いきます」
男が返事をする間も与えず、いきなり少女が腰を落とした。
少女の膣の入り口に男のものがあたり圧迫される。
「ううっ、んっ、えいっ、」
元々、少女にはなんの体験もなく、本やネットで集めた程度の知識しかない。
しきりに腰を動かして挿入を試みるものの、初めての事なのでなかなかうまくできない。
「うー…、なんでぇ…。先輩と一つになりたいのに…」
しばらくぐいぐいと動かしていたが、やがて諦めたように、男の胸にぱふんと倒れこんだ。
泣いているようだった。男は黙って少女を見つめている。
「やっぱり私にはできません…」
ゆっくりと立ち上がり、男の拘束を解き始める。
「先輩ごめんなさい。こんなことして私の事嫌いになりましたよね」
拘束が解けた男は手首を軽くマッサージしてベンチから降りた。
とたんに少女の両手を掴み、後ろに捻り上げた。
「い、たっ!」
そのまま自分の手を拘束していたタオルで縛り上げる。
「せんぱい…?」
少女は怯えた目で男を見上げた。

33 :部室にて 4:2007/12/31(月) 20:07:47 ID:vSohP0nN
「俺がこの2年間どれだけの思いで耐えてきたと思ってる?」
「え?」
「俺は高校では全てを野球に捧げるって決めてたんだよ。女にうつつを抜かす暇はない!」
様子の変わった男に怯え、少女は後ろに下がった。しかし狭い部室ではすぐ壁にぶつかる。
「それなのになんだ?」
肩を押さえ、少女の胸を荒々しく掴みこね始める。
「マネージャーとして入ったときからこの体と、顔と」
男の手が少女の頬をなでる。
「献身的な態度で部員に尽くしてくれたよなあ」
再び胸へと手が伸びる。
「うちの部員なんかみんなお前に骨抜きだったんだぞ。知ってるか?」
少女は声も出ない。
「俺だけは正気を失うまい、惑わされまい、と必死だった。
 それなのにお前ときたらやたらタオルだの、ドリンクだのと俺に構う」
「! 気付いて…」
「当たり前だ」
男の愛撫は続いている。いつの間にか両手で胸の表面をなでられ静かに刺激されている。
体も足も拘束されていないのに一歩も動けない。
「やっと誘惑に打ち勝って卒業。このまま俺が消えれば
 高瀬もどっかで別な男を見つけて幸せな学生生活を送れると思ってたのに」
「そんな!じゃあなんで今日呼び出したんですか?」
「俺だって2年間見てきた子に最後の別れをちゃんと言いたかったんだよ。それなのに」
きゅっ、と男の手が少女の乳首をつまんだ。
「あっ」
「2年耐えたけどもう我慢できない。こうされたかったんだろ?望みどおりにしてやるよ」
強引に唇を奪う。先ほどとは逆に少女の口内が犯される。
そのまま男の手は少女のむき出しの股間に延びる。そこは洪水のように蜜が溢れていた。
「いやらしいな、お前」
少女の一番敏感な突起に触れる。少女自身の蜜を丁寧に塗りつけ擦り始めた。
「ああ…、そ、そこだめぇ!あっ、あふっ、んんっ」
次第に摩擦を早くしていく。

34 :部室にて 5:2007/12/31(月) 20:08:44 ID:vSohP0nN
「やああっ、せんぱいっ、あっ、すきです。せんぱい。だいすきっ」
「うん、俺も」
そう言って、少女が達する直前にくるりと向きを変えて少女の背中を向ける。
ずぶり、と男は後ろから挿入した。
「え?あっ!きゃああ!」
少女の後ろ手のタオルを解くと壁にもたれるように手をついた。
「せんぱ…、動いちゃだめええぇぇ!」
男は少女の胸と首筋をなでながらゆっくりと腰を動かす。
「力抜いて」
少女は体を捻って涙に濡れた顔で男の方を見た。
男は少女に優しくキスをした。
「ごめん」
男は腰を動かすスピードを徐々に早くしていく。
「あっ、あっ、んっ、うあっ」
動きに合わせて少女の口から声が漏れる。
結合部からも、ぐちゅぐちゅといやらしい音が聞こえてくる。
激しく腰を打ちつけながら、同時に男の手が少女のクリトリスを執拗に攻める。
「だめ、せんぱい、ああ、ああんっ!んっーーーー!」
少女の叫びと共に男も果てた。





「気が付いた?」
目の前には先輩の顔があった。
私はベンチに寝かされ毛布をかけられていた。その下は服を着ていない。
「私…」
「うん、もういいから。こっちもごめん」
「先輩」
「ん?」
「私、卒業したら先輩のとこに行きます」
「ん、待ってる」
そういって先輩は私の頭を優しくなでてくれた。



オシマイ


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56 :Before New Beginning-1 ◆GK0/6l5f56 :2008/02/24(日) 01:54:33 ID:sFARbN8d
「サッカーの母国でプレーするんだ」
 綻んだ笑顔で彼は私にそう告げた。

 幼い頃からご近所同士さんで、彼とはよく遊んだ。彼は七つ上の私をいつも「姉ちゃん、
姉ちゃん」と呼んで付き慕ってくれた。小さい頃は病弱で外で遊ぶことを好まなかった
彼もサッカーと出会ってから大きく変わった。天性の才能を開花させ、今や各年代の
ユース代表には欠かせない存在とさえ言われている。そうやって、羽ばたいていく彼の姿を
私はまるで本当の弟であるかのように見守ってきた。
 中学二年の頃から国内外を問わずプロチームのスカウト達が彼のプレーに注目するように
なった。青田買いが当たり前の海外のスカウト達は特に熱心だった。
 輝くような人生を送る彼とは対照的に、私は地元の高校を卒業後、地元の大学に進学し、
教員免許を取ると、出身高校の教師に収まるという至って普通の地味な人生を送ってきた。
 しかし、私が副担任となったクラスで彼と再会することで人生の歯車が少しずつ狂い
始めた。
 小麦色に日焼けし、彼の身体も一回り大きくガッシリとしたものになっていた。伸び盛りの
身長は180センチを優に超え、あどけなかった顔立ちも凛々しく精悍に成長していた。
そんな彼を女生徒が放っておく筈がなく、熱烈なアプローチをかけられているという噂が
絶えたことはなかった。しかし、彼が誰かと付き合っているという話は終ぞ聞かなかった。
 
 彼は、海外行きを私に告げた時に併せて「実は…姉ちゃんのことがズッと昔から好きだった。
お願いだから俺と一緒に英国に来て欲しいんだ」と頬を真っ赤に染めて私への想いを告白した。
 本当は飛び上がるぐらい嬉しかった…だけど、私は教師で彼とは七歳も離れている。
それに彼は若くて魅力があるのだ。私など飽きてすぐに捨てられてしまうのではないか、
それが怖くて断った。しかし、それでも必死で食い下がる彼に、大人の女の余裕を気取って
一度だけ身体を重ねた。

 それが”誤り”だった。

 春休みの閑散とした校内の職員室で、私と彼は向き合っていた。
 後数日で、英国へと旅立つ彼が私に詰め寄る。 
「離しなさい!人を呼ぶわよ!」
 彼は肩をフルフルと震わせて押し黙る。
「…………呼びたければ、呼びなよ!」
 少し大きな掌で肩を掴まれ、私は逃げられなくなる。
 そのまま、スチールデスクの上に押し倒され強引にブラウスの胸元を荒々しく引き千切られる。
はぜたプラスチックのボタンがリノリウムの床に落ち乾いた音を立てながら跳ねる。

57 :Before New Beginning-2 ◆GK0/6l5f56 :2008/02/24(日) 01:55:14 ID:sFARbN8d
「や、やめなさい!やめて!もう、お願いだから!」
 何とか抵抗しようと脚をバタつかせるが、幼い頃とはまるで違う鍛え上げられた体躯の
彼の前には私の抵抗など無意味に等しい。
 彼は乱暴にブラジャーごと肌着をたくし上げると、私の乳房に触れた。
 途端に心臓の鼓動が早鐘を打ち鳴らすように、一気に上がる。
「ダメよ!ダメ!こ、こんなの人に見つかったら、君の将来が…」
「将来なんてどうでも良いんだ!姉ちゃんがいない未来に何の価値があるんだよ!」
 吐き捨てるように言い切ると彼は私の胸のまだ柔らかな蕾に唇を落としました。
「姉ちゃんは誰にも渡さない!……あの時、あの時、俺のこと好きだって言ってくれた
じゃないか」
──気の迷い……ではない。一度だけ身体を許した時、昂ぶった感情の中とは言え、
思わず本音を口走ってしまった。
「違うのよ…お願い、私は教師なのよ!こんなのはいけないのよ…」
 必死で逃れようとするが、圧し掛かる彼を振りほどくことができない。
 やわやわと胸の膨らみを弄る彼の手がもたらす甘い刺激で徐々に身体の力が抜けていく。
ダメだと分かっていても、心のどこかで彼と身体を重ねることにワクワクしている自分がいる、
悦んでいる自分がいる。
 彼は生徒で私は教師、彼はスーパースターの卵で私はただの凡人、彼は年下の幼馴染で
私は年上の大人を気取った弱虫。思考がグルグル渦巻いて、やがて何も考えられなくなる。
 そんな私の意識が醒めたのは、彼の手がタイトスカートの内側に入ってきた時だった。
「そ、そこは!」
 太腿を合わせて堅く脚を閉じたが、彼は意に介することなくスカートの裾を捲り上げ、
股の間に強引に手を差し入れる。
「いやぁ!いや、いや!」
 必死に首を振って、彼に懇願する。
──これを許したら、恐らく私の理性は自分の感情に逆らえなくなる。
 しかし、無慈悲にも私の脚を強引にこじ開けると、彼は肌色のストッキングに手をかけ
一気に引き裂いた。その音が誰もいない部屋中に無情に響く。
 そして、それが引き金になって私は最後の抵抗を試みた。
 激しく身体を捩って、何とか上半身を起こそうとスチールデスクに手をついた瞬間、
机に乗り上げた彼に片膝で鳩尾を宛がわれ、そのまま圧し掛かられると、為す術なく私は
冷たい天板の上に再び抑えつけられてしまう。
「うっ…くぅぅぅ」
「痛いことはしたくない。だから、抵抗……しないでよ」
「やめて、い、嫌がっているんだから…」
 最後の強がりだ。諦めて欲しい、でも、それを期待しない自分もいる。
 ゆっくりと彼が被りを振った。

58 :Before New Beginning-3 ◆GK0/6l5f56 :2008/02/24(日) 01:55:40 ID:sFARbN8d
「……悪い…と思う。でも、誰にも渡したくないんだ」
 強引に手が薄布越しに私の秘所を撫ぜる。
 身体中に電流にも似た刺激が駆け巡り、私は完全に抵抗する力と気力を失う。
 これが本当に何とも思わない人間に強引に犯されているならば、最後の最後まで死力を
尽くして戦う。そんな行為に快楽など覚えるはずもない。
 強引に押さえ込まれながらも私が昂ぶっているという事実、それ自体が私が彼を求めて
いることに他ならない。かき乱されるような思いの中で、私はそっと目を閉じた。これ以上、
彼の顔を見ていると本当に愛していると言ってしまいそうで怖かったのだ。 
「本当にダメなの?」
 暗闇の中で彼の声だけが聞こえる。
 無抵抗な間にショーツは脱がされ、彼の指が直に私の陰部に弄っていた。
 必死に戦慄きそうになる自分を抑え、唇を堅く噛んで、喘ぎを殺している私は震えながら
頷いた。
「…だって、こんなに濡れているじゃないか!?」
──そうよ。だって、君が私を求めているんだもの。濡れない筈がないわ。でも、それを
認めるのは二人のためにならないの。
 淫靡な水音を立てながら、彼は私の泥濘を捏ねくり回す。その度に私は甘く痺れ、愉悦に
溺れていく。

 やがて、彼の熱くそそり立ったものが、肉を掻き分けて私の中に入ってくる。
 嬉しかった。そして、あまりの嬉しさに思わず涙がこぼれていた。
 その涙を彼は指の側面で優しく拭った。
「ゴメン……ゴメン。泣かせるつもりなんて無かったんだ。でも、忘れられない。忘れたくない、
離したくないんだ!」
──何で君が謝るの?悪いのは私。私がつまらない見栄で誘惑して君を苦しめたの。でも、
それでも私を求めて、また私の中に君が帰ってきてくれたことが嬉しい。
 だけど、私は想いを口にできずただ鷹揚と彼の前で首を振るだけだった。
 力なくうな垂れた彼は私の胸に顔埋め、声を押し殺して泣いている。時々、漏れ聞こえる
嗚咽は小さい頃の彼のものと何ら変わりはなかった。
 一しきり泣くと、黙ったまま彼はゆっくりと腰を動かし始めた。
 部屋に響いたのは、二人の重なった部分から起きる結合の音、彼の吐息と私の噛み殺した
喘ぎ。
 突き入れられ、かき回される度に私の理性は引き裂かれ、心と身体が彼を求めていった。
──ダメ、ダメ、違う、違う!こんなの…い……け……な…い…のに………
──違うよ。あなたは”お姉さん”や”教師”である前に、”女”なんだよ。だから、好きな人に
愛されて感じることの何が悪いの?
──だからって、彼は…未来ある若者……な…のよ……
──あなた……いえ、私のこの気持ちはどうなるの?
──それは私の自分勝手な…ただの我侭…よ…

59 :Before New Beginning-4 ◆GK0/6l5f56 :2008/02/24(日) 01:56:14 ID:sFARbN8d
──そうじゃないわ。だって、彼も私を求めているのよ。あなたはそんな彼の気持ちを
どうするの? 
 彼の動きに合わせて沸き起こる快楽の波の中で断続的に続く終わりのない自問自答が
私を苛み続ける。快感に身を任せてしまえることができればどんなに楽なことだろう。
 永遠と思える葛藤と至福の時間に終わりを告げたのは、内側に温かなものを注ぎ
込まれた時だった。

***

 行為の後、力が抜けて呆けた私の周りを彼が忙しなく走り回った。少し湿らせたタオルで
股の間を丁寧に拭い、破れたストッキングを脱がせ、床に落ちていたショーツを穿かせ、
前がだらしなく開いたブラウスの代わりに、彼は自分の予備の洗い立ての白い
ワイシャツを私に羽織らせた。
 心配そうな彼を他所に、私はただ行為の気だるい余韻とどうしようもなく掻き乱された
心の中で自分を見失っていた。結局、彼を先に帰し、私は夜遅くまで職員室の自分の
デスクでボンヤリとしていた。

『ごめん。俺、姉ちゃんを諦めたくなかったんだ』
 次の日、自宅のベッドで目を覚ますと彼からのメールが一通届いていた。
──”なかった”…か。
 過去形になっていた彼の文面に私は落胆している自分がいることに気づいた。
 彼が英国に発ったのはその日の午後だった。
 予定よりも二日早く私にはその旅立ちは知らされていなかった。だから、見送りにも
いけず、さよならも言えず、私の気持ちは打ち明けられないまま、心に深く重いものだけが
残った。
 
 あれからもう一年が過ぎた。私は今、オープンカフェのテラスでカフェオレを飲みなが
らタブロイド版の新聞を読んでいる。燦々と降り注ぐ暖かな陽光を浴びながら、このカフェで
日曜日を過ごすのは私の好きな時間の一つだ。
 スポーツ欄を見ると彼の記事が載っていた。”ライジング・サン”と湛える大見出しが
掲載され、昨晩の1ゴール、2アシストの活躍が大々的に報じられていた。シュートを
放った後の躍動した彼の写真はとても力強く、記事はそのプレーに対する賞賛の嵐で
吹き荒れていた。
 毎年、残留争いに四苦八苦しているクラブがヨーロッパのカップ戦を狙える位置に
つけているのは、彼の活躍があってこそだ。聞くところによると、ビッグクラブからの
オファーもちらほらと彼の代理人のところに来ているらしい。そんな動きを知ってか
知らずか、”クラブの宝”という最大級の賛辞で記事は締めくくられている。
 その新聞を折り畳んで、白磁のカップに口をつけたところで丁度、待ち人がやってきた。
「待った?」
「そうね、三十分ぐらいだけど」
 柔らかそうなリンネルのドレスシャツに、細身のスラックス姿がとてもよく似合っている。
「それは随分待たせたね」
「でも、待つのは嫌いじゃないし、たまには日の光を浴びないと身体に良くないわ。珍しく
春らしい良い天気」
 私が空を見上げると、同じように中天で輝く太陽を仰ぎ見て彼が言った。

「きっと日本も、もう春だろうね」

(了)

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66 :Before New Beginning Side B-1 ◆GK0/6l5f56 :2008/03/04(火) 00:38:49 ID:YTEPeInN
「そう、良かったわね」
 まるで自分のことのように、姉ちゃんは笑ってくれた。
 しかし、俺の心境は複雑だった。
──姉ちゃん、俺、遠い所に行っちゃうんだぜ。

 俺が姉ちゃんと知り合ったのは、まだ幼い頃だ。その頃の俺は病気がちで、ほとんど外へは
遊びに行けず、友達はいないに等しかった。
  唯一、近所に住んでいた姉ちゃんだけが俺の遊び相手だった。あの頃は今思えば相当
気恥ずかしい女の子の遊びをしていたが、それでも姉ちゃんと一緒にいられる時間は俺に
とって至福以外の何物でもなかった。
 病弱な俺を両親は心配して、小学校に上がる同時に地元のサッカークラブへ本人の意志を
無視して入会させた。俺は姉ちゃんと遊べる時間が削られることが嫌だったことと、当時の
ひ弱な自分では到底人並みに運動などできるはずもなく、恥をかくのが目に見えていたから、
サッカークラブに入会することを必死に拒んだ。
──だから、本当だったら、プロサッカー選手などになっていなかったはずだ。
 しかし、小学生の俺がサッカーをすることに喜びを感じたのは、姉ちゃんが練習でも
試合でも必ず見学に来てくれたことだった。両親などより遥かに熱心で、本当の姉かと
しばしば、間違われたほどだ。
 嬉しかった……だから、もっと良い格好をしようと必死に上級生に食らいつき、一所懸命に
練習をした。姉ちゃんと会えない時間は只管、サッカーボールを蹴り、夜遅くまで海外リーグの
ビデオを見て、うまい選手の研究をした。それもこれも男の普遍の真理とでも
言うべき、「好きな女の前では格好良く見せたい」に端を発していた。
 熱心に練習する息子の姿に両親は感涙を流して、「感謝しなさい。お父さんとお母さんが
あそこで入会書を書いたから」といつも言うが、それは大きな勘違いだ。
 俺はただ、姉ちゃんの前で常に格好良くありたい、そう思っていただけだ。はっきり
言ってしまえば、姉ちゃんが見に来てくれるなら、サッカーだろうが、野球だろうが、テニス
だろうが何でも良かったのだ。
 動機は不純だが必死の練習の成果で、俺は地区でも名が知れたプレイヤーになり、
地区選抜、県選抜やトレセンに呼ばれるようになっていった。さすがに県選抜の遠征やトレセン
には姉ちゃんも付いてこなかったが、そのレベルでプレーして初めて俺はサッカーで悔しいと感じ、
もっとサッカーがうまくなりたいと純粋に思った。
 中学はJリーグのユースチームに入った。部活でも良かったが、野球部や陸上部とグランドの
取り合いをしながら練習するよりは、充実した施設の揃ったクラブチームの方が良かった。
 高校二年の時に日本代表ユースでの活躍が評価され、海外のクラブから三つもオファーが
舞い込んだ。
 一つはスペインのビッグクラブ……だが、ここはユース契約だった。トップチームには
現代のサッカー界を代表する面々が揃っており、東洋の若者がチャンスを掴むにはあまりにも
天から下りてきた糸は細すぎた。

67 :Before New Beginning Side B-2 ◆GK0/6l5f56 :2008/03/04(火) 00:39:26 ID:YTEPeInN
 次はイタリアの中堅クラブ……二軍契約を提示されたが、スペインのビッグクラブに
比べればトップチームでプレーするチャンスは多いように思われた。だが、イタリアは
プレスが厳しいことが有名で、特にフォワードに対する削りは半端ではないため、若くて
才能ある選手が怪我に泣くことが多い。
 最後はイングランドの下位クラブ……一応、トップリーグに属していたが毎年降格争い
に終始している、俗に言うエレベータークラブだ。どちらかと言うと若手中心の編成で、
クラブ首脳陣もサッカーの成績よりもクラブの財務状況を熱心に見つめるチームだったが、
ここだけが一軍契約だった。
 俺はイングランド行きを熟考の末、決めた。
 
 そして──高校の教師として再開した──姉ちゃんに真っ先にそのことを告げた。
 衝撃の宣告を聞いても大人の余裕か、姉ちゃんはまるで悲しむ素振りなど見せなかった。
俺の描いていた淡いシナリオの第一ステップは瓦解したものの、それで引き下がる訳には
いかなかった。
「実は…姉ちゃんのことがズッと昔から好きだった。お願いだから俺と一緒に英国に来て
欲しいんだ」
 心臓の音がバクバクと身体の外まで聞こえているのではないかという程に、俺は緊張
しきっていた。
「私は教師、君は生徒。だから、英国行きは応援するけど、そういう関係はダメ」
 耳に掛かった艶やかな黒髪を払いながら、姉ちゃんは落ち着いた口調でさらりと答えた。
──ひどくショックだった。他に好きな人でもいるのだろうか?それとも、俺に男として
の魅力がまったくないのだろうか?
 そこからはよく覚えていない。必死に食い下がる情けない男に、呆れ果てた姉ちゃんが
最後に救いの手を差し伸べてくれた。
「一回だけ。それで忘れなさい」

──それで忘れられるほど、俺の想いは軽くなかった。 
 
 春休みの閑散とした校内の職員室で、俺は姉ちゃんと向き合っていた。
 長くカールした睫毛に縁取られた円らな瞳が、こちらを見つめて不安げに揺れている。
「離しなさい!人を呼ぶわよ!」
 俺は、踵を返そうとした姉ちゃんのほっそりとした右手を握っていた。もう一度、”あの時の
あれ”を確かめたくて。
「…………呼びたければ、呼びなよ!」 
 清潔そうな純白のブラウスに醜い皺が幾重もできるぐらい強く姉ちゃんの肩を掴んでいた。
もう後戻りはできない。
 強引に姉ちゃんの華奢な身体をスチールデスクの上に押し倒す。その瞬間の目を見開いた
姉ちゃんの顔からは、信じていた人間に裏切られる驚愕がありありと伺えた。
 ボタンをいちいち外す余裕もなく、ブラウスの胸元に手を掛け力一杯左右に引き裂いて
しまう。  

68 :Before New Beginning Side B-3 ◆GK0/6l5f56 :2008/03/04(火) 00:39:48 ID:YTEPeInN
「や、やめなさい!やめて!もう、お願いだから!」
 細くしなやかな脚を姉ちゃんはバタつかせて抵抗を試みているが、それは無駄な
足掻きだ。両の手に体重をかけて押さえつけると、気丈な姉ちゃんに怯えが走り、
彼女は抵抗を止めた。
 暗い決意を胸に姉ちゃんの肌着とブラジャーを強引にたくし上げ、初雪のように白く、
きめの細かい肌に覆われた胸の膨らみに触れた。
「ダメよ!ダメ!こ、こんなの人に見つかったら、君の将来が…」 
 必死に姉ちゃんが首を振り、身体を捩り、俺の手を拒絶しようとする。
──将来?サッカー選手としての?そんなものどうだって良いじゃないか!俺は姉ちゃんに
見てもらえるから、そして見て欲しいからサッカーをやっていただけなんだ!!
「将来なんてどうでも良いんだ!姉ちゃんがいない未来に何の価値があるんだよ!」
 口から溢れた言葉は、極度の興奮で想いの丈の半分も言えていない。
 そっと姉ちゃんの桜色の蕾に口付ける。”あの時”のように快感による興奮ではなく、
襲われることへの緊張でそれは固く屹立している。それを舌で転がしながら、姉ちゃんの
首元から薫る微かな香水の匂いが鼻をくすぐる。
 その香りが俺に火をつけた。
「姉ちゃんは誰にも渡さない!……あの時、あの時、俺のこと好きだって言ってくれた 
じゃないか」 
 一気に捲くし立てるように言い放つ。そうでもしないと途中で言葉に詰まってしまい
そうだ。
 ただ、俺の言葉は正しくない。
 ”あの時”姉ちゃんは「俺のことを好き」だとは言っていない。荒い喘ぎの中で「好き」
とだけ呟いたのだ。俺が「好き」なのか、エッチが「好き」なのか、はたまた、
ただのうわ言だったのか──それは姉ちゃんにしか分からない。そして、それを俺は
確かめたかった。確かめたくて出発の二日前に学校を訪れ、姉ちゃんに迫ったのだ。
「違うのよ…お願い、私は教師なのよ!こんなのはいけないのよ…」 
──ちがう?チガウ?違う?
 つまり、「あなたを好きと言ったのではない」と彼女は言っていた。
 絶望とやり切れない想いの責め苦に耐え切れず擦り切れた理性は、狂気にも似た荒ぶる
本能にその座を追い落とされる。
 柔肌を揉みしだく指先に力を込めたためか、一瞬、姉ちゃんの身体がビクリと震え、許しを
乞う視線でこちらを伺っている。
──見て欲しくなどなかった。きっと、俺は浅ましい顔で姉ちゃんの身体を貪っているのだ。
 わざと視線を落とし、タイトスカートの中に空いた手を滑り込ませる。
「そ、そこは!」 
 姉ちゃんの柔らかな太腿がギュッと閉じ、秘奥に閂をかける。だが、既に暴徒と化した
俺の前で形だけの抵抗など無いにも等しかった。スカートを捲り上げ、指先から白い太腿を
割るように圧し進め、股の間のストッキングを指先で摘み上げ、乱暴に引き千切る。
「いやぁ!いや、いや!」 

69 :Before New Beginning Side B-4 ◆GK0/6l5f56 :2008/03/04(火) 00:41:00 ID:YTEPeInN
 今までになく激しく身体を揺すって姉ちゃんは、俺から逃げようとする。
──それはそうだ、ここが開いてしまえば、後は獣と化した俺に犯されるだけなのだから。
 だが、逃がしてあげられる程、俺の傷ついた心は慈悲深くない。もう一人の”俺”が
俺に囁くのだ。
──傷つけられた分、傷をつけろ!精神を!肉体を!愛しいものに痕(しるし)を付けろ!
彼女が自分もののであると悟るまで激しく貪れ!
 乱暴に机の上に乗り上がると、右膝を彼女の形の良い乳房の下にある窪みを押し付けた。
ここを抑えられると、人間は身動きがとれなくなる──俗に言う水月だ。
「うっ…くぅぅぅ」 
「痛いことはしたくない。だから、抵抗……しないでよ」 
──本気だ。できれば、姉ちゃんにも一緒に悦んで欲しい。姉ちゃんを悦ばすことが
できれば、どれほどこの心の痛みも晴れるだろうか。
「やめて、い、嫌がっているんだから…」 
 口を真一文字に結んで、姉ちゃんは苦しげに首を振った。
 酷いことをしている…その背徳感と嗜虐感に理性が飲み込まれていく。だが、最後の
最後に理性が力を振り絞って、俺が一番伝えたかったことを口走らせてくれた。
「……悪い…と思う。でも、誰にも渡したくないんだ」 
 一瞬、姉ちゃんの顔に、負の感情以外の何かが浮かんだ……気がした。でもそれは微細
過ぎて俺には読み取れない。
「本当にダメなの?」 
 姉ちゃんの僅かな動揺に縋りつく。
──希望とは麻薬だ。縋りつきたくなる。だが、大抵の希望はただの甘い幻想で、それは
重い副作用をもたらすだけなのだ。
 普段は慈愛に満ちた瞳が恐怖に見開かれ、彼女は首をフルフルと振って、ハッキリと
拒絶を示す。
 もう一人の自分が嘲笑い、俺を罵る。
──分かり切ったことじゃないか?何故そんなことを確認する?
 もう後は、欲望の奔流に全てを委ね、ただの一匹の獣になり下がった。
 抵抗が無駄だと知った姉ちゃんからショーツを剥ぎ取り、指先を桜色の秘所に走らせると、
思ってもみない音が立った。
 クチュリ……水音だ。誰もいない教室に淫靡な音が微かに響く。問わずにはいられなか
った。
「…だって、こんなに濡れているじゃないか!?」 
 長い睫を折り重ねるように瞳を閉じ、唇を噛み締めた姉ちゃんは貝になってしまった。

 どれだけ、陰唇を擦り、陰核を弄り、膣を捏ね繰り回しても微かに口の端から洩れる苦
悶の呻きだけだった。
──彼女は完全に……本当に……俺を拒んでいるのだ。
 笑い出さずにはいられない絶望感と大事なものを汚している背徳感に溺れることは容易
かった。

70 :Before New Beginning Side B-6 ◆GK0/6l5f56 :2008/03/04(火) 00:41:54 ID:YTEPeInN
 発つ前に一通だけ、姉ちゃん宛にメールを送った。
『ごめん。俺、姉ちゃんを諦めたくなかったんだ』
 情けないほどに言い訳がましい文面だったが、送らずにはいられなかった。俺は
姉ちゃんの身体ではなく、彼女の心が欲しかったのだ……そのことだけは知っておいて
欲しかった。
 
***

 イングランドに来てから、六ヶ月。
 俺のサッカー人生は順風満帆とは行かなかった。
 チームのフォワードに怪我人が続出し出番を確保したまでは良かったが、パフォーマンスは
低調で、公式戦六試合に出場して僅かに一得点。点取り屋として期待されているだけに
何ともお粗末な成績だった。最近ではサポーターから”東洋から来たお荷物”とまで揶揄
される始末だ。
 クラブが支給してくれた一戸建ての一階にあるベッドの上で、天井の染みを眺めながら
ボンヤリと時間を過ごす。ベッドの横にはチームドクターが貸してくれた木製の松葉杖が
立て掛けてある。
 昨日の試合、俺はペナルティーエリアの手前でゴールを背にボールを受け、反転して
切り込もうとした矢先、背後からの強烈なタックルで身体ごと宙に舞い上がり背中から
ピッチに叩きつけられた。一瞬、呼吸が止まる感触は何ど同じ目に遭っても慣れることはない。
 全治一週間……それがドクターの診断だった。幸い、怪我は浅いが昨日の今日では足首が
ラグビーボールのように腫れ上がり、出歩くことはできない。
「っ……何やっているんだろう、俺」
 異国の地で頼りになるのは、自分の力だけだというのに、まったく結果を出せない俺は
焦りに駆られはじめていた。今では日本にいた頃に容易くできていたことですら、間々ならない
ぐらいにまで不調のどん底に陥っていた。
──日本に帰ろうかな。
 思わずそう思ってしまう程、弱気な自分を力なく笑うしかなかった。
 その時、ドアをノックする音がガランとした部屋に響く。
「お客様ですよ」
 クラブが手配してくれている働き者のお手伝いさんの声だ。お手伝いさんと言っても、
もう六十を超えたお婆さんだから、まるで俺のことを孫のように扱う。
「客?」
「ええ、お名前は聞き取れませんでしたが、ジャパニーズと仰っていますよ」
 お手伝いさんは耳が遠い。大抵の用事は二度、しかも大きな声で言わないと分かって
くれない。
──日本人?アポなしの取材か?

71 :Before New Beginning Side B-7 ◆GK0/6l5f56 :2008/03/04(火) 00:51:04 ID:YTEPeInN
 日本での実績の薄い俺に専属で記者を貼り付ける新聞社や雑誌社はない。イングランド
に来た当初は取材の依頼が時々舞い込んでいたが、どれもこれも記事になることは
なかった。きっと、俺が活躍すればそれは紙面を飾っていたはずだ。結果が全て、それは
どこでも同じことだ。
 そして、俺はいつしか、アポなしでも取材を受ける選手と見なされていた。取材して
もらえるだけ有難いと思え、というヤツだ。
 しかし、久々に日本語を話せるのは掛け値なしに嬉しかった。最後に日本人と話した
のはもう二ヶ月も前だ。慣れない英語に四苦八苦しながら、コミュニケーションを取るのも
面白いが、やはり思うがまま日本語で喋れるというのは格別だ。
「今行きますから」
 俺はベッドの横の松葉杖に目をやったが、屋内であれば無しでも大丈夫だろう。軽く髪に
手櫛を入れ、シャツの襟元を正し、安物のジーパンにベルトを通して、人前に出ても
恥ずかしくない格好に整える。
 足首を気遣いながら慎重に一階に下り、玄関に向かうと、帽子を目深く被った上に
小ぶりなサングラスで目元を隠し、小さなショルダーバッグを担いだスラリとした細身の若い
女性が立っていた。
──女性の記者?珍しい。
「取材ですか?本当はクラブに話を通してもらわないと……」
 俺が頭を掻きながらわざと困った口調で喋り出すと、彼女はそっとサングラスを外し、
帽子を取って、長い黒髪をうねらせた。

「……来ちゃった」
 
「…えっ……!?」
「君が教えてくれないから、小母さんに聞いたのよ、ここの住所。」
「…な…何で!?」
 彼女は少し拗ねたように口元を”へ”の字に曲げる。
「迷惑……だった?」
 俺は慌てて首を振り、目頭が熱くなるのを必死に堪える。
「何か、もっとイギリスって霧のイメージがあったけど、晴れてばかりでつまらないわ」

──二度と会えない、だけど忘れることなどできない、それでいて求める想いは強くなる
一方だった人が今、目の前に以前と変わらず柔和な微笑みを浮かべて立っている。
「……ね、姉ちゃん!」
 飛びつこうと踏み出した瞬間、足首から激しい痛みが走り、俺はその場に崩れ落ちる。
「ぐっ!」
「だ、大丈夫?」
 慌てて駆け寄ってきた姉ちゃんの繊手が俺の頬を優しく撫ぜる。
「昨日の怪我?」
「み、見てたんだ!?」
「うん。スタンドから観戦してた。日本に居た時も、ペイパーヴューに入って君の試合は
全部見たわ。ビデオだって残してるのよ」

72 :Before New Beginning Side B-8 ◆GK0/6l5f56 :2008/03/04(火) 00:51:32 ID:YTEPeInN
──や、やっぱりこれは夢じゃないのか?こんなのって……嘘に決まっている………
けど、嘘でも夢でも何でもいいから続いて欲しい。
「な、何で?だ、だって、俺……その、姉ちゃんに酷いことしたから……嫌われたと…
二度と会えないと…」
 情けないが言葉に詰まる。
 姉ちゃんの円らな瞳には、責める気配も、咎める気配も、苛む気配もなかった。ただ、
優しげにこちらを見つめているだけだった。
「酷いこと?……そうね……でも、本当に酷いことをしたのは私なのよ」
 怪訝な表情を浮かべ、俺は姉ちゃんの端正な顔を見つめる。
「だって、君が勇気を振り絞って私を求めてくれたのに………私はただ…何だかんだ理由
を付けて、あなたの気持ちと………何より自分の気持ちから逃げ回っていたんだから」
──分からない、姉ちゃんが何を言っているか、分からなかった。だって、俺は彼女を強
引に犯して日本を逃げ出したのだ……一発殴られてそのまま警察に突き出されてもおかし
くないはずだ。それなのに……
 姉ちゃんが口元を綻ばせながら、そっと頬を撫でながら茫然自失の俺にも分かるように
一言こと一言はっきりと告げた。

「…好き。君のことが好き。だから…君の側に居させて」

***

「ねぇ、サインしてよ!サイン!」
 路地裏から飛び出してきたクセ毛の少年にサインをせがまれる。
 彼女との待ち合わせには、もう随分と遅れている。今更、もう少し遅れたところで
どうにかなるものでもないだろう。
 必死に書くものを探す少年の愛らしい姿を見つめながら、ポケットからサイン用の
マーカーを取り出す。彼が自分の着ている白いシャツの裾を持って、グイと突き出すので
そこにサラサラとサインを走り書いた。
 こっちに来た当初は、サインを求められることは無いに等しかった。それが今やどこへ
行くにもマーカーを持っていないと困るぐらいのサイン攻めに遭っている。
「昨日は凄かったね」
 昨晩の試合のことだ。俺は前半の2アシストと同点のまま迎えた試合終了間際のロス
タイムに決勝ゴールを上げ、サポーター達に歓喜と美味しいビールをプレゼントした。
「今度はもっと、凄いのを見せるよ」
 おしゃべりしながらもサインを書き上げ、ペンにキャップを嵌めると、少年が嬉しそうに
サインを確かめた後、満面の笑みでこちらを見上げる。
「ありがとう!一生の宝にするよ!」
「どういたしまして」
 俺が答えるや否や少年は「ヤッター、ヤッター」と叫びながら路地裏へと狂喜しながら
駆けていった。その背中を見送って、俺は約束のカフェへ歩き出した。

73 :Before New Beginning Side B-9 ◆GK0/6l5f56 :2008/03/04(火) 00:54:15 ID:YTEPeInN
 日本を発ってから、もう一年。
 最初の六ヶ月……それは地獄のような時間だった。
 フォワード陣に故障が続発し出場のチャンスにありついたまでは良かったが、精彩を
欠いたプレーを連発し、ついには解雇の噂が飛び交うほどに俺の状態は最悪だった。
 そして、イングランドに来て、初めての怪我。全治一週間とは言え、怪我で出遅れていた
他のフォワードの選手達が復帰するのではないかと、実しやかに囁かれていたから気が
気でなかった。
 そして、それからの六ヶ月……それは奇跡のような時間だった。
 怪我が癒えた俺はゴールを量産し、安定したプレーでチームメイト、監督、サポーター、
みんなの心を掴んだ。パスを受けるとディフェンダーを最小限の動きでかわし、小さな
モーションから強烈なシュートを放ち得点を重ねる俺に、サポーター達は敬意を込めて
”ライジング・サン”という渾名をプレゼントしてくれた。
 チームは俺の活躍とともに、定位置の残留争いから一気にジャンプアップし、ヨーロッパの
カップ戦を狙える好位置に付けている。おかげでクラブ首脳もサポーターも狂乱のバカ騒ぎだ。
そして、俺の周りにはまだ数は少ないが専属の日本人記者たちがチラホラと現れ始めた。
 
