Labyrinth

Labyrinth

ラビリンス (迷宮)

Prologue

クレタ島の王ミノスは、
海神ポセイドンから送られた「いけにえ」用の牡牛が
あまりにも立派だったので、自分の物にしてしまった。
そして、ミノス王は、別の牡牛をポセイドンに捧げた。

ポセイドンはこれに腹を立ててしまい、ミノスに呪いをかける。
はたして、ミノスの王妃に生まれてきた子、ミノタウロスは、
頭が牛、体が人間という獣人の姿であった。

我が子を殺すこともできず、
ミノス王は、名高い建築家ダイダロスに迷宮を造らせ
そこにミノタウロスを閉じ込めてしまった。

時を経て、アテネの町では、毎年男女7人ずつの若者が
ミノタウロスへのいけにえとして命を奪われるようになっていた。

アテネの王の息子のテセウスはたくましい勇者に成長していた。
テセウスは、ミノタウロスのいけにえとなる14人の中に加わる。
テセウスの勇姿に一目惚れしたのが、ミノス王の娘アリアドネだった。

アリアドネの手引きで、ミノタウロスを無事倒したテセウスは、
彼女とともに迷宮を脱出する。

しかし、テセウスは、帰途に立ち寄ったナクソスの島に
アリアドネを置き去りにしてしまう。

Part.01

ずいぶんと時間がかかった。
製造ラインについての問題点を洗い出すのに半日。
とりあえずの解決策の指示と、継続検討策の分離にさらに半日。
会議室を出て自分のセクションに荷物をとりに向かう時には、
両側の部屋は皆すでに暗く、廊下の灯りだけがついていた。
この調子では、私のセクションも閉められているかもしれない。
1階の守衛にロック解除してもらうか、と考えながら角を曲がった。
灯りがついている。誰だ?残ってるのは。

部屋に入ると、そこに居たのは小山内だった。
小山内由紀。
私のセクション、企画室ではもう7年になるだろうか。古株になる。
ディスプレイを真剣に見つめていて、私に気づいていないようだ。

「なんで、いつも無茶ばっかり言うわけ? あいつ……いつか殺してやる!」
大きなひとりごと(?)が聞こえる。
いつも冷静で、合理的なあの小山内が?
隙のないダークスーツ、きっちりした顔立ち、
その眼鏡の奥からクールに睨まれると
だれでも一瞬凍り付いてしまう、あの彼女が。

「どうしたんだい? こんなに遅くまで」
「あっ、室長、いらしたんですか」
小山内はあわてている。かまわず話を続けて、そ知らぬフリをしてみる。
「会議に手間取って、すっかりこんな時間になっちゃったよ。
 ……それより、なにやってるの、一人で?」
私の言葉に、落ち着きを取り戻した彼女が、いつもの調子で説明する。
「例の横浜の物件、経理部から朝一番で修正報告書出して欲しいといわれました」
「またか。早く言ってくれればちゃんと用意したのにな」
「ま、そうですけど、恩を売っておくのもいいかと思いまして」

小山内らしい言い方だ。しかし量的にはきついだろう、いくら彼女でも。
「手伝うよ」
「いえ、大丈夫です」
「こっちの半分よこせ。これは業務命令だ」
プライドを傷つけられたらしく、渋々ファイルを転送してくる。
結局、修正が終わって、プリントアウトが済んだのは10時をまわっていた。

「メシ、食ってないんだろ、行くか? いや、無理にとは言わないよ。
 これぐらいのことで『セクハラ』って訴えられたくないからね」
私の冗談に、彼女はニコリともせず、言葉を返してくる。
「奥様がお帰りをお待ちじゃないんですか?」
ジャブ。痛いところを突いてくる。
「部下をケアできない上司にはなりたくないんで、多少の犠牲はね。
 でもケアの範囲を超えたら、多少の犠牲ではすまないかもしれないな」
端正な顔が一瞬こわばったのがわかる。カウンター炸裂。

彼女の本当の気持ちはとっくにわかってる。ずいぶん前から。
踏み出すのは私がやるべきことだ。
彼女が着替えのためロッカールームに行ってる間に、
携帯で、ホテルの部屋とバーレストランをリザーブした。