 最初の六ヶ月と次の六ヶ月──俺が何か変わった訳ではない。
 最初の六ヶ月は俺一人、次の六ヶ月は一人の女性が俺の側に居てくれただけだ。
 そして、それが全てだ。

 カフェに入り、待っているはずのその彼女を探すとオープンテラスのいつもの席で
タブロイド版を読み終わって畳んでいるところだった。少し狭い店内に置かれた年代物の椅子
の間をすり抜け、オープンテラスに出ると彼女が柔らかな笑みで俺を迎えてくれた。
「待った?」 
「そうね、三十分ぐらいだけど」 
 薄手の桜色のガウンに白いワンピース、膝丈のホットパンツを穿いた彼女は普段と
一風違うが、それもまた素敵だ。
「それは随分待たせたね」 
 途中でサインをしていた時間を差し引いたとしても、二十分以上の遅刻だ。
「でも、待つのは嫌いじゃないし、たまには日の光を浴びないと身体に良くないわ。珍しく
春らしい良い天気」
 彼女が眩しそうにテラスの上に輝く太陽を見上げる。彼女が見ているものと同じものが
見たくて俺も空を見上げる。
「きっと日本も、もう春だろうね」 
 俺の言葉に同意するように幸運の女神は微笑みながら頷いた。
 
 その女神をもう二度と放してしまうことのないよう、俺はポケットに指輪の入った小箱
を忍ばせている。

(了)

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118 :Somethin' Special-1 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/03(木) 01:36:28 ID:LiOn7M1W
「なあ、カケル」
 ダイニングテーブルに向き合って座っているヒカルが普段の柔和な表情を珍しく引き
締めている。滅多に見ない二歳年上の兄の真剣な姿にカケルも居住まいを正す。
 彼は紅茶を一口含んだ後、弟のカケルに問い掛ける。
「……お前、操(みさお)のことどう思っている?」
 操は兄弟の隣に住む幼馴染の女の子で、年はカケルと同い年で今年高校一年生だ。幼い
頃からヒカルとカケルの兄弟とともに遊びまわっていたせいか性格は男勝りだったが、
誰にでも優しく平等に接し、明るい笑顔の似合う愛らしい容姿から男女問わず人気があった。
「……どうって?…何が?」

「お前にはハッキリ言っておく、俺は操のことが好きだ」

 いたって真面目な顔で言い放った兄をカケルはまじまじと見つめる。
 同じ両親から生まれてきたとは思えないほどに端正な顔立ちのヒカルは、時々アルバイトで
雑誌のモデルをしていたりもする。成績もカケルなど遠く及ばないほどに優秀で学年
十位内は高校入学以来譲ったことがない。おまけにスポーツをやらせれば何であれ人並み
以上にこなし、加えて人望も厚いとくればこれで女の子にモテないはずがなかった。
 事実、ヒカルの携帯には山のように女性からの着信があったし、毎日三通以上は
ラブレターを持ち帰ってきた。そんな兄だが、特定の女の子と付き合っているという話を未だ
かつて聞いたことがなかった。不思議だとカケルは事あるごとに思っていたが、その疑問が
今氷解した。

──ヒカル兄(にぃ)は、操のことを……狙っていたのか……

「……それで?」
 カケルは極力、平静を装って素っ気なく問い返す。
「いや。それだけだ」
「操は知っているのかよ、ヒカル兄の気持ちをさ」
 静かにヒカルが首を振る。
「まだ伝えてない。でも、近いうちには言うさ」
「そう。うまくいくと良いね」
 そう言って笑えた自分にカケルは少し戸惑いつつも、唇を噛んで溢れ出ようとする言葉を
押し留め席を立つ。

──俺も……好き…なんだよな、操のこと。

 ◆ ◇ ◆

 それが一週間前のこと。

 それからカケルはヒカルと顔を合わすたびに何となく気まずい。

119 :Somethin' Special-2 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/03(木) 01:37:44 ID:LiOn7M1W
 ヒカルの告白を聞いても自分の本当の気持ちを、結局隠したままにしていることが
カケルの心をずっと苛んでいた。と言って、ヒカルに自分の操への想いを正直に話した
としてもどうにかなるものでもない。仮にヒカルと操を取り合ったとしても、勝負の行く末は
初めから明らかだ。
 それでもヒカルの顔を見ると、もう操に告白したのだろうか、操はどう応えたのだろうか、
とそればかりが気になって心が千切れそうなぐらいに痛んだ。
 全てが決まってしまえばシコリは残らない、と彼は思っていた。そうなれば全てを整理して
諦めがつく、とそう思っていた。しかし、それでもそれを望まない自分がいることにカケルは
戸惑っていた。

 ヒカルが「今日はバンドの練習で帰らない」と告げて家を出て行ったのが三時間前、
それからカケルは部屋でゆったりくつろいでいた。読んでいた本をページを開いたまま伏せて
階下に降りコーヒーを淹れる。今日はヒカルだけでなく両親も祖父母の家に所用で泊り
込んでおり、自宅にいるのはカケル一人だけだ。
──楽で良い。一人ってさ。
 偶然巡ってきた気儘な時間をエンジョイしている十七歳はマグカップに注いだコーヒーを
持って部屋に戻り、机の上に置いた読みかけの本を開く。
 隣に住む幼馴染に借りたその本の表紙には「Before New Beginning」とある。
 物語は歳の離れた幼馴染の男女が高校の生徒と教師として再会することから始まる。
男子生徒は将来有望なサッカー選手であり既に海外行きが決まっており、日本を発つ前日に
想いを寄せていた女教師を襲ってしまうが互いの想いはスレ違い、後味の悪い別れとなる。
海外に渡った男は不調のどん底に喘いだあげくに試合中に怪我をしてしまう。自暴自棄に
なりかけた時に女が現れ、男は彼女の本心を聞くという展開だ。
 ページを捲ると丁度、男が女を押し倒すシーンのラストだった。

 ◆ ◇ ◆

 彼女の中に強引にペニスを割り入れると、姉ちゃんの顔に苦悶の表情と苦しげな呻き声が
毀れた。
 濡れている…とは思う。しかし、身体が濡れるのと心が求めるのは別だ、と何かで読んだ
記憶がある。姉ちゃんの心はきっと俺なんかを求めてはいないはず。
 初めのうちは馴染むのを待っていたが、彼女の中に自分が収まっていると考えただけで、
俺は極度の興奮に陥った。例え拒絶されていても、この世界でもっとも愛しい人と
重なっているのだ。昂ぶらないはずがなかった。
──待ってなどいられない!
 ふと視線を落とすと姉ちゃんの目尻から、透明な液体が一筋零れ落ちた。それを指の
側面で掬う。

 姉ちゃんは泣いていた。

 その涙が狂気の淵から、俺を一瞬だけ連れ戻した。

120 :Somethin' Special-3 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/03(木) 01:38:29 ID:LiOn7M1W
「ゴメン……ゴメン。泣かせるつもりなんて無かったんだ。でも、忘れられない。忘れた
くない、 離したくないんだ!」 
 何を考えているのか読み取れない不思議な色の双眸で俺を見つめながら、彼女は鷹揚に
首を振った。
 溜め込んでいた感情を吐露すると、喉元から嗚咽が毀れ出るのを止められなかった。
繋がったまま倒れこむようにして、姉ちゃんの柔らかな胸に顔を埋め声を押し殺して泣く。
 どれだけの時間、姉ちゃんの胸の中で泣いただろう。その間、彼女は身動ぎもせず、
静かに俺を待っていた。きっと、暴れれば簡単に振りほどけたであろうに逃げようとは
しなかった。それどころか、少し困った、それでいて優しげな表情で姉ちゃんは俺を見つめ
ていた。
 ゆっくりと指先で目を二、三度擦ると俺は意を決した。
──もう一度だけ……それで…もう二度と会えないのだから…
 上半身を起こすと、ゆっくりと姉ちゃんの括れた腰を掴み、自分を彼女の中に打ち付けた。

 結局、姉ちゃんは唇を噛み締めたまま、呻くような喘ぎしか漏らさなかった。
 「好き」…その一言はやはり、最後まで聞けなかった。
 それで全てに諦めがついた。結局、あれは間違い──いや、俺の空耳だったのだ。
──姉ちゃんが、そんなことを言うはずなど…………なかった。
 もう姉ちゃんに顔を合わせることはできない。後は、罰を待ち罪を償うことを待つだけ
の身になった。とは言うものの、俺は次の日クラブからの急なスケジュール変更により、
チーム合流日を早められてしまい逃げるように日本を発つことになってしまった。
 
 ◆ ◇ ◆

 普段は滅多に活字を読まないカケルも恋愛もののクセにやけにサッカーシーンの描写が
細かい点と、女教師が襲われるシーンと互いの愛を知った二人の絡みというエッチな
シーンが含まれている点に引き込まれた。
──普通にエロいな、これ…。
 こんな小説を操も読むんだ、と思うと一瞬カケルは胸がザワつくのを覚えた。
 気持ちを落ち着かせようとマグカップに注いだコーヒーを口に含み、本から一端顔を
上げて時計を見る。既に針は十一時を回っている。
──そろそろ風呂でも入るか。
 背もたれにもたれ掛かって伸びをした瞬間、彼の部屋のドアが勢いよく開けられる。
 自分以外誰もいない筈の家で自室のドアが開く──驚いた彼は後方に倒れこみそうに
なった。もし、開いたドアの向こうに立っていた人物が彼女でなかったら頭を強かに
フローリングの床に打ちつけていただろう。
「み、操!」
「…こんばんは、カケル。お邪魔するね」 
 頬を赤らめた操が部屋に覚束ない足取りで入ってきて、カケルに歩み寄ってくる。

121 :Somethin' Special-4 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/03(木) 01:39:46 ID:LiOn7M1W
 昔からの付き合いでカケルの両親から娘にも似た扱いを受けている操は、カケル宅に
出入り自由──つまり、合鍵を渡されている。
──ったく、驚かすなよ。んっ……?
「……なあ、操。お前、何だか臭くないか?」
「何よ、レディに向かって臭いって失礼よ!」
 カケルは千鳥足で近づいてくる操に顔を近づけてクンクンと鼻を鳴らす。
「うっ…さ、酒か!?どこで酒なんて飲んだだよ、操?」
「細かいことを気にしない!モテないぞ!」
 操とは昔から歯に衣着せぬ仲だ。普段は自己主張など滅多にせず周囲に流されるままの
カケルも幼馴染の操には言いたいことが遠慮なく言えた。だから、口喧嘩は絶えたことは
無いものの、二人とも互いのことをよく理解していたから、好き放題言い合っても最後は
いつも仲直りできる。
──友情……俺と操の仲はそう呼んでもいいのかもしれない。
 自分と操が男女の仲を超えた関係ならば、兄のヒカルは慎ましく今の今まで一線を守り
男女の仲に踏みとどまろうとしている。それがカケルには羨ましかった。
──こんなことなら、俺ももうちょっと操を女の子として扱ってあげるべきだったな。
 後悔を噛み締めながら、カケルは幼馴染の少女を見つめた。
 顔を赤らめ上機嫌な操が黒髪を軽やかに揺らしながら、フラフラと部屋の中を歩き回る姿は
今にも何かにぶつかりそうで、カケルは気が気でない。
「あ、危ない!」
「大丈夫だって。心配性だな、カケルは」
 どれだけ飲んだのかは分からないが操の目は蕩け、やけにテンションが高い。
 レイヤーの入ったショートカットの髪をかき上げて操はベッドに腰掛ける。仕方なく、カケルは
デスクチェアから立ち上がって彼女の目の前に立って話し相手になってやる。
「こっちに来れば」
 操のほっそりとした指がカケルの手首に絡み、一瞬ドキリとさせられる。そして、華奢な
身体のどこにそんな力があるのかと思うほど強く引っ張られ、カケルはベッドへ引き摺り
倒される。
「アハハ。カケルこそ酔っ払っているみたいにヘナヘナだよ」
 何が可笑しいのか腹を抱えて、操は止め処なくケラケラと声を上げて笑っている。
「笑うな!この酔っ払い!!」
 不貞腐れ顔でカケルは言い放つ。かなりアルコールが回っているのかタチが悪そうだ。
「ああ、可笑しい……で、どうしてあんた一人な訳?ヒカル兄や、おじさんや、おばさんは?」
「みんな、用事で今日は帰ってこない」
「ふぅん」
 操がトロンとした焦点の定まらない目つきで、ベッドに寝転がるカケルを見つめる。
「だから、飲み物も食い物も何にも出てこなし面白いこともないから、さっさと自分の家に
帰れ、酔っ払い」
 手で虫を追い払うような仕草をして見せる。

122 :Somethin' Special-5 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/03(木) 01:40:33 ID:LiOn7M1W
 だが、操を邪魔者扱いする態度とは裏腹にカケルの心臓は早鐘を打ち鳴らしたみたいに、
無茶苦茶なビートを刻んでいた。それはそうだ、自分が昔から恋焦がれてきた女の子と
家人のいない自宅のベッドの上で二人っきりなのだ。これでドキドキしなければ男ではない。
勿論、幼い頃はこんなことぐ
らい日常茶飯事だったが、さすがにこの歳でこのシチュエーションである。
 平静を装うのに必死だったことと、一週間前に聞いたヒカルのあの言葉が脳裏を何度も
過ぎりカケルの心は収拾がつかないぐらいに波立っていた。
「冷たいねぇ……こんなに可愛い女の子がいるのに」
「どこがだよ?」
 寝転がったカケルが目を閉じて気持ちを落ち着かせようとした瞬間、操がカケルの腹の
上に突如、馬乗りに跨ってくる。
「な、何すんだよ!」
 慌てて半身を起こそうとすると、無言のまま操が両手で胸の辺りを押さえつけたため、
カケルの試みは失敗に終わる。
「……操!?」
 慌てたカケルに操の少し火照った顔が近づいてくる。
 夜の猫のような真ん丸い操の瞳が放つ熱を帯びた視線にカケルの心臓は鷲掴みされる。
半開きになった桜色の唇からはアルコール混じりの呼気が微かに漏れていた。互いの鼻先が
今にも当たりそうな近さに、どうしていいものやらカケルは視線が定まらず目のやり場
に困る。
 寝転がったカケルに操の身体が覆いかぶさる格好になったせいで、彼女の胸の膨らみの
柔らかな感触が嫌と言うほど伝わり、思わず目を背けたくなる。
──近い、近すぎる。
 幼い頃はプロレスごっこでよくじゃれ合っていたが、小学校四年生頃になると男女で
あることを意識し始め、どちらともなく肉体的なふれ合いは避けるようになった。だから、
こんなにも密着した状態にカケルは興奮よりも困惑を先に覚えた。
「よ、酔っ払いはさっさと家に帰って寝ろって!」
 緊張でカラカラに乾いた喉の奥から、何とか声を搾り出す。
 だが、そんな声を余所に操は一段と深くカケルの瞳を覗き込む。
「……あのね、カケル!あんたに訊きたいんだけど」
「な、何だよ!?」
「C組の留美ちゃんに告白されたでしょ?」
──ど、どうしてお前がそれを知っているんだ。
 確かに三日前、カケルは同じ学年の留美という女の子から告白された。校舎裏に
呼び出された時は、いつもの如くヒカル宛のラブレターを託されるものだと彼は思っていた。
今までの人生経験上、ウンザリするほど兄への恋文運送人に指名されてきた経験を持つ
カケルにとって女の子からの校舎裏への呼び出しなど日常茶飯事。昔はあらぬ期待をもって
出かけたものだが、異口同音に唱えられる「お兄さんにこれ、渡してください」という言葉が、
次第にカケルから期待と緊張感を奪っていき、終いには何の感慨も起きなくなってしまった。
 だから、留美という女の子から告白された時、カケルはこれが何かのドッキリか、それとも
目の前の小柄な女の子に課せられた罰ゲームなのか、はたまた新手のヒカルへ近づく
戦術なのかと勘ぐり、答えを保留していた。

123 :Somethin' Special-6 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/03(木) 01:41:20 ID:LiOn7M1W
「……ああ。されたよ」
「で、どうする気?」
──どうするって?……俺は本当はお前が好き………
「だけど、ライバルがヒカル兄じゃな」
 ボソリと小声ながら、想いが口に出てしまった。
「えっ?聞こえないよ、カケル」
──ああ、聞こえなくていいの。
 僅かな時間、目を伏せ考えを巡らせるカケル。
「……からかわれているのでなければ、あんな可愛い女の子だったら願ったり適ったり
だけど」
 確かにカケルの目から見ても留美は可愛い女の子だ。評判を聞いても少し内気な性格を
別にすれば、問題のなさそうな良い娘だった。別に付き合ってみても悪くない、自分にも
やっと春が巡ってきたか、と思うとカケルは純粋に嬉しかった。
 何より本気で誰かと男女の仲になれば自分の内側で燻る操への想いも断ち切れるのでは
ないか、と彼は考えていた。
「…………付き合うんだ?」
「悪いかよ?」
 相変わらず、操の顔は近いがその表情から彼女が何を考えているか、カケルには
分らなかった。
──コイツ、今酔っ払っているからな。
 ギュッ。
 胸に置かれた指先がカケルの服を引き裂かんばかりに、強く布地を握り締める。
 
「ダメ………悪いよ」

 操の口から漏れたのは意外な言葉だった。
「な、何がダメなんだよ!?そんなの俺の勝手だろうが!」
 照明の影になった操の顔が一瞬歪み、そして唇に落ちた柔らかな感触とともに視界が
黒く覆われる。
──お、おい!?
 慌てて、両手で操の肩の当たりを掴んで引き剥がす。
「酔っ払っているからって何してんだよ、操!」
 小さい頃にふざけてキスしたことは何度かあったが、この歳になってのキスとは意味が
違う。おまけに相手は酔っ払っている。こんなのを自分は望んでいない。
 無意識にカケルが掴んだ操の肩は小刻みに震えていた。

「…………誰にもカケルは渡さない!」
 
 毅然とした口調で告げられた衝撃の発言に思わずカケルは目を丸くする。
 操の言葉ははっきりと聞き取れた。だが、それが頭の中で意味を成さない。

124 :Somethin' Special-7 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/03(木) 01:41:55 ID:LiOn7M1W
──何を言われたんだ?「渡さない」ってどういうことだよ?
 混乱しているカケルの両腕から力が抜け、操の撫で肩を抑えるものはなくなった。彼女の
身体がカケルの上に倒れこみ二人は抱き合うような格好になる。
 豊満とは言えないが、程よく膨らんだ操の胸がカケルの胸板に押しつけられ潰れる。
 その感触に気取られた瞬間、再び操はカケルの唇を奪う。
「んっ!?」
 今度は唇を重ねるだけでなく、舌を差し入れてきているではないか。カケルは思わず身を
硬くする。ぬらぬらとした柔らかな舌先はカケルの唇の隙間から入り込んで、歯列に怖々と
触れた。やがてそれは大胆な動きへと変わり口腔を蹂躙し、カケルの舌を絡め取って
満足ゆくまで縺れ合わせる。
 夢にも思わなかった甘い刺激にカケルの理性は焼き焦げるが、それが冷めたのは操が
注ぎ込んできたアルコールの味が残る唾液だった。
 酔った勢いで正気を失くして──よく聞く話。だが、そんなことで長い間、男女の仲を
超えた信頼関係で結ばれた彼女、そして兄であるヒカルが愛する女の子を汚して良い筈が
なかった。
 正気に戻ったカケルは両手で操の頬を挟むと強引に彼女の唇を引き剥がす。二人の間を
互いの唾液が混じりあった銀色の糸がツッと伸びる。
「プハァッ!ゴ、ゴホゴホ。操、バカな真似はやめろ。酔っ払ったその頭冷やして、さっさと
帰れって!」
 カケルの両手を繊手で撥ね退け、操は再び唇を貪り合うように重ねる。
──やめろ!それ以上、やると俺も抑えが……効かなくなる…
 息が続く限りキスを止めようとしない操のもたらす刺激でカケルは自分の下半身に熱が
集まっていくのが分った。
「……留美ちゃんと付き合わないで」
「お前には関係ない話だろうが!」
 ドン!
 勢い良くカケルの胸に操の両手が掌打の要領で突き落ろされる。
「……グッ?」
「関係なく…………ないよ」
 俯いた操の表情は柔らかな黒髪に隠されて伺いしれなくなる。
 一方、彼女の掌底で息が詰まり目の前を星がちらつくカケルは呼吸を取り戻すのに
精一杯で、馬乗りになった彼女の表情を伺う余裕はない。
「はっ…はっ…はっ…」
 ようやく息ができるようになったカケルが見たものは、腰を上げて淡いピンク色の
ショーツを脱ぎ捨てた操の姿だった。
「な、な、お前、何してんだよ!!」
「繋ぎたい……カケルがどこにも行かないように」
 再びカケルの上に馬乗りになると、操はカケルの股間をジャージの上から摩る。
「……カケルのも大きくなってる」
「止めろって!これ以上は!」

125 :Somethin' Special-8 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/03(木) 01:43:10 ID:LiOn7M1W
 さっきまで、ですら暴発しそうなぐらいに膨らんでいたペニスが想いを寄せる人の愛撫を受け、
今にも張り裂けんばかりに怒張している。
「もう、良いよね?」
 問いかけ──というには、あまりに一方的だった。
 カケルの穿いていたジャージのゴムに操の細っそりとした白い指が掛かると下着ごと一気に
ズリ降ろされ、屹立した太い血管の浮き出た剛直が露になる。
「やめろ!!!」
 絶叫が部屋の空気を震わせて、操の身体を一瞬固まらせる。
「もう、やめろ。操、これ以上は冗談じゃすまないんだぞ!」
「冗談のつもりなんてない……」
「もし、お前が留美って娘と俺が付き合うのが気に食わないのなら俺は付き合わない。
これで満足したか?」
──そうだ、諍いの始まりはこの話題だった筈だ。ここさえ……
 だが、操はゆっくりと首を振る。焦燥感に駆られたカケルはふと一週間前の兄の告白を
思い起こす。
「あのなぁ、操!……そうだ、聞け、操!」
 言いたくはなかった。だが、この状況を打開するには、話題を切り替えて操の意識を
別のところに持っていくしかない。
「……ヒカル兄が…………お前のことを好きだってさ……だから酔っ払って早まった真似を
するのはやめろ!!」
──敵に塩を送っちまった。とは言え、酔っ払った勢いでヤラれてはこっちも堪らない。
後で、ヒカル兄に何言われるか分かったものじゃないしな。それに、俺はヒカル兄のことを
敵と言えるほど大層な身分じゃないし。操だって、俺なんかよりヒカル兄の方が……。
 これでこの馬鹿げたことは終わる──そう、カケルは期待した。
 しかし、操は滅多に見せない感情の籠もらない冷たい視線でカケルを見下ろしていた。

「……カケル…分ってない」

 ボソリと告げると彼女はカケルの剛直を鷲掴みにし、その上に自分の秘所を宛がう。
「…んっ…んぁ」
「や、止めろ!操、聞こえなかったのかよ!お前、俺の話聞いていたのかよ!?ヒカル兄は
お前のことが好きなんだぞ!」
「そんな大声出さなくても聞こえているよ、カケル」
 少し低い悲しげな声が操の白い喉から絞り出された。
「だったら、何で!?」
「そっちこそ、どうして分らないの?」
 秘所のとば口にカケルの先端が埋まる。
「お、おい!」
 そこから先は、操が強引に腰を落としたせいで一気に入り込んだ。途中、何かに突き
当たったが、自分の意思ではどうしようもないままに突き破ってしまった。

126 :Somethin' Special-9 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/03(木) 01:44:45 ID:LiOn7M1W
「……っ痛ぅぅぅ…」
 操が瞳を閉じ、唇を噛み締め、痛みに顔を歪めている。
「み、操!?」
 慌てて上半身を起こそうとしたカケルの胸を操が突き飛ばす。
「動かないで!!……お、お願い…」
 弱弱しく痛々しい声に、カケルは頷くことしかできなかった。
「…は、初めてか?」
 カラカラに乾いた喉から出てきたのは不躾な質問だった。
 痛みを堪えて俯いた操の頭が小さく縦に動く。
「なら、どうして、こんなバカなことを!?」

「好き……」

「へっ!?」
「好きなの、カケルの事が。だから……留美ちゃんが告白したって聞いた時、居ても立っても
いられなくなって……確かめないと…って…」
──う、嘘だろ!?操が俺のことを好き?これってあれか、酒の力なのか?
「お酒……関係ないから。勢いが欲しくて飲んじゃったけど……ずっと正気だから勘違い
しないで……酔っ払ったフリしてただけ」
 初めて操が頬を緩め微笑んでいた。
 ふと、二人の結合部をカケルが見ると、経血が操の白い太腿を筋上に辿ってカケルの
身体にも付着していた。その様子は痛々しい。
「勇気……なかったのよね、私。ずっと、側に居て誰よりもカケルのこと知っていて誰よりも
カケルのことが好きだったのに…………」
 途中で言葉に詰り、操は噛み殺した嗚咽を漏らす。それをカケルは呆然と聞くことしか
できなかった。

「だから……カケルがどこにも行かないように繋ぐの。いいえ、それだけじゃない……
刻み込みたい…………私の身体にカケルを」

 眉根を寄せて決意を固めた操がゆっくりと腰を前後に動かし始める。熱しきった膣の中で
シェイキングされる感触は自慰ではとても得られないほどに甘美な刺激をカケルは感じていた。
「…っ……くっ…き、気持ちいい…カケル?」
 やはり痛みが残っているのだろう──痛苦に表情を歪めながらも操は慈愛に満ちた声で
カケルに問い掛ける。もう既に理性が焼ききれる寸前のカケルは欲望の赴くままに頷くしかなかった。
「フフ。そう、嬉しい…っう…ぅぅ」
 操の中は痛いほどにきつく締まり、カケルの剛直を締め上げる。絡みつく襞は初めて
受け入れる異物に戸惑いながらもサワサワと愛する男のモノを撫で上げる。

127 :Somethin' Special-10 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/03(木) 01:46:00 ID:LiOn7M1W
「……くっ…操…」
 あまりの刺激で快楽の波に溺れたカケルの口から思わず漏れた自分の名前を耳にした
操は嬉しそうに笑うが、すぐにその表情が翳る。
「ゴメン……ゴメンね…カケル」
 その言葉にカケルはハッと正気に返る。
「カケル……カケル……嫌いにならないで……嫌いにならないで……」
 前後していた腰の動きは、今は上下に変わりその動きに合わせ操のショートヘアが
軽やかに揺れる。時折、彼女の目の端からキラキラと輝く飛沫が舞い散る。
──泣いているのか!?
 自分の昂ぶりもそろそろ限界に近い中、操の様子にカケルは戸惑いを覚えた。
「な、何でお前が泣くんだよ!?」
「…んっ…ぁぁ…お願い……嫌わないで…許して…」
 うわ言のように鼻声で繰り返す操がとても愛おしくなって、カケルは半身を起こし
彼女の細い腰に手を回し抱き締める。 
「カケル?」

「操、俺もお前のことが好きだ。好きだから、そんな悲しい声出すなよ」

 円らな瞳をこれ以上ないぐらいに見開いた操に唇を重ね、カケルは自分から腰を使ってみる。
重ねた唇の端から、操の心地よさそうな甘い吐息が漏れる。
「…んっ…うぅん……あっ…」
 操は目を細め、安堵と歓喜が入り混じった幸せそうな表情でカケルが与える熱い刺激に
身も心も委ねた。
 二人の動きが昂ぶりに合わせて徐々にに激しいものとなり、それが最高潮に達した時、
カケルが迸るものを操の体内に解き放ち、二人は抱き合ったままベッドに倒れこんだ。

 ◆ ◇ ◆

「いつから?」
「えっ?」「私のこと好きになったの、いつから?」
 改めて問われるとカケルは思い出せない。
「……思い出せないぐらい昔から」
 タオルケットを捲って身を乗り出してきた操の白い裸身にカケルは目を奪われる。あれから
二度も愛し合いあったと言うのにカケルは自分の下半身が熱くなるのを覚える。
「ふうん。どうして言ってくれなかったの?」
「いや、その恥ずかしかったのと…………お前がずっとヒカル兄のことが好きだと思っていた。
それこそ、今日の今日まで」
 カケルは熱っぽくこちらを見つめる操から視線を外す。こうやって間近で見られると、
見慣れているはずなのに心臓が勝手にバクバクと唸り出す。
「……そっか」

128 :Somethin' Special-11 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/03(木) 01:47:01 ID:LiOn7M1W
「だって、考えても見ろよ。ヒカル兄は目茶苦茶モテるし、成績だって俺と比べ物に
ならないぐらい優秀だし、スポーツだって……」
「でも、カケルの方が良い所もあるよ」
「……俺の方が?」
 真剣に考えてみるがまるで思いつかない。兄のヒカルと比べること自体がおこがましい
ほどに、自分はちっぽけな人間だと思う。それこそ月とスッポンという言葉が相応しい
兄弟だ。
「うん……カケルは優しいのよ。優しすぎるぐらい」
「優しい?お前と喧嘩ばかりしている俺が優しいって、何か間違ってないか?」
 操は静かに首を振って、カケルの言葉を否定する。
「違うよ。カケルはいつも自分のことは後回しにして、周りの人の都合に付き合ってきた
でしょ。例え相手がヒカル兄でも変わってなかった。だから、周りの人は気づかないかも
しれないけど、カケルがいるお陰で色々なことがうまく行っているのよ」
──よく分らないけど、そうかも知れない。どちらかという俺は自己主張の激しい人間で
はない。逆に言えば周りに流されやすいのかも知れない。いずれにせよ、自分がどうしても
ダメなこと以外は他人の意見を尊重しているのは事実だ。そちらの方が面倒が少なくて
済む。
「だけど、カケルって、私の前だけでは色んなこと正直に話してくれる。多分、ヒカル兄
より、私の方が本当のカケルを分っていると思う。それって、何だか私だけ特別扱いして
もらっているみたいで嬉しかった。大体、カケルの喧嘩相手なんて私ぐらいでしょ?」
 言われてみればその通りだと思いカケルは同意の証に頷く。ヒカルとは差があり過ぎて、
喧嘩する気も起きない。でも、操となら気兼ねなく遣り合える。
「だから、私好きになったの。何か特別って扱われると女の子はキュンとなるのよ、フフフ」
 嬉しそうに顔を綻ばせる操。
「ところで、あの貸した本読んだ?」
 唐突に話題が変わって付いていけなかったカケルは一瞬固まる。机の上の本のことを
思い出して慌てて答える。
「ああ、あれか。もうすぐ読み終わるから」
「そっか……やっぱりあんな本くらいで、襲ってもらおうなんて甘い考えだったわね」
 何だかブツブツと恐ろしいことを操は呟いている。
 カケルは聞かないフリを決め込み、操の白くてほっそりとした二の腕に指を滑らせながら
ボンヤリとこの事実をどうヒカルに説明しようかと考えていた。
 
(了)

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

425 :1/4 ◆GK0/6l5f56 :2008/09/14(日) 21:20:26 ID:ER0EGOP4
「お、お止めください!」
「どうして僕の想いが分からないんだ!」
「若様、わたくしは卑しい身分の女にございます」
「……僕がお前を買ったんだぞ!お前は僕のものなんだ!」
──ああ、どうして……どうしてそのように仰るのですか。
 わたくしはこの屋敷のメイドの中でも最も低層な存在でございます。この国ではメイドにも
二種類ございまして、給金を頂いて働く雇いメイド、そしてもう一つがわたくしのように
"市場"で買われ、住む場所と食事を与えられる替わりに一生お仕え申し上げるメイドで
ございます。
「今まで、ずっと我慢してきたけど、もう堪えられない」
 そのまま圧し掛かられ、わたくしはソファの上に押し倒されてしまいました。頬に当たる
革の冷たさに身体が独りでに震え出してしまいます。
「そんなに僕のことを嫌がらなくてもいいじゃないか!」
 若様の手が襟にかかり、そのまま強引に音を立てて、メイド服を引き裂かれてしまいました。
黒地に映える白いプラスチックのボタンが飛び散り、乾いた音を立てて床に落ち辺りを
転げまわる様がまるでスローモーションのように思えました。
「僕がどれだけ我慢したか、お前はまるで分かっていない」
──分かっていないのは、若様の方です。あなた様のように尊い御方が、最下層の
わたくしのような卑しいメイドに手を付けるなど間違ってもあってはならぬことなのです。
まして、これからご結婚される身でございますのに。
 申し上げたいことは山のようにありましたが、気が動転したわたくしでは上手く言葉に
することなど到底叶わず、何とか搾り出した声も掠れていました。
「だ、ダメです。こんなことが……旦那様に知られたら」
「父さんは関係ない!僕は僕の意思でお前を抱くんだ!」
 押し付けられた唇から捻じ込まれた舌にわたくしの口内は蹂躙され、声を上げることすら
ままなりません。
「はっ……はっ……」
 荒い呼吸の若様の瞳には強い欲情の光が宿っておりました。
 わたくしはこの御方の"もの"です。お屋敷によっては買われたメイドを夜伽の相手になさる
こともあると聞きます。それでも、この御方のお父上は風紀の乱れに厳しく、夜伽の相手は
雇いメイドと決められておいでです。
 しかし、そのような決まり事など今の若様には関係ないのでしょうか。ささくれ一つない
滑らかな手が裂けた服の隙間から差し込まれ、わたくしの乳房を荒々しくお掴みに
なられました。
「い、いやぁぁ」
 身を捩って逃げようとしましても、若様の均整の取れた身体に押さえつけられてはどうすることも
できません。胸に走る痛みとそれに混じる微かな痛みとは明らかに違う感覚に心は
翻弄されていました。
「わ、若様。お願いです……んっ……今なら」
「嫌だ!言っただろ、お前は僕のものだって!」

426 :2/4 ◆GK0/6l5f56 :2008/09/14(日) 21:21:45 ID:ER0EGOP4
 若様の指に籠もるお力が一層強くなって、自分の小さな乳房は捻り切られそうになりそうな
錯覚に陥りました。しかし、それ以上に"もの"と言われた若様の言葉が胸の奥を深く
抉りました。

 でも、それは紛れもない事実でございます。 
 わたくしは二度買われた女です。若様に買っていただく以前は、あるお屋敷にメイドとして
一度買って頂いたことがございました。しかしながら、そのお屋敷の奥様のお怒りを買い、
わたくしはお屋敷を追われ、再び"市場"に戻ることとなりました。この場合、前の御主人様が
わたくしを買われたお金の四分の一をお戻ししなければなりませんが、貧しいわたくしの
両親にはそのようなお金は残っておりませんでした。そうなれば、もう一度、どなたかに
買っていただくか、娼婦として身体を売るかのいずれかの道しかございません。
 しかし、"市場"のブローカーからは、「その年で新たな買い手は見つからんぞ。女なのだから
男を愉しませて稼いでみろ。お前なら充分客がつくぜ。何なら俺が最初の客になってやっても
いいぞ」と嘲り混じりに言われました。
 一般的に"市場"で売られる年齢は十代前半でございます。そして、買われるとすぐに
メイドとしての教育を受けるのが通例となっております。だから、わたくしのように二十歳
間際にして"市場"に出る女など何か訳有以外の何者でもございません。そして、トラブルを
お嫌いになる上流階級の方々がそのような者を買うことなどありえないのです。
 案の定、"市場"が定めた期限が近づいてもわたくしを買ってくださる方は現れませんでした。
 微かな望みが絶望に変わりかけた時、あのお声を聞いたのでございます。
「お前を買いたい。幾らだ?」
 一生忘れることはないそのお言葉は今でも大事に胸に刻んでおります。

 一人の"女"としてなどという大それた望みは、とうに捨てております。ただ、お買い上げ
頂いた若様にお仕えすることだけを喜びとして今日まで過ごして参りました。若様がさる
名家の御子女と結婚なさると聞いた時は人知れず涙したものでした。その時になって、
自分が若様をお慕いし、"もの"ではなく"女"として見て頂きたいと望んでいたことに
気づきました。しかし、叶うべくもない望みは心の奥深くに埋め、若様に御結婚のお祝いを
申し上げたその夜に、このようなことになってしまうとは皮肉なものでございます。
「はっぁ……んんぅぅ……ぁぁ」
 若様はわたくしの女の部分を指先でなぞりながら、執拗に愛撫なされます。そのせいで、
淫猥な音がそこから立つようになってしまいました。
「ほら、聞いて御覧。お前だって僕を欲しているのではないか?」
 少し優しげに若様がわたくしの耳元で囁かれました。
 わたくしとて、"女"としての悦びを知らない訳ではございません。ただし、それはもう
捨てております。売られたものが普通の幸せを望むことなど許されるはずがございませんもの。
逃げていきそうになる理性を必死に手繰り寄せ、弱々しく首を振って若様の言葉を
否定しました。
「ダメです……お願いでございます……もう、もうこれ以上はいけません」

427 :3/4 ◆GK0/6l5f56 :2008/09/14(日) 21:22:34 ID:ER0EGOP4
 それを聞いた若様のお顔は苦虫を潰されたような表情になり、押し黙られてしまいました。
それでも、刷毛で掃くような労わりのある優しい愛撫は止むどころか、一層わたくしを
追い立てるように執拗なものとなりました。
 呼び起こされた快感に、わたくしは流され始めていました。やはり、諦めたと言っても所詮は
"女"なのでしょう。密かに心寄せる方に求められれば、拒まなくてはと思っても身体の熱を
抑えることができないのです。
 いつしか、若様の先端が入り口に宛がわれても、湧き上がる熱に浮かれてしまったわたくしは
事態の重大さに気づいておりませんでした。
「いくよ?」
「!?……そ、それだけは!いけません!イヤァァ……ァァああ……んくぅぁ」
 悲鳴交じりの拒絶の言葉を無情にも遮り、若様はわたくしの内側に入られました。
「……すごく……気持ち良い。温かい」
「いけません、いけません」
 必死に首を振るわたくしの乱れた髪を若様はその御手で柔らかく撫でてくださいました。
「ごめんよ。でも、我慢できない。もう引き返せないんだ」
 それを最後に若様は一言も発することなく、ただ只管にわたくしの内側に硬くそそり立った
逞しい性器を打ち付けられては、引き抜かれ、また打ち付けるということを繰り返して
おいででした。不思議なことに、若様のお顔には悦びの色は浮かばず、むしろ痛々しい
ほどに悲しげな御様子でした。
 きっと、御自分が婚約者のいらっしゃる身でありながら、わたくしのような婢女を抱いて
しまっていることに罪悪感を抱かれていらっしゃるのでしょう。
 わたくしがいけないのです。わたくしのような女が若様の周りについたばかりに、お若い
この御方は過ちを犯してしまったのでしょう。
 徐々に激しくなる抽挿に身体の奥から快楽の波が押し寄せてきて、わたくしは遂に考える
ことを止めてしまいました。ただ、それでも若様の前で乱れてしまわないように唇を噛み締め、
声を押し殺し、ただ只管に堪えることに徹しました。
「だ、ダメだ……もう、我慢できそうにない……出すよ!」
 その一言でわたくしは現実に連れ戻され、最悪の事態が起こりつつあることに気がつき
蒼褪めました。
 しかし、もう遅かったのです。
 若様が大きく腰を引き、今まで一番深く突き込まれました。身体を串刺しにされるような
感覚と同時に、若様の熱い迸りがわたくしの胎内に注ぎ込まれたことがハッキリと分かり
ました。しかも、奔流は一度ではお収まりにならず、わたくしの内側で若様が脈打たれる度に
貴重な子種が搾り出されました。
 やがて、全てをお出しになられると緩慢な動作で若様は身体をお離しになられました。
 きっと、溜めていらっしゃった欲望を吐き出されて満足なさったのでしょう。虚ろな眼差しで
ソファに横たわるわたくしを見つめておいででした。本来であればすぐにでも立ち上がって後の
お世話をすべき──少なくとも雇いメイドがお手つけを受ける時や閨の指導を申し上げる時は
それが礼儀なのです──が、慣れないわたくしはただ、股の間から若様の精液が流れ出る様を
ただ呆然と見ていることしかできませんでした。

428 :4/4 ◆GK0/6l5f56 :2008/09/14(日) 21:23:30 ID:ER0EGOP4
──ああ、これでもう働くことができないかもしれない。
 お手つきになるメイドは避妊だけは欠かしません。何故ならば、高貴な御方の子を
宿すことは卑しい身分のものには許されていないからです。万が一、そのようなことに
なれば子の命は絶たれ、お屋敷を追われることになってしまいます。
 もう二度と若様にお仕えできないかもしれないと思うと自然と涙が零れてしまいました。
「な、泣くほど嫌だったのか……」
 若様は慌てた御様子で身を屈め、わたくしの顔を心配げに覗きこんでおいででした。
「……若様、わたくしはもうお側にお仕えできないかもしれません」
「な、何を言っているんだ!ダメだ!お前は僕のものだ!一生、僕のものだ!」
 弱々しくかぶりを振ったわたくしに若様の唇が強く押し付けられました。あまりのことに
思わずわたくしは狼狽してしまいました。
「わ、若様?」
「僕がお前を一生守る!一生かけて幸せにしてみせる!だから……」
 若様はもう一度わたくしの唇を求められました。今度は大人しく若様を受け入れ、
失礼かとは存じましたがこちらからも舌を絡めました。それが、若様のお言葉に対する
わたくしのせめてもの応えでございました。
「わたくしには勿体ないお言葉……嬉しゅうございます。しかし、若様とわたくしでは身分が
あまりに違いすぎます。それに今、頂いた子種で万が一わたくしが身籠ってしまえばお屋敷に
は置いて頂けません。いえ、それ以上に若様の御名にも傷がついてしまいます」
 それでも、若様の眼差しはたじろぎもせずわたくしに注がれておりました。
「それに御婚約のこともあります。今日のことはただの夢とお忘れください。このようなこと、
若様にとって良いことにはなりません」
 わたくしは自分の心を偽るように、上辺だけの微笑みを浮かべて若様に「これでお別れです」と
無言のうちに告げました。
 その応えは──

「お前を誰にも渡さないし、どこへも行かせない。僕だって同じだ。だから、さあ、僕のものになっておくれ」

 優しい──でもどこか悲痛なお声でした。それはきっとこれからの二人の行末を暗示して
いるのだろう、とわたくしは思いました。
 
(了)

524 :1/4 ◆GK0/6l5f56 :2008/10/25(土) 19:08:04 ID:AZv2daP3
>>425-428の続きです。
--------------------------------------------------------------------------

「若様のお相手は何とかの宝石、と称されているお美しい御方らしいわよ」
「きっと、お似合いのお嬢様でしょうね」
「結婚式はこちらでおやりになるのでしょう?忙しくなるわね」
 仲間のメイド達が楽しそうにお喋りに興じる中、わたくしは胸に重く圧し掛かる
思いを振り払おうと、明日のお食事の材料を準備するため、離れにある貯蔵庫へと
一人向かいました。
 お屋敷はとても広く、離れと申しましても歩いて五分以上かかります。その上、夜も
更けてまいりましたので辺りは暗く、頼りになるのは回廊の柱に灯された蝋燭の明りと
手に持ったランプだけです。
 厚い雲が空に立ち込めた今宵は、蒼白い月の明かりも差し込んではくれません。
廊下には蝋燭の炎に照らし出された柱の影が不気味に伸びておりました。わたくしは
小心者でございます。普段からこの食材を取りに行く役目は苦手でございましたが、
今日は生きた心地がしないぐらい恐ろしく感じます。しかし、お勤めはお勤めです。
震える足を一歩ずつ進ませ、何とか離れまでやってくることができました。
 離れに辿りついたことで、わたくしは油断してしまっていたのでしょう。
 安堵の溜息を吐いた瞬間、後方の柱の影から忍び出てきた"何か"に抱きすくめられ、
叫び声を上げる前に口元を素早く抑えられてしまいました。身の毛もよだつ様な恐怖に
震えながらも、わたくしは助けを求めようと必死に身を捩り抵抗を試みました。しかし、
拘束は緩まるどころか、ますます強くなっていきます。泣きそうになる心を奮い立たせ、
尚も身悶えを繰り返しましたが、声を上げたところでここは普段、人の立ち入らない
場所です。きっと誰にも気づいてもらえないでしょう。
 自分の人生はここで終わってしまうのだろう、と覚悟を決めたその時でした──
「頼むから落ち着いておくれ。万が一、誰かに見つかると厄介だ」
 耳元で密やかに囁かれた声は、あの御方のもの。
「わ、若様!?」
「そう、僕だ。だから落ち着いて」
 そっと口元から手が離れ、動きを束縛していた手が緩まったので振り向くとそこには
夜着の上にコートを羽織られた凛々しい若様が立っておられました。
「……何をなさるのですか!」
「お前が悪い。ここ最近、全然顔を見せない。僕を避けている」
 確かに”あんなこと”があって以来、わたくしは若様のお側仕えを意図的に避けるように
なりました。特に日が暮れてからは、若様の前に参上することはしておりませんでした。
「僕の気持は分っているのに……僕を避けるお前が悪い」
「あ、あんなことを二度としないとお約束頂けるならば、いつでも……」
 次の瞬間、強引に唇を奪われ、柔らかな若様の舌で口内をねっとりと舐られます。
「悪いけど、それは無理な相談だ。お前は僕のものだ」
 強い眩暈を覚え、立ち眩んでしまいます。この御方は聡明ではあらせられるけれども、
まるで事の重大さにお気づきでない。
「若様は、名家の子女を伴侶としてお迎えになられるのでありましょう?」
「僕が興味ある女は、お前だけだ。お前以外の誰かなど僕にとってはどうでもいい存在だ」
 信じられないような台詞を真摯な眼差しで仰られたため、わたくしは言葉を失って
しまいました。

525 :2/4 ◆GK0/6l5f56 :2008/10/25(土) 19:09:39 ID:AZv2daP3
「信じて欲しい。僕はお前が欲しい」
「……わたくしは、若様のものでございましょう?」
 皮肉を込めてそうお返しすると、若様は眉間に皺を寄せて深刻な表情をなさる。
「お前の心は僕に向いていない」
「わたくしのお仕え申し上げようという気持ちに二心はございません」
「違う!……僕は忠誠など望んでいない」
 若様がメイドとしての忠誠でなく、一人の女としての愛情を捧げよ、とわたくしに仰っている
ことは重々承知しております。しかし、主人と最下層のメイドの立場は勿論のこと、若様は
御婚約を控えられた身であり、本来であればこのような場で二人きりでお話することすら、
罪深いことでございます。
「無茶を仰らないでください。わたくしは卑しい女です。若様のお相手は……!?」
 次の瞬間、若様に手首を掴まれそのまま何かを巻き付けられると、空き部屋に強引に
連れ込まれてしまいました。
「わ、若様。な、何をなさるおつもりですか!?」

 ◇ ◆ ◇ ◆

「んっ……やぁ……おやめ……ぁぁ、く、ください」
 部屋に引き込まれると、縛られた両手を壁面のホックに掛けられ、壁に向き合って
立つような姿勢を取らされました。若様の眼前に、わたくしの臀部が無防備に晒されて
しまっております。
 若様は無言のままわたくしの身体に掌を這わされました。しかし、、早々に下着を
剥ぎ取られ後ろからこの御方の熱いもので貫かれてしまいました。わたくしの嫌がる
素振りなどまるで気にする様子もなく、若様は強引にことをお進めになられています。
腰を掴まれ乱暴にお尻に若様の身体が叩きつけられる度に、全身に熱を持ったピリピリ
とした刺激が走ります。
「どうして……どうして!」
 首をどう動かしても、後ろに立たれた若様のお顔が見えないことは分かっています。
ですから、薄暗い壁に向かってありったけの声で叫びました。
「こんなの……こんなの、ふっ、んぁ……いけま……せん」
 わたくしは買われたメイドという卑しい人間ですが、娼婦ではありません。しかし、
これでは娼婦以下の、まるで肉欲だけを満たす玩具です。自由を奪われ、相手の顔も
見えず、無言のまま突き入れられるなど──相手が若様でなければ、恥辱のあまり舌を
噛んで死んでいてもおかしくありません。
「いや、いや……お願いです……ぁぁ」
 身を捩って抵抗を試みますが、腰に回された若様の手に抑え込まれ無駄な試みに
終わってしまいます。
「僕は……」
 この部屋に入って、初めて若様のお声を開きました。
「僕はお前に僕の子供を産んで欲しいんだ」
「!?」
──な、何を仰っているのでしょうか、この御方は!

526 :3/4 ◆GK0/6l5f56 :2008/10/25(土) 19:10:54 ID:AZv2daP3
「そ、それは若様の奥様のお役目……」
「僕はお前に子供を産ませる」
 わたくしの言葉を遮った若様の声には興奮する様子もなく醒めた淡々としたものでした。
「子供はその子一人だ。僕はお前以外の女を閨には連れ込まない。例え、それが
妻だとしてもだ。そうなれば、いずれ父さんも母さんもお前と子供を認めてくれるはずだ」
 無茶苦茶なお話です。そんなこと許されるはずありません。しかし、その甘美な幻想を
告げる若様の声が残響となって、わたくしをかどわかそうといたします。
「ぁぁあん……無理、無理ですぅ、ぁあっ」
「無理ではないさ。僕がやってみせるというのだ」
 若様の性器は熱く猛っておいででしたが、その口調は落ち着き払った理路整然とした
ものでした。
「だから、僕に任せてお前の全てを預けてくれないか」
 そう仰って若様は上体を折り曲げ、わたくしの背中に覆い被さりました。武術の訓練で
鍛え上げられた逞しいお身体が衣服越しながらハッキリと感じられます。
「嬉しいのか?お前の内側がキュウキュウと締めつけてくる」
「なっ!?」
 返す言葉に詰まってしまったのは、若様の指摘が正鵠を射ていたからです。
 後ろから密着され耳元にその吐息を感じ、初めてわたくしは若様と交わっているのだ、
と実感することができました。相手が若様であれば牢獄のような薄暗く埃っぽい部屋で
自由を奪われ後ろから犯されていようが、不思議と充たされた気持ちになってしまうのです。
 しかし、そんなことを素直に言えるはずはありません。ですから、わたくしは唇を噛み、
押し黙ることで、メイドとしての矜持を守ろうとしたのです。
「……すまない。つまらないことを言った」
 無言を貫くわたくしに若様は申し訳なさそうに告げられ、圧し掛かる姿勢のまま再び腰を
動かし始められました。
「こんなことをされて、悦ぶものなど誰もいない……分かっているんだ」
 若様の沈痛なお声はわたくしの胸を締め付けました。若様は何も間違ってはいないの
です。わたくしはどんな形であれ、若様に抱かれて悦んでいるのです。しかし、それは口が
裂けても申し上げることはできません。
「……どうして、僕は僕なんだろうな?どうして、お前と愛し合える人間に生まれなかったの
だろうか」
 ゆっくりとした口調ながら若様の一言一言が、わたくしの心を抉りました。それは
"あの時"以来、何度わたくしが夢見たことでしょう。もし──もしも、わたくしがもう少し良い
血筋の人間であれば人目を憚ることなく──。 
「若様」
「いいんだ。気にするな」
 その言葉とともに、若様のお身体が離れていきます。ぬくもりが急速に冷め、わたくしは
喪失感に包み込まれました。それを思わず口にしようとした瞬間、息がつまるほどの
刺激が全身を駆け抜けます。若様が腰を掴み深く、深く突き入れられたのです。
「んっ!?ぁぁああ」
 身体の深い部分に届いた若様の先端は電流にも近い快感を巻き起こします。あまりに強い
その刺激が歓喜に変わり、全身の震えを止めることができませんでした。

527 :4/4 ◆GK0/6l5f56 :2008/10/25(土) 19:12:26 ID:AZv2daP3
 そのまま、若様は少し乱暴ではありましたが、激しく出し入れを繰り返されます。痺れに
似た凄まじい甘美な熱が押し寄せ、次第にわたくしはそれに溺れていきました。
「はぁぁ、っんぁぁ……ぁあんぅ」
 喉の奥から迸る声はまるで自分のものに聞こません。
 はしたないという理性の咎めは、まるで効果を持たず止め処なく喘ぎが溢れ出てしまい
ます。
──若様はこれでわたくしが悦んでいることを分かってくださるかしら。
──愛おしい殿方に狂おしいほどに求められて悦ばない女などいないのに……。
 そんな想いを言葉にしたい、何度もそうしようと試みましたが、結局それを紡ぐことは
できず若様がお与えくださる悦楽に押し流されて荒い呼吸を繰り返しているだけでした。
でした。
 一体、若様はどんなお顔でわたくしを貫かれているのでしょう。
──もし若様に悦んで頂けるならば、わたくしも嬉しいのに……。

 ◇ ◆ ◇ ◆

 行為の余韻が醒めても二人して床にしゃがみ込み、後ろから若様に抱き締められた
まま、まどろんでおりました。
 若様はわたくしの肩に顎を乗せ、目を瞑り押し黙られていました。
 折り重なった長い睫毛は微動だにせず、その表情から感情を推し量ることはできません。
重い沈黙に押し潰されそうになりながら、わたくしは行為のせいで力の入らない身体を
若様に預けておりました。
「……お前は」
 薄暗い照明の空き部屋に若様のおもむろな言葉が響きました。
「あの時、嬉しいと言ってくれたよな」
 "あの時"とは、若様のお部屋で身体を重ねた時のことを仰られているのでしょう。
「……今も変わらないか?」
 もし行為の最中にそう訊ねられていたならば、一も二もなく頷いてしまっていたでしょう。
しかし、ほとぼりも醒め、理性が本能を完全に制御下に置いてしまった今は違います。
「お忘れください、と申しました」
 わたくしがポツリと呟いた言葉を聞いた若様の身体が小さく震え、胸の前で組まれていた
腕に込められた力が一層強くなりました。
「そうか……そうだったな」
 それっきり二人の間に会話はなく、ただ息苦しい沈黙の中で身動き一つせず身体を
寄せ合い、ぬくもりを分け合っておりました。

(了)

609 :1/4 ◆GK0/6l5f56 :2008/12/18(木) 02:08:42 ID:gDAyHJIw
流れをブッタ切ってすいません。
>>524-527の続きです。
--------------------------------------------------------------------------
 
  明日は若様が婚約者様をお迎えに上がる日でございます。
 この国の慣習では、新郎が新婦の自宅まで迎えに上がります。若様のお相手はある
地方をお治めになっている領主のお嬢様のため、都から片道三日ほどかけてお迎えに
向かわなくてはなりません。
 また、盛大な結婚式とは別に、伝統に則った婚礼の儀をそれぞれの家で取り行うため、
若様は都合一週間ほどお屋敷を空けられます。
 ちょっとした小旅行となるため、この日が近づくにつれお屋敷の人々は慌しく準備に
追われました。しかし、出発前日の今はそれも落ち着き、ただ明日を待つだけとなりました。
 その最後の夜に、わたくしは若様のお部屋で紅茶を給仕しております。
 離れで若様に襲われて以来、わたくしはお側仕えを避けることを諦めました。結局、
お屋敷にいる限り若様が襲おうと思えば、いつでもそれは可能なのですから。
 若様は定期的にわたくしの身体を求められました。あの日、お打ち明けいただいたと
おり単なる快楽のためではなく、わたくしに子を孕ませようというお考えからでしょう。
 しかし、わたくしもない知恵を巡らせ、あえて安全な日を選んで若様のお側仕えをする
ことにしたのです。定期的に交わっていれば、若様が衝動的に襲ってこられることもなく、
最悪の事態を避けられるのでは、と考えたからです。
 いつも若様が、「身体に何か変化はないか?」とお尋ねになられる度にわたくしの心は
この御方を騙しているかのような罪悪感からチクリと痛みましたが、二人のため──
いえ、若様のためです。
 結果、今日までの間幾度と無く若様の精を頂いてきましたが、わたくしは未だに妊娠しては
おりません。そして、今日も同じことを訊ねる若様に首を振って答えると、あの御方の表情は
沈痛なものへと変わりました。
「明日、僕は妻となる女性を迎えに行かねばならない」
 若様が眉を顰めて、苦渋に満ちた声で呟かれます。わたくしを縋るように見つめるその
視線に思わず顔を背けてしまいました。
「……おめでとうございます」
 やっと搾り出した声はとても自分のものとは思えませんでした。
「僕は……お前にだけはそう言って欲しくない。僕はお前を傷つけ、苦しめ、散々思うがままに
弄んできた。今更、許してもらえるとは思わない……だから、お前は僕のことを疎ましく思うか?
それとも、憎んでいるか?」
「いえ、滅相もございません」
 わたくしは小さく首を振って、若様の言葉を否定しました。
「わたくしにとって、若様は大事な御方ですわ」
 精一杯微笑かけてみても、憂いを帯びたご様子の若様が硬い表情を崩すことはありません
でした。
「お前はそう言うが、今まで僕のことを好きだとも……まして、愛しているとも言ってくれた
こともないではないか!」
 半ば強引とは言え、幾度と無く若様と肌を重ねてまいりましたが、わたくしは一度もそう
言った類の言葉は口にいたしませんでした。口にしてしまえば、もう後には戻れない──そう
思ったからです。
「若様。あなた様は明日、婚約者様をお迎えに上がる身です」

610 :2/4 ◆GK0/6l5f56 :2008/12/18(木) 02:09:26 ID:gDAyHJIw
「だからだ!だからこそ、ハッキリさせたい!」
 メイド服の裾を掴み、若様はわたくしを引き寄せられました。
「答えろ、これは主命だぞ!」
 語気を荒げても、若様のお顔には不安げな色がありありと浮かんでおりました。
「……若様。わたくしがどのようにあなた様のことを想っても、身分の差は如何とも
しがたいものでございます。それに若様も婚約者様を御覧になれば、わたくしの
ことなど頭から消え去ってしまいましょう。何せ、それはそれはお美しいとメイド達の
間でも評判にございますから」
 若様は弱々しく首をお振りになって、悲しげな目でわたくしをお見つめになります。
「例え、婚約者がどれほど美しかろうと、そんなことは問題ではない。僕はお前だから、
愛しているのだ」
 その言葉に思わず息を呑んでしまいました。例え叶わぬと分かっていても、愛しい
御方から強く求められて喜ばない女はいないでしょう。
「初めて”市場”で見た時からだ。お前は知らないだろうが、僕が通る以前にも何人かの
貴族がお前に目を付けていたらしい。しかし、”ブローカー”の話に誰もが訳ありだと感じて、
手を引いたと聞く。だが、僕はそれでもお前が欲しかった」
 わたくしを見据える若様の真摯な瞳の輝きに、心が激しく揺すぶられます。
「側に仕えさせてからも、自分を抑制するのに必死だった。嫌われてしまっては元も子も
ないからな。しかし、婚約者が勝手に決められてからはそうもいかなくなった。一刻も早く
お前を手に入れる必要があった。だから、あんな無茶なことをした」
 不意に若様がわたくしの手を強く引いたせいでバランスを崩し、まんまと逞しいお身体に
縋りつくかのような格好で身を預けることとなってしまいました。衣服越しでも伝わる温もりに
知らず知らずのうちに惹き込まれていってしまいます。
「僕はお前を誰にも渡したくない。だから……」
「ご安心ください。わたくしはどこにも参りません。一生、若様のお側にお仕えいたしますわ」
「……僕は仕えてなんか欲しくない。お前に愛されたい。ただ、それだけなんだ」
「無理を仰らないでください。さあ、明日はご出立ですから」
 わたくしが失礼にならないよう、手を外しゆっくりと若様から離れようとすると、慌てた
御様子でしがみついていらっしゃいます。
「行く前に、もう一度だけ……もう一度だけで良い。お前を抱きたい」
 本当は火照って疼く身体を沈めて欲しかったのですが──もう夢から覚めていただか
なければなりません。
「いけません!若様、御自分のお立場を弁えください」
 わたくしの叱責に若様は唖然とした表情で見上げておいででした。このように強く拒絶した
ことは一度もございません──普段は、嫌がる素振りを見せながらも若様にされるがままに
なっておりましたから。でも、今日は違います。
 わたくしは結婚など望むべくもない程身分の低い者ですが、それでも女です。他の女性同様、
どなたかの妻となり慎ましくも幸せな家庭を築きたいという願望は心の何処かにひっそりと
息づいております。ですから、お会いしてはおりませんが、若様の婚約者様のお気持も
僭越ながら分る気が致します。

611 :3/4 ◆GK0/6l5f56 :2008/12/18(木) 02:10:49 ID:gDAyHJIw
──もし、自分の夫となる方が、自分を迎えに来る直前に他の女性を抱いていたら……。
──もし、自分の夫が妻である自分を顧みることなく、他の女性に心移りしていたら……。
──もし、自分の夫の愛が自分に向かってないことを知ったら……。
 それはそれは、恐ろしいことでしょう。ですから、今更ながらとは言え若様との関係を
断たねばならぬのです。
「……だが」
「それ以上、仰らないでください」
 決心が揺らぎそうだから。
「分った……すまなかった」
 若様は魂が抜けたかのように、ガックリと肩を落とし項垂れ虚ろな目で床を見つめて
おいででした。そのお姿のあまりの痛ましさに、衝動的に若様を抱き締めてしまいました。
腕の中の若様は小刻みに震えておいでです。しかし、柔らかな髪を優しく撫でますと、
次第に若様の震えも治まっていきました。
「僕はお前のことが好きだ。誰よりも、他の誰よりも、だ」
「存じております」
「……なのに、お前は僕のことを愛してはくれないのか?」
 わたくしは何も言えず、押し黙りました。
「どうして……どうしてだ……僕は……」
「若様…………わたくし、若様にお買い上げいただいた御恩一生忘れません。だからこそ、
若様に幸せになっていただきたいのです。若様が本当に幸せになるためには、わたくしなど
ではなく……婚約者様とお幸せな未来をお築きください」
 頬を熱い涙が伝いました。わたくしとて、辛い──身が裂かれるほどの痛みを感じている
のです。
「お幸せになってください」
 わたくしの精一杯の声が虚しく響き渡りました。

 ◇ ◆ ◇ ◆

 若様が出立された日から、お屋敷はガランと静まり返りました。
 いえ、若様がいらっしゃらないだけであって、他の方々は普段と変わらずお過ごしです。
しかし、わたくしには若様がいないということだけで、途端にお屋敷が色褪せてしまった
かのように見えてしまいます。
 若様をお見かけしない生活は砂を噛むように味気なく、わたくしはお勤めにも身が
入りませんでした。そのせいか今日もお皿を割ってしまい、メイド長から厳しいお叱りを
受けました。このお屋敷にあるお皿はわたくしの値段などよりも遥かに高いものばかりです。
メイド長がお怒りになるのも当然のお話です。
 お皿よりも価値のないわたくしが、若様に懸想するなど自分でも笑ってしまいます。
 その日、わたくしは普段よりも遥かに疲れ、重くなった身体をベッドに横たえ、泥のように
深い眠りへと落ちていきました。

612 :4/4 ◆GK0/6l5f56 :2008/12/18(木) 02:11:47 ID:gDAyHJIw
 
 一糸纏わぬわたくしは、若様の腕の中に収まっていました。
 しっかりと抱きとめられて、僅かな身動きも許されないほどに密着しております。
「若様……あれほど申し上げたのに婚約者様のことをお忘れですか!?」
「婚約者?……ああ、妻のことか。お前が気にする必要はないんだ」
 若様のお言葉がわたくしの心を深く沈みこませます。想像はしていました──けれども、
実際にこの御方の口から”妻”という言葉を聞くと、目の前が暗くなっていくのに抗し
きれません。
 それに気取られている間に、若様の性器がわたくしの内側に滑り込みました。
 そして、若様の手にわたくしの乳房は鷲掴みにされ、荒々しい動きで揉みしだかれます。
「ふっ、ぅ……んぁぁ、はっ、このような不貞……い、いけません」
「不貞?何が不貞だ。お前は僕の”もの”だ。忘れたのか?」
 若様の冷めた声が心に響きます。
「気持ち良いのだろ?」
「んくっ……ち、違います!」
 口から零れるのは、本心とは別の偽りの言葉。
 本当は若様に抱いてもらえることが、嬉しくて仕方が無いのにわたくしは大嘘つきです。
「嘘をつくな」
「違っ……ぁぁん……い、いや、嫌です」
「そうか」
 妙に醒めた若様の口調にわたくしは違和感を感じました。何だか普段と違うその口調が
気になって顔を見上げたのですが、若様のお顔からはまるで表情というものが読めません
でした。
「若様?」
 心を過ぎった不安が思わず口から出ていました。
「嫌なものは仕方ないな」
 次の瞬間、ズルリと若様が私の内側から抜け出てしまいます。
「えっ!?」
 若様の性器が離れると同時に、そのお姿が消えてしまいました。慌てて身体を起し、辺りを
見渡すとわたくしが横たわる寝台の横に、見たこともない天蓋付きのベッドがあり、その上で
若様は白く輝く見事な裸体の女性を組み敷いていらっしゃいました。
「わ、若様!」
 脇のベッドまでほんの少ししか離れていない──そう思っておりました。しかし、どれだけ
身を乗り出し手を伸ばしても、隣に届きはしませんでした。
「お前は嫌なのだろう?僕に抱かれるのが嫌なのだろう?……僕には妻もいる。別にお前で
なくても、もう構わないんだ。あれだけ情けをかけてやったのに、僕を拒むとはお前はどうしようも
ない愚か者だ」
 次の瞬間、若様が冷たく乾いた声で、嘲笑われました。
 それを合図に若様と女性が、同時にわたくしの方に顔を向けられました。
 お二人のお顔を正視できずに、わたくしは──。

「イヤぁぁ!」
 衣擦れの音とともに、上半身を起すとそこはわたくしに与えられたお屋敷の一室でした。
「はっ……はっ……はぁぁ」 
 暗がりの中、小窓から差し込んだ月の光を見て、わたくしは自分が夢を見ていたのだ、
ということに気づきました。まだ、若様は未来の奥様をお連れになる旅の途上で、お屋敷を
空けていらっしゃいます。
「ゆめ……夢ね」
 わたくしは心に渦巻く複雑な思い沈めるため、枕に頬を寄せて再び眠りに落ちようとしました。
しかし、その瞬間、白い枕カバーがじっとりと濡れていることに気がつきました。何気なく頬を
触れると、まだ止め処なく温かい涙が溢れ出てきていました。
「……ダメよ。もうあの御方は……」
 自分に言い聞かせるように、繰り返し呟きました。
 それでも涙はわたくしの意思に関係なく、ボロボロと零れ落ちてきます。
 二度と睦み合うことの叶わないあの御方のことを思うと、どうしようもなく心が締めつけられ、
堪え難い痛みが寄せては返す波のように、絶え間なく襲ってくるのです。

 (了)

664 :1/5 ◆GK0/6l5f56 :2009/01/04(日) 12:38:03 ID:jqYfUPQo
>>609-612の続きです(ただし、エロ無しなのでダメな方はNGにしてください)。
--------------------------------------------------------------------------

 ご出立されて七日後に、予定よりも一日早く若様はお屋敷へとお戻りになられました。
 本来であれば、すぐにお屋敷で新郎側の婚礼の儀が執り行われ、続けざまに贅の限りを
尽くした盛大な結婚式が催されるはずでした。
 にもかかわらず、今のお屋敷には、葬送の時のように重苦しく静まり返った雰囲気が
充満しており、旦那様、奥様、そして使用人皆が一様に暗く沈んでおりました。

 それは──若様が婚約者様を連れて帰ってはいらっしゃらなかったからです。
 
 婚約者様は婚礼の儀を控えた前夜に忽然とお姿をくらまされてしまったのです。
朝、かの家の召使が起こしに参りましたところ、室内には誰もおらず、窓は開け放たれ、
ベッドの上には数的の血痕が残されていたとのことです。
 先方様も四方八方、手を尽くされたのですがどこにもお姿はなく、予定されていた
婚礼の儀も取りやめとなってしまいました。つまり、それはこの婚約自体が破談になった
ことを意味しております。
 お屋敷にお帰りになられた若様は三日三晩、人払いの上、自室にお籠もりになられて
しまいました。きっと、深くお傷つきになられたのでしょう。無理もありません、御自分の
婚約者様が婚礼の儀前日に失踪したとあっては心をお痛めになって当然です。
 そして、そんな若様の姿を尻目に安堵の溜息を洩らしたわたくしは──最低の女でした。
 自己嫌悪に心が苛まれながらも、背徳的な歓喜の震えを抑えきれないのです。
 あまりに邪なその感情は、紛れも無くわたくしの若様に対する慕情が揺り動かすもの
でした。禁じられた想い故、それが生み出すものはあまりに巨大で、自分自身を容赦なく
傷つけていきました。そうやって理性が弱っていくことを良い事に浅ましい欲望は膨れ
上がり、若様の温もりに触れたいという想いが四六時中、頭の中を駆け巡ります。
 わたくしは、自分自身が狂ってしまうのではないかと思うほど、心の中に渦巻く相反する
感情の激しい流れに翻弄されておりました。
 しかし、そんな苦悩が続くある日に、わたくしは気づいてしまったのです。
 
 狂ってしまえば良い、と。

 その甘言は、瞬く間に理性を溶かし、薔薇色に塗りつぶされた幻想を次々と広げ、わたくしを
誘惑するのです。心を焦がす恋慕の情に流され、何もかも白日の下に曝け出してしまえば
良いのではないか──そして、後は全てを若様のお心に委ねるのです。
──子を産め、と言われれば産んでみせましょう。
──愛妾になれ、と命じられれば身も心も捧げてみせましょう。
──離れるな、と仰られるならば人生もこの命も省みずお側に控えましょう。
 それが若様のお言葉でありさえすれば──。

 ◇ ◆ ◇ ◆ 

 若様がわたくしをお呼びになられたのは、日暮れから振り出した大粒の雨が激しい勢いで
叩きつける夜のことでした。

665 :2/5 ◆GK0/6l5f56 :2009/01/04(日) 12:38:49 ID:jqYfUPQo
 それまでの間にわたくしは自分の紡いだ甘い考えに完全に魅了され、想いの丈を若様に
伝えようと心を決めておりました。ですから、その時を今か今かと心待ちにしておりました。
 密かに心躍らせながらお部屋に参上いたしますと、若様が憔悴しきったお姿で椅子に
座っておいででした。入ってきたわたくしを見つめる目の下には隈がくっきりと浮かび上がって
います。お優しい御方ですから失踪された婚約者様に、今も心を痛められているのでしょう。
「若様、お呼びでございましょうか」
 取り澄ましたつもりでも、心ならず声が上ずってしまうのが自分でもわかります。決心が
揺らがないうちに早く告げてしまわねば、と気だけが急いてしまいます。
「ああ。夜半にすまない」
 しかし、そんなわたくしの心など露ほどもお知りにならない若様は渋い表情をしていらっしゃい
ました。
 暫しの沈黙の間、ガラス窓を叩く雨音とランプの炎の揺らぎだけが部屋の中で、わたくしに
時間が流れていることを教えてくれました。
「御用は何でしょうか」
「お前も知ってのとおり、あの話は破談になった」
 何度も言葉を飲み込んで、顔を強張らせた若様は呻くように呟かれました。
「その節は、お悔やみ申し上げます」
 心にもないことを口にできる自分自身に嫌悪感が湧いてきます。
「だが、父さんも母さんも僕の結婚を諦めるつもりはないらしい。すぐさま代わりの相手を探し
ている」
 それについてはメイド達の間でも、噂になっておりました。「次はどちらのお嬢様だろうか」と
皆が興じるおしゃべりを聞いていることが堪え難くて、そそくさとその場を後にしたことは一度や
二度ではありません。
 しかし、どれだけ耳を塞いでみたところで、若様の次なるお相手が探されていると言うのは、
紛れも無い事実でした。由緒正しき血統の格式ある貴族で、しかも婚期を迎えたこの御方を
周囲は放っておくことなど考えられません。実際、引く手数多でいらっしゃいました。ですから、
お相手を探すといっても、実際は他家から送られてくる申し出の中から相応しいお嬢様を
選ぶだけでしかありません。早晩、若様と釣り合いの取れる御方が現れてしまうことでしょう。
 もう、若様がご結婚されることは不可避の事実です──だから、せめてわたくしの気持ち
だけは伝えたい。
「わか……」
「やはり、いつまでも逃げることはできないと思う。つまり、僕自身も真剣に結婚のことを
考えざるをえない」
 わたくしの言葉を遮った若様が顔を挙げ、短い溜息を吐かれました。何故だか、その仕草が
わたくしの心に暗い影を落とします。
 重苦しい雰囲気が漂い始めた頃、窓を激しい雨が叩く音が一層大きさを増します。
 まるで礫がぶつかるようなその音に、あの若様の一言が掻き消されてしまえば──。

「……そこで、お前には出て行ってもらおうと思う」

 刹那、ランプの灯りに若様のお顔が翳り、表情を伺い知ることはできませんでした。

666 :3/5 ◆GK0/6l5f56 :2009/01/04(日) 12:39:37 ID:jqYfUPQo
 僅かな時間の間に何度も何度も若様の声が反芻されました。
 信じられない──いえ、信じたくありませんでした。
 ですが、それが若様のお言葉で──御意思ならば──。
「そう……ですか」
 やっと、搾り出した声は我ながら憎らしいほどに鮮明でした。この場で泣き崩れて
しまえば、楽になれるのに──でも、そんな資格、卑しいわたくしにはありません。
 ひととき、分不相応の夢を見た自分が浅はかで、愚かしく、あまりに情けないので、
この世から消えて無くなってしまいたい、心の底からそう願いました。
 自暴自棄になりかけたわたくしを現実に引き戻したのは、苦悩の色がありありと浮かぶ
若様の瞳でした。それは、この御方がほんの僅かでもわたくしのことを気にかけ、心を
痛めていただけたことを如実に物語っておりました。
 それが心を落ち着け、この後のことを考える余裕をくれました。しかし、すぐにわたくしは
事態の余りの恐ろしさに、身震いが止まらなくなります。
 
 お屋敷を辞めなければならないということは、再び”市場”に戻らなければならないのです。
 
 今のわたくしには、再びメイドとして買って頂けるだけの価値はありません。今度こそ、
娼婦として生きる日々を送ることになるでしょう。
 見知らぬ男性をお客様として、お金を頂戴して一夜限りの相手として身体を許す自分の
姿を想像するだけで、早くも眩暈がいたします。しかし、それだけがわたくしを買うために
若様が支払われたお金の四分の一をお戻しするための唯一の方法。
 堕ちていくだけの未来の惨憺たる有様に絶望する一方、これまでの人生が幸せ過ぎた
ことに改めて気がつきました。メイドとして生きることは、貧しい女達の憧れであり、最高の
至福でございます。まして、一度お払い箱になった身で再び若様のような凛々しく高貴な
御方に買って頂き、あまつさえ僅かな時間とは言え、心寄せる方の温もりに溺れることが
できたこと──これ以上の幸せがどこにありましょうか。
 これからはこの思い出を大切に心にしまって、時々思い返せばきっとどんな過酷な運命が
待っていても生きていけることでしょう。
「短い……短い間でしたが、お世話になりました。僭越ながら、若様のこれからのご多幸を
お祈り申し上げております」
 この場の空気にこれ以上、堪えられなくなったわたくしがお辞儀をして、その場を離れよう
とした瞬間、若様に引き止められました。
「お前には色々と迷惑を掛けた。これはせめてもお詫びだ」
 手渡されたのは、金貨が溢れんばかりに入ったズシリと重い布袋でした。
「こ、これは!?」
「これまでの給金代わりだと思って受け取ってくれ。それから、お前の債権を放棄する旨の
証書も入っている。だから、買い上げた金の返戻はしなくて構わない」
 お金の返礼をしなくても良いということは、娼婦として身体を売る必要もなくなったという
ことでしょうか。あまりのことに脳裏には、深く立ちこめていた雨雲が、陽光によって切り裂かれ、
やがて青空が広がる光景が浮かびました。
 しかし、すぐさま黒雲が盛り返してきて、全ての光を遮ってしまいました。”自由”と言われても
──世間知らずのわたくしがどうやって、この後生きていけば良いのか、と途方に暮れてしまいます。

667 :4/5 ◆GK0/6l5f56 :2009/01/04(日) 12:41:41 ID:jqYfUPQo
「……ありがとうございます」
「働くあてはあるのか?」
「いえ。これから探します。ご心配なさらないでください。探せば、きっとわたくしにも
できる仕事の一つや二つぐらい……」
「探さなくて良い。実は、ある屋敷で人が足りなくてな。勝手だとは思ったが、お前を
紹介しておいた」
 突然の申し出にわたくしは言葉を失ってしまいました。
「アストラッド家というが……もう話はつけてある。お前さえ構わなければ、すぐにでも
向かって欲しい」
 アストラッド──という御家名は残念ながら存じ上げておりませんが、若様のご好意を
無為にしないため、どこであろうと粉骨砕身、働こうと即座に決断いたしました。
「変わらずメイドとして、でしょうか?」
「メイドとは少し違うが、悪いようにはしない。信じておくれ」
 若様のお言葉を信じるも信じないもございません。世間を知らぬわたくしが職探しなど
してみたところで、酒盛り場の給仕がやっとでございましょう。お屋敷仕えとそれを
比べれば、雲泥の差がございます。
 わたくしはメイドの作法とはまるで違うお辞儀を何度も繰り返しました。
「ありがとうございます。一生、この御恩は忘れません」