このホテルのバーレストランは、最上階近くにあるくせに窓が無い。
そのせいで夜景を見に来る客が来ないので、宿泊のビジネスマンがメインに利用する。
落ち着いた雰囲気がある。
いつか彼女を連れてくる気でいた。ここなら彼女に似合う。
11時までなら軽食が頼める。ワインとピッツアを頼む。
オーダーが済んだところで「ちょっと」と断って席を離れる。
フロントでチェックインしてルームキーをもらう。

「奥様に電話ですか?」
「まあそんなとこ」
ワインで、意味も無く乾杯。
ピッツアがとどく。結構ピッツアがおいしくて二人して夢中で食べる。
仕事がうまくいったあと、食欲が体を支配してしまってるケースだ。
男はそれだけじゃすまない場合もあるが……いまの私のように。

「ところで……さっき言ってた『殺してやる!』って誰のこと?」
「えっ!」
右ストレート炸裂。効いてる。
「聞いてたんですか?」
「いや、誰でも聞こえるよ、あれだけ大きな声じゃ」
崩れた態勢を立て直そうとしたところにボディブロー。
「……………」
こうして困った顔をしてるとこはかわいい。やはり女だ。
あまりくどいのはよくない。話題を変える。
いろんなこと、私だけが知ってるとっておきの話もした。
オフィスで見たことの無い笑顔が浮かんでいる。
いま、この時間を、彼女は確かに楽しんでいる。
食事が終わった。
「あれ、もうこんな時間だ。お開きにしようか」
私の言葉に、残念そうな表情がふっと横切ったのが見えた。

エレベータに乗る。
彼女から見えない位置で、リザーブしたフロアのボタンを押す。
「そうだ、大事な話を忘れてた」
「なんですか?」
「部屋がとってあるんだ」
ルームキーを見せる。彼女が息をのむ。

同時にエレベータがとまり、ドアが開いた。
「着いたよ」
「でも……」
ためらう彼女の背中を押して廊下を進む。
部屋の前に立つ。キーカードを通した。カチャッとロックが外れる。
彼女の心の中のロックも、そのとき小さな音をたてて外れた。
二人で部屋に入り、ドアを閉める。

そのまま電気をつけず奥の窓際に連れて行く。
カーテンを開ける。きらめく夜景が目の前に広がる。
後ろから肩を抱くと、ビクッと反応した。
「きれいだろ」
少し間があってから答えが返る。
「ええ、とってもきれい」
流れに身を任せることを決めた女のことば。
後ろから腕ごと抱きしめて、しばらく夜景を見る。
こちらに向き直らせて、キスをする。
最初は軽く。ついばむように。そうしていくうち、固かった唇が徐々に柔らかくなる。
「ずっと君とこうしたいと思ってた。気づかなかったの?」
驚いてる。二度目のキス。こんどはしっかりこたえる。
舌を侵入させる。一瞬のためらいのあと、舌をからめてきた。
下に降ろしていた手が私の背中に回される。そして力がこめられる。
これでいい。
からみ合う舌がお互いの快感を呼び起こしていく。

唇から受けた刺激で、私の分身が立ち上がってくる。
出番を感じたしょうもないやつ。いたいほどにズボンを突き上げる。
自分の存在を主張したいらしい。思い切って腰を押し付けてみる。
私の行動の意味に戸惑う彼女。下腹部にあたるその固さの原因に気づく。
それがなんであるかを知って、逃げることなく逆に体を押し付けてくる。
そして強く唇を吸ってきた。順調だ。

上着を脱がせ椅子にかけ、彼女を横抱きにしてベッドに運ぶ。
そっとおろしておおいかぶさり、キスを繰り返す。
唇を離すときに、かすかな喘ぎ声が混じリ始める。
彼女の眼鏡をはずす。素顔が見たかった。
「あっ」
「いらないだろ、ベッドの中では。由紀?」
あえて名前を呼ぶ。
由紀は両手で顔をおおう。
名前で呼ばれたこと、素顔を見せていること、
そして、ベッドという言葉が意味するもの……。
由紀の羞恥を引き起こしたのがどれだかはわからない。あるいはすべてなのか。
そっと由紀の両手をはがす。
「おねがいだから、目を開けて僕を見てほしい」
ゆっくりと由紀の目が開かれる。濡れた瞳がこっちを見つめる。
薄明かりの中、瞳の奥、お互いの感情を確かめる。