 ◇ ◆ ◇ ◆
 
 わたくしは二日ほどお暇を頂き、その間に荷物を纏め、一緒に働いたメイド達に
お別れを告げました。誰もが口々に「何故、解雇されたのか」と問うてきましたが、
わたくしはただ曖昧に笑い、その理由については決して口にはしませんでした。
 そして、その日がやってきました。
 その朝、わたくしは両親から譲り受けた形見のトランクケースを片手に、清掃を終えた
私室を見渡しました。
 私物は全て革製のトランクに詰めておりますから、部屋はガランとしております。その光景が
初めてここに来た時のことを思い起こしました。
 見慣れた小さな両開きの窓から、朝日が皺一つなく整えたシーツの上に差し込んで
おります。壁には二度と着ることの叶わない、このお屋敷のメイド服が掛けられております。
 初めて若様に求められた日、メイド服のボタンを引き千切られ大変な思いをしました。
あの時は自室に戻るなり、余韻で火照る身体を鞭打ち、泣きそうになりながら必死に
ボタン付けをしたものです。今では思い出す度に自然に頬が弛んでしまう良い思い出です。
 名残惜しさはありつつも、わたくしは部屋を出て静かにドアを閉めました。
「……さようなら」

668 :5/5 ◆GK0/6l5f56 :2009/01/04(日) 12:42:23 ID:jqYfUPQo
 毎日を過ごしたこのお屋敷との別れを惜しむ気持ちは膨らむ一方でしたが、それにも
増して若様への身の程知らずな慕情が身を焦がすほどに込み上げてきました。
 居た堪れなくなって、わたくしは逃げるように建物を出ました。
 結局、あの日以来、若様とお話することも、お会いすることも叶いませんでした。しかし、
元々、主人とメイド──それに今のわたくしは解雇された身。ですから、お目になど
かかれるはずございません。
 お屋敷の門を一歩でると、その前に立派な二頭立ての馬車が止まっておりました。
栗毛色の毛並みの良い馬は、黒く大きな瞳でわたくしを見つめます。
 暫しその馬の姿に見蕩れていたところ突如、後方から声を掛けられました。
「失礼ですが、あなたはこれからアストラッド家にお向かいになられる御方でしょうか?」
「えっ……ええ。はい」
 返事をすると、御者の格好をした男性は品の良い笑顔を浮かべながら、帽子を取り
お辞儀をしました。
「そうですか、あなた様がですか。私はこちらのお屋敷の方に、あなた様をアストラッド家まで
ご案内するよう申し付けられたものでございます」
「どなたにでしょうか?」
「さあ、お名前はお伺いしなかったので、存じ上げません。ささ、お乗りください。お待たせ
してはあちら様に失礼ですから、さっそく出発致します」
 促されるままに慌しく馬車に乗り込むと、すぐに御者は馬に鞭を入れました。
 窓の外を流れていく景色をぼんやりと眺めていると、自然と視界が霞んできました。
何度目を拭っても、すぐに光景が滲んでしまいます。短い溜息をつき、二度と会うことの
できない愛しい御方のお顔を思い起こしてみました。

 揺れる車中、わたくしは顔を覆い──嗚咽が御者に聞こえぬように泣き続けました。
 
(了)

691 :1/9 ◆GK0/6l5f56 :2009/01/12(月) 13:22:18 ID:8goP3gLX
連投気味で申し訳ないですが、>>664-668の続きです。
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 僕にとって、妻と閨を共にすることは純粋な愉しみであり、悦びだ。
 多くの貴族達は、夫婦の性交は跡継ぎを作るためと言って憚らないが、妻との交わりを
そのように思ったことは一度もなかった。
 妻の華奢な身体は、僕が突き上げる度に陸に上がった若魚の如く跳ね回り、大人しく
腕の中に収ってくれない。
「あっ!……は、んっぅ……やっ」
 眉を潜め必死に声を洩らすまいと唇を噛み締めるその姿がいじらしく、どうしようもなく
愛おしい。
 弓なりの背に回した腕を解き、替わりに”彼女”の乳房を掌で弄ぶ。
「ふっ、んっ……ダメ、ダメです……ぁああ」
「今日は、一段と可愛らしい声で啼いてくれるんだね」
「いや……あんっ……そ、そんな意地の悪いこと……仰らないでください」
 首を振ると見事な黒髪がうねり、幾条かが汗の浮く白い首筋に張り付く。
「いや、意地悪をしているつもりはないよ。褒めているつもり」
 それでも”彼女”は長い睫毛を震わせながら、閉じた目を開けようとしない。
「イヤらしい女では……あなた様の妻に相応しくありません」
 別にそんなことを気にしたことはない。淫らだろうが、何だろうが、”彼女”でありさえ
すれば僕には充分だ。
「そんなことは気にしてないから、安心して。僕の妻はお前しかいない……その代わり、
嫌だと言っても手放してはやれないけど」
 途端に妻は頬を真っ赤に染めて、やっと目を開く。
「……もったいないお言葉」
 恥ずかしげに口籠もる”彼女”を眺める僕の脳裏に、ふと昔のことが過ぎった。

 ◇ ◆ ◇ ◆

 昔と言っても、たかが一年前のことだ。
 当時の僕は屋敷のメイドに懸想していた。彼女を初めて見たのは、貴族の友人に
連れられて行った”市場”だった。我が家ではあまり市中に出かけることを良しとしないため、
人身売買を行う”市場”と呼ばれる場所があることは知っていたが、実際に出向くのは
それが初めてだった。
 そこで、僕は彼女を見つけた。
 中年の”ブローカー”は、「コイツは女としては問題ないんですが、歳を食っているし、
何よりどこぞのお屋敷を首になって”市場”に出戻ってきたんで、買い手なんて見つかりっこ
ありませんよ。どうせ売れ残るのは間違いないから娼婦として売りに出そうと考えていたところ
でして、旦那が買ってくれると言うなら、その辺りのメイド志願の女より格安でお売りします」と
言った。
 別に格安でなくても、僕は彼女を買ったに違いない。
 彼女に買った旨を告げると、僕の前で大粒の涙を流しながら何度も礼を述べ、繰り返し
頭を下げてきた。

692 :2/9 ◆GK0/6l5f56 :2009/01/12(月) 13:27:26 ID:8goP3gLX
 別に彼女が礼を言う必要などなかった、僕が他の誰にも渡したくなかっただけだから。
 屋敷に連れて帰ると、父と母から猛反発を受けた。屋敷のメイドは皆、目の確かな
メイド長が選んでいる。給金で働くメイドも買い上げてくるメイドのいずれも、である。
 だから、僕が勝手に”市場”で買ってきたどこの馬の骨とも知れない女を側仕えさせる
ことには露骨に嫌そうな顔をした。
 だが、僕は断固として主張を曲げず、ついに彼女をメイドとして働かせることを
認めさせた。それからというもの、退屈だった毎日が一変した。彼女のことを思えば心が
躍り、彼女の顔を見れば天にも昇る無情の喜びに浸る日々が続いた。
 しかし、そんな幸福な時間はあっという間に終わりを告げた。
 彼女を迎え入れてから半年もしないうちに、僕に縁談の話が持ち上がったのだ。
 破談にしようと努力してみたものの、ひとたび家同士で決められたことを個人の我侭で
覆せるほど貴族の社会は甘くない。最終的には逃げ道を全て塞がれ、見知らぬ女性と
結婚することを渋々承諾せざるをえなくなってしまった。
 だから、せめて想いの丈だけでも伝えようと彼女を呼び寄せた。しかし、彼女が開口一番
告げたのは、「ご婚約おめでとうございます」という最も聞きたくない言葉だった。
 それが引き金となって、行き場を失った慕情が狂ったように暴走を始めた。
 衝動に駆り立てられれるまま、彼女に襲い掛かり、抵抗する彼女を組み敷き、必死に
赦しを乞う彼女を犯した。
 いくら主従と言えども許される行為ではなかった。だから、あの夜の出来事があって以来、
彼女が僕を避けるようになったとしても止むをえないことだった。そうだと頭で分かっていても、
恋慕の情は募り心を激しく掻き毟った。いつの間にか、彼女をどうすれば、我がものにできるか
ばかり考えるようになっていった。
 悩んだ末に、僕は彼女に子供を産ませることを思いつく。
 彼女に子供を産ませ、そのまま暇を出す。無論、住む家や生活に困らない費用を出しながら
密かに通い、然るべき時に公にして彼女と子供を迎えに行く──今となってみれば、問題を
先送りにするだけの浅はかな猿知恵だったと感じるが、当時は夢見心地になったものだ。とは言え、
大前提である子を宿すことすらできなかったため、計画はいとも容易く頓挫した。
 そうこうするうちに、婚約者を迎えに上がる前夜になってしまう。
 その夜、彼女は僕をハッキリと拒絶した。今まで、「嫌だ嫌だ」とは言われたが、最後は
僕の我侭に付き合って身体を許してくれていた彼女が何もかもを拒んだ。
 希望の扉が閉ざされ、目の前が暗くなっていった。残ったのは、絶望と言う名の暗闇。

 結局、彼女の目には、僕が主人の地位を嵩に使用人を弄ぶ我侭な子供に映ったのだろう。
 歳は三歳ぐらいしか離れていないが、彼女は僕とは比べ物にならないほど苦労を重ねて
きたことぐらい──無数に赤切れた指を見ただけで分かる。
 できれば、炊事も洗濯も──メイドの仕事すべてをやらせたくなかった。ただ、僕の側で
一緒に食事をして、お茶を飲みながら談笑して、同じ寝具に入り、そしてまどろんでいて
欲しかっただけなのに──それは夜空の星と同じぐらい遠く思えた。

693 :3/9 ◆GK0/6l5f56 :2009/01/12(月) 13:29:11 ID:8goP3gLX
 ◇ ◆ ◇ ◆
 
 婚約者が失踪したことは──相手方には誠に申し訳ないが僥倖だった。
 許される感情ではないことぐらい重々承知している。それでも──許して欲しかった。僕が
愛したのは見知らぬ婚約者ではなく、メイドの彼女なのだから。
 せめて、失踪した婚約者もどこかで彼女の愛する人物と幸せに暮らしてくれれば良いのに、
と思ったがそんなことはありえないだろう。ベッドに残った血痕からも明らかな通り、きっと
何らかの事件に巻き込まれたと考える方が妥当だ。
 相手方に一通りお悔やみの言葉を述べ、僕は早々に自分の屋敷に戻ることにした。ここに
いても何もできないし、もし仮に婚約者が帰ってきても、この話は彼女が婚礼の儀の朝に
いなくなった時点で無いものになったのだ。元の鞘には戻らない。
 妻帯者になることを免れたとは言え、僕は出発前のあの夜のことを思い出すと気分が
憂鬱になった。
 僕に凌辱された後も、彼女が自分を主人として慕ってくれていることは知っている。だが、
それも所詮、僕が彼女を”市場”から買い上げた貴族だったからに過ぎないのではないか。
もし、他の誰かが買っていれば、彼女はその他の誰かを慕ったのではないか。
 そう思うと、一気に不安が襲ってきた。
 彼女に”男”として愛されていなければ──感謝が形を変えただけの慕情しか抱かれて
いないとすれば、僕に彼女を伴侶として迎える資格などない。だが、例えそうだとしても、
彼女の本心を知らなければ僕の気持ちに決着はつけられないだろう。
 そして、その答えは彼女に求婚することでしか得られない。
 そうしなければ、彼女は僕の求愛を単なる我侭な貴族の戯事ぐらいにしか考えてくれない
だろう。僕が本気だということを理解してもらうにはそれしかない。それに、前の二の舞は
御免だった。次の相手こそは、自分が見初めた女性にしたい。
 だが、現実的に求婚することを考えると、彼女がずっと口にしていた身分の差が重く僕の
心に圧し掛かる。貴族が求婚することは軽い話ではない。まして、我が家のように格式を
重んじる家系の息子が買い上げのメイドに求婚したなどと世間に知れれば、醜聞好きの
連中から格好の餌食にされるに違いない。
 僕だけならば、何と言われても構わない──しかし、両親、兄さんや妹達のことを考えると
気が滅入る。一人の愚かな人間の犯した不始末で没落していった貴族は、歴史上腐るほど
いる。
 僕はそんな連中を鼻で笑っていた──そして今度は、僕が嘲笑される番だった。
 彼女を本気で愛していないから、僕は今更になって求婚を躊躇い、家のことばかり考えるの
だろうか。いや、違う。僕は愛している──誰よりも彼女を愛している。そうでなければ、ここまで
悩むことなどないのだ。
 八方塞の現実に僕は溜息をつくことしかできない。
「ダメだ……」
 絶叫は、畦道を走る車輪の音に紛れたが、頬を伝う熱いものは堪えきれなかった。
 結局、どうあっても彼女に求婚することなど──まして、伴侶として迎えることなどできないのだ。

694 :4/9 ◆GK0/6l5f56 :2009/01/12(月) 13:30:58 ID:8goP3gLX
 深い絶望に覆われ、考える力をなくした僕は放心したまま窓の外を流れる似たり寄ったりの
長閑な田園風景をただ眺めていた。そのうちに、何かが脳裏で蠢く。それは漠然としていながら
明確な自己主張を秘め、小さな囁き声でありながら聞き逃すことを許さない響きを帯びていた。
 急いで、しかし、それが壊れてしまうことのないように丁寧に、思考の泥濘の中から”それ”を
掬い上げる。

 作れば良いのだ──高貴な家柄かつ彼女と同じ美貌を併せ持つ”彼女”を、僕が作って
しまえば良いのだ。そうすれば、誰にも何の気兼ねもなく求婚できるではないか!

 何故、こんな簡単なことに気がつかなかったのだろう。瞬間、僕は狂ったように湧き起こる
笑いを抑えきれず、馬車の中を転げまわった。
 幸い資金は潤沢にある。金に糸目をつけず、湯水のように注ぎ込めば不可能な話ではない。
僕は屋敷に戻る前に、友人の邸宅へこっそりと寄ることにした。勿論、僕のこの素晴らしい
アイディアを相談するためだ。
 僕が一通り説明を終えると、友人は怪訝な表情を作る。
「……気でも触れたか?」
「いや、至って正気だよ。僕は」
「だとしたら、元々、おかしくなっていたとしか考えられないな」
 友人は僕の考えを聞くなり、肩を竦め、呆れ顔を作った。
「協力しろよ、な?」
「もう一度訊くが、本気か?」
 覗きこむ彼の視線は未だ僕が冗談を言っているのではないかと、半信半疑だ。無理もない。
 こんな途方もなく、馬鹿げたことを言い出す人間などそうはいないだろう。 
「大体、お前の考えには貴族社会で尊ぶべきモラルが欠片も感じられない」
「欲しいものを手に入れるために、金を使う……どこが、おかしい?」
「方法が問題なんだよ!」
 珍しく冷静な友人が怒鳴るので、さすがに僕も居住まいを正す。一度、息を吸い込み、
肺が充たされたのを確認するとゆっくりと吐き出し、気持ちを落ち着ける。
「……協力しろ。お前以外に頼める人間がいない」
 低く押し殺した声は僕が本気の証拠だ。
 友人を暫く僕の目を探るように見つめ、溜息を零す。
「……ちっ。分かったよ。だけど、俺はどうなっても知らんぞ!」
 渋々と言った態だが同意してくれたことで、胸を撫で下ろす。僕の計画に不可欠だった
協力者を得たからには、理想の”彼女”を作ることへの障害はなくなった。

 そして──彼女を屋敷に置いておく理由もなくなった。

「そう……ですか」
 彼女は眉一つ動かさず、バラバラという雨音の中でもハッキリと聞こえる澄んだ鮮明な
声を紡ぎ出す。

695 :5/9 ◆GK0/6l5f56 :2009/01/12(月) 13:32:29 ID:8goP3gLX
 せめて、泣き崩れてくれれば──きっと気が変わっただろうに。しかし、彼女はまるで
申しつけを聞くかのように、淡々と事実を受け止め小さく頷くだけだ。
 金貨と証書が入った袋を渡す。本当は証書をアストラッド側に譲り渡すと告げるつもり
だったが直前で止めた。証書などなくとも彼女が僕の申し出を断る可能性がないことが
分かりきっていたからだ。
 案の定、何も知らない彼女は長い睫毛を震わせ、僕に感謝の言葉を何度も繰り返す。
 彼女を下がらせると、全身に冷たい汗をかいていたことに気づく。分かっていても、
愛する人間を手元から失うことは、この上なく辛いことだった。
 しかし、それもこれも僕の伴侶たりえる”彼女”を作り出すため止むをえないことなのだ。

 ◇ ◆ ◇ ◆
 
「どうか、なされましたか?」
 ”彼女”の一声で、僕は現実に引き戻された。
「いや。ちょっと、昔のことを思い出していた」
「昔の……女性のことをですか?」
「お前を手に入れるまでの顛末を、さ」
 ”彼女”は僕にとって完璧な女性だ。
 流れるような黒髪、深みを持つ瞳、緩やかな曲線の鼻、薄いけれど瑞々しい唇、ほっそりと
していながら女性的な柔らかと膨らみを失わない肢体──どれをとっても”彼女”は僕の
思い描く理想そのものだ。
 羽毛のように柔らかな髪を一房、手に取り何度も指を通してその感触を愉しむ。行為の
途中だが、時にはこんなのも良いかと思う。
「後悔なされたのですか?」
「まさか」
「わたくしは……偽者ですから」
「誰も気づかなければ、本物さ。僕とお前と協力者以外、誰も知らない」
 そっと口を寄せ、不安げな”彼女”の唇を奪う。
「怖いのです。いずれ、本当のわたくしを知るあなた様がお見限りになられる日が来るの
では、と」
「奇遇だね。僕も怖いよ。お前が僕を捨てる日が来るんじゃないかって、ね」
 僕の答えに、腕の中の”彼女”は納得のいかない表情をしている。
「……業が深いだろ、僕は」
 
 ◇ ◆ ◇ ◆

「この期に及んでだが、もう一度聞かせてくれ。本気なのか?」
「ああ」
 ある舞踏会場の二階に客間を一つ用意してもらい、僕と友人はそこである女性を待っていた。

697 :6/9 ◆GK0/6l5f56 :2009/01/12(月) 13:36:25 ID:8goP3gLX
「問題になる……では、すまないぞ」
「バレたら、の話だろ」
「俺がバラすかもしれない。口が軽いのだけが取り得だからな」
 僕が笑うと、友人は何だよと唇を尖らせる。
「大丈夫だよ、お前ならば」
 もし、友人が本当に暴露するつもりなら、わざわざ僕の気が狂った計画に協力するなど
という危ない橋を渡る真似はしなかっただろう。それに何より彼は信頼に足る人物だ。
 そうこうするうちに、ドアをノックする音が室内に響く。
「どうぞ」
 開いたドアの向こうには、見目麗しい貴婦人が困惑の表情を浮かべながら立っていた。
 僕が作り上げた”彼女”だった。
 そして目が合った途端、”彼女”の長い睫毛が震え、漆黒の瞳が大きく見開かれる。
 ゆっくりと立ち上がって一二歩、”彼女”に歩み寄り、深々とお辞儀をする。
「ご機嫌麗しゅう」
「……あ、ああ。こ、これは……悪い冗談なのですね。そうです、そうに決まっていますわ!」
 ”彼女”は唖然とした表情ながら、僕に疑義の視線を投げ掛ける。
「何を仰っているのでしょうか?」
 わざと惚けてみせる。すると、”彼女”が白い手袋嵌めた指先でスカートをキュッと握り
締める。
「何故ですか?何故、わたくしに他人の真似事などさせるのですか?」
「……あなたが欲しかったから。そのためにあなたの人生を捻じ曲げ、歪め、そしてあなたの
全てを作り変えた。他人の人生を弄ぶなど、唾棄に値する行為であることは分かっています」
 ”彼女”も友人も押し黙って、ただ僕を見つめる。
「自分の罪の深さは認識しています。ただ……あなたへのこの想いだけは嘘偽りないもの
です。だから、今日この場で、僕が求婚することをお許し頂きたい」
「きゅ、求婚!?」
 驚きの余り、大きく開けた口を”彼女”は慌てて掌で覆い隠すが、目はあちこちを泳いでいる。
僕はそんな”彼女”の前に跪き、そっと左手の白いレースの手袋を脱がせる。ほっそりとした
指先に触れるとゾクリと歓喜が背筋を走る。
「わたくしめの願い出に、お答えを頂きたい」
 古くからの定まった求婚の口上を述べた僕、片膝立ちの姿勢のままは目を閉じる。
 後は、”彼女”からの答えをただ待つだけだ──求婚を受け入れるならば、女性はその旨を
口にし、もしそうでないならば、無言のまま手を引く。
 自然と”彼女”の手を握る指が震える。女性が決断するまでの間、求愛した男は女性の顔を
見てはいけない。これは男が女性を脅したり、威圧したりして決断を誤らせることのないように
定められた求婚の礼節である。破られた場合には、女性は求婚の申し出をなかったものに
することができる。
 僕は瞼を閉じて重苦しい空気の中、”彼女”の言葉を待った。

698 :7/9 ◆GK0/6l5f56 :2009/01/12(月) 13:40:20 ID:8goP3gLX
 ”彼女”が声を掛けてくれることを心の底から祈った。
 微かに”彼女”の指先が震える。
 無意識のうちに”彼女”の手を握る指に力が籠もってしまう。手を引かないで欲しい、
縋るような想いでただ、答えを待つ。
 そして、それは唐突に降り注いできた。 
「……これは、夢ではないのでしょうか?」
 ゆっくりと見上げると、”彼女”がその澄んだ瞳で僕を見ながら問い掛ける。
「悪い……夢なら覚めて欲しい、とでも?」
 ”彼女”が首を横に振り長く伸びた黒髪がしなやかに踊る。
「いえ。その逆です。夢なら覚めないで欲しいと」
 ドクン!
「こんなわたくしで宜しいのですか?わたくしは……」
「お前でないとダメなんだ。お前が僕の側に居て、僕を愛してくれれば……それ以上、何も
望まない!」
 求婚の作法は完全にすっ飛んでいた。細い手を握り締めたまま、僕は慈悲を乞うが如く
叫んだ。”彼女”は駄々を捏ねる子供をあやす母親のように目尻を下げて苦笑いを浮かべていた。

「では……わたくしを幸せにしてくださいませ」
 
 そう答えた”彼女”が微笑んだ姿は息が詰まるほど美しく、僕は愚かにも誓いの口付けを
忘れて暫くの間、見惚れていた。

 ◇ ◆ ◇ ◆

 そして今、”彼女”と上質な絹のシーツの上、互いに生まれたままの姿で一つになっていた。
「はぁ、っ……ふっ、んん……も、もう、おかしく……な、なってしまそうで、ぁん」
 額に珠のような汗を浮かべながら、目尻を下げ今にも泣き出しそうな顔で喘ぐ”彼女”は
どんなものよりも僕の心を悦ばせ、そして充たしてくれる。
「もう少し、くっ……我慢して」
「は、っん、はい……ひっ、ぁくぅ」
 僕の言葉に素直に従う”彼女”は、どれだけ責めても慎ましさだけは決して失わない。黒い髪を
振り乱し、僕の与える快感に悶えながら”彼女”は昇っていく。
 それに呼応して、”彼女”の内側は締め上げる力を強くし、僕の下腹部に痺れにも似た快感が
広がる。こうなると、僕が達するのも時間の問題だった。
「……っ!」
 声を噛み殺して、”彼女”の内側に精を放った。
 迸った子種は一度や二度では留まらず、脈動を繰り返しながら自分でも信じられないぐらいに
出てくる。吐精が終わると、僕は”彼女”の隣に身を横たえ、鼻先が触れ合う距離で見つめ合う。
”彼女”の双眸にはまだ僅かに官能の炎を燻ぶっており、それを見ただけで性懲りもなく再び欲情が
込みあがってくる。

699 :8/9 ◆GK0/6l5f56 :2009/01/12(月) 13:46:55 ID:8goP3gLX
「子供……できると良いね」
 劣情を隠すように、何気ない素振りで僕は呟いた。
「……どちらが宜しいですか?」
「お前に似た女の子、が良い。男だと、僕みたいに罪深くなりそうだから」
 冗談のつもり──僕は笑ったはずだった。
 でも、違った。
 僕は泣いていたのだ。
「自分をお責めになるのは……もう止めてください」
 ”彼女”の手が伸びてきて、曲げた指で僕の目尻を拭う。
「わたくしは感謝申し上げているのですから」
「……」
「お屋敷の玄関を開けた途端に、一列に並ばれた使用人の方々が『お帰りなさいませ、
お嬢様』と仰った時は、さすがに頭がおかしくなりそうでしたが……」
 その話を聞くのは何度目だろうか。
「でも、わたくしが夢にも見たことがないぐらい素晴らしい生活を送れるのは、あなた様の
おかげなのですよ」
 頬を桜色に染めながら、”彼女”がニコリと微笑む。
「僕は感謝されるようなことは何一つした覚えはない。ただ、僕の我侭でお前を振り回した
だけだよ」
「フフフ。では、我侭のお相手に選ばれたことを感謝いたしますわ」
 ”彼女”には敵わない。
「でも、わたくしのためにあなた様には、計り知れぬご苦労をお掛けしました……そのことを
後悔なさったことはないのですか?」
 頬にかかった黒髪をそっと払ってあげると、”彼女”は擽ったそうに目を細める。
「いや。アストラッドの名籍を買うのは手間こそかかったけれど、実質ただ同然だったし、
この屋敷だって……まあ、安くはなかったけれど別に無理をした覚えは無い」
 幸福な現在から振り返ってみれば、アストラッドの名籍や屋敷を買うために費やした金など
どれほどのものだったと言うのだろうか。婚礼先から屋敷に戻り、三日三晩を費やして名籍を
買収するため各方面へ手紙を書きまくり、極度の寝不足に陥ったことも今となれば良い思い出だ。
「でも、わたくしのためにして頂いたことは、貴族の方々の道徳観とは相容れないことだと
仰いましたよね。やはりご迷惑をお掛けして……」
 ”彼女”の言うとおり、僕の取った行動は貴族制度そのものに対する冒涜行為だった。
自分の愛した女性のために、血筋の途絶えた貴族の名籍を買い取り、そこへ彼女を送り込み、
まんまと跡継ぎにしてしまう──つまり、貴族の地位を金で買ったのだ。企てが露見した日には
唯では済まないことぐらい覚悟している。
 しかし、秘密が保持されさえすれば、”彼女”への求婚も所詮、貴族同士のありふれたもの
に過ぎないのだ。たとえ、相手の素性が、卑しい身分の出身だったとしても、だ。
 こうして、僕は求婚できない彼女を、伴侶たりえる”彼女”へと作り変えたのだ。
「良いんだ。別に構わないんだ。僕からして見れば、貴族の考え方が間違っているんだよ」

700 :9/9 ◆GK0/6l5f56 :2009/01/12(月) 13:48:18 ID:8goP3gLX
 そっと手を伸ばし、指先で”彼女”の頬を撫でる。形を確かめるように、何度も何度も
なぞっていると、ジワジワと幸福感が込み上げて来る。
「今まで僕の我侭に散々振り回したお詫びに、お前の望みを叶えたいんだ。思いつく
ものを何か言ってくれないか?」
 問い掛けに、”彼女”は少し小首を傾げ「では……」と婉然としながら唇を動かす。

「若様……約束を忘れないでくださいませ」

「……それだけか?」
「はい。お忘れにならないで頂けるなら、それ以上何も望みはございません」
「欲が無さ過ぎるのも考えものだぞ。いらない勘繰りを受ける」
 貴族社会は権謀術数が渦巻き、欲深い亡者どもが跋扈している。自分自身達が様々な
欲を抱くからこそ、他人も同じだと踏む連中は”彼女”のような無欲な人間を最も危険視する。
「あら。これでも充分欲深いつもりですが。卑しい身分のわたくしが、若様に約束を……」
「若様は止めてくれ。もう、夫婦なのだから」
 僕が浮かべた笑いは、苦笑いと照れ笑いの中間だった。今でも時々、”彼女”はメイド
だった頃みたいに僕のことを「若様」と呼ぶ。昔は何も思わなかったけれど、今は何だか
むず痒いからおかしなものだ。
「はい、そうですね。やっと笑っていただけましたから、もう止めますわ」
 その時初めて、僕は自分の涙が止まったことに気がついた。
 やっぱり、”彼女”には敵わない。 
「そう言えば、まだわたくしの望みに対するお答えをお聞きしていなかった気がします」
 唇の舌に人指し指を当てて、”彼女”が僕をジッと見つめる。
「忘れないさ……お前を幸せにすることこそが、僕の望みで、僕の幸せそのものなのだから」
 想いの丈を伝えると、僕は”彼女”の可憐な唇を塞ぎ、柔らかな裸身を胸に引き寄せた。
 この腕の中の温もりがもうどこにも行かないように、ただ──ただ強く抱き締める。

 (完)

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85 :裏切り(1):2008/03/14(金) 17:57:29 ID:qP+Z0aAY
投下します。ファンタジー風味です。
設定は自分でもかなり怪しいですが、悪の組織と戦うヒーロー物みたいなかんじです。



※ ※ ※

「このやろう!ジン!見つけたぞ!」
そう声がするやいなや、扉が勢いよく蹴破られた。
言葉づかいは汚いが、その声は可愛いらしい、女性の声である。
そして、その声の主も、なかなか可愛いらしい女の子であった。
栗色の髪をポニーテールにしていて、年の頃は16、7であろうか。
大きな目がキッ、と睨む先には、一人の男が立っていた。

「あ〜あ、相変わらず乱暴だなぁ、リア。ドア、弁償しろよ?」
殺気だっている少女をよそに、ジンと呼ばれた男は余裕の表情だ。
「今、ここで死ぬ男が、ドアの心配か?それより」
リアは真っ直ぐな目で見つめ、ジンをどきりとさせる。
「どうしてお前、軍を裏切ったんだよ!」
そう、ジンは、数か月前まで軍でリアの相棒だったのだ。
怪力で、武道の達人だが、単純な性格のリアと、
冷静沈着で知性派のジンは、かつて最高のパートナーだった。
だが、それも過去のこと。ジンが裏切ったあの日から。

「あー、分かんないかなあ。リアの足りないオツムじゃ」
「何っ!?」
「…俺は最初から組織の人間だったんだよ。つまり、スパイってわけだ」
その瞬間、リアは目の前が真っ暗になった。
「…じゃあ、最初から騙してたってわけ?…みんな嘘だったのか…?」
ドアを蹴破ったその瞬間も、リアは心のどこかで信じていた。
ジンが軍を裏切ったのは、弱みをにぎられたとか、人質をとられたからで、
心の底から裏切ったわけではないのだと。
「ふざけるな!」

86 :裏切り(2):2008/03/14(金) 18:09:46 ID:qP+Z0aAY
「そこまでだ」
と、突然聞き覚えのある男の声がしてリアは振り返る。
前に戦ったことのある、組織の幹部、リョウの声だ。
そして、リョウの手にはナイフが握られ、もう一人の男の首に突き付けられていた。
「ケンちゃん!」
リョウにナイフを突き付けられているのは、リアの今の相棒、ケンであった。
「すみません…つかまってしまいました」
「お前らの仲間は全滅だ!こいつを殺されたくなかったら、大人しく縄につけ!」
そうリョウが言うやいなや、横からわらわらと兵士がやってきて、リアをとらえた。
リアは、きっ、とリョウを睨んだが、ケンの首もとのナイフを見てあきらめた。
「あなたたちを広間へ連行する。ジン将軍もきてもらう」

広間で繰り広げられていたのは、リアにとって悍ましい光景だった。

87 :裏切り(3):2008/03/14(金) 18:29:17 ID:qP+Z0aAY
ぐちゅっ…ぐちゅっ
パンパンパン…
「ああっ…嫌」
「やめてっ…!…はぁんっ!」
広間では、とらえられたリアの仲間女性戦士たちがレイプされていたのだった。

「…っ!」
今まで、戦いにあけくれていて、そういう知識のなかったリアにとって、
それはあまりにも衝撃的な光景だった。思わず、顔を真っ赤にして下を向く。
「大丈夫か?」
ジンは、心配そうにリアの顔をのぞきこむ。
「うっ…うるさい!敵になんか心配されたくない!」
その様子を、リョウは興味深そうに眺めていた。
「敵に気をつかうとは、まさか、あちらにまだ未練が?」
「…勝者の余裕だよ」
「そうですか。…では、ここでリアさんもレイプしちゃうことにしちゃいましょう。」
ジンの顔が微かに強張る。
「え…」

「や、やめろ!…イヤーっ!」
リアの両手が、上の方に組まれ、縛られる。
幼い顔とは似つかない豊かな胸が、下級兵士によってもみしだかれ、
コスチュームのスカートがめくられて、スコートが露になった。
そして、兵士の手が、リアのスコートの中に入れられようとしたとき、ジンは思わず言った。
「待て!!」
兵士たちの動きが止まる。
ジンは静かに言った。
「…その女は、俺が犯す」

88 :裏切り(4):2008/03/14(金) 20:10:40 ID:qP+Z0aAY
「下がれ、上官の命令だ」
ジンが冷たい声で言い放つ。
「ジ、ジン!」
「ジンさん!」
リアとケンが叫ぶ。信じられない、といった表情だ。
リアは、ジンならば止めてくれると密かに期待していた。
それが、今、何と言った?

「この女は俺が」
すっ、とジンはリアの前に立った。
「…犯す」
その低い声を聞いた瞬間、リアの体にどくん、と熱いものが走った。
「やれやれ、上官の命令には逆らえませんからねぇ。勝手にするといい」
リョウがため息をつく。そして、ケンをちらりと見た。ケンはびくりとする。
「で、こいつは?」
「こいつには、俺がこいつを犯す所を見ててもらう。…そのほうが燃えるだろう?」
リアとケンの顔がかあっと赤くなる。
「なぁ、ケン?お前、この女のこと好きだっただろう?」
ジンはにやり、と笑う。
「そ、そんなことありません!ただ俺は、2人のチームワークの良さが憧れで…!」

だが、その声を無視して、ジンはリアに歩みよる。
「リア」
リアは手を縛られながらも、必死に体をよじる仕草をした。
「こっちを向け」
「嫌だ。お前となんかだれがするもんか!」
「同意は求めてない」
ジンは、無理矢理リアの顔を引き寄せると、強引に唇を押しつけた。
「っ…!」
プライドの高いリアは、目をつぶり、必死に歯を食いしばって絶えようとする。

「ふん…生意気な」
「あっ…!」
今度は、ジンはリアの柔らかな膨らみに手をのばす。
信じられなかった。ジンがそんなことをするなんて。
胸が大きいせいで、リアは何人もの男性にいやらしい目で見られてきたが、
ジンだけは自分を決してそういうふうには見ないと思っていたのに。
だが、歯を食いしばって耐えてはいるものの、
手を拘束され、ジンに唇や歯茎をいやらしく舐められたり、
抱きすくめられて胸を揉みしだかれているうちに、
身体が熱くなってきて、脳の奥が甘くとろけてくるような気がする。
何も考えられなくなる…

89 :裏切り(5):2008/03/14(金) 21:06:33 ID:qP+Z0aAY
「んっ…んんっ!はあっ…!」
気を抜いたすきに、ついにジンの舌がリアの歯を割って入ってくる。
「んっ…んっ…あっ…」
ジンの舌がリアの舌や歯茎に触れる度に、リアはびくりと反応する。
(いっ…いやらしいよぉ…ジンの息づかい…私も、エッチな声でちゃうっ…)
ジンの息づかいを感じる度に、知らず知らず、リアの秘所はじゅんとなってくる。

「あっ!」
リアの白いノンスリーブの中に、冷たい手が入ってきた。
ノンスリーブをたくしあげ、白いブラに手をかける。
「ちょ…!何をする!」
「何って…いくら頭の悪いお前でも分かるだろ?」
「やっ…!」
リアの白くて形の良い胸があらわになる。
「み…見んな!ダメ!見ちゃイヤ!」
リアは、真っ赤な顔をさらに赤くした。男性に胸を見られるなんて初めてだ。
「嫌ぁ…」
つん、と、ジンは色づいた先端に触れた。
ビクン、とリアは身体を震わせる。
「何だよ。嫌嫌言いながらも立派に乳首は立ってるんだな」
「え?」
リアには、その意味が分からなかった。その反応を見て、ジンは言った。
「…気持ちいいと、乳首が立ってくるんだよ」
「嘘!」
「嘘をついてどうする」
その声が本気だったので、恐る恐る、リアは自分の胸を見た。
外気に、ぷるぷるとふるえるその先端。
そこは、見ていて可哀想なほど尖っていた。
「嘘…」
リアは涙目になった。自分がみじめだった。
気持ちいい?犯されているのに。
でも、確かにそう言われてみれば、なんとなく、甘いフワフワとした気持ちがする。
下半身も、なんだかキュンキュンいってるような気がする。
これが、気持ちいいってことだろうか。

さらに、ジンは体勢を変えた。後からリアの胸を揉みしだくようにしたのだ。
その時、リアは今までジンで隠れていて気付かなかったケンに気がついた。
ケンは、リアと目が合うと、サッと目をそらしたが、
その後も目を合わせないようにしながらも、こちらをチラチラと見ている。
それに、リアは気がついていなかったが、なんだか脚をもぞもぞさせている。
「嫌…ケンちゃんまで。…見ないでよ…」
リアは涙声になった。ケンにまで胸を見られている。
胸だけでなく敵に胸を揉みしだかれて気持ちよくなっている自分も。
「や…めて…」

90 :裏切り(6):2008/03/15(土) 00:07:42 ID:qP+Z0aAY
「ふん、お前のお気に入りのケンちゃん、お前の感じてる顔見て興奮してやがるぜ」
少し楽しげに、ジンはつぶやく。
「うぅっ…やめて…」
とは言うものの、身体は全く力が入らない。
身体の芯はアツいし、呼吸は乱れてくる。

「さて、こっちの方は…」
リアは、ギクリとまた現実に引き戻される。
胸を見られただけでも恥ずかしいのに、その手はさらに下肢に伸びてくる。
スカートの下は戦闘中めくれてもいいように見せパンになっている。
いわば、テニスのスコートのようなものだ。
しかし、それとてまじまじと見られては恥ずかしい。
ジンは、リアの脚の間に入り込み、リアの秘所を見つめている。
「スコートって言っても白だから本物と大差ないな」
ジンのあつい吐息がリアのむっちりとした白いふとももにかかる。
ジンはさらにふとももを押し上げ、脚をM字にする。
「やっ…!」
そしてそこにじわっと丸く広がる染みを見つけた。
「ん?濡れてるな。染みになってるぞ」
「え?」
リアには、自分がそんなに濡れてるだなんて感覚はなかった。
「ふ…犯されてこんなに濡れるなんて、お前は淫乱だな」
嬉しそうにジンは言う。

「縛られているのがいいんだろう?え?こうやって憎んでる敵に犯されるのが」
「違っ…あっ!」
スコートが一気にずりおろされた。
「ああっ…」
今まで誰にも見せたことのない、大事な部分が露になる。
こんもりとした丘、薄く生えた茂み。割れ目はぬらぬらと赤く光っていた。
ケンちゃんも、私の大事な部分を見てるのだろうか…
だが、怖くてそっちのほうを見ることはできなかった。

ぬちょ。
ジンは秘部に指を押し当てた。
ぬるぬるしている。その上、次から次へと汁はあふれでてくる。
「んっ…やめろ…」
リアは身をよじらせた。慣れない感覚に戸惑っていた。
「止める?何を」
そう言うと、ジンは探るように指を動かし、目的の場所を見つけると指を沈めた。
「んんっ…!」
リアがすっかり女の顔になっているのを見て、ジンはニヤリとした。
そして、わざとグチャグチャと音を立て、リアの肉壁を擦った。

96 :裏切り(6):2008/03/16(日) 08:15:04 ID:/JnYotaz
>>86-90の続きです。
朝っぱらですが投下します

※ ※ ※

「んっ…」
(ゆ…指が入って…)
今まで感じたことのない、窒に異物を差し込まれる感覚にリアは戸惑う。
(うぅ…なんか、音がやらしい…恥ずかしいよっ)

ぐちゃっ…にちゅっ…くちゅくちゅ…
ジンの手が上下するのに合わせ、蜜は次から次へとあふれ出てくる。
「凄い濡れ方じゃないか。そんなにこの指が気持ちいいのか?」
「んはぁっ…そ、そんな…ことっ」
「なんだ?指よりもっと太いものがいいのか?いやらしい奴だな」
「んん…んーっ!」
リアは「イヤイヤ」と言う風に首を振った。
目をぎゅっとつむり、歯を食いしばって耐えてい
あまりに強すぎる刺激に、目の端に涙がにじむ。
「声だせよ。楽になるぞ」
ジンはそんなリアの様子をにやにやしながら観察していた。

リアの白い頬は上気し、紅く染まっている。
悩ましげに眉をひそめ、大きな瞳に涙をためているリアは可愛いかった。
だが、そんなうぶな表情とは裏腹に、その身体はいやらしかった。
たわわに実る乳房は攻めたてる手の動きに合わせて揺れ、
その先端も固く卑猥に尖っている。
ウエストから腰のラインは丸みを帯びてなだらかで、
欲情をかきたてるむっちりとした太ももも、蜜を滴らせた秘部も
何もかもがジンを興奮させた。

「あぁっ!そこは…そこはダメぇ」
ジンの指が偶然クリトリスに当たったらしい。
「何?ここか?」
ジンは手の向きを変え、わざと手のひらがクリトリスをこするように
容赦なくリアの秘所を攻めたてた。

「んっ…んんんーっ!」
腰ががくがくとし、ビクン、と背中が後にそる。
くちゅくちゅくちゅくちゅ…
もはや、ジンがわざと音を立てなくても自然にいやらしい音が響いていた。
「あっ…イヤ!嫌っ!あぁぁぁんっ!ダメっ!ああんっ!」
リアは、もはや理性の押さえがきかなくなり、何も考えられなくなっていた。

97 :裏切り(7):2008/03/16(日) 08:30:33 ID:/JnYotaz
「あっ、あっ、んっ、もうダメ!」
リアは、ビクビクと身体を震わせながら身をよじる。
「はぅっ、ひっ…ああ…あぁぁぁん!!」
ビクン、と、リアの脚が大きくはずんだ。

「イったか」
達したことにより、ぐったりとしたリアから、ジンは指を引き抜いた。
だらり、と透明な液体が指先から床にこぼれ落ちた。
(俺の指…気持ち良かったんだな)

「はあっ…はあっ…」
リアの窒からも、とろとろと透明な液体が溢れ出ている。

「リア」
リアは、ぼうっとした頭で声の方を見やった。
が、目の前の光景に、一気に目が覚める。
「ジ…ジンやめて」

ジンの腰にそそり立つ赤黒い肉棒を見て、リアはショックをうけた。
男の人のものがそんな風になっているなんて知らなかったし
それよりも、ジンが自分に欲情しているということが信じられなかった。
普段は気の強い女の子ではあるが、気を許した相手には甘えたがるリアは、
ジンが相棒だったときは、しょっちゅうくっついたり
悲しい時にはぎゅっと抱き締めてもらったりもした。
でも一度もそんないやらしいことはされたことなかったのに。
…実はその時、ジンは鬼のような自制心で耐えていたのだが
そのことをリアは知らなかった。
(可哀想だが…他の男にレイプされるくらいなら…)
ジンたちの周りでは、軍の女平気たちが、もっとひどいやり方でレイプされている。
あんな風になるくらいなら…それに…

「やっとこの日がきたよ。今まで何度あんたを犯してやりたいと思ったことか」
「う…嘘」
「嘘じゃない。そんなエロい顔と体をして。俺が何とも思わないとでも?」
それは本当だった。涙をためて見上げるこの純真な少女を見て、
心が痛まないわけではなかった。
しかし、それと同時に、そんなリアの表情は、強く欲情をかきたてた。

98 :裏切り(8):2008/03/16(日) 08:39:06 ID:/JnYotaz
ジンは、脚を持ち上げ、リアの上に被さると、固くなった自身をぐっ、と押し当てた。
未開発な穴は、ジンを初めは押し返したが、ジンは無理矢理腰を押しこんだ。
「あああっ…ジン!」
にゅるり、と先端が入った。
「入ったぞ」
「嫌!抜いてぇ!」
だが、その声を無視して、ジンは欲望のままに自身を押し進めていく。
(く…こんなに濡れてるのに、かなりきついな)
ジンは、激しくピストン運動を開始した。
「ああっ!ダメ!痛い…!やめて!やめてよジン!」
リアは泣きそうになりながら叫んだ。

信じられない。ずっと抱きたいと思っていた女だ。
でもできなかった。自分はいずれ軍を裏切る人間だから。
下手に近付いたら、傷つけてしまう気がして。
だが、今はそんな心配もする必要はない。清らかなこの少女のまんこに
自分のちんこをこすりつけ、めちゃくちゃに汚してやりたい。
ジンは、乱暴に腰を打ち付けた。パンパン、という卑猥な音が響く。

肉壁が、きゅんきゅんときつく、侵入する異物を締め付けてくる。
少し痛かったが、狭い胎内は、この上もなく気持ち良かった。
「痛っ…やだっ!やめっ…もうやめてよぉ」数々の修行や戦いで痛みには慣れているリアだが、たまらず声をあげる。
「今更やめられるか」ジンはさらに強く腰を押し込んだ。

「はぁっ…はぁ」
ジンの動きが止まった。ようやく奥まで入ったようだ。
「どうだ?完全に奥まで繋がったぞ」
そう言いながら、ぐいぐいとジンは腰を動かした。
「痛っ…動くなぁ!」
「悪い。無理だ。お前の中、気持ちいいっ…!」

99 :裏切り(9):2008/03/16(日) 08:45:43 ID:/JnYotaz
ジンは、激しくピストン運動を開始した。
「ああっ!ダメ!痛い…!やめて!やめてよジン!」
リアは泣きそうになりながら叫んだ。
信じられない。ずっと抱きたいと思っていた女だ。
でもできなかった。自分はいずれ軍を裏切る人間だから。
下手に近付いたら、傷つけてしまう気がして。
だが、今はそんな心配もする必要はない。清らかなこの少女のまんこに
自分のちんこをこすりつけ、めちゃくちゃに汚してやりたい。
ジンは、乱暴に腰を打ち付けた。パンパン、という卑猥な音が響く。

「んんぅ…」
リアの身体は、次第に痛みになれてきた。
それどころか、段々とジンのモノを受け入れはじめていた。
「んぁっ…!ジンの…熱い!…はあんっ…こすれてるよぉっ」
「敵とのセックスがそんなに気持ちいいのか?やっぱりお前は淫乱だな」
「違うっ!あたし、気持ちよくなんか…あんっ!」
違うといいつつも、吸い付いてくるようなその窒の動きに、
ジンは思わずニヤリとする。どうやら「身体は正直」というやつらしい。
そしてジンも、自らの限界が近いのを感じはじめていた。
「やっぱり、久しぶりだから早いな。そろそろ中に出すぞ」
いくら性知識があまりないリアでもそれが危険であることは分かる。
「い、嫌!妊娠したらどうすんだ!」
「セックスというのは子作りだよ。子供ができるのは当たり前じゃないか」
ジンは、そう答えてスパートをかけた。

100 :裏切り(10):2008/03/16(日) 08:57:00 ID:/JnYotaz
「ダメぇ!お願い!中には…嫌!やめてーっ!!」
ビクン、と、ジンの体が震えた。
「うっ…ああ」
既に達したジンであったが、子宮に子種を確実に届けようとでもするかのように
グッ、グッと何度も体を震わせ、自身を奥へと突き立てていた。
そして、なごり惜しそうに、ようやくリアから離れた。
つい先程まで汚れのなかった少女から、どろり、と白い液体がこぼれ落ちた。
少女は泣いていた。しかしどこかでほっとしていた。
これで、終わったのだ。

と、その時、ジンは言い放った。
「まだだ」
見ると、先程出したばかりだというのに、ジンのものはもう固くなっている。
「えっ?」
しかし、ジンは後からリアを抱き抱えると、あぐらをかき、
自分の股の上にリアを座らせるようにした。

リアは赤面した。向きが変わったことで、ケンと目が合ったのだ。
今まで忘れていた…というより、恥ずかしいので考えないようにしていた
ケンが2人の営みを見ている、ということが嫌でも実感させられる。
それに、今までリアは気付かなかったが、ケンの様子がおかしい。
ケンは、腕を前にしばられてはいるが、指や手のひらはかろうじて動く。
リアたちの性行為を見ながら自分のズボンのなかで、
自らのものを擦り、慰めていたのだ。
(そんな…ケンちゃんまで!)
「ほぉ、あいつ、俺たちを見てオナニーしてやがる」
今気付いたかのように言うジンだったが、本当はずっと気付いていた。
だからこそ、この体勢にしたのだ。
ジンは、リアの太ももを掴み高く持ち上げた。

101 :裏切り(11):2008/03/16(日) 09:20:06 ID:/JnYotaz
(嫌…!)
リアが犯され、中出しされた秘部が、
どろどろと、白い精液のしたたる様がケンからははっきりと見えた。
「あいつ、お前の中出しまんこを見て興奮してるぜ」
ジンは笑みを浮かべ、下から思い切り己の剛直を突き立てた。

「んんっ!やぁっ…!」
ジンは、ゆっくり、ケンに見せつけるように肉壁を擦った。
ズン、ズンと奥までリアを味わい、蹂躙しつくす。


ケンがリアに好意を持っているのはずっと前から気付いていた。
気の利く後輩のふりをして、リアに近付くのを見て、
ジンは、腹腸が煮えくりかえるような思いだった。
リアは人懐こいため、すぐに他人と仲良くなる。
その度に、自分が多少は独占欲の強い男だということは自覚していたが、
ケンには特別強い感情を抱いていた。
(お前がリアの相棒だと?そこは俺の席だ…!)
だが、そんなことも知らずに、「ケンちゃん」と呼んでケンを可愛がるリア。

(ふざけるな…お前は俺のものだ!)
腕をリアの腰に回し、ぎゅっと抱き締めながらジンは激しく突き上げた。
「やんっ!やぁっ!お願い、もう許して…」
熱いジンの体温と息遣いを強く感じた。
気が遠くなりながら、リアは懇願した。
だが、腰使いはますます激しくなるばかりだ。
「あっ、んぁ、ああぁん!」
リアは、激しく体をくねらせ、絶頂に達した。

リアが自らの肉棒で絶頂に達したという事実は、ジンを大いに満足させた。
だが、ジンの攻めはまだ終わらない。
今度は、腰をつかんでリアを無理矢理起こし、後から挿入した。

102 :裏切り(12):2008/03/16(日) 09:26:17 ID:/JnYotaz
「はぁっ…もういいでしょ?もうやめて…」
「だめだ。もう一回は中で出さないとな」
「何で…赤ちゃん、できちゃうよぉっ!やめてよぉ」

リアはポロポロと涙を流しながら懇願する。
ジンは、腰を振りながらあっさりと答えた。
「嫌だ。大体、子供ができて何が悪い?要するに、お前は戦いたいんだろ?
なら子供ができたって、ママさんファイターならいくらでもいる。」
「そ、そりゃそうだけど…」
「出すぞ」
問答無用で、ジンはリアの中に精液を吐き出した。
結局、ジンはこの日5回もリアの中に出したのだった。

※ ※ ※

「リア、入るぞ」
ドアが開いた。
そこには、穏やかな表情のジンが立っていた。
寝床に横たわるリアは、どこか気分が悪そうだ。
「おめでとう。妊娠3か月だ」
そう言うジンの表情は、嬉しげだった。
「…そっか。まあ、あれだけ中出しされればね」
しかしそう言うリアの表情は、どこか曇っている。
ジンはリアの横に腰掛けた。
「まあ、もう10ヶ月程の辛抱だ。そうすれは―」
「そうじゃない」
リアは、真っ直ぐにジンを見た。
「侍女から聞いたよ。…子供ができれば、幹部の妻となることができて
敵でも処刑されないと。なるほど、子供がいれば、子供を人質にできる」
リアはため息をついた。
「ケンちゃんを助けたのもあんたか?昨日、牢から脱走したって」
「知らないな」
ジンは、リアをぎゅっと抱き締めた。

103 :裏切り(13):2008/03/16(日) 09:33:53 ID:/JnYotaz
※ ※ ※

14年後―

「はっ…とぉ!」
「…何やってるんだ?リア」
ジンが呆れ顔でため息をつく。
「合気道だよ。ほら、今は平気だけど、ババアになったら筋力も落ちるだろ?
その点、合気道なら力がなくても強くなれるし。
今から始めたら、55歳くらいには達人かな。ゆくゆくは仙人を目指すつもりだ!」
とある戦場―
「…わー、素敵な目標」
「棒読みだぞ」
ジンはまたしても、わざとらしくため息をついた。
「…君は、軍と組織の戦いとかどうでもいいんだね」

そして、本題に入る。「それよりだ、なぜ、サヤが戦場にいくのを許した?」
サヤとは、ジンとリアの間にできた娘のことである。
今年で14歳になる勝ち気な娘だ。
「だって、あの子、言い出したら聞かないし」
リアは口を尖らせる。「それにこの間なんか従者に向かってこうだよ?
『汚らわしい!この無礼者が!』って平手うち」
くくく、とジンは笑った。
「すぐに手が出るのはお前に似たんだな」
「いや、顔は確かにあたしにそっくりだけどさあ、
あの高慢な態度!あれはあんたそっくり!
それに、この前のテスト数学のテストなんて100点でさぁ」

※ ※ ※

「生意気な口をきくわね。いくら精鋭といえども、
たった10人で何ができるというのかしら?」
1人の幼い少女が高慢な笑みを浮かべる。
栗色の長髪をツインテールにしたその少女は、誰かに似ていた。

「10人いれば十分ですよ」
という相手の男の答えに、少女は無表情で答える。
「まー、凄いですことー」
その棒読み口調に、男の眉がピクリと上がる。
「参ったね。そんな顔をして、"誰かさん"みたいな口をきくんだから」
男の目が本気に変わる。
「…虫酸が走る」

「ふん…まあ、どう思われようと構いませんわ」
と、言いながらも少女は少し不愉快そうだ。
「あ、そうだ。一応、名乗っておきますよ。僕はケン」
ケン。どこかで聞いたことのある名なような気もした。
「ケン…?まあ、どうせあなたのことなんかすぐ忘れてしまうでしょうけど」
ふふふ、と男、いや、ケンは意味ありげな微笑を浮かべた。
「…忘れないと思いますよ。」
ケンの目が怪しく光った。
「サヤちゃん」

END


以上です。
長い上に稚拙な文を読んで下さってありがとうございました。

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163 :夢と記憶-1 ◆GK0/6l5f56 :2008/05/24(土) 20:41:04 ID:0tgfnE1N
 夜の帳が下りた暗闇の中で、少女は青年を見上げてねだった。
『ねぇ、わたくしが大人になればお嫁さんにしてくださいますか?』
 少女はしきりに気を引こうと服の裾を引っ張り声をかけたが、蒼白い肌の青年は茫洋と
した表情のまま、その様子を見つめるだけで何も答えない。
 その青年が右の薬指に嵌めたくすんだ金色の指輪に気づいた少女はこう望んだ。
 
『その時は、あなたのその指輪をわたくしにください』

 ◆ ◇ ◆

 ロッテンベルグ家の三女、リヨンヌは婚礼の儀を明日に控え、緊張した面持ちで両親の
前を辞し自室へと戻った。この国の貴族の間では、結婚する男女それぞれの実家で
婚礼の式典を行うことが慣習である。
 この屋敷で過ごすのは今日が最後、と思うと否が応にも彼女の心は重くなった。夫となる
人間は遠く離れたどこぞの領主の次男とリヨンヌは聞いている。話したことも見たこともない
男性との縁組──貴族の女の宿命とは言え、リヨンヌはやり切れないものを感じていた。
──人生で一度くらい自分の選んだ男性と……恋に落ちてみたかったわ。
 今となっては叶わぬ願いと知りながらも”恋する”ことを知ってみたいと、若く美しい娘は
望んでいた。
 昼間は結い上げている蜂蜜色の見事な髪も、湯浴び後の今は腰に絡みつくように
垂らされている。リヨンヌが薄い夜着に着替えると男を悩ませずにはいられない身体のラインが
くっきりと現れ、美しさに加え艶めかしさすら漂う。窓辺に佇みボンヤリと月を眺める彼女の
エメラルド色の大きな瞳は”ロッテンベルグの宝石”と呼ばれていた。
 もし誰かと恋に落ちることができるなら、と彼女は円らな瞳を閉じ思いに馳せた。
──あのハンサムなアルベルグ卿かしら。それともわたくしでは身分不相応ですが、ノイマン様や
ホランズ子爵かしら……。
 舞踏会や幾つかのパーティーで出会った男性の顔や声を思い浮かべるが、どの人物に
対して抱く感情も恋と呼ぶには少し違って感じられた。
「……やっぱり、わたくしには縁遠いものでしたのね」
 己の運命を甘受したかのような苦笑いを浮かべた彼女は、窓を閉め鍵を下ろす。
 やがて、唯一の光源である月が雲間に隠れ部屋が暗闇に包まれた時、彼女の脳裏に突如、
囁き声が木霊した。

『……こんなもので良いのか?』 

──えっ?こ、この声は……。
  それは、リヨンヌが幼い頃から何度も繰り返し見る夢に現れる男の声だった。
 決まって登場する男は背が高く黒いコートを纏っている。夢の中のリヨンヌは子供であり
長身の男の顔を見上げても、靄がかかったかのようにハッキリと目鼻立ちを見て取ることが
できない。

164 :夢と記憶-2 ◆GK0/6l5f56 :2008/05/24(土) 20:41:43 ID:0tgfnE1N
 しかし、その声だけで彼女は心が掻き立てられ、身体が熱くなる。

「な、何かしら?この感じ」
 
 ◆ ◇ ◆

 開いた窓から差し込む月明かりに、撫で付けた漆黒の総髪と蒼白い肌が浮かび上がる。
リヨンヌが月を愛でていた頃、彼女の屋敷から遠く離れた古い洋館で長身痩躯の男は
目覚めた。寝所から立ち上がった男の身を包んだ黒いケープコートが、開いた窓から吹き込む
生暖かい風で翻る。頬に当たる温い風に心地良さそうに笑った男の名をシュナイデンといった。
月光を恍惚と見つめるその双眸は赤々と輝き、紅を引いたような唇の端からと突き出た
乱杭歯が、彼が人ならざる存在であることを如実に語っている。
 吸血鬼──彼と彼の同族はそう呼ばれている。人間の生き血を吸うことで、永遠とも
言える時間を生きることができる闇の眷属。彼らに備わった数々の特殊な能力は、この
地上で太刀打ちできるものがいないほどに秀でている。選ばれた高貴なる存在──多くの
吸血鬼は自分たちをそう捉えている。 
 眠りから覚めたシュナイデンは、雲が月を覆い隠そうとする様を眺めている。
「……明日か」
 おもむろに口を開いた彼は誰に聞かせるともなく呟いた。瞑想する行者の如くシュナイデンは
爛々と輝く赤い瞳に瞼を下ろし、暫し黙考に耽ける。
 二日前、街へ”食事”に出かけた時のこと、腐臭の溢れる酒場から聞こえてきた粗野な
人間どもの話に立ち止まり耳を傾けた。普段は人間の会話などには気にも留めない。しかし、
彼らの話題──領主の娘であるリヨンヌの婚礼が三日後の正午に盛大に執り行なわれる
ということ──がシュナイデンの興味を引いた。
 彼は片時も忘れたことのない記憶をそっとなぞる。もう決して新しくはないが、今も色褪せる
ことなく鮮明に思い起こすことができる。その記憶を思い返す度に、シュナイデンの心は
締め付けられるように痛む。その痛みが一体何を意味するのかはシュナイデン自身には
分からないものの、やるべきことはハッキリとしていた。
 灯り一つともらないひっそりとした洋館の一室で、見開いたシュナイデンの紅玉の瞳には
決意の光が宿っていた。
──約束……か。吸血鬼が人間と約束を交わすなど聞いたことがないが……。
 苦笑を浮かべた彼がコートの裾をはためかせた瞬間、長身痩躯の青白い姿はその場から
消え去った。代わりに真っ黒な霧が突如として現れ、窓から吹き込む風に流されることもなく
その場に漂う。やがて、中空に不自然に浮かんだその霧は意志を有するが如く寄り集まり、
巨大な飛膜を持った漆黒の蝙蝠を形作る。
 そして、それは開いた窓から音もなく夜の闇へと飛び出していった。

 ◆ ◇ ◆

 カタカタ……カタカタ
 寝つきに入る前のまどろみの中で、リヨンヌはその音を聞いた。

165 :夢と記憶-3 ◆GK0/6l5f56 :2008/05/24(土) 20:43:25 ID:0tgfnE1N
 彼女の部屋は屋敷の最上階に位置し外部から侵入することは不可能であり、保安面の
心配はない。それゆえ、その物音を風で窓枠が揺れているせいだと思い、彼女は特に
気にも留めることなく布団に包まったまま夢の中に落ちようとしていた。

 バタン!

 突如、室内に響いた窓の開く音にリヨンヌの眠気は一気に覚め、美しいエメラルド色の
瞳が見開かれる。施錠したはずの両開きの窓が勢いよく開け放たれ、生暖かい風が一気に
室内に吹き込む。それに煽られ、レースのカーテンが音を立てて勢いよく舞い上がる。思わぬ
事態に気が動転したリヨンヌは掛け布団を手繰り寄せ覆い被る。
──嘘!か、鍵は掛けたはずよ!?
「鍵?……鍵如きが何だというのだ?」
 凛とした低い声がリヨンヌの耳に突き刺さった。
「ど、どなたですか!」
 恐る恐る被っていた布団を下げ、暗闇の中で目を凝らすが人の気配はない。
 気丈にも寝台から立ち上がったリヨンヌが窓辺に一、二歩と歩み寄った瞬間、突如として
そこに闇色に塗り込められた人影が現れた。
「…!?きゃ………」
 悲鳴を上げようとして口を大きく開けた瞬間、彼女は言葉を忘れたかのように押し黙って
しまった──いや、正しくは黙らされてしまったのだ。 
 目の前の黒い人影の頭部に光る二つの真紅の輝きが、リヨンヌの身体から自由を奪う。
「リヨンヌ=ロッテンベルグだな?」
 問い掛けられたリヨンヌはただ頷くことしかできなかった。
「ふむ。美しい娘になったものだ……あの幼子がな」
 漆黒の影がクスクスと小声で笑う様に、リヨンヌの背筋を今まで感じたことのない激しい
悪寒が走り抜けた。
──ば、化け物!?
 屋敷の四階にあるリヨンヌの私室に窓から入り込むことは建物の構造上、人間には
不可能だ。必然的に目の前の影は人外のものとしか考えられない。人外のもの、つまり
化け物と言えば人を喰らう、と昔から相場は決まっている。
 頭を駆け巡る思考の帰結のあまりの恐ろしさに腰が抜けそうになる。しかし、影の瞳から
放たれる赤い光の束縛は、リヨンヌが倒れることすら許さない。
「シュナイデン……余の名前をよもや忘れておるまいな?」
「……シュナイデン?」
 唯一自由に動く顔の筋肉で怪訝な表情を作る。
「たかだか十年前のことだぞ……覚えておらぬと申すか?」
──十年……わたくしが生きてきた年数の三分の二近くではありませんか?
 リヨンヌの思いとは裏腹に、シュナイデン達──吸血鬼が生きる永遠の刻の中では十年
などほんの数秒前と大差ないのである。

166 :夢と記憶-4 ◆GK0/6l5f56 :2008/05/24(土) 20:44:11 ID:0tgfnE1N
「まあ、よかろう。あの日のお前の望み、叶えてやることにしよう」
 シュナイデンの言葉にリヨンヌは困惑した。
──望み?望みとは何?わたくしがこの化け物に何を望んだというの?
 立ち竦んだリヨンヌの瞳に、雲の切れ間から気紛れに顔を覗かせる月に照らし出された
黒衣の美丈夫が映った。
 撫でつけられた闇よりも深い黒髪、細く吊り上った眉、先程からリヨンヌを見つめる紅玉
の瞳、高く尖った鼻と赤く濡れた唇──まるで絵画の中から抜け出してきたような男が
そこに立っている。難を言えば、こけた頬と蒼白の肌が病的な印象を見るものに与えるが、
それを差し引いてあまりある端正な相貌だった。
 その美しい鬼がリヨンヌに歩み寄る。
「……ひっ!」
 喉から搾り出したその声は情けないほどに弱々しくか細かった。反射的にこの場から
逃げ出そうとしたが、脚や手は意志に反して固まり、もがくことすらできない。
 ガタガタと震えの止まらないリヨンヌの身体がシュナイデンに抱きすくめられる。
 声はもう出なかった──代わりに目の端から、涙の雫が零れ白い頬を伝った。
──あ、ああ……。
 短い人生が走馬灯のようにリヨンヌの頭を駆け巡る。婚礼の儀の前日に、化け物に
喰われた花嫁としてきっと自分の名前は残るに違いない──そんなことを思いながら
彼女は瞼を閉ざした。
 しかし、彼女が感じたのは肌と肉を食い破る痛みではなく、額に掛かった髪を払う
シュナイデンの指先のヒンヤリとした冷たさであった。彼はリヨンヌの洗い立ての髪を
冷たい指先で梳きおろす。
──な、何?ど、どうしたというのです!?
 戸惑う彼女が次に味わったのは、唇に落とされた冷たく柔らかい奇妙な感触だった。
何が何だか分からないリヨンヌは固く閉じた瞳を開き呆然とシュナイデンの顔を見つめる。
 だが、彼の表情に感情の色は伺えない。それがリヨンヌの恐怖を助長した。リヨンヌは
自分の理性を──意識を──手放してしまいたかった。発狂して、このままこの訳の
分からない恐怖から逃れることができればどれだけ楽か、彼女は幾度もそう思った。
 数度シュナイデンの唇がリヨンヌと重なり、やがて吸血鬼の舌がリヨンヌの口内へと
侵入してくる。シュナイデンは蛇のように舌を這い回らせ思う存分、相手の口腔を蹂躙した。
 その間にリヨンヌの寝着は剥ぎ取られ、浮き出た鎖骨と白磁のような滑らかな肌、
そして今宵の月のように丸くたわわな乳房が露わになっていた。
 ここに到って、リヨンヌは自分の感じていた恐怖が誤りであったことに気づく。
──この化け物はわたくしを食べるよりも先に純潔を奪うつもり……だわ。
 シュナイデンの唇が離れ、彼女の首筋に軽く吸い付くと呪縛は微かに緩んだ。吸血鬼の
瞳術は直視している間がもっとも効力が強く、視線が外れると徐々に自由は回復する。
その微かな自由にリヨンヌは喜んで飛びつき、吸血鬼の腕の中から逃げ出そうと身を捩らせた。
 瞬間、凄まじい激痛が彼女の身体を駆け巡る。背中に回されたシュナインデンの細腕が
組み合わされ、リヨンヌの華奢な肢体を押さえつけるかのように抱きしめたのだ。それに
よって生み出された全身の骨という骨を粉々に砕かれるかのような痛苦が、彼女から
抵抗の意志を奪う。

167 :夢と記憶-5 ◆GK0/6l5f56 :2008/05/24(土) 20:46:20 ID:0tgfnE1N
 吸血鬼狩人たちが最も畏怖する吸血鬼の能力──それは不死身の肉体でも、
瞳術でも数々の魔術でもない。それらには得てして対抗策があるものだ。しかし、
人間や魔獣を遥かに凌ぐ吸血鬼達の腕力に対抗策は存在しない。単純にして
圧倒的な物理的能力こそが、吸血鬼を知るもの達の最も怖れる能力なのである。
 あまりの痛みにリヨンヌの全身から力が抜け、そのままシュナイデンにしな垂れかかる
しかなかった。
「痛めつける趣味はない……大人しくしろ」
 吸血鬼の腕の中という最も危険な檻に囚われた人間の女はただ頷くことしか
できなかった。リヨンヌを抱きかかえたまま寝台に倒れ込み、その上に覆いかぶさった
シュナイデンが着衣を脱ぎ捨てる。無駄な贅肉は一切なく引き締められた針金の
ような肉体は、生まれてこの方一度も陽の光を浴びたことがない。
 男が衣服を脱ぎ捨てたことで、リヨンヌは”犯される”ということが逃れ得ない
事実であることを悟り、悲痛のあまり顔を歪める。
「お前が望んだのだぞ、何故、余を嫌悪する?」
──何を言っているのかしら、この化け物は?
 冷笑を浮かべる目の前の男の言葉に、リヨンヌは言い知れぬ奇妙さを感じた。
それが何か、彼女には分からない。しかし、少なくとも目の前の化け物はリヨンヌを
乱暴に扱うつもりはないらしいことだけは分かった。その証拠に、シュナイデンと名乗った
化け物はリヨンヌの全身を優しく愛撫し続けた。まるで彼女が悦び出すのを待つかのように。
 その全身を這う掌のもたらす心地よい感触に溺れまいと唇を噛み締めながら、
リヨンヌは自分を襲う化け物のことをボンヤリと考えた。
──この男……ではなくこの化け物は、さっきからわたくしのことを知っているような
口ぶりですが、化け物特有の巧妙な嘘なのでしょうか、それとも本当にどこかで
会ったことがあるのかしら?それに一体、何の目的でこんなことを……。
「……シュ、シュナイデン?」
 寝台に横たわったリヨンヌの固く閉じた両脚の僅かな隙間に手を滑り込ませ、
下腹部を丹念に撫で上げていたシュナイデンが突然の呼びかけに顔を上げる。
「どうした?」
「わたくしはあなたにどこかでお目にかかっていますか?」
 か細い声で必死に絞り出したその言葉を聞いたシュナイデンは柳眉を顰める。
「覚えておらんとは軽んじられたものだな。つくづく人間というヤツは」
 彼の呆れ声にリヨンヌは奇妙にも親しみを感じた。
 しかし、冷たい指先がリヨンヌの熱を帯び潤み切った秘所を撫ぜた瞬間、そんな思いは
どこかへ押し流されてしまう。指が彼女の花弁を擦るたびに、痺れに似た不思議な甘い
感覚が全身へと広がる。
 閉ざした脚も快楽を求めて、知らず知らずのうちに緩んでいってしまう。リヨンヌが自分で
慰める時の稚拙で性急な指の動きとは違い、シュナイデンのそれは巧みに彼女を昂ぶらせる。
与えられる刺激は彼女の全身を震わせるほどの快感へと変化していく。

168 :夢と記憶-6 ◆GK0/6l5f56 :2008/05/24(土) 20:48:17 ID:0tgfnE1N
 しかし、リヨンヌは口を堅く引き締め、零れそうになる言葉にならない吐息を噛み殺す.。
声を漏らせば自分の内側で必死に解放を求めてもがく何かに溺れてしまいそうだったからだ。
そんな彼女の頑なな意志を突き崩すかのようなシュナイデンの指使いに、堪えきれなく
なった花芯からは蜜が次々に溢れ出る。
「ふむ。これだけ濡れておれば充分か」
 シュナイデンが呟いたその言葉が何を意味するのか、リヨンヌには分からない。ボンヤリと
波立つ心と体の疼きに思考能力を奪われていたのだ。吸血鬼の両手がリヨンヌの脚にかかり、
秘所が晒され初めて、本能的に危機を察した彼女は、喉の奥から悲鳴を上げる。
「きゃぁ……い、イヤ……イヤぁぁあ」
 だが、その叫びを耳にしてもシュナイデンは躊躇いを見せることもなく、己の硬直した
一部をリヨンヌの花芯に宛がい一気に埋めた。次の瞬間、リヨンヌは体を引き裂くが如き
激しい痛みに悶える。
「……ぁあぁ…いた、痛い……ぁぁうぅ」
 激痛に眉を顰め、顔を歪めた彼女は吸血鬼によって貫かれていた。
「あ…ぅぅぅくっ…い、痛い……痛い…ぁぁ」
 異物を受け入れたことのないリヨンヌの内側は固く引き締まり、シュナイデンの冷たい
性器を拒絶していた。それを察してか、一端、シュナイデンはペニスをゆっくりと引き抜き、
リヨンヌの蜜と喪失の血が混ざり合った己の性器を無言で見つめる。やがて彼は寝台に
伏せると、リヨンヌの内腿を伝う紅い純潔の証である血を舌先で舐め取った。
「中々に美味だが、惜しむらく量が少ない……」
 極上のワインを味わうソムリエの如き表情でシュナイデンはリヨンヌの純潔の証である血を
味わった。新鮮なその味わいにシュナイデンは満足したが喉を潤せる量ではなく、賞味する
程度でしかないことを惜しんだ。
「しかし、これでなくては生きていけぬということもないからな」
 リヨンヌは恐怖と痛みに苛まれながら、シュナイデンの奇妙な行為をぼんやりと見つめて
いた。だが、再び吸血鬼の硬い先端が自分のとば口に押し当てられると、先程の
激痛を思い起したのか、半狂乱の態で暴れた。
「いや、いや、いやぁぁ!!!」
 嫌がるリヨンヌに呆れ顔のシュナイデンは再びあの瞳術を使い、彼女の自由を奪った。
「い……い、いやぁ……ぁぁ……い……や……ぁぁ」
「おかしな奴だ。これがお前の望んだ人間の契りであろう?」
 小さな声でシュナイデンは呟いたが、慄くリヨンヌには届かない。
 彼女の抵抗も虚しく、再びリヨンヌはシュナイデンの侵入を許した。
──いや、いや、もう痛いのは嫌!!
 彼女は動かぬ身体に歯噛みしながら、襲ってくるはずの痛みに備えた。
 だが、結果は拍子抜けするものだった。痛みというよりも痺れに近い刺激がシュナイデンの
緩慢な速度の挿入に合わせて、入り口から奥へと走る。
「……ぁぁ…い……やぁ…んっっ」
 口からは拒絶の言葉に入り混じって断続的に甘い吐息を零したものの、リヨンヌは眉を
顰め必死に湧き上がってくる感情を押し殺した。
──わたくしは汚されている……だから、悦びなど………あ、あるはずがないわ。

169 :夢と記憶-7 ◆GK0/6l5f56 :2008/05/24(土) 20:51:11 ID:0tgfnE1N
 打ち付けられた楔によってリヨンヌの内側は割開かれ、突かれ、抉られた。その度に
喪失の血と彼女自身から溢れ出した愛液が混ざり合い淫靡な音を立てる。その音と半開きの
唇から洩れる微かな嬌声に流されそうになりながらもリヨンヌはありったけの理性を動員して、
首を振り続け嫌がる素振りを示す。
 シュナイデンは困ったように溜め息を吐くと組み敷いたリヨンヌに問い掛けた。
「お前が望んだことだぞ?」
「…んぁあっ…ち、違い……ま……す」
 微かに残った彼女の理性が言葉を紡ぎ出す。
「……やはり、所詮は人間……いや、余が所詮は吸血鬼というところか」
 やがて、自嘲により口元を歪めたシュナイデンの表情が強張り、リヨンヌの内側に埋まった
ものが大きく膨張する。
「そろそろ、終わりにする」
 最後に深く深くリヨンヌの膣の奥へ突き込むと、そこでシュナイデンは吸血鬼の精を吐き
出した。冷たい性器とは対照的にリヨンヌの内側へ注ぎ込まれた精液は熱を帯びていた。
  全てを注ぎ込んだシュナイデンは寝台の脇に立ち、横たわるリヨンヌを見下ろす。あまりの
ショックで彼女はうわ言を呟き、身体は瘧にかかったように震えていた。 
──婚礼を控え、純潔を化け物に奪われた……。
 恐怖、痛み、怒り、悲しみ、ありとあらゆるものがリヨンヌの内側で綯い交ぜになり、
悲嘆に暮れた彼女は正気をどこかへ放り出した。それを物語っていたのが”ロッテンベルグの
宝石”と称されたあのエメラルドの生き生きとした瞳が、死んだ魚のそれのように変わり
果てていたことだ。
 その彼女から視線を外したシュナイデンが指を鳴らすと、どこからともなく黒い霧が現れ
彼の蒼白い裸身を覆う。やがて、それは彼が部屋に侵入した時に纏っていた闇色の
ケープコートへと変貌した。