「わたし………本当にあなたを好きになってしまうわ。……それでいいの?」

答えのかわりにキスをする。
彼女のブラウスのボタンをひとつずつ外す。
白いブラがあらわになる。
ハーフカップのブラからのぞく素肌は、すきとおるような白さだった。
そして、スーツに隠されていたその乳房は、予想外のボリュームがあった。
たっぷりした半球形のふたつのふくらみは、深い谷間を作っている。
ブラの上から由紀のふくらみを掌で包む。
由紀は何か耐えるような表情をしている。
期待していたこと。そして、それが現実になったこと。
その間の飛躍に、由紀自身の心が追いついていない。
でも、皮肉なことに体は十分な反応を見せ始めている。

ゆっくり、やわらかく、乳房をもみほぐす。
喘ぎ声がかわいい。
かすか過ぎて、注意しなければ気づかないぐらいの、小さな喘ぎ声だ。
まだプライドがあるのか、意思で押さえているような感じだ。
しかしこれも時間の問題だ。

抱き起こし、キスをし、首筋に唇を這わせながらブラウスを脱がす。
ベッドのカバーを外し、ブラとショーツだけにして上に毛布をかける。
由紀の放つ短いサイクルの息遣いが、静かな部屋の中で響く。
手早く裸になって、由紀の隣にもぐりこむ。
抱きついてくる。唇を求めてくる。舌がもぐりこんでくる。
しばらくして由紀が落ち着いたのを見計らって、ちょっと体を離す。
フロントホックをはずすと、押さえつけられていた乳房がブラを押しのける。
乳首が、小さいながらも固く勃起しているのがわかる。薄いピンク色をしてる。
男を誘うような色だ。

見られていることで感じているためだろう。
呼吸で胸が上下する以外に、乳房がときおりふるえる。
引き寄せられるように、そっとくちづける。
ビクンと由紀の体が跳ね上がる。私の頭を押さえた腕に力が入る。
私の腰に由紀の足がからむ。体全部が接触をもとめている。
舌全体を乳首に押し付けて、ゆっくりと上下に刺激する。
「うっ、うっ」というような声がする。
腰に回された足が、そのたびごとに硬直するのがわかる。
唇での胸への刺激と同時に、背中をそっと触れるように撫で上げる。
いくつもの異なる感覚に、由紀の声が一段と大きくなる。

Part.02

いったん乳首の上から舌をはなす。
ふくらみの裾野。
軽く舌先でつつくように移動しながら、乳房の感触を楽しむ。
由紀は目をつぶって、微妙なタッチをすべて感じようとしてる。
白く盛り上がる、乳房のすべてのやわらかさを舌先にからめていく。

腰の上に乗っている由紀の足をおろしてから、
反対側のふくらみも同じようについばむ。
押し返してくる弾力が心地いい。

そろそろいいかな。
乳首に向かってねっとりと、舌をひきずってみる。
だんだんと、接近速度を遅くしていく。
そして、乳首の直前で止める。
刺激を予感して由紀が息をつめる。
太腿がかすかにこわばっている。
意識が舌先とふくらみの接触してる一点に集中してるのがわかる。
そしてその先にある敏感なパーツがふるえている。

だが期待をはぐらかせて、いったんふくらみから離れ、
乳首を通り越した地点に着地する。
安堵と不満の息が吐き出される。
もう一度繰り返す。こんどは不満の比率が多い。

触って欲しいだろ?
でもね、ここで急ぐと損なんだよ。
お楽しみはゆっくりと……ね。


3度目。由紀が、実力行使に出てきた。
こちらの頭を押さえて、乳首に持っていこうとしてる。
予測済み。ご希望には添えません。残念ながら。
欲しいおもちゃが手に入らなかった子供のように、
彼女、いやいやをしてる。これがかわいい。
「私の好きな女のしぐさベスト3」に入るかわいさだ。
由紀の場合はトップかも知れない。

今度はちゃんと、でもふくらみの下側のふもとから、
とてつもなくゆっくりと。
今までと違うスピードに由紀は気づいてる。
そしてそれが最後にもたらす大きな快感を待っている。
直前で止まる。お約束だ。
しかしそれもほんの一瞬。
スッと乳首の一部を通過する。
「ビクン」と動く。
同時に「うっ」という声が漏れる。

二つのふくらみに、同じようにゆっくりと繰り返す。
何度目かに、由紀の太もが微妙に動いて私の足に触る。
同時に、「んんっ」という感じの低い声。
かすかな動きだけど、その意味は簡単だ。
そう、濡れ始めたんだね。
でも、まだ入り口の近辺だけだろ?
それじゃつまんないんだ。

こちらに向いていた由紀の体をあおむけにする。
意図がわからなくてもちゃんと従う。
女はこうして従順なのがかわいい。


親指と中指で乳首をつまむようにする。
でもつまむわけじゃない。
かすかな距離を置いて、
触れるか触れないかぐらいにしておいて、
乳首を中心に回転させる。
手でねじを締めるような感じ。

あまりにも強烈な刺激に、由紀は悲鳴のような声をあげる。
体がこわばりつづける。
連続した刺激の中で、息を吸い息を吐くタイミングが見つからない。
右と左の乳首に交互に。

「ああっ」「ふうっ」
声は連続的にでている。
そうそう、理性で押さえられるものなんて少ないんだよ。
自分の感覚にすべてを委ねてごらん。

気分を変え、上から抱きしめキスをする。
いったんキスをしたあと、唇を離し、舌先で唇をつっつく。
あちらこちらと、予測をはずすように。
そして、たっぷりとしたキス。
舌を入れる。
相手の舌の下側をぬるぬると動かす。
おずおずと受け入れているうちに、
今度は由紀の舌がすこしずつ積極的になる。
私の舌と絡み合うような動きが始まった。
私の背中の手が絶え間なく移動しつづける。

首筋にキスの雨を降らす。
耳元でささやく。
「好きだよ、由紀」


気づくと由紀が目を開けてこちらを見ている。
うれしい。恥ずかしい。楽しい。怖い。頼る。
いろいろな感情がミックスされた女の表情。
いや、そうじゃない。
由紀が見せてるのはミックスされる必要のないひとつのもの。
ただ男に抱かれる女が、すべてをさらけ出しているだけ。
この表情が私は大好きだ。

首筋から胸元を通り、脇腹を唇が通過する。
そして改めて体の中心に向かう。
頭を、いつの間につかんだ由紀の両手が押しとどめようとする。
待つ。徐々に力が抜けていく。
動く。また力が入る。
駆け引きを楽しんでるうちにショーツの近辺にたどり着く。

さっき見たときには、ピンクのビキニショーツだった。
飾りの何もない、淡いピンク色のショーツ。
ただ由紀のボディには似合っていた。
セクシーな太ももの奥に余計な飾りはいらない。
ただただ白く光る肉感、ふたつの太ももは中心へと続く。
その奥にあるべきものはショーツに隠れて男の到着を待っている。

クリトリスの位置に唇。
ふっと息を吹きかける。
「あっ」
つづけて、クリトリス一帯に向けて、
長い息をショーツの内側に送り込む。
クリトリス周辺の温度が上がる。


ショーツの脇にはみ出した縮れ毛数本を唇でくわえる。
少し引っ張る。
反対側でも同じようにする。
これで、二つのひだが少し開かれてしまってるはず。
指でショーツの上から、膣のあたりを触れる。
かなり湿っているのがわかる。
この間にも、絶え間なく由紀は声をあげている。

つかむ物のない状態で彼女は所在無いようだ。
いったん元の体勢に戻ってキスをする。
しかし手のほうは別の動き。
成り行きで閉じられた太ももを、開くようにうながす。
意図を察して、すべすべの太ももが恥ずかしそうに開かれた。

ショーツの上から、指でそっと縦に触れる。
後ろから前に向かって、単に生地を触るぐらいの強さで。
そこから受ける感覚に由紀は集中している。
ビクンビクンと、連続してももがこわばる。
背中に回した手に力が入る。

さらに足を広げるように促す。
ショーツのサイドに皮膚が露出する。
ふだん外気にさらされることのない部分。
ショーツの作るラインに沿って指でやわらかくタッチ。
時々越境してショーツの中にすべりこむフリ。
由紀は口をあけたまま、のけぞっている。
「うぅ、うっ、うっ」
途切れなく声が出ている。

Part.03

キスをしながらそっと上掛けをはぐる。彼女は気づいてない。
そして再び顔を由紀の股間に移動しようとした。
おおうものが何もないのに気づいた由紀が私の体をつかまえる。
「いや!」
上半身が剥き出し、男が股間にいる。
上掛けなしでさえぎるものもなく展開されるシーン。
それらを理解したに違いない。
耳元で囁いてやる。