 ◆ ◇ ◆

「これも今となっては無用の長物だとは思うが、一応は約束だ」
 シュナイデンは右の薬指に嵌めた指輪を外し、虚ろな眼差しのリヨンヌの鼻先にそれを
置いた。
「人間の戯言を真に受けるなど…………余も愚かしいことをしたものだ」
 溜め息とともに吐き捨てたシュナイデンの表情には、自らに対する嘲りが如実に
浮かんでいた。そして、その視線の先には月明かりに照らし出されたリヨンヌの白い裸身が
あった。幼子と取り交わした約束を守ろうなど──今、考えてみれば吸血鬼にあるまじき
浅はかな行為だ、とシュナイデンは後悔した。
「……そう云えば、嫁入りの身だったな」
 黒いコートを再び纏ったシュナイデンは、思案顔で寝台に音もなく歩み寄った。
 犯されたショックで未だに茫然自失のリヨンヌはボンヤリと定まらぬ視線で白いシーツの
上に置かれた指輪を見つめていた。

170 :夢と記憶-8 ◆GK0/6l5f56 :2008/05/24(土) 20:52:30 ID:0tgfnE1N
「純潔でなければ、お前も何かと困ろう」
 そう告げると彼は自分の右腕に牙を立て、小さな傷をつけた。そこから、真紅の液体が手を
伝い指先からシーツの上にポタリポタリと滴った。
「再びお前を生娘に戻すことなど、余にとっては造作もないことだ。安心するが良い」
 自分の血を飲ませるために、背を向けて横たわったリヨンヌの肩を掴み、仰向けに引き
起こす。その時、彼女は初めて目の端を流れる光景の中で、簡素な細工を施したくすんだ
金色の指輪に気がついた。
──こ、これは!?
 自らの意思でリヨンヌは震える手を伸ばし、その指輪を掴んだ。
「……ゆ、夢で見る……指輪?」
 途端に記憶の扉が開かれたかのように、何度も夢に見た光景が一気に湧き上がってくる。
夢の中の自分が見上げる茫洋とした男の顔──その顔に掛かっていた靄が晴れ、蒼白い
ながら凛とした面立ちは神々しいまでに美しい、それはまさに先程まで自分を犯していたシ
ュナイデンそのものであった。夢の最後には決まって、幼いリヨンヌがシュナイデンに『お嫁に
なる証として身につけている指輪が欲しい』と我が儘を言うのだ。
 その指輪が今、目の前にある。
「夢?夢だと?……お前はあれを夢だと思っていたのか?」
 その瞬間、シュナイデンが血濡れた指先で顔を覆い、くぐもった笑いを漏らす。
「フハハハ……俺は何という道化だ……ククク、とんだ道化だ」
 その声は笑いとは裏腹にどこか哀愁さえ感じられる。
「……あなたは、夢では……わたくしの夢の中の御方ではないのですか……」
 正気に戻りコートの裾に縋りつくリヨンヌを見下ろしたシュナイデンはゆっくりと首を振った。
「……余は十年前、幼子のお前と約束を交わした……お前が大きくなったら我が妻として
迎え、その指輪を与えると。それを果たしに来た」
「あ……そ、そんな……あぁぁ」
 込み上げてくる想いのあまりの多さに、なかなか言葉がみつからない。それでも、彼女は
シーツをキュッと握り締め、想いの丈を呻くように搾り出した。
「あれは一夜の夢ではなく……現実なのですね。あなたは……わたくしを本当に迎えに……」
 その言葉にシュナイデンは小さく頷く。その姿にリヨンヌは心苦しくなり俯いてしまう。そして、
彼女の瞳の端から熱い涙が頬を滑り落ちていく。
「それでは……わたくしは何といたらないことを……」
 罪悪感に打ち震えるリヨンヌの姿を暫し無表情に見つめていたシュナイデンがおもむろに
口を開く。
「……夢であろうと、記憶であろうと大した差はあるまい。いずれにしろ、お前もあの約束を
忘れてはいなかったのだ」
 その瞬間、リヨンヌの目にはシュナイデンが微笑んだように映った。

171 :夢と記憶-9 ◆GK0/6l5f56 :2008/05/24(土) 20:53:28 ID:0tgfnE1N
 そして、その時、彼女は分かった。

──この人だ……この人こそ……わたくしの恋焦がれていた御方……。

 上体を起こし前屈みに座り込んだリヨンヌの体が震え、豊かな白い乳房が揺れた。
純潔の血とシュナイデンの傷口から染み出た血の跡が残るシーツに感極まったリヨンヌの
頬を伝う涙が落ちると同時に、彼女の口から言葉が溢れ出る。
「先程までの失礼をお許しください。あなたにお会いできる日を……待ち望んでおりました……」
 嘘ではない。彼女は誰とも知らぬ青年に恋に落ちていた。その相手を夢の産物だと
思い込んでいたために、リヨンヌは自分の抱いた感情が──幼子の自分が抱いていた
感情が──恋であるとは気づかなかっただけなのだ。現実に目の前にその男が現れたことで
心はどうしようもなく熱くなり、鼓動は早鐘を打ち鳴らすかのように高まり、自分が遠い昔から
恋焦がれることを知っていたのだ、とリヨンヌは初めて気がついた。
 そんな彼女の熱い視線に見つめられた漆黒の吸血鬼は、雲の合間から煌々と照る月明りを
背に自身が流した血で朱に染まった右手を裸の美女へ差し伸べた。

「余はお前を迎えに来た。お前は余と共に行くか、それとも人の世に留まるか……さあ、選べ」

 ◆ ◇ ◆

「お嬢様!リヨンヌお嬢様!」
 古参の召使のハンナはもう何度も部屋の主を呼んでいる。
 普段は呼び起こさずとも、いち早く目を覚ましているのが常である主が婚礼の日の今日に
限っては違った。
──婚礼を控えて、緊張でおやすみになれなかったのかも知れないわね。
 婚礼の儀に備えた準備のためには、そろそろ起きてもらわなければならない。ハンナは
無理にでも起きてもらおうと決心し、ドアノブに手を掛けた。
「失礼致します、お嬢様」
 ドアを開けると眩い陽光が部屋全体を白く覆っていた。
 開け放たれた窓から吹き込む風で薄いレース地のカーテンがうねりながら、宙を舞って
いる。ハンナが寝台に視線を移すとそこには彼女の主人の姿は無く、何かが暴れまわった
かの如くシーツが乱れていた。
 見る見るハンアの顔が蒼褪めていく。
 目を凝らしてみると、そのシーツの上には無数の血痕が残っている。
「あ、あ、あ、あ……だ、旦那様ぁ!!!」
 慌てて飛び出したハンナが去ると、無人の部屋は静けさを取り戻した。

(了)

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188 :私のお兄ちゃん ◆8mbkgcY/qc :2008/06/12(木) 02:05:31 ID:L6B5dCcU
 突然、心臓をつかまれたような気がした。
 嫉妬で胸が掻きむしられるというのはこういう感覚なんだろうか。
「うん、先輩からのメール。……だから何? 男の人だから怒ってるの?」
居間のソファに座った詩帆は、携帯を持ったまま眉をひそめ頬をふくらましている。
 風呂上りの濡れた髪。色白の肌が普段より桃色がかってなんだか色っぽい。ツンと尖らせた、濡れた唇。
 俺が思わず目をそむけると、詩帆の声が追いかけてきた。
「お兄ちゃんはどうしていつも私を見ないの。ちゃんと見て、私はもう子供じゃないよ!」
「……高校生なら十分子供だ。だいたい、まだ十七歳じゃないか」
そうだ詩帆はまだ子供なんだ、と俺は自分に言い聞かせた。
 それは二年前……自分はこの十一歳年下の血の繋がらない妹を愛してしまったと気づいた時から、
ずっと肝に銘じていること。

 親父が再婚したのは、俺が大学を卒業し会社の寮で一人暮らしをしていた頃だった。
 双方子連れの再婚ということで挙式はせず、特にした事といえば新しい家族の紹介を兼ねた食事会ぐらいだったと思う。
 当時は仕事が忙しくなった時期で……それに高校、大学とも学生寮暮らしでお互い好き勝手やってる気楽な(あるいは冷めた)
父子家庭だったこともあり、その後も俺は数えるほどしか新しい母にも妹にもあわなかった。
 それなりに彼女もいてそこそこ自分の人生を楽しんでいた矢先。突然、両親が交通事故で亡くなった。
 俺に残されたのは幾ばくかの遺産と持ち家と、当時中学生の詩帆だった……。

「彼氏ぐらいみんないるよ」
すねた声が俺のもの思いを打ち破る。
「そんな下らん動機でつきあうならやめるんだな」
少女らしい答えに気持ちが少し軽くなった。おそらく詩帆はあのバイト先の先輩とやらを愛しているわけじゃない。
それなりの感情があったとしても、今はまだ恋に恋している段階に過ぎないだろう。
 なんだかんだ言ってもやっぱり詩帆はまだ子供なんだ……俺は両親の収容された病院で、たった一人震えていた
狭い肩を思い出した。
 あれはそれまで好き勝手に生きてきた自分が、初めてこの手で守ろうと決めたもの……。

 両親の葬式の後。
 もともと地元に帰る条件での本社勤めだったこともあり、俺はさっそく上司に支社勤務を申し出、
そういう理由ならばとすんなり受理された。
 当時の恋人とはやがて自然消滅になったが、別に結婚前提というわけでもなかったので少々残念に思うぐらいだった。
 俺の帰郷が決まった時、詩帆はとても喜んだ。
 きっと心細かったからだろうと思うが、彼女は以前から一緒に暮らしたかったのだと言ってくれた。
いつも親父が俺の話をしていたので、いつか地元に帰ってくる日を心待ちにしていたと。
 そんな詩帆に、自分のことを兄と呼べと言ったのは俺自身だった。
 正直あの時は何も考えてなくて……きょうだいなんだから兄と呼ばれるのが当然ぐらいにしか思っていなかった。
『修平さんじゃ駄目ですか。どうしてもお兄さんと呼ばなければいけないの?』
詩帆はあの時、いったい何を考えていたんだろう……。

189 :私のお兄ちゃん2 ◆8mbkgcY/qc :2008/06/12(木) 02:07:32 ID:L6B5dCcU
 コトッと音がしたので目をやると、細い指先がテーブルに置かれた携帯から離れるところだった。
 一瞬手にとって着信履歴を調べたい衝動に駆られたが、視線を逸らして自重する。
「じゃあ動機が愛ならいいんだね」
「そんなもん……子供のクセにお前にわかるもんか」
今日の詩帆はなんだかいつもと違うような気がする。やけにしつこいというか……普段ならこんな時は可愛らしく
頬を膨らませたまま自分の部屋へ行ってしまい、翌朝はすっかり忘れたような顔をしているのに。
「お兄ちゃんは知ってるんだ」うつむいたまま詩帆がぽつりと言った。「最近、帰りが遅いのはそのせい?」

 ……中学生の少女と二十代後半のサラリーマンの二人きりの生活は、当初ぎこちないものだった。
 物心ついた時から両親が不仲で家族バラバラな中で育った俺は、詩帆のかもし出すあたたかい雰囲気に馴染めず、
ぶつかることのほうが多かった。
 でもだんだんと……仕事が終わって帰宅すれば美味しい食事が待っていて(母子家庭の母親にみっちり仕込まれていた
詩帆は料理が上手だった)、朝はいってらっしゃいと送り出してくれて、体調の悪い時には寄り添ってくれる
誰かのいる生活に慣れてきて……。
 こんな生活が永遠に続けばと願うようになり、『お兄ちゃん』と呼ばれるのに違和感が出てきたが、
それと平行に中学校からは受験生の保護者として呼ばれることが増えてきて、俺は混乱した。
 あの七夕の花火大会はちょうどそんな頃だった。
 たまたま仕事が早く終わったので、受験勉強の息抜きにと詩帆を連れて出かけた。
 前もって言ってくれれば浴衣を用意したのに、と怒りながらもあの子はとてもはしゃいでいて。
 俺たちは暗い川べりの人いきれの中で、周りから押し付けられるように二人並んでいた。
 夜空に舞い上がる華々を見上げながら、何か願い事をしたかと尋ねた時。
 詩帆はうなづくと、そっと俺のシャツの裾を握って恥かしそうにささやいた。
『いつか、お兄ちゃんのお嫁さんになれますようにって』
ひときわ大きな打ち上げ花火が、俺の動揺を隠した。
 轟音が鳴りやんだ後にやっと搾り出せたのは、
『受験生がつまらんことを考えるな』
という一言だけだった……。

190 :私のお兄ちゃん3 ◆8mbkgcY/qc :2008/06/12(木) 02:12:27 ID:L6B5dCcU
「な……何言ってんだよ、会社の付き合いだっ」
俺は言葉に詰まった。確かに最近、ほとんど毎日午前様だ。
 でもその理由がこのところすっかり大人っぽくなった妹と二人きりの夜を過ごすのが辛いから、などと言えるわけがない。
 あの七夕の夜。詩帆の願いを拒絶したことを俺はすぐに後悔した。帰り道、彼女は涙ぐんでいる様子だった……
もっと大人らしく余裕を持って適当なことを言っておけばよかったのに。
 だが拒絶しなければ。このまま一つ屋根の下で彼女の想いを感じながら一緒に暮らすうちに、
自分を抑えられなくなる気がして恐ろしかった。
 詩帆が大好きだから大切にしたかった。
 大人の男として無邪気な少女の好意につけこむような卑劣な真似もしたくなかったし。だから彼女が大人に
なるまで待とうと決めた。
 しかし受験が終わり、詩帆が問いかけるような眼差しを向けてくるようになっても俺は
『大人になるまで待ちたい』
の一言がどうしてもいえなかった。
 保護者としては妹のせっかくの高校生活を邪魔したくなかったし、何よりもうその頃には俺の詩帆への想いは
狂おしいほどのものになっていて、ほんの少しでも今まで以上に親密になったりしたら『待つ』なんて
到底不可能だとわかっていたから……。

「アニキが朝帰りなんかしてたら妹も影響されるんじゃないかなぁ」
今まで聞いたこともない妙に投げやりで蓮っ葉な調子の声。
 ソファの詩帆が姿勢を変え、膝を抱えて座った。ショートパンツから伸びるスラリとした脚。
胸のラインの目立つぴったりめのタンクトップ。
 なんだか挑発されているような気分になって俺は慌てて床に視線を落とした。去年の夏は湯上りといえばジャージか
パジャマだったのに。
 突然、怯えに似た感情が脳裏を走った。子供だと思っていた少女が知らないうちに大人になっているのではないか
という獏とした不安。
「兄ちゃん、お前を信じてるから」
芝居がかった口調でおどけつつそんな不安を押し殺す。
 詩帆は真面目で大人しい子だし、自ら危険を招くようなことをする愚かな少女でもない。
「お兄ちゃんの知らないうちに私が外泊したかも、って言っても?」
「もちろん。どうせ理沙ちゃんちだろ、同級生の。この間嬉しそうに話してたじゃないか。そうか、あれからも
泊まりにいったのか」
一番の友人の名前を出すと彼女は唇を尖らせた。
 図星のようだと俺がホッとしかけた時、紅い唇がうっすら微笑む。
「……て、ずっとあの子に口裏を合わせてもらっていたとしたらどうする?」

191 :私のお兄ちゃん4 ◆8mbkgcY/qc :2008/06/12(木) 02:15:50 ID:L6B5dCcU
 一瞬、時間が止まったように感じた。そんなこと、ありえない。
 俺はうろたえながら記憶を掘り起こした。
 高校になってから何度か詩帆は泊りがけで友人の家に行くことがあったが、相手はみんな女の子だったし、
親御さんにあったこともある。
 だいたい詩帆に男の影はない。中学の時に一回コクられたらしいけど受験だから断ったと
俺に報告してきたし……今はあのバイト先の先輩ぐらいだ。
 確かにメールは繁盛にやりとりしている。しかしデートの話なんか聞いたことがない。
 一度店が休みの時にバイトのみんなで遊びに行ったと言っていたが、あれは二人きりじゃ
なかったはず……。
「何だよ口裏って、や、やましいこと、」
心臓がバクバクして上手く言葉がでない。頭に血が上って体が熱くなる。
 冷静になれ、きっとからかってるんだ、と顔を上げた時。
 不意に、テーブルの上の携帯が呼び出し音を立てた。
思わず手を伸ばしかけた俺からひったくるようにそれを取ると詩帆は耳に当てる。
「はい……あっ」
彼女は顔を隠すように横を向いた。
「えっ今から? ……でも」
困ったようにこっそりと俺を盗み見る。
「……今日は駄目……だってお兄ちゃん……はい先輩」
先輩ってあのバイト先のヤツのことか?!
 詩帆が男と話している。こっそり隠れるように。
 これまでもこんなふうに? 今からってなんだ? 今日は駄目って? 
 バツの悪そうな笑顔。秘密のにおい。急に大人っぽくなった物腰、服装。
「そう、だから前もってメールしたのに……ふふ今晩は無理なの、我慢し・て・ね……うん……うふふ
……さよなら……あはは、バイバイ先輩」
通話が切れて携帯を折り畳んでも、まだ詩帆は微笑んでいる。あの男のための笑顔。
 俺が黙ったまま見つめているのに気づくと、笑顔がいたずらっぽいものに変わった。
「誰からか知りたい?」
「……どうでもいい」
俺は立ち上がった。これ以上ここに詩帆といたら、嫉妬と怒りでとんでもないことをしてしまいそうだ。
 聞きたいことは山ほどあるが一晩頭を冷やしてからにしよう。
 ソファをなるべく見ないようにしてドアの方へ向くと、詩帆の声が追いかけてきた。
「お兄ちゃんは私のことなんかどうでもいいんだ! ……それじゃ先輩からメールが来ても
二人きり遊んでも、……外泊しても怒らないでよね。愛が動機ならいいんでしょう!」
何か言おうとしたが口の中がカラカラで声がで出なかった。
 最初に兄と呼べと言ったのも俺ならば、詩帆の願いを拒絶したのも俺だ。自分勝手な理由で
放って置いたのも。
 だから彼女の心が他の誰かに移っても……寝取られても、それは当然の結果……。 
 悲しみとも怒りともつかない感情に揺り動かされ俺は奥歯を噛み締めた。独占欲なのか性欲なのか、
わけのわからないものがごっちゃになって身体を突き上げてくる。

192 :私のお兄ちゃん5 ◆8mbkgcY/qc :2008/06/12(木) 02:19:21 ID:L6B5dCcU
 振り向くと詩帆は携帯を持ったまま、さっきと同じ姿勢でソファに座ってた。
 手のひらの中で光っているあれが俺とは違う男の着信履歴で埋まっていると思うと、心の中に
どす黒い炎が燃え上がるのをとめることが出来ない。

 身を乗り出す。
 華奢な手首をつかむ。
 顔を上げた詩帆の見開らいた目。
 手のひらから携帯が滑り落ちる。
 ソファににじり寄り金属の塊を蹴飛ばした。あの男に関わるものは見たくない。
 硬いものがどこかにぶつかる鈍い音を聞きながら、茫然としているやわらかな体をクッションに押し倒す。

 風呂上りの詩帆の体は甘い花の匂いがした。
 お兄ちゃん、とびっくりしたような声が聞こえる。しかし俺は構わずタンクトップの胸元に顔を埋め、
甘いにおいを鼻腔いっぱいに吸い込んだ。
 小さな拳が俺の頭を叩いたが、抵抗にもならない。そのまま下着ごと服を引き剥がす。
 小振りのまあるいふくらみを彩るピンク色の小さな蕾。そっと唇に含み舌先を転がすとやわらかだった
乳首はすぐに尖り始め、細い指先が俺の頭髪を掻きむしる。
 自分が取り返しのつかないことをしようとしているのはわかっていた。こんなことをしても時間を
巻き戻せるはずがないことも。
 全て俺が悪い。もう何もかもが遅すぎる。だけど、だけど……愛してるんだ、詩帆!!
 空いた手でショートパンツのボタンを手早く外し、隙間から指を入れ下着ごと引きずり下ろす。
 乳房から唇を離し、隠そうとする手を払いのけ股間に顔を埋めた。
 かぼそい声が何か言っていたが俺は無視した。薄皮に包まれた小さな突起を口に含みしばらく弄んだ後、
潤いを帯びだした桃色の裂け目に舌先を沿わせる。
 詩帆の手が頭を押しのけようと頑張っているが、拒絶なのか恥ずかしがっているだけなのか、よくわからない。
 それは抵抗というにはあまりにも弱々しく、狭い亀裂に指先を差し入れ、舌で突起を撫で回す行為の
妨げにはならなかった。
「……あっ」
しなやかな体がのけぞる。
 声が取り乱した調子に変わり、閉じようとしていた腿の力が緩み、指先を潤った肉がヒクッと締め付け始めた。
 詩帆が欲しくてたまらない。これまでずっと自分を抑えていたんだ。汚したくないから。大切にしたいから。
大事に大事にしていたのに……だのに、俺の知らないうちに。
 凶暴な衝動に駆られ、俺は素早く自分のものを取り出すと詩帆にのしかかった。かなり濡らしたつもりだったのに
 思ったよりも抵抗があって、まだあまりアイツと寝ていないらしいと残酷な満足感が沸き起こる。

193 :私のお兄ちゃん6 ◆8mbkgcY/qc :2008/06/12(木) 02:22:30 ID:L6B5dCcU
 小さな悲鳴が上がったが構わず体を沈めた。思わず俺も声を漏らしてしまうほどキツい。
 まさかひょっとしたらという思いが脳裏をかすめたが、欲情が消し去っていった。
 狭さとキツさを感じながら、ゆっくりと腰を進める。やっと全部収まって、
倒れこむようにやわらかな体に覆いかぶさった。
「詩帆……」
好きだ。大好きだ。誰にも渡さない。俺だけの。
 愛してる、詩帆。このまま永遠に。俺と一緒に。
 ずっとこうしたかったんだ。この腕に抱きしめて、一つに繋がって。
 人の温もりを教えてくれた詩帆。……俺はもう昔みたいに一人きりでは生きていけないから。
 そのままむさぼるように唇を重ねたが彼女の舌の動きはぎこちなかった。
経験が少ないせいか、嫌がっているせいかわからない。
 唇を味わいつつ、しばらくじっと動かずにキツさとしっとりとした温かさを愉しんだ後、舌の動きにあわせるように
腰を動かす。やがて腰から生じる快感が堪らなくなり、唇を離した。
 今まであまりにも長く待ちすぎたから……しかしすぐに爆ぜそうになるのを必死にこらえる。
もっともっと詩帆を感じていたい。
「んっ……お兄ちゃ……ひぁ……ァン……」
彼女が甲高い声を上げはじめた。
 感じてるんだろうか。それとも拒絶の声なのか。
 迷ったが腰を止めることが出来ない。俺は目を閉じ、しっとり包まれるやわらかな感触に夢中になった。
「詩帆……詩帆……ッ……っ……ッ」
「お兄ちゃ……」
まだ終わりたくなかったけど、もう限界だった。俺は短い吐息を漏らしながら、狂ったように腰を遣った。
「詩帆……もう逝……ッ」
「お、お兄ちゃん?」戸惑ったような声が上がる。「駄目、赤ちゃん……」
俺はぼんやりと薄目を開けた。
 なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。
 子供ができればいいんだ。そうすれば結婚しないわけにはいかない。ずっと一緒にいられる。
 俺はあんな不安定なバイト野郎と違うから、詩帆は何も心配しなくていい……。
「……中でっ」
「だ、駄目」
「なんで」
動きを止め歪んだ笑みを浮かべながら俺は詩帆を見下ろした。
「だって赤ちゃん」
大丈夫、俺はずっとお前を守り続けるから。愛してる。
 再び腰を揺すりはじめた。早く一つになりたい……詩帆を完全に俺のものに。
「大丈夫……大丈夫だよ」
「で、でも」
怯えた声を無視して小さな尻に手をまわし、指が肉に食い込むほど腰を引きつけた。感じやすい先端が
トロトロに潤った内部のどこかに当たる。ついばまれているような感触にもう我慢なんてできない
……俺は肉の快楽に溺れた。

194 :私のお兄ちゃん7 ◆8mbkgcY/qc :2008/06/12(木) 02:26:16 ID:L6B5dCcU
「詩帆、ぅ」
「あ……ン……はぅ……ンン……」
「ハァッ……ぉぁぁ……し…ほ……もう逝く……ッく」
「あ……だめぇ…だ…め…………だめ、駄目赤ちゃんできちゃう! やめてっ、いやっ、
お兄ちゃんやめてよ、嫌だぁ!!!」
 小さな手のひらが思いっきり胸を押しのけてくる。
 ギリギリのところで俺は腰を引いた。白いものが控えめな恥毛や小さなヘソの窪みのあちこちに飛び散る。
 息を弾ませながら顔を上げた。詩帆と視線が合う。非難の眼差し。
「ごめん……」
思わずうつむくと、萎え始めた自分のものが眼に止まる。白っぽい汁にまみれていたがどことなく
……赤い色が混じってる?!
「そんな……血って……し、詩帆、だって、」
「バカ」
身体を清める間も厭わしいのか床に落ちた服をかき集めると、詩帆は逃げるように俺から離れた。
服を着もせず身体に押し当てたままの姿でドアに飛びつく。
「お兄ちゃんのバカ!」
ドアの前で辛そうに腿の付け根を押さえ顔をしかめてから、詩帆は行ってしまった。ほどなくしてシャワーを
浴びる音が聞こえてくる。
 俺はソファから下り……そのまま崩れるように床にしゃがみこんだ。
 取り返しのつかないことをしてしまった。
 勝手に一人で疑心暗鬼になって、一番大切なものを自分自身の手で傷つけた。
 愛してるって言いながら、信じもしないで。あの子の俺への信頼をこんな汚いやり方で踏みにじった。
 謝れば許してもらえるだろうか。だがいったいどのツラ下げて? 
 非難の眼差しや厭うように離れていった白い身体を思い出した。
 こんなことして嫌われないわけがない。
 俺はこれから、一体どうすればいいんだ……。

 溢れてきた涙をソファに押し当てて隠す。
 いつの間にかシャワーの音が止んでいたが、俺は祈るように床に跪いたままソファに顔を押し当て続けた。

195 :私のお兄ちゃん8 ◆8mbkgcY/qc :2008/06/12(木) 02:29:24 ID:L6B5dCcU
 日差しが高くなってきた。
 外が騒がしくなり土曜の遅い朝がはじまろうとしている。
 俺はソファから顔を上げた。
 一晩中硬い床にしゃがみこんでいたので身体の節々が痛い。見ればズボンのファスナーが開いたままだ。
 床には後始末のティッシュが落ちてるし……なんて情けない。本当に俺はバカだ。
 血の跡の残るゴワゴワの丸まった紙くずに罪悪感を覚えながら拾い集めていると、昨夜蹴飛ばした携帯を見つけた。
 拾い上げてテーブルに置く。履歴はもちろん見ない。彼氏とは清い関係だったのに、それを俺は。いったいどうやって償えば。
 詩帆はどうしているんだろう……辛そうにしかめていた顔を思い出して俺の胸はまた痛んだ。
 このまま彼女に会わず自室に引きこもりたいという衝動に駆られる。
 いや。きちんと謝らないと。あんな『ごめん』じゃすまない。
 俺は立ち上がり、詩帆の部屋へ行く決心を再度固めてから居間を出た。
 死刑台に向かっている気分で廊下を歩く。顔も見たくないかもしれない。でも……何にも言わずに放っておくのが一番悪いって、
昨日学習したばっかだろ。
 そっと部屋の前に立った。深呼吸をしてドアをノックする。
 返事はない。
 もう一度ノックして聞き耳を立ててから、勇気を出して声をかけた。
「おはよう詩帆」
沈黙。起きているのかどうかもわからない。
「昨日は……ごめんな」
まだ眠っているのだろうか。昨夜はあんなことがあったんだもんな……。
 出直してこよう、と俺がきびすを返しかけた時、部屋の中で確かに人の動く気配がした。
 ちょっと間を置いてから声をかける。
「身体、大丈夫か? その……少し話をしたい……。ドア、開けてもいいかな。あ、誓って何もしないから。
……嫌なら外で聞いてくれ。謝りたいんだ」
再び沈黙。俺がもう一度口を開きかけた時、ドアの向こうで声が小さな声がした。
「鍵、開いてるよ」 
ドアを開けると詩帆はパジャマ姿でベッドに身を起こしていた。
 泣きはらしたような目に俺はうつむく。部屋に入ろうとして躊躇していると、かすれた声が聞こえた。
「入って」
おずおずと中へ進む。詩帆のベッドの側まできて……俺は土下座した。「ごめん」
落ち着かなければと思ったが、床に頭をすりつけ一気に自分の気持ちをまくし立ててしまう。
「ごめん。本当にごめん。許してくれなんて言わない。一生憎んでくれてかまわない、警察に突き出されてもいい。
とにかくごめん。俺が何もかも悪いんだ、詩帆は何にも悪くない。本当にごめんなさい……」
「待って、お兄ちゃん」
詩帆が話に割って入った。
「あのね、違うの私……。あ、でもちょっと怒ってる、というかショックだった……だってあんな……無責任だよ」
「無責任?」
俺は顔を上げた。
「そういうの、ぜんぜん気を使ってくれない男の人もいるって聞いてたけど……でも、お兄ちゃんは違うと思ってたの。
気分に流される人じゃないって。だのに……」
「レイプなんて最低だ。わかってる」
「違うの、それとは違うの。えっとそうじゃなくて……赤ちゃんができたら、どうするつもりだったの?」

196 :私のお兄ちゃん9 ◆8mbkgcY/qc :2008/06/12(木) 02:33:15 ID:L6B5dCcU
「……結婚すればいいって思ってた。子供ができてしまえば詩帆を失わなくても済むと。
以前、あんなひどい言い方で断ったくせして身勝手だよな」
彼女がぽかんと口を開けた。そのまま何も言わないので俺は続けた。
「俺、詩帆のこと好きだ……大好きだ。でも認めるのが怖かったんだ。そうしたらもうアニキじゃ
……保護者でいられなくなるのがわかってたから、まだお前は未成年なのに。
だから詩帆の気持ちをないがしろにするようなことばかり言ってしまったんだ、本当はすごく嬉しかったのにな。
それで彼氏がいるって知った時……ごめん。今更なに言ったってただの言い訳だ。本当にごめん。ごめんなさい」
「もうやめて、お兄ちゃん。私びっくりしちゃって……何がなんだかわからないよ……」
詩帆は恥かしそうに頬を染めている。どういうわけか嬉しそうに見えた。……嬉しそう? 
俺のほうこそわけがわからない。
 深く息を吸い込む音が聞え、少女らしい微笑が消えて真面目な顔になる。
「私のほうこそお兄ちゃんに謝らないといけない。私すごく悪い……ずるい女でした!」
「え?」
詩帆は真っ赤になると横を向いた。
「だってあのね、私から誘ったんだもの……仕組んだの。やきもち妬いてくれたらいいなって。
いきなりあんなことになるなんて思ってなかったけど……でもホンネはちょっと、期待してた」
「……………」
「私の気持ちはあの七夕の夜から何にも変わってないよ。だから最近お兄ちゃんの帰りが遅かったり
朝帰りしたりするのがすごく嫌で……きっと恋人が出来たんだよって近所の人まで噂してるんだもん。
それでお兄ちゃんにどうしても振り向いて欲しくて友達に相談したら、もっと大人っぽくふるまって男の影でも
ちらつかせてやればいいって。だからわざと肌の出る服を着たり……先輩とのことも、全部嘘」
「嘘って……で、でも、あの電話」
「あ、あれはね! 先輩の家、U局映らないんだって。それで毎週アニメの録画頼まれてたんだけど、
お兄ちゃん昨日、映画の留守録していたでしょ。それで今日は無理だよって話。……えっと、
男の人向けのアニメらしいからお兄ちゃんには内緒にしたかったの。あれは本当に偶然」
「……俺ってバカだ」
思わずがっくりこうべを垂れると、温かい小さな両手が俺の頬を覆った。細い指先で撫でられて初めて、
無精ひげが伸びているのに気づいた。
「そんなところも大好き。昨日の夜もお兄ちゃんが素っ気なかったら私、立ち直れなかったと思う」
「でも……あんなことをしたのは変わらないよ。アニキなのに」
詩帆が俺の耳元でささやいた。
「お兄ちゃんなんて今まで思ったことないよ。それに私も誘ったって言ったでしょう。だからもう気にしないで」
「……許してくれるのか」
「うん。だってお兄ちゃん、私のユーワクに負けただけだもん。うーん、まんざらでもないぞ、私」
詩帆は雰囲気を変えたいのか顔を離すと明るく言ったが、俺が黙っていたからだろう、悲しそうな調子になった。
「お願いだからそんなに辛そうな顔をしないで。本当に嫌じゃなかったの。嬉しかった……とっても、幸せだった」
顔を上げると笑顔が待っていた。つられて自分も微笑返す。
「詩帆……。ありがとう」

 俺は起き上がると小さな背中に腕を回し、思い切り抱きしめた。

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315 :何か痛々しい三角関係もの 前編1/3:2008/08/05(火) 17:11:58 ID:+ICvP396
笑顔で迎えてもらえるとは思っていなかった。
けど、あいつの通夜が済み、葬式が終わって、その他諸々の儀式を含みながら
2ヶ月以上過ぎても、まだ目も合わせてもらえないなんて。会うたび痩せていく彼女を、
気遣おうと近づいても、当然のように避けられた。黒いリボンに縁取られた写真の中で、
のんきに笑う幼馴染に呟いた。
―――なぁ、やっぱり、俺が死ねばよかったよ、柊也。

玄関を開けて、俺の顔を見ると、瑞希は幽霊でも見るような表情で硬直した。
それから、いつものように目を逸らす。それでも、一瞬でも視線が合ったことに、俺は
小さく喜んでいた。
「入っていいか?」
瑞希は数秒の逡巡ののち、こくりと頷いた。その横顔は、最後にあった日より更に肉が
削げ落ちて見えた。柊也が死んでからほとんど食べていないという、瑞希の母親の言葉は
本当らしい。
瑞希の部屋は、よく片付いていて、普段の彼女らしい明るい色調も変わっていなかった。
だが、一人暮らし用の決して広くない部屋に、立派な仏壇が構えられている様は、一種異様だった。
玄関先で立ち尽くしていると、瑞希が傍らで囁いた。
「伯母さんがね、辛そうだったから、私が引き取ったの。毎日毎日仏壇見て、柊ちゃんがいないこと
 思い知らされるなんて、可哀想だもの」
お前はどうなんだよ。辛くないわけないだろ、そんなやつれて。
言おうとして、言えなかった。俺にその資格がないことを、知っていた。気付くと、俺はふらふらと
仏壇に近づき、懺悔のようにその場に座り込んでいた。

316 :何か痛々しい三角関係もの 前編2/3:2008/08/05(火) 17:12:59 ID:+ICvP396
俺と柊也と瑞希は、母親同士が3人姉妹の、従兄弟だった。長女の息子の俺と、次女の息子の柊也は同い年、
三女の娘の瑞希だけが、3つ年下で、物心付く前からの幼馴染だ。子どもではなくなってからも気が合って、
何かとよく遊んだ。特に、夏場に連れ立って海に行くのは、毎年恒例になっていた。だからあの車には、
本当は瑞希も乗っているはずだった。当日になって、夏風邪にかかることがなければ。
元気印の瑞希には珍しいことで、今思えば、虫が知らせたのかもしれない。
『なぁ、やっぱ帰ろうぜ。野郎二人で海行ったってしょうがねぇだろ』
『俺もそう思うけどさ、もうレンタカーも借りちゃったし、勿体ないじゃん?色々』
助手席の柊也はそう言って、後部座席に積み込んだ諸々の機材を振り返った。バーベキューセットに花火にスイカ、
几帳面で準備の良い柊也らしく、鬱陶しいぐらい何もかも揃えていた。信号が赤く灯っている間、俺も後ろを
振り返って、げんなりした。
『確かにな……ま、いっか。どうせ瑞希なんて、女のうち入んねぇしな』
信号が変わって、俺は思い切るようにアクセルを踏んだ。はねっ返りの瑞希が、『何よ』と膨れる顔を想像して、
自然と笑けた。
『そうかな?瑞希ちゃん、もう18だよ。さばさばして可愛くて、割ともてるんじゃない?』
『ねーよ。口は減らねぇわ料理は下手だわ、あんなのが好きなんて男がいたら会ってみてぇわ』
否定して、笑い飛ばした。瑞希と、『もてる』という単語を並べられたことが、不快だった。
『哲也、もう会ってるよ』
『はぁ?』
海水浴場の駐車場間近、焦っているのか、やたらに煽ってくる後続車に舌打ちしてから、柊也の言葉に
応じた。意味が分からなかった。
『俺、瑞希ちゃんが好き』
あっさりと、柊也は言った。思わず、助手席の柊也を振り返った。眼鏡の奥の柊也の目は、笑っていたが、冗談を
言っているふうには見えなかった。
『言えないけどね』
『え……あ、何で?』
間の抜けた返事しか返せない。後続車のクラクションが、頭の中でわんわんと響く。
『哲也が一番よく知ってるだろ?ほんと、厄介だよね、幼馴染なんて。壊れようがなくて、温かくて、十分に
 満たされて、もう一歩踏み出すことが、恐くて仕方ない。そのくせ、あの子が他の誰かを好きになることも、同じくらい
 恐いんだから』
『俺が……何て?』
後続車の打ち鳴らす音は、ますます激しくなっている。少し静かにしてくれないか。ただでさえ頭真っ白なのに、
何も考えられなくなる。
『今更隠すの?もういいよ、よそう。哲也が今まで瑞希ちゃんに何も言わなかったの、半分は俺のためだって、
 知ってるよ。だけど限界だろ?俺も哲也も瑞希ちゃんが好きで、何年も何年も……3人のままでなんて、いられないよ』
いつから、柊也は知っていたのだろう。俺と同じ痛みを抱えて、一体何年の間?
『俺はさ、哲也……もし瑞希ちゃんが、お前を好きなら』
一瞬の静寂。それが永遠に続けばいいと、俺が願ったせいなのだろうか。柊也がその言葉を、最後まで言い終えることはなかった。
降って沸いたような轟音が唐突に俺たちを巻き込み、前も後ろも、上も下も分からなくなって、それきり、俺達は
意識を失った。