「由紀のすべてが欲しい。由紀のすべてを見たい。すべてを。
 わがままだと思うけど、許して欲しいんだ。お願いだよ」

少し間があって、私をつかむ力が弱くなる。
見上げると、由紀の両目はしっかり閉じられていた。
手は両脇に下ろされている。


目の前に、ピンクの布地で隠されたふくらみ。
手で、ショーツの前の部分を両サイドとも中央に寄せる。
合わせ目の部分だけがかろうじて隠れている状態だ。
中心の亀裂へと続く左右の丘が、さえぎるものもなく姿を見せている。
女の体が作り出す光景、確かにヴィーナスの丘というべきだろうが、
単に、とても卑猥な情景だ。
しばらくそのまま見る。

喘ぎ声と息遣いが不規則に聞こえてくる。
「男にあそこを見られてる」
という羞恥が生み出す快感は、波のように押し寄せては引いている。
感情をそのまま映し出すように、
目の前の剥き出しの丘とショーツのしわが、ゆっくりと伸縮をくりかえす。


感覚に身を委ねている由紀に声をかけた。

「恥ずかしいだろう? こんなとこを見られるのって。
 あれ、ショーツにしみができてるよ。
 こんなに濡れちゃって……」

「……やめて……そんなこと」

由紀の体全体からいたたまれないような恥ずかしさがあふれる。
「あっ」
しかし下半身は素直だ。
非難のあとの喘ぎ声を合図に、
ショーツの小さなしみが急速に大きく広がってくる。

二つの丘を2本の指が散歩する。
喘ぎ声がするたびに、しみはさらに拡大する。

濡れたショーツを脱がした。
何も体を隠すものがなくなった女。
こちらの肩をつかんで抱きつこうとしてくる。

両方の太ももを押さえてホールド。
そのままひだの合わせ目に舌をおろす。
入り口のそばの飛び出し気味のところ。
「あああっ」
大きな、悲鳴に似た声があがる。
合わせ目から、とろとろと液体があふれる。

少しずつ侵入していく。
粘り気はとどまるところを知らない。


入り口に着く。
入り口と周辺のひだが、なまめかしく動いてる。
一刻としてじっとしてはいない。

少しずつ移動する。
そしてクリトリス近辺でジャンプし、
皮をむかない状態で、上から下に舐めおろす。
由紀は私の頭を強くつかんで、背中を浮かしてのけぞる。
衝撃が強すぎて、「うっ」と言ったまま、
息もせずにブリッジをしたまま数秒間が過ぎた。
徐々に力が抜けて平らになったところで、もう一度舐めおろす。

左サイドを、間接的に刺激する。
右サイドも。
由紀は左サイドが好きなようだ。
ためしに直接舌でさわってみる。
とてつもない反応が返ってきた。
この子はじかに触らないほうがいいようだな。

両足を閉じて上からクリトリスを刺激する。
左側をゆっくりと間接的に刺激する。
空いた両手は乳首にあてて。
3箇所から受ける刺激に混乱気味の彼女。
今度は右手の指で入り口を刺激。
入り口は熱く、べとべとになっている。

受け止める快感を徐々に蓄積する女。
放つ声が少しずつ大きくなっている。
私の頭をおさえることもやめ、両手は枕をつかんで快感を耐えている。

太もものこわばりが最高潮に達した。
「ぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
そして絶頂が訪れた。
「ああっ」

驚いたことに、悲鳴と同時に私の頭の上をなにかが通過した。
それもふたつ。足元の床に着地した音。
前後関係からすると……枕だ。
二つ同時に。
変わった娘だ。

つまらない分析をしているうちに、
全力疾走後の息遣いから、だんだんおだやかな呼吸に変わっていた。
そっとベッドを離れ、今のうちにコンドームをつけておく。

そばにもどって、体を重ね、由紀にキスをする。
そのまま足の間に腰を入れ、両足で足を広げるように促す。
太ももで由紀の足をもちあげていき、体勢を整える。

一方で、しっかり硬くなってピクンピクンと脈動してる奴を、
由紀の入り口にゆっくりとあてる。
クリトリスの刺激が落ち着いたところに、膣口への新たな刺激。

そのままかすかに動いてみる。
最初はそれだけで満足していた由紀のようすが……変わってくる。
すこしだけ奥に入れる。
由紀の動きが止まる。一瞬の感覚も取り逃がさないような体勢。
元の位置まで戻してしまう。
もう一度同じように。


離れていこうとする腰を、由紀の足がはさんで遠ざけまいとする。
「どうして欲しいの?由紀。言ってごらん」
由紀は首を横に振る。
「言えない?」
縦に一回。
「言って欲しいんだ。由紀に。どうして欲しいかを」
そう言いながら、入り口のあたりで小さく動き回らせる。
その動きにつられて由紀の腰がうねる。
迎え入れたくてじっとしていられない。体は正直だ
耳元で囁くように言ってみる。
「いじわるじゃないんだよ。由紀にそれを言ってもらうと、とてもうれしいんだ」
由紀の口元に耳を寄せ、返事を促す。

ちょっと間があいてから、意を決したように小さな声で由紀が言う。
「……い……れ………て」
「それじゃわかんないよ」

「……入……れ…て…… んっ、んっ、もっと……奥……まで……」
「もう一度、はっきりと言わないとダメ」

「入れて……もっと奥まで……入れて……入れて! アアッ」

自分の口にした言葉があまりにも淫乱に思えて。
恥辱が生まれ、快感へと変わる瞬間。

リクエストにおこたえして、ゆっくりと奥へと進む。
その間も由紀の内部は、侵入するものを途切れなくしめつけている。
「あっ、ううぅ、ううぅ」
満たされた声を由紀が出す。


奥まで入れ、さらにぐっと押し付け、由紀の内部の感触を楽しむ。
キスをする。
すべてが満たされた由紀の舌が、なまめかしく私を迎える。
今、唇さえも性器と化している。
2箇所でつながった愛の神の絵になりそうだ。ひとつに溶け合うモチーフ。

ゆっくりと動かす。由紀のひだが、私の硬くなったものの形にそって、
まとわりつくぐらいゆっくりと。
気づくと由紀の左足が右足に比べて高くあがっている。
こっち側が好きなのか……。
無意識の希望にあわせて挿入角度を変える。
一瞬驚いてあえぎ声が止まった。
でも次の瞬間にはボリュームがワンランクあがる。
体が激しく波打ち始める。腰があやしくうねりだす

私に気づかれた事自体が、また羞恥と快感のサイクルを生み出す。
由紀の導く先のひだは、執拗に私の分身に絡んで来る。
絡む動きはそのままシンクロして由紀の声となって、部屋中に響く。
私にも強烈な快感を与えてくる。
二人の感覚がぴったり重なっているのがわかる。
そのままスピードを上げていく。
由紀の乱れ方は半端じゃない。
「だめっ、いや、もう、あうぅ、」
そして2度目の絶頂を迎えた。私と一緒に。

今度は枕がないので安心していたが、それは大きな間違いだった。
両手で思いっきり背中を叩かれた。パシッと大きな音がした。
突然の行動の後、由紀の両手と両足はドーンとベッドに投げ出された。
先ほどの動きがうそのように、全く動かない。
息が絶えてしまったようにしか見えない。
心配になって口元に耳を寄せる。ちゃんと息をしてる。
気配に気づいて由紀の目が開く。
抱きついてくる。

まるで子供のように。

Part.04

「室長、確かお出かけでしたよね、これから。
 さっきのプレゼン、私のほうでクラスBにアップしておきます」
「ああ、そうしてくれると助かる。じゃ、あとは頼む」

車で打ち合わせの場所に向かう。
信号待ちの間にふと考えた。

あの夜以来、何の変化も無い由紀。
あいかわらず、クールできっちりした仕事ぶりが続いている。
それでいいはずなんだが、なにか物足りない。

「わたし………本当にあなたを好きになってしまうわ。……それでいいの?」

私の遊び半分の気持ちを見透かしたようなあの言葉。
手のひらに余る白い乳房。私を迎え入れる時の声。
それに続く、けだもののようなSEX。
そして、子供のように私に抱きつく由紀……。

後ろからのクラクションが昼下がりの回想をさえぎる。
信号はとっくに青に変わっていた。アクセルを踏み込む。

打ち合わせは思ったより早く済んだ。
会社に戻ると、由紀を含めて数人しか残っていなかった。
時計を見ればまだ6時前、いつもより早く終わりそうな雰囲気だ。
仕事は残ってなかったが、メールチェックだけ済ませた。
思いついて、企画室→小山内と選んで、メールを送信した。


--------------------
このあいだの場所
メインダイニング
7時
会いたい
そして抱きしめたい
--------------------

送信ボタンをクリックしてからほんの数秒で、
彼女のPCからメールの着信音がした。
由紀の席は私の正面で、全てがよく見える。

いつもと同じようにメーラーをアクティブにする由紀。
そして内容を理解したのだろう、顔がこわばっている。
しかし、動揺してこちらを振り向くようなことはしない。
画面を見つめ、しばらく考え込んでいる。
そしておもむろにキーボードをたたき始める。
あっけないほどすぐに終わって、クリック。