後から聞いた話だが、海水浴場の混雑に備え、急遽設置された信号機が誤作動を起こしたのだそうだ。信号は赤のまま
いつまで経っても変わらず、後続車のクラクションは、もういいから発進しろという合図だったらしい。
俺はそうとは気づかず、結果的に律儀に信号を守っていたことになるが、そこへ右折してきた観光バスが突っ込んできた。
信号が正確なら誰もいないはずの道路だ、どれだけ勢いよく突っ込んできたところで、運転手を責める筋合いはない。
借りた車が左ハンドルだったこと、信号が壊れていたこと、そして何より、俺がぼさっとしていたこと。
数々の不運と過失が重なって、衝突されたのは柊也の乗っていた助手席だった。俺はというと、奇跡的に打撲と捻挫で
済んでしまった。
逆ならよかったと思い知らされたのは、何もかもが終わった後だった。

317 :何か痛々しい三角関係もの 前編3/3:2008/08/05(火) 17:15:02 ID:+ICvP396
仏壇に飾られていたのは、去年3人で海に行ったときの写真だった。引っ込み思案で、写真に写りたがらない柊也を、
俺が羽交い絞めにして、瑞希は柊也と腕を組み、Vサインをしている。柊也は苦笑していたが、どこか嬉しそうでもあった。
「これは、千葉だっけ」
瑞希は写真立てを手に取り、大事そうに指で縁を撫でた。
「一昨年は湘南で、その前は伊豆で……いつも、3人で行ったよね」
瑞希の目は、写真の中央の柊也しか映していないように見えた。
「何で私、今年に限って風邪なんかひいちゃったのかな」
かすかに声が掠れて、瑞希が泣いているのだと分かった。泣きながら、彼女が何を言いたいかが分かって、耳を塞ぎたくなった。
車で海へ行くとき、助手席に座っていたのは、いつも瑞希だったのだ。
「私が、死ねばよかっ―――」
言葉の最後は、嗚咽で声になっていなかった。啜り泣く瑞希の声は、俺の胸に刃物のように突き立てられて、何度も何度も、
心臓を抉り取っていった。
葬式で、母と叔母が話しているのを聞いた。瑞希の大学受験中、柊也は何度となく電車を乗り継いで、瑞希の家庭教師を
してやっていたらしい。抜け駆けしやがって、と怒ることさえ、もうできない。何が、もし俺のことを好きなら、だ。
本当はとっくに知ってたんだろ?瑞希がこんなに、自分を失くすほどお前を好きだったって。知ってて、何で死ぬんだよ。
俺が起こした事故ならなおさら、何で俺じゃなく、お前が。
返事が返らないことに、理不尽な怒りを覚えていた。それは、柊也が死んだ日から、瑞希に目を逸らされる度、
避けられる度に鬱積する思いを、弥増していった。

「死ねばよかったのは、俺だろう?」
気が付くと、俺は黒々と降り積もった嫉妬心の赴くまま、そんなことを口にしていた。呆気に取られたような
瑞希の表情が、余計に俺を苛立たせた。図星を指されて、そんなに驚いたか?
「死んだのが俺なら、お前は柊也と幸せになれてたのにな」
言いながら、気付いたことがあった。見る影もなく痩せ細って、柊也の写真を抱く手首。それはきっと、柊也を
追うための、ゆるやかな自殺なのだ。
「言えよ。柊也を殺した俺が憎いって、俺が死ねばよかったって。その方がずっと楽だ」
「何言ってるの、哲ちゃん」
瑞希は泣き腫らした顔で、まだとぼけていた。俺は糾弾するのも嫌になって、瑞希の腕を掴み、そのまま
床に押し倒した。すっかり痩せた瑞希の身体は、紙みたいに軽くて、それこそ消えてなくなってしまいそうだった。
「お前がこうやってどんどん痩せて、そのうち柊也の後を追っていなくなるより、ずっと楽なんだよ」
「哲、ちゃ……」
言いかけた瑞希の唇を、掌で塞いでやった。覚悟はしていたが、瑞希の口から確信的なことを聞くのは耐えられなかった。
そうして、くぐもった声をあげ、俺の手を逃れようとする瑞希を見るうち、急に思い知らせてやりたくなった。
生きているのが、柊也ではなく、俺と瑞希だということを。

321 :何か痛々しい三角関係もの 後編1/2:2008/08/06(水) 18:06:51 ID:S7Lo8G7n
「っ……!」
シャツを引き裂くと、瑞希は声もなく硬直した。晒された身体は、やつれて下着を持て余し、
あばらがうっすらと浮き出ている。性欲よりも、痛々しさが先に立って、俺は思わず顔を歪めた。
瑞希は、身体を見られているというのに、俺から顔を背けたまま、抵抗もしなかった。
不安定な呼吸で、たった一言、「見ないで」と呟いたきり。そんな、自分の身体に執着しない瑞希の態度は、
俺の焦燥を尚更駆り立てた。
「馬鹿だな、お前、こんなんなって。死ねると思ってんのか?」
「……ちが…う」
否定する瑞希に構わず、易々と下着をまくりあげた。痩せはしたが、まだ十分に丸みを帯びた乳房に、
唇を寄せる。先端を舐られ、瑞希は身体を震わせた。初めて見せる、反応らしい反応に、俺は少しだけ
安心していた。
「嫌っ……ぁ…」
逃れようと、瑞希が身体を捩るのを、難なく押さえ込んだ。弱りきった瑞希の抵抗は、こちらが戸惑うほど
脆弱だった。両手で肩を押されるのさえ、手を添えられているようにしか感じない。
「ほら、もっと暴れろよ」
「んっ……はぁっ……」
「柊也の見てる前で、犯されちまうぞ。いいのか?」
「……!!」
瑞希は息を飲み、初めて俺を見た。横っ面をひっぱたいてくれればいい、と思った。いつもの瑞希なら
そうするだろう。もう、この際憎しみでもいいのだ。瑞希が柊也ではない、まだこの世にある何かに
―――できれば俺に、何か感情を向けてくれれば、瑞希を生に引き止めておける。
そう思ったのに、瑞希はらしくもなく、焦点の合わない目で泣くばかりだった。
「哲ちゃん……どうして?」
その顔は、子どもの頃の瑞希のままだった。まだずっと幼い頃、瑞希はよく、こんな風に泣いて俺や柊也に
縋ってきた。信じきった、子犬みたいな泣き顔。
不意に、嘘がつけなくなった。
「俺は、柊也じゃない」
「……」
「だから、俺がお前に何を言っても、お前は聞かねぇだろ?まして俺のせいで、あいつは死んだのに」
「……哲ちゃんのせいじゃ、ないよ」
瑞希の手が、髪に触れようとするのを、俺はその手をとって拒んだ。欲しいのは、赦しではない。
「お前が好きだって、必要だって、どこにも行かないでくれって……俺が言葉で言っても、お前は聞かないだろ?」
瞬間、瑞希は目を見開き、ゆっくりと両手で顔を覆った。その端から、涙がこめかみをつたっていく。
何年も抱いていた想いだった。こんな風に投げ槍に伝えたくはなかったし、泣かれるのだって惨めでたまらない。
けど、それがほんの少しでも、瑞希を引き止める理由になれるなら、そんなことはどうでもよかった。

「あ……!」
されるがままになっていた瑞希が、そのときだけ身を強張らせ、侵入を拒んだ。
「力抜けよ」
「やっ……嫌!」
弱々しく暴れる両脚の付け根をつかみ、無理にでもこじ開ける。押し当てると、瑞希のそれは意外なほど濡れていて、
瑞希の抵抗にもかかわらず、俺の先端を受け入れた。
「ひぁっ……!」
堅く閉ざされたそこは、侵入を拒むように、ぐいぐいと肉壁を押し付けてくる。ほとんど力ずくで瑞希を犯しながら、
俺はひたすら、無駄と分かっている言葉を口にしていた。
「瑞希、好きだ」
「やだっ……!哲ちゃん、やあぁっ!」
瑞希の拒絶を相手にせず、まるで壊れた機械みたいに、価値のない言葉を繰り返す。
そのたび瑞希の中で、俺の醜い自身は膨れ上がっていった。
「おねが、い……やめて、や、め……っ!」
「……っ!!」
達しようとする、ほんの刹那、写真の中の柊也と目が合った。
―――悔しいか?柊也。
「あ……あ…」
瑞希の腰を抱え、最後の一滴まで精を注ぐ。
―――なら、代ってくれよ。お前なら、こんなことしなくて済むだろう?
好きだとか、必要だとか、どこにも行くなとか。お前なら、たった一言で済むんだ。
気付けば俺は、瑞希と同じ顔をして泣いていた。

322 :何か痛々しい三角関係もの 後編2/2:2008/08/06(水) 18:08:14 ID:S7Lo8G7n
―――ごめんね、柊ちゃん。
玄関の扉が閉じる音を背中で聞きながら、私は何度目になるか分からない懺悔を口にした。
そうして、服を着るより先にしたことは、床に放られていた3人の写真を、仏壇の中に伏せることだった。
今更遅いと分かっていても、そうせずにいられなかった。
謝っても、謝っても足りない。そう思って仏壇を引き取ったのに、また罪を重ねてしまうなんて。
覚束ない足取りで小さくなっていく哲ちゃんの背中を、窓辺から茫然と見送る。
―――私が好きなのは、あなただよ。ずっと好きだったんだよ、哲ちゃん。
伝えられる日は、きっと永遠に来ないだろう。
それはあの事故の日から、定められたことだった。

あの日、2人が事故にあった日、1人が助かり、1人が死んだと聞いて、私は熱も構わず家を飛び出していた。
哲ちゃん、哲ちゃん、どうか生きていてと、そればかり祈りながら、病院へと急いだ。
霊安室で、その身体が柊ちゃんのものだと分かって、安心して……そのとき初めて気付いた。
自分が、平気で柊ちゃんの死を願っていたことに。いつだって、柊ちゃんはあんなに優しくしてくれたのに。
哲ちゃんやみんなが柊ちゃんの死を嘆くなか、まだどこかで『哲ちゃんでなくて良かった』と思っている自分が、
醜悪すぎてたまらなかった。そのことを、哲ちゃんにだけは気づかれたくなくて、自然と避けていた。

私は悲しんでいる、柊ちゃんの死を悲しんでいる。そう思おうとして、私はこれ見よがしに大袈裟に振舞った。
あれが演技だなんて、思いもしないのだろう、単純な哲ちゃん。私が柊ちゃんを好きだなんて誤解、きっと柊ちゃんも
迷惑がっている。私は恥知らずの、人でなしだ。贖罪のために引き取った祭壇の前で、抱かれて、愛されて、
ただ喜びに満たされていた。自分の想いを口にしないことで、精一杯だった。哲ちゃんに身体を揺さぶられる度、
応えてしまいそうになるのを、堪えて、堪えて……哲ちゃん、私も好き、あなたが好き。口の端に上る言葉を、
必死でかみ殺していた。
忘れよう。葬ってしまおう、想いが叶ったこの喜びごと。生きていたのが私の好きな人でよかったと、思い続ける
穢れた心ごと。死んだ人間のことと切り捨ててしまうには、私達3人はあまりにも近すぎる。
往きかけた夏の西日が、幸福そうに笑う私達の写真を儚く照らしていた。

334 :何か痛々しい三角関係もの 後編2/2:2008/08/15(金) 00:46:56 ID:Cj+y6+DV
>>333
書いた者だけど是非お願いします。

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344 :某・女王様時代風政略結婚ネタ 1/6:2008/08/22(金) 17:28:58 ID:Bc7lZTxo
持て余し気味の財力を振りかざし、己の血統に『由緒』だの『階級』だの『身分』だのを自分自身で
付与する企みを、渋々諦めた成り上がり者が“次世代に丸投げ”なんて、割とよく聞く話だったが。
 そんな愚考を画策するような恥知らずの周囲には結局、同類しか群がってきませんでした……な
泥沼状態を、生暖かい目で見守ってやれるのも、ソレが他人事ならばこそで。
 第一、てめーの“一人息子”の通り名は『トーキング・フィスト』だぞ?
 

  いい加減、現実を直視しやがれ、糞親父っ!!!
 

本当、ありふれ過ぎてる莫迦話。だけど、俺にとっては、心底気の滅入る“苦行”でしかなかった。
 ……あの日までは。






誰かに呼ばれた様な気がして、目が醒めた。
 薄紫の小さな花がほろほろと散り急ぐ潅木の茂みには、聞こえよがしのひそひそ話とか、あけすけな
目配せとか、露骨な無視とは全く無縁の微風が穏やかに吹き抜けていくだけだったので、何時の間にか
眠り込んでしまっていたらしい。
 なんだかえらく長ったらしい名前の侯爵夫人主催の茶話会とやらが、とっくの昔に終っている事を
心の底から祈りつつ上体を起こしてみたら、視線の先になんか変なモノがいた。

遅い午後の光を受けて、さらさら輝く金の髪と、淡い薄荷色の清楚なドレスを纏った小柄な女の子。
 夏の名残の水草の薄い葉だけが寂しげに揺れている池だか沼だかの畔で、此方に背を向けてふらふら
よろけながらなんとか、かかとの高い華奢な靴を両方とも脱ぎ捨てる。
 流石にその後は、暫く躊躇していたらしいのだが、又『にぃ、にぃ』と言うかなり哀れっぽい声が 
辺りに響き始めると、大慌てて靴下を脱ごうとして……、ど派手にすっ転んだ。 
 それを横目に靴のまま、柳の枝から滑り落ちて池の真ん中辺りで溺れかけていた仔猫へざぶざぶと
歩み寄り、首筋を引っつかんで胸元に押し込みながら、踵を返す。
 尻餅をついた姿勢のまま、綺麗な翠色の瞳をまん丸に見開いて、此方をきょとんと見つめている
少女の足元で、くしゃみしていた濡れ雑巾は物陰からかっ飛んで来た母親と思しき大人猫が、速攻で
拉致していった。

345 :某・女王様時代風政略結婚ネタ 2/6:2008/08/22(金) 17:29:55 ID:Bc7lZTxo
差し出した手へ半分縋り付くようにしながらも、なんとか自力で立ち上がろうと骨折っていた少女が
小さな悲鳴を上げて、又座り込む。やはり、足首を捻ってしまっていたらしい。

「……ごめん。かなり、痛むかもしれんが」
「っ! ……いっ、いえ、平……気っ」

足元に跪き、赤く腫れてしまっている細い右足首にそおっと触れた瞬間、又漏れかけた短い吐息こそは
必死で飲み込まれたものの、気丈な返事は、か細い涙声で。
 出来るだけ手早く、丁度濡れたハンカチで患部を少し強めに巻き締めながらしっかりと固定してやる。
 やがて、俺の手がそこから離れていくのとほぼ同時に、微かなため息を漏らした少女の頭をニ・三回
撫でてやってから、ひょいと片手で抱き上げた。

「あ……っ、あのっ!!」
「ん? ……あぁ、ごめん。靴、忘れかけてた」
「……あ、いえ、そうじゃな……っ」

なにやらもごもご呟かれている言葉をはっきり聞き取ろうと、彼女の顔を真っ直ぐ覗きこんだ瞬間
ものの見事に固まられてしまった。
 毎朝、鏡を見るたびに自分自身でもうんざりするような仏頂面なのだから、まぁ仕方あるまいと
それからは、彼女の方へなるべく顔を向けない様、最大限努力した。

何故かその後、真っ赤な顔をして黙り込んでしまった少女の付添い人への伝言を頼んでから、糞親父
御自慢の小型蒸気自動車で一旦、掛かり付けの医者の所に寄って、ちゃんとした治療をして貰った後
自宅までまっすぐ送り届ける。
 案の定、山の手の少しうら寂しい感じがしているものの、それなりに立派なお屋敷のお嬢様だった。
 一応彼女が、なんとか侯爵夫人の立派な庭園を散策している時に、木陰で寝ていた俺の脚に蹴躓いて
足を挫いた……と言った趣旨の説明をしてみたけれど。
 当然、物凄く胡散臭い目で見られてしまった。これも、もう慣れっこな事だが。
 それよりも、ずーっと俯きっぱなしだった少女が、別れ際に蚊の鳴く様な声でだけれど、きちんと
お礼を言いながら、小さく手を振ってくれたので、正直ほっとした。

そして、その時からずっと、只一つの事をぼんやりと考えて続けている。

 
  ……なんだか、とても大切な事を忘れている様な気がするのは何故なんだろうと……。

346 :某・女王様時代風政略結婚ネタ 3/6:2008/08/22(金) 17:30:39 ID:Bc7lZTxo
つい先程までの、涙まじりの哀願は容易く切れ切れの悲鳴と化し、終いには単なる嗚咽へ成り果てた
あたりで、完全に興が殺がれてしまった。

『歴史』と『威厳』とやらを鼻に掛けまくった特権階級様が夜毎やらかしてるパーティのいやらしさも
大概だが、糞親父と同じ穴の狢殿が主催者の夜会は、それに輪をかけてえげつない。
 比較的まともと思われる招待客以上に“高級肉体労働者”たちが大威張りで闊歩しまくってた会場で
運悪くとっ捕まって、いそいそ連れ込まれた小部屋へ饐えた臭いと共に、押し入ってきた無粋な闖入者
とその連れの、聞くに堪えない痴話喧嘩。
 しかし、到底“合意の上での行為”だとは思えない幼い涙声が、場の空気を恐ろしく煮詰めすぎて
完璧に、萎え果てた。

と言う訳で、俺の足元へ座り込み、熱心且つ濃厚な御奉仕とやらに励んでる顔馴染みのコーティザンの
こめかみあたりを軽く突っついてやる。
 経験の浅い若造なら、それだけで果ててしまいそうなほど色っぽい表情を装っている流し目に一瞬
得意げな笑みが浮かんだのを醒めた気分で見下ろしながら、熱い口内から俺自身を引き抜いた。

「……なぁにぃ? 『下』で犯って欲しいのなら、追加料……」

そう言いながら、もぞもぞ最新流行のドレスの裾を持ち上げ始めたソイツの口に、ソブリン金貨を一枚
押し込んでやってから、手早く最低限の身繕いをする。
 しかし、窮屈な背広を脱ぎ捨て、ホワイト・バタフライを引き千切り、カフリンクスを外し投げて
ワイシャツの腕を捲り上げるだけで、早くもわくわくしてる自分の単純さには、苦笑するしかない。


  ゆったりとした大股で、一歩、二歩、三歩。


態々、足音を潜めて忍び寄るなんて小洒落た真似なんぞしてやる気もなかったのだが、ドア脇のごつい
棚へ無理矢理押し付けた小さな体に覆いかぶさって、陳腐な脅し文句をわめき続けてる下種の愚行は
その程度では当然止りもしない。
 挙句の果てに、見たくもない貧相な尻を堂々と晒して、中途半端に擦り降ろしたズボンごと盛りの
ついた野良犬宜しく無闇矢鱈と腰を振り始めやがったので、嫌々大莫迦野郎の肩を叩いてやる。
 案の定、酒精と肉欲で目の焦点すら合ってない胡乱な間抜け顔が振り返ってきた瞬間、全体重を
掛けた拳をその鼻っ柱に叩き込んだ。
 何度も感じたことがある手応えと何度も聞きなれてる破壊音を撒き散らしながら、速やかに床へと
崩れ落ちていく愚か者の下敷きにならぬ様に、柔らかな肢体を素早く引っ張り上げる。

が、腕の中の心地よい重みやら香りやら温もりやらを堪能するより早く、酒精の所為で中途半端に
痛覚が鈍っていたらしいロクデナシが、唸り声と共に上体を起こしかけてるのが見えた。

「腕立て伏せ、五十回追加」

全然、ペナルティにすらならない誓いを口走りつつ、往生際の悪い痴れ者の下顎を力一杯蹴り上げる。
 で、のた打ち回りながら、白い小粒の固形物混じりの吐瀉物をニ・三度床にぶちまけてた潰れ蛙が
やーっと静かになったと思ったら。

347 :某・女王様時代風政略結婚ネタ 4/6:2008/08/22(金) 17:31:20 ID:Bc7lZTxo
「い……っ、やーーーぁ!!! ごめんなさい、ごめんなさい、許して……下さ……、殺さないでーっ!!!」

微妙な角度で当たってる胸が結構でかい事に、いろんな意味でテンション急上昇中な自分にとことん
正直な俺の腕の力が、少し強すぎたらしい。

だけど、必死で俺の頬を掻き毟っている指先の薄い爪の触感さえも、心地よい愛撫としか感じられず
覗き込んだ翠色の瞳が溺れているように潤んで、部屋に連れ込まれた時には綺麗に結い上げられていた
長い髪も、今は豊かな黄金の滝と流れ落ちていくばかり。

(……ん? この子、何処かで?)

決して多くはない“知っている女性”の記憶を、貧しい脳味噌の中からなんとか搾り出すよりも早く
少々デザインが旧い感じの、簡素な夜会服の襟元から覗いている白く滑らかな首筋へたった今、点々と
付けられてしまった赤い痕を見た途端、箍が外れた。
 

  甘い甘い、唇。


軽くついばむ様な口付けは、瞬く間に深く貪る動きへと変わる。
 くぐもった悲鳴と共にいやいやと首を振り続ける懸命な抵抗さえも、むしろ俺の更なる愛撫を強請る
おねだりだとしか思えなくなっていた。
 一度、唇を離してやって少女が大きく喘いだ時、小さな口内へ強引に侵入して逃げ惑う柔らかな舌を
無理矢理絡めとって、存分に舐りまわす。
 溢れ出る唾液を全部流し込んでやって激しく掻き回し、彼女のと混じり合ったそれを総て吸い上げる。
 何時の間にか、背中へ回されていた細い腕がずるずると滑り落ちていき、がくがく震え続ける華奢な
体も、柔らかな重みを増して溶け崩れたのを確認してから、渋々唇を開放した瞬間。

「“狩人”が“人喰い狼”に変身してどーすんのよっ。この、慮外者っ!!!」

裂帛の気合と共に、俺の後ろ頭へピンヒールの踵が深くめり込んだ。

下半身丸出し状態な阿呆の手足を、カーテンの紐できっつく縛り上げて、そのまま物陰に放置後
『首筋のソレ、隠さないと色々不味いんじゃない?』のアドバイスに従って“高級肉体労働者”用
控え室にいまだ朦朧としている少女をこっそり連れ込む。
 やがて、色々と慰められながら適切な処置を受けて、濃い目のホット・バタード・ラム・カウを
少しずつ啜っていた少女が幾分落ち着いた頃を見計らい、忘れ物を回収する為に彼女の前に跪く。
 
「……えーっと、ごめん。俺……じゃなくて、私の名前は、ガウェイン=ガーナーと言います。
 貴方のお名前を、正式にお伺いする事をお許しくださいますか? ラグネル公爵のお嬢様」
「……ヴィクトリア・エタルド=ラグネルと申します。どうぞ、トリアと呼んでください」


  純白の薔薇が、硬い蕾をふわりとほころばせ、柔らかな薄紅色に染まっていくような微笑み。
 

何故かそれが、胸の奥底にすとんと収まって、唐突に『捕まってしまった』と自覚した。

348 :某・女王様時代風政略結婚ネタ 5/6:2008/08/22(金) 17:32:06 ID:Bc7lZTxo
確か、幼い頃に乳母から『見つめられると息が止り、声をかけられると姿が消え、触られると石になる』
そんな呪いを受けた亡霊騎士が、たった一人の乙女の真心で永遠の救いを得る……ってな寝物語を聞いた
ような覚えが有るけれど。
 それが“本当のお話”なんだとはこれまで、全然気付きもしなかったし、それ以上に思い知ったのは
いかに自分が“諦めの悪いヘタレ”なのかと言う事。
 
『北の国境近くの港湾都市に、ガーナー商会の支店を立ち上げる』
 そんな、糞親父の提案に乗っかる様に一目散で逃げ出して、胸の痛みを誤魔化しながらなんとか
諦めようと努力していたつもりだったのに。
 恐る恐る参加した、ユール祭の舞踏会場で『淑女にダンスを申し込む権利』とやらに、有り金全部
注ぎ込んで、なんだか随分痩せてしまった様に見える永遠の乙女を、堂々と掻っ攫ってしまっていた。
 でも、優雅なリードなんか出来る訳も無いし、ましてや気の利いた会話を交すなんて絶対、無理だと
最初っから解っていたから。
 結局、自分が知っている中でも一番小洒落たパブの片隅で、ふわふわ舞い落ち続ける牡丹雪を窓越しに
見上げながら、一皿のユール・ログを二人で分け合って食べた。
 そして『とても楽しかった今宵の思い出にしたいです』と彼女に乞われて、お互いの胸元を飾っていた
金と銀のミスルトゥの小枝を交換した時の本当に嬉しそうな笑顔から、目が離せなくなっていた。


  だから、それを、ずっと守ってやりたいなんて、一人で勝手に思い込んでしまった。


彼女の父親が、代替わりした時の莫大な相続税や、体面とか気位を保ち続ける為の維持費を捻出しようと
起こした事業にあっさり失敗して破産寸前である事を聞き及び、深く考えもせずに資金援助を申し出た。

その程度の事しか思いつけなかった俺が、やっと決定的な間違いに気がついたのは、なにもかも総てが
終ってしまった後。

349 :某・女王様時代風政略結婚ネタ 6/6:2008/08/22(金) 17:33:06 ID:Bc7lZTxo
身に纏った最高級の花嫁衣装よりもなお蒼白い顔をした少女は、長い式の間もずっと固く唇を引き結び
ついぞ笑いも泣きもせずに、悲しい瞳でぼんやりと自分の手元を見つめ続けるだけで。
 糞親父とその取り巻きたちだけが異様に盛り上がっているのをばっさり見捨てて、閨に赴く頃には
ひょっとしたら彼女の方こそが亡霊で、偽りの愛を無理矢理誓わされてしまった為に、このまま儚く
消えてしまうのではないのかと、空怖ろしくさえなっていた。
 そんな俺が、必要以上に力を込めて華奢な肢体を手荒く押し倒しても、少女はそのまま大人しく
屠殺台に据えられる子羊の従順さで寝台に貼り付けられて、覆い被さりながら深く口付けてみても
その視線は永遠を彷徨ったまま。
 それでも、半分引き毟る様に胸元のボタンを外して、柔らかく張り詰めた乳房を乱暴に鷲掴んだ時
やっと彼女はその虚ろな瞳を俺に向け、薄く紅の引かれた唇を微かに動かしてくれた。

「……ごめんなさい……」
「……え?」
「私が、貴方に、して差し上げられる事は、もう、これ位しかないんです。……だから」
 
ぶるぶる震え続けている白い手が俺の下半身へと伸ばされて、これ以上はないほど不器用な仕草で
躊躇いがちに秘所へと潜り込む。
 やがて、おずおずと導き出された半立ち状態の欲望は、少女のひんやりと冷たく細い指でゆるゆると
弄ばれて、滑稽なくらいに容易く角度と硬度を増していった。
 そしてそれにゆっくりと小さな頭が近づいていく様は、夜毎訪れる淫夢の中で捏造していたものよりも
遥かに悲壮感に満ち溢れ、同時に凄まじく劣情を煽り立ててくれたのだけれども。 
 
何故か『やめてくれ』という叫びは、喉の奥底にべったり張り付いて、代わりに吐き出してしまったのは
鋭い舌打ち。
 薄い肩がびくりと大きく震えて、恐る恐る振り仰いできた泣き出しそうな表情を、只見たくない一心で
小柄な体をうつ伏せにしてきつく押さえつけたまま、僅かに潤んでいたのを良い事にろくな前戯すらせず
無理矢理貫いた。
 狭く熱い秘所から溢れ出てくるのは、ほとんど愛液で薄まった気配が無いぐらい鮮やかな、純潔の証。
それだけを潤滑油として、更に最奥へ強く捻じ込んでいく度に戦慄く滑らかな背中を、噛み付くような
口付けで激しく愛撫しながら、所有印を散りばめた。

  
  もう、愛されたいなんて、望まない。むしろ、殺してやりたいと、憎んで欲しい。


そんな身勝手な気狂いの慟哭さえ、拒絶も否定もしないまま、か細い謝罪の言葉と共に果ててしまった
少女の行き止まりへ猛り狂う灼熱の楔をきつく押し付けて、自分の総てを注ぎ込んだ。

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360 :神が来るまで繋いでみる:2008/08/28(木) 01:18:39 ID:ei/pA9G3
「ああもう、聞いてますの?シュナイゼル!!」
「勿論です、お嬢様。騎士団長様と婚約されたんですよね。僭越ながらこの身からもお祝い申し上げます。」

私が貴女の声を逃すわけが無いじゃありませんか

「そうです、あの方こそ私の王子様なのです!ああ、あの逞しい腕……思い出すだけでもうっとりしてしまいますわぁ……」

私が貴女を見る度、声を聞く度、過ごしてきた日々を思い出す度に、
どうしても湧き上がってしまう欲望を抑えているのを、普段の振る舞いに反して根が純粋な貴女は知らないのでしょうね

「全く、あの方のファンなどと自称する平民共は本当の魅力ってのを分かってるのかしら。
あの方を幼い頃よりお慕いしてきた私には細かい所まで分かってますのに、ほほほ」

今もこうしてその愛らしい微笑みを見て沸き立つ欲望を抑えて、必死で笑みを作り浮かべているのに

「ふぅ……ふふ、やはり好きな方が居るとはいいものですわね。そうですわ、シュナイゼルには居ませんの?
知ってますのよ、うちのメイド達が貴方を見て騒いでるのを。うふふ、流石私の執事ですわぁ」
「いえ、私は……そのような方は居ません」

また一つ嘘を吐いた
それに……流れる感情も恋愛という物ほど愛らしくはない

「あら、勿体無いですわね。貴族の婦女子達でも囁かれるほどの美貌と言われてますのよ?
くす、これではこぞって名乗りを上げてもおかしくありませんわね」

私には一人しか要りませんよ

「そうですわ、折角ですし、友達の子で可愛らしい子が居ますのよ。ほら、覚えてませんか?
以前館に招待した髪を結んでいた子です。結構気に入っていたようですし、きっとお似合いですわ!」

その子供のような笑顔とはしゃぐ可憐な声で語られた内容に欲望がまた一つ育っていくのを感じた
そして抑えていたもう一つの自分も浮上してくる―――

「……シュナイゼル?聞いてますの?私を気遣っているのなら私も結婚しますから、
これを機に自分のことを考えても宜しいんですのよ?」

それはそれはありがたいですね

「では僭越ながら―――」
「え?んんんぅぅぅぅ……!?」

その可愛らしい口から閉ざさせてもらいましょう
前からこうしたいと思っていました、ずっとずっと―――

「さて、ではベッドへ参りましょう。ご安心ください、腰に力が入らないでしょうし、ちゃんと私が運びますから」

お嬢様、貴女はオレの物だ

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373 :深層の記憶:2008/08/31(日) 01:38:20 ID:p4kXoHSb
悪の組織の首領の青年と正義のヒロインの少女。
二人は幼馴染で以前は仲良かった。気弱な少年と男勝りの少女で相性が良かったのか馬が合ったのだ。
しかし最悪の形で再開を迎えてしまうことになろうとはその時二人は知らなかった。
そして敵同士として再会した二人。記憶を無くし別人のようになってしまった青年は、
少女が今まで戦ってきたラスボスの正体を知り愕然としている隙に少女を捕らえることに成功する。
どうしてと何でと胸に縋り付く、男勝りな部分は変わらずにそれすらも魅力になるほど美しくなった少女を見下ろしながら、
以前から度々胸から湧き上がっていた正体の分からない感情に任せて少女を犯していく。


ビリリリィ……

「やだやだやだぁ!!こんな形でなんて嫌ぁ!!裕太止めてぇ!!」
「―――煩い、耳障りだ」

露出度が高いその衣装を破りながら青年は愚痴る。
何で何でこの女の声がこんなに、こんなに……心に響く。
こんな喧しい女なんて知らないはずなのに。どうして。


【こら○○ぁ!ちゃんと宿題やって置いたんでしょうねぇ?】
【う、うん!やって置いたよ!でもこういうことは自分でやった方が……】
【むっ、○○の癖に一言多いわよ!いいのよ、面倒なんだから仕方ないでしょ!】
【……それって威張る事じゃないと思う】
【う、うるさいうるさいうるさーい!!そんな○○にはこうしてやるー!】
【ひぇ、痛い痛いよ!!僕が悪かったってばぁ!!】


「―――黙れ」

思わず零れた言葉は何に対してだったのか。
泣き喚く女の声を聞くたびに途切れ途切れに幼い少年少女の声が脳内で再生される。
何故それに酷く懐かしさを感じる。何で何で。
分からない分からない!

374 :深層の記憶:2008/08/31(日) 01:39:03 ID:p4kXoHSb
「ひっく……ぐす、あっ!くぅぅぅ…いや……やだよぉ、止めてよぉ……!!」
「―――本当に喧しい女だ、既に感じているくせに何を言っている」

たぷたぷと衣装から女の豊乳を弄びながら耳元で嘲る様に言う。
それにびくりと反応して瞳から零れ落ちた女の涙が頬を伝う。
何故かそれに反応しそうになった己を抑えるのに苦労した。
そして再びしゃくりあげながら泣き始めた。まるで何かを思い出して泣いているように。


【―――絶対また会おうね!!約束よ!】
【ふぇ…うん!うん!絶対だよ!!】
【ったく……そうだ、もう一つ約束しなさいよ!】
【ぐずっ……約束?】
【そう、約束よ。あたしが今度会うときはビックリして腰抜かすぐらいうんと女らしくなってやる!
だ、だからアンタも男らしくなりなさい!何時までも泣いてんじゃないわよ!!いいわね!?】
【は、はいぃぃ!!ごしごし……分かった、僕がんばるよ。一生懸命……やってみる!!】
【よし、それでいいわ。そ、そうなったら……う、ううん、やっぱり何でもない、次に会った時に言うから!】
【?よく分からないけど分かった、あ、じゃあ指切りしよ!】
【指切り?も、もう子供っぽいわねえ。本当に期待していいのかしら……まあいいわ、じゃあいくわよ。
ゆびきりげんまんはりせんぼんのーます!!】
【のーます!!】


「―――黙れ、黙れ!」
ノイズのようにジジジと混ざる声。
鬱陶しい筈なのに何でそれを拾いたがる。
何で何で何でそれで何かを思い浮かびそうになる。
どうしてどうしてどうして!!

375 :深層の記憶:2008/08/31(日) 01:40:08 ID:p4kXoHSb
耳に残る余韻を振り払うように女に強引に口付ける。
そうすれば黙らせられると信じて。

「や!……んんぅ!!ぴちゃ……くちゃ……ぢゅぱ…」

口付けられた途端再び零れた女の涙。
貪るように女の口内を嘗め回し、吸い、嬲っていく。
暫くすると女は諦めたように瞳を閉じて身を任せるようになった。
もうどうなってもいいというように。
諦めたのか?それとも受け入れたのか?
いや、そんな事はありえないはずだ。そうだ、ありえない。
知らない男の舌を受け入れるなんてそんな事―――


泣カナイデ―――泣カナイデ泣カナイデ、泣カナイデ―――!


「―――黙れ黙れ黙れぇぇぇぇ!!!」
何故こんな感情が湧き上がる。
何故何故この女を守りたいなどと思った。
何故何故何故!!!?
女の口を開放し、愛撫する手すらも止めて頭の何かに叫ぶ。
そうしないと何かが出てきそうで、自分が壊れそうで、怖い怖い怖い!!
今まで培ってきた組織のリーダーとしての自分、それを破って何かが出てきそうで!!!