私のメーラーは着信音をはずしてる。二人ともそれを知っている。
受信ボックスが点滅する。新着を表示する。

--------------------
会いたかった
ずっと……………
--------------------

あやうく、こちらが動揺して彼女を見つめてしまいそうになった。
私の問いかけに答えてない小山内が、その短い文字の中にいた。
いつもの由紀ではない。


待っていたのか……彼女は。あの日から、ずっと。
この瞬間に、私は由紀の想いの全てを受け入れてしまった。
かわいい。かわいい女。私のもの。小山内由紀という名の女。
おまえの存在が、私の何かを変えようとしている。
しかしそれに対して、躊躇する気持ちはまったく無かった。

先に社を出る。二つの予約をして、まだ時間が余る。
目の前のジュエリーの店に、なんとなく入る。
銀色に輝くイヤリングを見ながら、
「由紀の雰囲気には、プラチナやシルバーではきつい感じになるか?
 ゴールドのほうが……」
自分の考えてる内容に思わず苦笑してしまう。

店員が声をかけてくる。
「何かお探しですか?」
「特に……」
そのとき、目の前のイヤリングに目が引き寄せられた。
バネ式の留め金を持つ、ゴールドのイヤリング。
ぶら下がるハートも小さく、由紀に似合いそうだった。
由紀はピアスの穴をあけてはいない。これだったらいいだろう。
勢いで買ってしまった。上着のポケットにねじ込んだ。

メインダイニングに着いたのは、約束の5分前。
名前を告げてるところに由紀が来た。時間に正確な娘だ。
二人して席に着く。


「ああいうのはちょっと危ないかな」
「さっきのメールですか?」
「ああ」
「ちょっとじゃなくて、『だいぶ』ですね」
笑ってる。言葉とは裏腹に、男と女として会ってる今を喜んでいる。

食事を終え部屋に入る。
抱きしめ、キスをし、空白の時間を急いで取り戻そうとする。
私も、そして由紀も。

二人の気持ちが落ち着いたところで、体を離す。
上着を脱ごうとして、固いものに触れる。イヤリングだ。
「忘れてたよ」
「なんですか?」
「はい、これ。開けてごらん。プレゼントだよ」
ふたを開けて由紀が息を飲む。
「きれい……」
取り出してつけてやる。離れて見る。とてもかわいい。
窓のそばの小さなライトをつける。
室内がぼんやり明るくなって、窓が半透明の鏡になる。
由紀を窓に向かって立たせる。

イヤリングをつけた由紀がガラスに映る。その後ろに私がいる。
耳元のハートがきらきらと輝く。
「ありがとう。うれしい……」
由紀の目に涙があふれている。
「あれ、由紀らしくないな」
「ちがいます。今の私が本当の私なんだと……思います……」


彼女の告白に、私は言葉を失った。
できることといえば、彼女を抱きしめることだけだった。
私は彼女の虜になってしまった。

二人でベッドに入る。
全てを脱がせ、愛撫をしてる最中に、急に裸の彼女を見たくなった。
恥ずかしがる由紀に、強引に許しを得る。上掛けをとる。

何も隠すものがない女の裸。
身に付けるものはアクセサリだけ。単なる裸よりもっと挑発的だ。
白い肌の柔らかな曲線と陰影の中に、金色のきらめきが色を添える。
私の下半身の一部は、どうしようもないほど硬くなる。

しばらく見つめているうちにいたずら心が起きた。
そっとイヤリングを外す。いぶかる由紀。
外したイヤリングを胸のふくらみの頂上につける。
もうひとつも。
由紀は私の行動にただ驚くばかりで声が出ない。

悪乗りしたいときもある。
由紀をベッドから抱えあげ窓際に運ぶ。
「やめて、やだ、お願い…… 誰かに見られる………」
有無を言わさずさっきと同じところに立たせる。
「見てごらん」

窓に映る裸の女。薄暗がりの中に乳房の陰影。
くびれた曲線。太ももの翳り。
胸のふくらみのトップには金色の光。
由紀のふるえにあわせて揺れる、ハートのきらめきの残像。