その時だった、ふわっ……と柔らかい何かに包まれたのは。
余りにも暖かくて、優しくて、自然のように包んだ。
思わず泣いてしまいそうになった。この身を支配しかけた恐怖が次々と消えていく。

「本当にアンタは弱虫で……馬鹿で……男らしくないんだから……。
でもね、あたしは……そんなアンタが……この世界で一番大好きなんだからね、裕太……」

涙を残し服は破れていたがそれでも彼女は綺麗で強かった。
優しく、とても優しく彼女は微笑んでいた。

「―――俺は……俺は……」
「ごめんね、辛かったよね。気づいて上げられなくて本当にごめんね……」

376 :深層の記憶:2008/08/31(日) 01:40:53 ID:p4kXoHSb
「でも、あたしも会いたかった……本当に会いたかったんだからぁ……!」

全ての思いを込めて青年の頬をそっと両手で押さえて彼女は唇を重ねていく。
呆然と彼女を見つめながら受け入れていく青年。
優しく青年の頬を押さえたまま彼女は涙を一筋流す。
そして唇を重ねられた瞬間、彼の中で何かが壊れ、弾けた。
でもそれは怖くなくて、痛くなくて、苦しくなくてそれは檻から開放されていく。


―――ああ、そうだ。あの時に出会った「何か」
それによって身体が乗っ取られ、記憶が奪われていった中、
彼女の記憶だけはと歯を食いしばり、傷を付けながらも守った。
それのおかげでいつも彼女を攻撃するとき躊躇えた。
よく分からない感情が在った、けどそれは無くしてはいけない物だったんだ。



ゆっくりと握った拳。それはもう何かを壊すための物ではなかった。
瞳を閉じて開かれた瞳。それはもう破壊を映すための物ではなかった。
力強く少女を抱きしめた腕。それはもう少女を傷つけるための物ではなかった―――

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435 :昨日の敵は今日の…1:2008/09/16(火) 22:38:27 ID:DwCrV5Zf
腐敗しきった王政を終わらせる為、
仲間と一緒に立った蜂起したあの日から、既に5年の歳月がたっていた。
 当時少年だった彼も、今では反乱軍を率いるまでになっていた。
その顔立ちには幼さの代わりに数多の苦労が刻まれ、
ここまでの長い道のりが窺える。
 城壁に立ち、やっと開城までこぎつけたこれまでの事を思い返しながら、
男は遠くに見える町並みを見ていた。
 

「ハロルド、ここにいたのか。とうとうここまで来たって感じだな」
 ハロルドと呼ばれた男は振り返り、アーネストか、と戦友の名を呼んだ。
「あの親衛隊の隊長ってのは投降したのか?女だとかいう…」
「ああ。最後は割とあっさりと投降したよ。
結局今まで女王の側にいたのは、その女隊長だけだぜ。
もう誰も残ってないってのに、泣かせるよな」
 アーネストの言葉に、ハロルドは苦笑した。
「どこがだ。情にほだされて状況判断もできずに逃げ遅れたんだろ。
馬鹿なだけだろ」

 ハロルドがそう一蹴し、今度はアーネストが苦笑する。
「ずいぶん手厳しいな。お前なら、てっきり敵ながら見上げた奴だ、
とか言うかと思ったんだが」
「お前こそなんで女隊長の肩を持つんだよ。
危うく半殺しにされかかったのは誰だ?アーネスト」
 ハロルドに指摘され、アーネストは肩口に巻かれた包帯を左手で撫でた。

 その傷は命に関わるものでこそないが、浅いものではない。
アーネストも我流とはいえ、剣の腕は悪くない。
その彼が女隊長に斬られたと聞いたとき、
ハロルドはずいぶん驚いたものだ。
だが、あと10センチ上にそれていれば、命に関わる傷だった。
 だから俺は会った事も無い女隊長に対して、
こんなに憎しみを抱くのかもしれないな、とハロルドはふと思った。

 ただ、当のアーネストは笑いながらのんびりと言った。
「まぁ、これは俺が悪いんだけどな」
「何だそれは」
 ハロルドが聞き返すと、アーネストは笑って頭をかいた。
「実はあらかじめ警告されてたんだ。
『剣を交える気はない。
自分はしかるべき時期が来たら投降する、だから退け』ってさ。
そんな事言われても、やっぱいい腕してるって聞いたら血が騒ぐだろ?
で、突っ込んでいったら斬られた、というオチなんだよなぁ」

 アーネストは空を見上げて伸びをしながら、続ける。
「あんなに鮮やかに負けたの久々だったよ。
あれは間違いなくプロの訓練受けてるな。案外お前のクラスメートだったりして」

 ハロルドはじろりとアーネストを睨んだ。
「俺は"元"軍隊出身の剣士に師事してただけだ。そんな知り合いなんていねぇよ」
「そうかぁ?よく思い出してみろよ。
金髪で緑の目のきれいなねーちゃんだったぜ。顔の割に胸がでかい感じの…」
「勝手に言ってろ。俺は女隊長の様子を見てくる」
 まだまだ話を終えそうにないアーネストに、
ハロルドは半ば呆れてそういい残し、城内の地下へと足を向けた。

436 :昨日の敵は今日の…2:2008/09/16(火) 22:42:50 ID:DwCrV5Zf
馬鹿馬鹿しいと思いつつも、
ハロルドはアーネストの言った言葉が気にかかっていた。
薄い緑の瞳、金髪の女。目蓋の裏に、遠い記憶の中の少女の姿が蘇る。
 いつも側にいて、伝えるべきことも伝えられないまま、
いつの間にか目の前から消えてしまった。
 ふとした瞬間に、存在の大きさを思い出す。例えば今のような瞬間に。
「まさか、な」
 ハロルドは考えを打ち消すように頭を振った。
今は昔を思い出している場合じゃない、そう自分に言い聞かせながら。

 
城の地下へと続く階段を下りると、ひんやりとした空気が上がってくる。
ハロルドの視線の先には、石造りの廊下が奥までずっと続いていた。
 過去何百人という人物が閉じ込め、最期を迎えた牢獄。
まるでここだけは時に忘れ去られたように、静まり返っている。
壁際に据え付けられた松明の音だけがパチパチと小さくこだましていた。

 廊下の突き当たりにある、古びた扉の格子を覗くと、
グレーの粗末な服を着た女が背を向けて座っていた。
ハロルドは扉を数回たたき、中へと入った。
 たいまつの炎を壁のランプに移す。
石造りの部屋の内部がぼんやりと浮かび上がり、ゆっくりと女が振り返る。
女はハロルドの顔を数秒見つめると、穏やかに微笑んだ。
女の微笑に、記憶の中の少女の面影が重なる。
 ハロルドは言葉を失った。

「まさか、嘘…だろ…レイラ、なんでお前が」
 レイラは少し微笑んだまま肩をすくめた。
「久しぶりね。師匠はまだ現役なの?
あの頃からもう何年?なんだか懐かしいわね」
 まるでここが牢獄である事を忘れているようなレイラの物言いに、
ハロルドは苛立った。思わず声を荒げる。

「そんな事はどうでもいい!なんでお前がここにいるんだよ!」
やや呆れたような顔でレイラはため息をついた。
「なんでって、捕まったからに決まってるでしょ。
女王がいなくなって、親衛隊の私もお役御免になったってわけ」
「俺が言いたいのは、そんな事じゃない!
レイラ、お前…もしかして、俺が反乱軍にいるって知ってたのかよ?
それなのに、お前は…!」
「一兵士から、その能力を買われてリーダーになったんでしょう?
活躍ぶりは聞いているわ」
 語気を強めて詰め寄るハロルドに対し、
レイラの口調はいたって平静を保ったままだ。

「何だよ、それは…!お前、俺がこっち側にいるって知っててなお、
女王の、あんな腐りきった奴らの味方してたのか?
お前のせいでどれだけ犠牲がでたと思ってる!」
 レイラはため息をついてハロルドを見上げた。
「犠牲は覚悟の上でしょ?
血を流さずに革命が成せると本気で思ってたの」
 ハロルドは思わずレイラの胸倉を掴んでいた。
が、目の前の女はひるむでもなく、まっすぐにハロルドを見つめ返してくる。
「昔からお前は冷静だったよな…!いつも分かったような顔しやがって。
俺達の反乱も、この5年俺達が死に物狂いでやってきた事も、
お前にとってはただの仕事の一部だったって事かよ…!」
ハロルドの声は怒りで震えていた。

437 :昨日の敵は今日の…3:2008/09/16(火) 22:43:52 ID:DwCrV5Zf
 たとえ側にいなくてもきっと同じ道を目指している、
そう信じていた自分が馬鹿らしく、ハロルドはレイラを睨みつけた。
と同時に、どす黒い衝動にかられる。
今ならこの女を犯しても、言い訳がたつ。
怒りに任せて親衛隊の隊長を辱めただけだ。
そう、この感情は怒りのせい───。汚い自己保身の考えが頭の隅を掠める。

 胸倉を掴んだまま急に無言になったハロルドに、
レイラは怪訝そうな面持ちで覗き込む。
 葛藤するまでもなく、ハロルドの中で答えは決まっていた。
ハロルドはレイラの背後にあった小さな鉄製のベッドに、力任せに押し倒した。
 はずみでベッドが軋み、金属のこすれるいやな音がする。

レイラが小さく悲鳴をあげた。
「いきなり、何するのよ?痛いっ」
「そうだ、俺は、ずっと昔からお前を…俺のものにしたかった。
俺だけのものに…」
ハロルドは独り言のように小さく呟く。
「何言い出すのよ?いきなり、やっやめ、てっ…!」
 ハロルドはレイラに覆いかぶさると、
強引に唇に舌を滑り込ませる。熱い口内を探るように舐めまわし、
逃げようとするレイラの舌に無理矢理唾液を絡める。
 両手首を押さえつけ、両手を頭上にあげた体勢を取らせた。
自身のベルトで両手を縛り上げると、
無防備になったワンピースの上半身部分をハロルドは力任せに引き裂いた。

布地が裂かれる鈍い音に、レイラのくぐもった悲鳴が重なる。
やっとハロルドはレイラの舌を開放し、顎から首、
うっすらと汗をかいている双丘の谷間へと舌を順に這わせていく。
「お願い、ハロルド、こんなのいや…」
 レイラはかすれた声でハロルドに呼びかける。
だか許しを請うその声もハロルドの耳にはすでに遠い。
レイラのなだらかな曲線を描く下腹部を唇でなぞりながら、
服としての機能を失った布地をハロルドはベッドサイドに投げ捨てた。

438 :昨日の敵は今日の…4:2008/09/16(火) 22:44:26 ID:DwCrV5Zf
 白のショーツの中に手を入れると、
しっとりと湿った草叢の感触が指先に伝わる。
 必死に力を入れて拒絶しているレイラの太ももの間に指を割りいれ、
隠されたヒダの奥へと更に指を伸ばす。重なり合った花弁の間、
親指の辺りに小さな突起が触れる。
 優しく親指の先端で撫で、細かく振動させた。
同時に豊かに膨らんだ乳房の先端を口に含み、舌先で転がす。

口の中で徐々に固くなっていく蕾をハロルドが甘噛みしてやると、
レイラは喉の奥でため息のような声を上げた。
 愛撫するのもそこそこに、ハロルドは自身の服を脱ぎ捨て、
レイラのショーツを強引に引き下ろす。
隠れ蓑を失い、ほの紅く染まった花弁が現れた。
淡いピンクのヒダからは、透明な粘液が糸を引いている

 レイラは観念したのか、暴れるのをやめ、
黙って目を閉じ唇を噛みしめている。
ゆっくりと、太ももを曲線を確認するように舌でなぞっていくと、
舌先に鳥肌の感触がざらざらとして心地いい。
  愛液をまぶされて光っている突起が、
すでに真っ赤に充血し、存在を主張しているのが目に入る。
花弁の奥の突起を、再び指先でゆっくりと擦る。
「もう完全に尖ってるぜ…ここ…」

 レイラは耐え切れなくなり、身をよじらせて甘い吐息を漏らす。
「んっ、ぁっ、そんなところ、触らないで、っぁ…くぅ」
「お前のそんな声、初めて聞いたぜ。そんな声、お前もあげるんだな…」
 ハロルドが囁くと、レイラは恥ずかしさからか、
いやいやと子供のように首を振る。
真っ赤になりながら恥じる仕草も愛しく、
ハロルドはわざと音をたてて愛液を吸い上げた。
じゅるじゅると下品な音を響かせながら蜜を吸われる恥ずかしさも、
レイラの身体は快楽として貪り始めていた。

439 :昨日の敵は今日の…5:2008/09/16(火) 22:45:32 ID:DwCrV5Zf
蜜壷からは絶えず液体が溢れ出し、
シーツの色が変わるほどぐっしょりと濡れている。
 肉芽を弄られるのがよほど感じるのか、
ハロルドが執拗に指先でこねると、レイラの脚からは次第に力が失われていき、
その代わりけいれんするようにぴくぴくと震えながら悦びを表現し始める。
抑えた喘ぎ声が重なり、甘ったるく、
生々しいメスのニオイがハロルドの鼻をついた。
思わずごくりと唾を飲みこむ。

 ハロルドはレイラの膝に手をあて、思いきり開脚させた。
頬は上気しているが、表情はまだ不安そうなまま
こちらを見つめるレイラと目が合う。
ふと罪悪感が心の片隅をよぎったが、すでに固く屹立したハロルドのそれは、
突き上げる場所をただ求めていた。

ごめんな、と小さく呟くと、レイラの胎内へ押し入っていく。
こんなに熱いのかと驚くぐらいの熱と、
ゼリーできた幕のような感触が先端を通して伝わってくる。
十分に分泌された愛液が潤滑油となり、
狭く閉ざされた膣口が徐々に開かれていく。

 ハロルドは最深部までゆっくりと侵入しきると、
己の感触を刻み込むように、緩慢な動きで突き上げ始めた。
肉体がぶつかる音と粘り気のある水音とがこぼれる。
胎内の肉襞のひとつひとつがぴったりと吸い付いて締め上げてくる。
 ハロルドは腰を打ち付ける速度を上げながら、
更にレイラの腰に手を回し、引き寄せるようにして奥まで蹂躙していく。
レイラは目を固く閉じたまま、
挿入のリズムに合わせてはっ、はっと小さく息を吐いて応じる。

律動を重ねる度、腰の辺りに熱い衝動がじんわりと広がっていく。
それとは逆に、頭の中はゆっくりと醒め始めているのをハロルドは感じた。
別の場所からこの行為を眺めているような感覚に囚われる。
 ただ、身体と本能は理性だけでは止められない所まで来ていた。

ただ夢中で奥へ奥へと突き上げると、ペニスの先端に向かってむず痒いような、
熱い塊が衝動となってこみ上げてくる。
 爆発寸前で胎内からそれを引き抜くと、
白濁した液体をレイラの入り口付近にぶちまける。
 そして荒い息をつきながら、ハロルドは手のひらで汗を拭った。

440 :昨日の敵は今日の…6:2008/09/16(火) 22:46:37 ID:DwCrV5Zf
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 身体が感じている解放感と入れ違いのように、
ハロルドの頭の中では罪悪感がなお侵食を続けていた。
 ベッドの下に落ちたグレーの毛布をそっとレイラの身体にかけ、
ベルトで括り付けたままでいた両手の戒めを解いてやった。
 見ればその手首にはうっすらと赤くなっている。
ハロルドはいたたまれなくなり、レイラに背を向け、慌てて服を身に着ける。
ベルトを通しながら、ハロルドは切れ切れに言った。
「すまない…俺は……こんな事するつもりじゃ…」

 レイラは何も言わない。
小さな空間に気まずい沈黙が流れた。
責めるでもなく、泣き叫ぶわけでもないレイラの態度が、
ハロルドにとっては余計苦しいものだった。
 もうこれで、レイラは俺を一生軽蔑するだろう、
そう思うと、もう言い訳も謝罪の言葉も出てこなかった。
ただ後悔と自己嫌悪とでうなだれることしかできなかった。


「シャツ、貸して」
そう言って長い沈黙を破ったのは、レイラのほうだった。
 ハロルドが振り返ると、レイラは毛布を身体に巻きつけ上半身を起こしていた。
半ば放心気味でいたハロルドが思わず聞き返すと、
レイラはむっとした表情になる。
「え?じゃないわよ。シャツくらい貸しなさい。
服を破るなんて…昔から馬鹿力なんだから」
 ハロルドからシャツを取り上げると、レイラは続けた。
「それに、すぐに頭に血が上る性格どうにかしてよ。
久々の再会なのにいきなり押し倒すなんて…何考えてるのよ」

 言い訳と、今までの想いとがごっちゃになり、
ハロルドはしどろもどろになりながらも、必死に言葉を紡ぐ。
「俺は、お前に何も伝えてないまま別れたのを後悔してて、
それでも、俺と同じ気持ちでいるんじゃないか、とか勝手に思ってて、
その…でも、お前が俺と敵同士でも平気だったって聞いて、
かっときて……もう離したくなくて…つまり、その…」

441 :昨日の敵は今日の…7:2008/09/16(火) 22:48:45 ID:DwCrV5Zf
一向に要領を得ないハロルドの言葉を遮ると、レイラは言った。
「誰がハロルドと敵同士になったって言ったのよ」
 レイラの言葉に、ハロルドは眉をひそめる。
「だってお前は親衛隊の隊長で、俺は…反乱軍のリーダーだろ?」
「呆れた。王家を本当に滅ぼすには、外から潰すだけじゃだめだ、
中から膿を出し切らなきゃ同じ事を繰り返すだけだ。
そう言ったのはハロルドでしょ。
まさか、忘れたの?」
 きょとんとしているハロルドに、レイラは大げさにため息をついてみせた。
「嘘だろ…じゃ、お前は最初からそのつもりで親衛隊に入ったのか?
中から王家を潰すつもりで?それならそう言ってくれよ。
そしたら俺だってさ…」
「そっちは分かってるのかと思ってたのよ。
全く覚えてないなんて…呆れたとしか言えないわ」

 混乱が収まると、急に嬉しさがこみ上げてきて、
思わずハロルドは声をあげて笑っていた。
目の前の女を力いっぱい抱きしめる。
 反対にレイラは口を尖らせる。
「笑うんじゃないわよ。襲っておいて。痛かったんだから…!」
 そう言いながらも、ハロルドの腕の中でレイラはつられてくすくすと笑いだす。
「そっちこそ何だよ、急に笑い出して」
 レイラの表情に、屈託のない笑顔が戻る。
ハロルドは安堵してほっと息を吐いた。

「ハロルドみたいな突進タイプがリーダーしてたと思ったらおかしくて。
よく生き残れたわね?」
「生憎と俺はお前みたいに、大儀の為に何年も敵を装えるほど人間できてねえよ」
 とげのある言葉に、ハロルドは思わずむっとして言い返す。
が、レイラの返答は意外なものだった。

442 :昨日の敵は今日の…8:2008/09/16(火) 22:49:21 ID:DwCrV5Zf
「別に…大儀のためじゃないわよ」
「じゃあ何だよ。よっぽどの理由だろ。5年だぞ」
 ハロルドの疑問に、レイラは急に慌てたように口ごもる。
「そ、そんなのどうでもいいでしょ。女王だって生け捕りにできたし、
隠し財産だって明らかになったし、理由なんて今更…」
 どうでもよくないだろ、と言いかけたが、
やけに慌てているレイラの態度のせいで、ハロルドはやっと気づいた。
勝手に緩んでくる頬を必死でこらえる。
「ありがとな」
「な、何がよ」
 あくまでレイラはしらを切りとおす気らしい。
ハロルドはからかうようにわざとレイラの顔を覗き込む。
「お前に一番キツイ役やらしちまったな、”俺の為”に」

 吹き出すのをこらえながらなんとか言い切ると、
レイラはさっと視線を逸らしてうつむいた。
何も答えなかったが、肯定の証拠に耳が真っ赤に染まっている。
ハロルドの口元はもはや完全に緩んでいた。
「ほんっとに昔から素直じゃねぇな。お前は。そんなだと俺、
また強硬手段にでるかも…」
 レイラは顔をあげハロルドを、きっ、と睨んだ。
「こんな乱暴なの今回だけだからね!ハロルドだから、許すだけで…」
そう言いながらもハロルドの手を強く握りしめる。 
ハロルドは温かい指先を握り返しながら、そっとレイラの耳に口を寄せた。
「この次はちゃんとイかせるから」
「バカっ!」
 くたびれたグレーの毛布がハロルド目掛けて飛んできた。
頭からもろに毛布をかぶりながら、ハロルドは精一杯笑みをかみ殺していた。


(終) 

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557 :アンゼリカ(1/8):2008/11/10(月) 00:20:30 ID:KPXBzxPN
「ちょっとユウちゃんやだ、ねえこれ取ってよ!!」
明日花は少し震える声で言った。生まれた時からのお隣さんという縁で、彼女は留守番を
する俺の部屋に平気で来る。互いにもうすぐ大学生なのに、親公認。何かあっても
いいという意味なのか、そういう心配がないと思い込まれているのか……どっちみち、
こういう事態の心配はしてなかったに違いない。明日花は後ろ手に拘束され、目隠しを
されて、俺のベッドにへたりこんでいる。
俺は肩を押して、仰向けに押し倒す。茶色い長い髪が布団に拡がる。投げ出された足が
綺麗だった。色素の薄い肌の下に、引き締まった筋肉が透けて感じられる。ぶかい
パーカーの裾から申し訳程度に顔を出すミニスカは、それでも肝心な所は隠していて、
見えない。
「やッ?! ちょ……何すんのっ」
「……ごめん、本当」
明日にはもう、彼女は東京の大学へ引っ越す。お隣さんというただひとつのパイプは
今日限りだった。俺の大学も東京だけれど、問題はそこではない。本当に、もう、
俺たちが互いの部屋を行き来して毎日のようにお喋りだなんて、考えてみれば不自然な
ことだったのだ。
成長と共に俺は真面目な優等生に、明日花はバスケ部で活躍するようになって、音楽の
趣味も見る番組も、俺達は何もかもがズレていた。なのに俺は当たり前みたいに明日花に
会ったし、明日花もなんでもない顔をして会いに来た。
楽しそうに笑う彼女に、嬉しさに似た感情がこみあげるのを悟った時――同時に気づいて
しまったのは、明日花との距離。
どんどん女の子っぽくなってどんどん可愛くなって、そのぶんだけ、離れてしまって
いたんだろう。

百均のアイマスクで覆われた目は、抵抗を少なくするためと、俺の顔を見せないためだ。
今日のことが、彼女の中で無かったことになればいい。彼氏でもなんでもない俺なんか、
記憶を封じて、ノーカンにして。東京で明日花は同じノリできゃあきゃあ言える彼氏を
作って、ロマンチックで幸せな夜を迎えるんだろう。
「ねえユウ、見えないの、怖いんだけど……聞いてる?」
口は塞がないのは、名前を呼ぶのを聞いていたかったから。我ながら酷い矛盾でエゴだ。
知らない人間にされるよりはマシだからだろうか、彼女は俺の名前を繰り返す。
頬に触れる。肌触りを味わいながら、指先をあごの方へ滑らす。桜色の唇は柔らかそうな
ラインに膨らんでいた。キスがしたい。
「……明日、花」

559 :アンゼリカ(2/8):2008/11/10(月) 00:21:49 ID:KPXBzxPN
明日花は、急に喚くのをやめて黙る。緩く閉ざされたそこに、指先で触れた。触れた所から
神経を伝って、全身で甘ったるい触感を認識する。沈黙の中俺は顔を寄せ、首筋にキスを
した。女性の匂いに頭が霞む。明日花はされるがままだ。
パーカーのファスナーを下ろして左右に開き、タンクトップを捲りあげる。臍が見えた。
うっすらと腹筋がついているけれど、体質なのか肌は白い。撫でると、予想以上に
しっとりとした心地よさがある。もっと捲れば、ブラに包まれた胸が露になった。
オレンジのレースがあしらわれたそれは、明日花を隠すから邪魔でしかない。背中に
手を回してホックを外して、上にずらす。豊かな膨らみを手のひらで包むようにして
揉む。曲げた指はふにゅりと受け止められた。柔らかくて気持ち良い。しばらく
そうしていると手のひらに何かが当たる感覚があって、見れば淡く色付く先端は固く
なっていた。俺はそれを、ぺろりと舐める。
「ひゃ、ああっ」
明日花の声は耳慣れない響きだった。背中がぞくりとする。俺は片手を彼女のスカートに
潜らせる。下着の上から、その中心のあたりをなぞりあげる。
「や、ユウっ、ユウ!」
「……明日花」
名前が呼ばれるのが嬉しい。体が熱くなる。明日花はこんなに怖がってるのに、本当に
勝手だ。
「ね、腕、ほどいてよ……」
「……ごめん」
「痺れてきたの……暴れないから、ねえ、ユウちゃんっ」
俺はそれを黙殺して、乱暴に下着に手を掛け、おろした。
「や、何すんのッ」
「わかるだろ」
混乱しているのだろうか、無抵抗なのをいいことに俺はそれを足先から完全に抜き取る。
小さな布切れはひんやりと濡れていた。
「――レイプ。強姦。凌辱。犯す」
吐き捨てる。俺は明日花の膝を掴んで、持ち上げるようにした。赤く色づいた襞の奥から
蜜を吐く様子が見える。俺は唾を飲んで、そこに指を伸ばす。
「ふ、やぁ!」
「濡れてるね」
「や、やあっ怖いよ、ユウ!」
「ごめん。本当、ごめん」
陰毛を軽くかき分け、襞を撫でるようにする。ひくひくと動いている。形を辿るように
すれば、明日花の体にビクリと力がこもった。
明日花は感覚を誤魔化そうとしているのか、体をよじる。愛液を絡めた指を上へ滑らす。
「あっ! ひゃ、や、うあっ」
クリトリスを刺激され、明日花は全身を強ばらせる。嫌だと言うように首を振って、
足先まで悶える。

560 :アンゼリカ(3/8):2008/11/10(月) 00:23:42 ID:KPXBzxPN
「や、うぁああッ!!」
指を一本ナカに挿し入れた。狭くて抵抗感がある。初めてのことだからだろう。
明日花に彼氏がいたことが一度もないのは知っていた。クラスメイトに「幼なじみと
付き合ってるから説」の確認をされたことがあるのだ。その手の質問やからかいは
珍しいことだった――それだけ俺と明日花は、傍目にありえない組み合わせなのかも
しれない。その上、そのことは明日花も否定していた。
『ユウが彼氏って、想像つかないというか……え、ナシでしょ』
中学の時のセリフを、こうも何年も覚えている自分が惨めだ。わかっているくせに、
大切なくせに好きなくせに、縛って怖がらせている。興奮している。どうしようも
なかった。愛しくて、好きすぎて、抱きたくて――いずれ、今日を限りに会わなく
なるなら、嫌われたって変わらない。

指を一端引き抜き、再び奥まで挿れる。くちゅり、と水音がした。
「痛っ、い、ん、あっあ、やぁ……っ」
慣れて感じ始めたのか、明日花の頬は赤らんでいた。息を乱して、その呼吸の合間に
あえぎ声が混じる。隠された目元は潤んでいるのだろうか、快楽で、それとも悲しみや
痛みで。
拡げるように指を動かす。明日花はそのたびに苦しがったけれど、次第にそれも
小さくなる。指を増やす。
「ふぁ、ユウっユウちゃ、あ、ああ……」
ふっくりした唇の端から、透明な唾液が垂れた。明日花はそれを恥じらってか顔を
歪める。それくらいの感情は読みとれた。それくらい、明日花のことをずっと見てた。
透明に光るそれを俺は舌で拭う。あごのあたりから、ゆっくりたどって――唇の
ギリギリ外側のところに、キスをする。
唇にはしない。せめてファーストキスは奪わないでおこう、と決めていた。女の子という
生き物が憧れて特別視して、大切にするもの。甘ったるい恋だとか愛だとか、そういった
最後の砦だけは残そう。いつか明日花が、この痛みから立ち直る助けとなるためにも。
俺がこれ以上恋しないためにも。
俺は彼女の頭を撫で、髪を指ですいた。そうしていちど体を離す。窮屈だったズボンを
緩め、用意しておいたゴムを付ける。
「ぅ、あ……? ユウっ、ユウちゃん、ユウちゃん……!」
ベッドは取り残された明日花が声を上げた。何も見えなくて一人きりは不安なのだろう。
「明日花」
俺は彼女に覆い被さると、唇と唇が触れそうな距離で名を呼ぶ。
「力入れない方が、痛くないらしいから。……ごめん」

561 :アンゼリカ(4/8):2008/11/10(月) 00:24:40 ID:KPXBzxPN
俺は手を添え、先の部分をあてがう。
「ふあ、あ、うぅ……ッ!」
「……っ」
指で慣らしても、まだまだそこは閉ざされていた。明日花は痛みに顔を歪めて、必死に
耐えている。まるで、突き刺すように割り裂くように、処女を奪う。
きつい。俺にとっても、圧迫感は気持ちよさより辛さだった。目に入った胸に手を
伸ばし、そろりと触れると明日花はビクリと反応をみせる。その隙にまたわずか俺は
挿入を深める。
汗ばんだ鎖骨に唇で触れる。すっと伸びるそこに痕を残したくて、でも汚しては
いけないようで、代わりに軽く歯を立てて舐める。時間をかけて、俺のものは明日花の
中にすっかり咥えこまれた。
「ッ、――明日花」
「ふあ、ユウちゃ、は、痛ぁあ……」
蚊の鳴くような声は、ぎちぎちと締め付けるナカと対称的だった。奥まで入り込んだまま
じっとしていれば、苦しいくらいの締め付けは段々とやわらぐ。粘膜が、確かめるように
ヒクリヒクリとうごめくのを感じる。見おろした明日花は、荒い息をただ抑えようと
していて、俺自身を受け入れようとしている錯覚をした。再び胸へ手を伸ばしかけた時、
明日花が俺を呼ぶ。ユウ、ねえ。
「何で、こんなこと、するの」
それは。
――明日花が好きで好きでたまらないからだよ。
そんなセリフ、俺に言う資格は無い。
「……男の部屋に、」
喉から絞りだすようにして、なんとか、言葉をつむぐ。
「顔が良くて無防備な女の子が、いるから」
「――」
俺の嘘は淡々と響いた。
明日花は口をきゅっと引き結んで、黙る。そして、アイマスクの下から、透明な雫が
流れる。明日花は、泣き出した。
「……そっ、かぁ」
震える声。笑っているような泣いているような、歪んだ唇で明日花はそれだけ言った。
か細く呻き声を上げて、明日花はアイマスクの下からぼろぼろ涙を溢す。
「ぅあ、……ぁ、く、ぅう……!」
耐えかねたのか溢れる泣き声は辛さと悲しみに満ちていた。俺は胸を痛めながら同時に、
これでいい、と思っている。明日花は泣いている。それはそうだろう、これは、そういう
行為だ。
「……動くぞ」
「嫌ァッ!! やめて、ユウやめて……!!」
突然、ヒステリックに明日花が叫ぶ。
「痛い、やだっ、やだやだ!!」
ゆっくりと引き抜いて、押し込む。明日花のナカが締め付けてくる。それに逆らうように
俺は腰を動かす。
これでいい。

562 :アンゼリカ(5/8):2008/11/10(月) 00:25:40 ID:KPXBzxPN
「やだ、痛いっ、こんなのやだ、やだあぁ……!!」
叫びに俺の頭はどんどん冷めていくけれど、繋がっているところからダイレクトに
伝わるのは快感だった。
「ごめん」
何度目かわからないそれを言いながらも、抽挿はどんどんスムーズになる。防衛本能なのか、
慣れてきたのか、愛液が溢れてきている。
「嫌、ぁあ……」
粘膜がぐちぐちと擦れ合う。突き上げに一拍遅れて収縮する、それを合図に腰を引いて、
また奥深くまで入り込む。ベッドがきしむ。衝撃に明日花の胸が揺れる、掴むと、
柔らかい。顔を近づけるよう前のめりになれば、角度が変わってより深くまで重なる。
押しつけるように、擦り付けるようにすれば背筋に痺れが走る。途方もない快楽に、
俺は夢中で腰を打ち付ける。
「や、嫌あ……や、あっやだあ、ぅあ、あんッ!」
俺は明日花を貪る。汗ばむ肌も、濡れた音も。
「……あす、か」
ぎゅうっとしてくる膣が、まるで俺が呼ぶ名に呼応しているようで。嬉しくなる。
それは、幻想だ。でも確かに、俺は今、明日花を犯している。その認識が、俺を
高ぶらせて、頭が回らない。
「あッふああ! やぁん、やあ、あああ、ユウちゃんっ、ユウちゃ、ぁあッ!!」
色を帯びてきた明日花の声が、名前を呼ぶ。
荒い息と甘い鳴き声は、桜色の唇の合間からこぼれた。その柔らかさを想像して、
明日花の胸の感触も滑らかな肌も思い出して、――俺は、挿入したものを一際深くまで
埋め込むと射精した。いちばん奥に、薄いゴムを隔てて。
「明日花……、ッ、あす、か」
気だるさを感じながら、俺は身を離す。明日花の性器は、俺の視線の先でこぷりと血を
溢した。さっきまで、入り込んでいた所。
「は、ふあ、っ、は、ユウ……っ」
明日花の声は、泣いているみたいだ。
でも、彼女を助けるのは、俺ではない誰か、他の男の役目なんだろう。

俺は自分の服を整えると、ぐったりしている明日花の腕を解放してやる。パーカーの
上からキツく縛られたそれは、ほどくのも一苦労だった。殴られでもするかと思って
いたけれど、明日花は緩慢に腕を前に回しただけだった。すそを捲り、縛られた所を
さすっている。真っ赤な跡は、痣になってしまうかもしれない。アイマスクも外す。
見慣れているはずの目元は妙に新鮮に感じた。やっぱり綺麗で、いとおしい。濡れた
睫毛も潤んだ瞳も、彼女を引き立てて綺麗に魅せる。

563 :アンゼリカ(6/8):2008/11/10(月) 00:26:36 ID:KPXBzxPN
明日花は、ぼんやりと俺を眺めてから、くしゃりと顔を歪めて泣き出した。
「わぁあ、ああああ!! ふあ、っ……ユウ、ユウちゃ、あ、あぁああ……!!」
もう、なんだって良かった。イった後だからというだけでなく、泣き叫ぶ明日花が俺を
沈ませる。
「わあああ……!! はッ、っあ、っ、ああああああ……」
肩を震わす様子が、俺にもつらい。泣き止んで欲しかった。泣いている理由は明らかだ。
俺の行為が、どこまでも最悪なものだったからだ。
「ふぁあっ、……っく、う、はぁあっ……」
わあわあ喚くうちに、落ち着いてきたらしい。鼻をすすって、うなるような声を小さく
漏らして、それもだんだん大人しくなる。時折しゃくり上げながらも一応は泣くのを
やめて、鼻声で明日花は訊いてきた。
「ユウ、っ、なんで」
上半身を起こし、俺の隣に座る。がしがしと手櫛で髪をとかして、眉をぎゅっと寄せて、
俺の目を見て、問う。
「なんで、キスしてくれないの」
胸が痛んだ。体が重く強ばるのがわかった。
「キスは……好きな人としなよ」
きっとその時慰めて貰うんだろう。俺に汚された体を、抱きしめてもらうんだろう。
「ごめん、明日花」
「――ユウちゃんは!」
明日花が目に涙を溜めて、震える声で言う。「ユウちゃんは、ユウも……そうするの。
 いつか彼女と、キスするの?」
思ってもみない言葉だった。俺は今目の前にいる明日花のことで頭がいっぱいなのに。
「……俺に、彼女とか、できないよ」
「そんなわけないじゃんっ」
絞り出した言葉は否定される。
「女子とかと普通にしゃべってるじゃん! 塾の話とか受験の話とか、してるじゃん……
 優しくって頭よくってさあ、普通にけっこうかっこよくってさあ! 大学もでしょ、
 大学なら頭いい女の子もいるし……」
「そうじゃなくて」
明日花の目がまた、潤みだす。
「……頭のいい娘がタイプじゃないよ、別に。当分、俺は恋愛は、しないから」
もう、やめて欲しい。これ以上何かを聞かれたら、何もかもを口にしてしまいそうだ。
それともキスすら、力強くで奪ってしまいそうで。
「そんなのわかんないよっ。恋愛なんて、どうしようもないんだよ? そう思ってても、
 ユウが誰かのこと好きになっちゃうかも知れないんだよっ」
「わかってるよ……」
ああ、本当にどうしようもなかったんだ。恋愛を理由に許されようとも思わないけれど。

564 :アンゼリカ(7/8):2008/11/10(月) 00:28:13 ID:KPXBzxPN
「わかってないよお!」
明日花は泣き叫ぶ。
「ぅう、だってあたし、どうすればいいかわかんな……ッ、ふあ、あ、もうわかんないよ、
 だってずっと片想いで、っく、ふ、こんなの、嬉しくないぃ……」
その言葉を聞いて俺が思ったのは、ああやっぱり明日花に好きな人っていたんだ、という
だけだった。嬉しくないのは当然だろう。慰めてはいけない。こんな俺にその資格は無い。
そう、思っていたのに。
「明日花……っ!」
俺の声がした。俺の腕が明日花の腕をつかんで、引き寄せて、閉じ込めた。
腕の中に、明日花がいる。
しまった、と我に帰った瞬間に、明日花が俺の背に腕をまわす。俺は拘束を強くする。
「明日花、明日花……」
何も考えられなかった。ただ腕の中の存在がいとおしくて、どうしようもなくて。
ぎゅうっとするとその体が案外小さいのに気づく。運動をしてても、女の子なんだ。
温もりが心地いい。甘い匂いがした。明日花を抱き締めている、それだけで胸が熱くなる。
「ユウ、ちゃん……?」
声に、我に帰った俺は腕を放す。そして、そのまま明日花の頬に手を添えて、俺たちは
顔を近づけて――ギリギリで思い止まる。無理矢理に引き離した明日花は、真っ赤に
火照った顔で、なんだかびっくりしたような顔で俺を見ていた。潤んだ瞳は俺を凝視して、
ふっと細められる。
「なあに、その顔」
そう言いながら、明日花の顔はなんだか、見慣れた形に歪んでいて、どうやら明日花は
笑っていた。口元がもごもごと落ち着かない、照れている時の明日花の癖。
「ユウちゃんっ」
何か、柔らかいものがぽすりとぶつかり、押しつけられる。明日花は俺に抱きついたのだ。
腕に力がこもるだけ、自然と胸が、柔らかく形を歪ませる。明日花はそれを気にせず、
真っ直ぐに俺を見た。
わけがわからない。混乱しながらも明日花の顔が近いことにも緊張して、鼻の頭が赤く
なっちゃってるのが尚更かわいいだとか胸が柔らかいだとか、思考がそこで停止する。
「ねえ、キスしよ」
その日本語を脳が理解するより早く、唇に柔らかな感触。一瞬のそれを思わず追いかけて、
すぐにまたキスをした。
明日花の腕が俺の首に回る。俺は明日花の頭に手を添える、指先に髪を絡める。
「あのね、ユウちゃん……好き、だよ」
愛しあってるみたいに見つめ合いながら、明日花がそう言った。

565 :アンゼリカ(8/8):2008/11/10(月) 00:29:31 ID:KPXBzxPN
かろやかな笑い声が聞こえる。混乱する俺の頭にさらに言葉が投げ込まれる、なんで
そんなびっくりするの。
「ずっと前から、片想いだったんだ……中三の時、『明日花はない』って言ってたじゃん。
 それで、そっかぁって思ってたから……」
ゆっくりと脳髄が、現状を把握しはじめる。抱き締めたら泣き止んで、照れながら
笑って。キスをして、好きって、片想い……?
胸の奥が熱くなり、思考回路が麻痺する。何かが、体の中で沸き上がった――幸せとか、
嬉しさとか、そういうものが。
とりあえず、直前のセリフに返事をする。
「……俺、言ったっけ」
「言ったよお! 夏休みに入る前くらいの時にクラスの女子に言ってたよ」
「覚えてない……。つうか、明日花もおんなじようなこと言ってたじゃん」
「えー、言った?」
「言った、中学の時」
「嘘ぉ……、じゃあ、お互いそれは時効で」明日花はくすくす笑う。
「――ねえ、いっこ、知りたいことがあるんだけど」
「え?」
明日花は俺の目をまっすぐ見る。でもこの至近距離は刺激的すぎて、好きだとかそんな
言葉だけで脳内が占められてしまう。今俺はどんな表情をしているのだろう。明日花なら、
嬉しそうに笑っている。
「もう、ユウって全部態度に出すぎー。でも、言葉にして、欲しいな」
「……ああ」
俺たちは見つめ合う。頭の中で渦を巻く言葉を、俺は明日花に送る。好きとか、
大好きとか――
「愛してる、明日花」
「……!!」
大きな目をさらにまんまるにして、明日花は硬直した。一拍遅れて、頬の赤らみが
いっそう色濃くなる。
「えっ、え、あ、うそっ、……んんッ!」
唇で言葉を奪う。舌を差し入れ、明日花のそれと触れあわせて戯れる。溢れる唾液を
飲み込んで、顔を離した。三度目のキス。
「嘘じゃない」
どうやら、俺は明日花にキスしてもいいらしい。これからも好きで良いみたいだ。
明日花はかつてないくらいに真っ赤になって、俺の服をぎゅうっと掴んでいる。
「……明日花、今日はごめん」
「ッ、もう、一生許さないっ」
怒った顔を作ったのは、一瞬。どきりとした途端にまた花が咲くみたいに笑う。
「貸しだから。ちゃんと埋め合わせしてよ」
明日花は目を逸らして、照れ隠しなのか腕にはさらに力が込もる。そんな明日花を、
俺は両腕で包みこんだ。慈しむように、壊さないように。
これからの毎日を失わないように。


おわり。

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