鏡の中。
女の腰にまわされていた男の手が、上に移動する。
ふたつの乳房を下から包みこむように覆う。
ゆっくりと、もみ始める。
乳房の表面と内部のあらゆる場所に語りかけるように。
ピンクの乳首。まぶしいほど白いふくらみ。
揺れて光るゴールドのハート。
卑猥な動きをくりかえす男の手。

目の前で展開される光景の生々しさに、由紀は思わず目をそらす。
「見なきゃだめだよ。由紀」
そう言って顔を正面に向かせる。

片手で乳房をいたぶり、もう片方で太ももと尻をなでまわす。
徐々に前面に動かしていく。
出会ったことの無い不条理な状況と恥ずかしさに、
なすすべもない由紀。
陰毛をかきわけるようにして、クリトリスのそばまでたどり着く。
すでに由紀は立っていることができない。
クリトリスの上のほうを触っただけで、ひざが力なく抜ける。
慌てて抱きかかえてベッドに運ぶ。もう十分だろう。

Part.05

ベッドの上、横にした由紀に覆い被さり、深いキスをする。
胸を圧迫すると痛いだろうと思って、体重をかけないようにする。
非常識なほどの羞恥から開放されて安心したのか、唇がはげしく私を求める。
そのしぐさに、私を非難する色はまったく見えなかった。
由紀の舌が卑猥な動きで私の舌に絡みつく。あきることなくいつまでも。

体をずらし、下半身に手を伸ばした。
入り口近くのひだを触ると、指に粘り気がまとわりつく。
さらに奥に進める。
息を詰めていた由紀は、入り口に指がたどり着くと同時に、
ふさがれた唇から「うっ」とくぐもった声を出した。体が震える。
入り口の周囲を散歩する指の接触に合わせて、うめきが連続する。
指をはずし、唇を離す。深い安堵の吐息がもれる。

こんどは、唇と舌と指先で、体中を愛撫する。
どこにも通過しない所がないくらい、体中を。
時折、イヤリングを軽く引っ張る。声が出る。
穏やかな愛撫と、直接的な刺激が混ぜ合わされ、
まちがいなく由紀の中で蓄積されてゆく。

足元に移動して、両足をつかむ。広げようとした。
抵抗があった。二度目とは言え、あえて強要するつもりは無かった。
両膝の作る隙間に唇をつける。間に舌を差し入れる。動かす。
たまらず由紀の足が少し開く。顔を入れる。
両足の間で、徐々に顔と唇を移動させる。閉じようとしても無理なように。
同時に両手で足をつかんで膝を立てるようにもっていく。

由紀のそこを隠すものはなにもない。剥き出しのまま。
再び襲う羞恥に、私の視線に、由紀は声をなくしている。


「とってもきれいだよ、由紀」
賞賛を受けた嬉しさよりも、恥ずかしさに由紀は身をよじる。
唇をつけようとした。
「やめて……」
消え入りそうな声を出すとともに、私を引き寄せようとする。
かなり強引な雰囲気がある。
「どうしたんだ由紀?この前は許してくれたのに」
「もういいの……」
「もういいって……もしかして……もう挿れて欲しいのか?」
コクンとうなずく。

乳首のイヤリングからの刺激、そしてそれに伴う羞恥、官能。
由紀のそこが、すでに私を求める段階に来ていた。
イヤリングを外し、枕もとに置く。由紀の体を傷つけないように。
明かりを落とした。外からの街明かりの反射だけで、ほとんど顔も見えない。
コンドームを付けにベッドから出ようとした。

「このまま…… お願い……」
「でも……まだ」
「大丈夫………」
「えっ?どうして?」
「……このあいだから ……ピル飲んでるから……」
恥ずかしそうに由紀が告げた。

私と彼女の間のコンドームにさえ、由紀は違和感を覚えていたのだろう。
私をありのままに受け止めたい。それが由紀の希望なんだ。
快感の為ではなく、私とのふれあいを大切にしたいから。

「触れ合いたいのか……」
私の独り言のような問いかけに、再びコクンと由紀がうなずく。


由紀の気持ちは、いたいほどよくわかった。
淫乱な女に思われることがイヤで、それを言いにくかったのだろうことも。

由紀の入り口にあてがう。待っている由紀。
私に満たされる瞬間を、今か今かと。
奥まで入れる。抱きしめ、キスをする。
全く動かさず、触れ合っているたがいの皮膚で、細かい感触を追い求めあう。
そうしているうちに、私を包む由紀の内部が怪しい動きを始める。

奥のほうの上の部分が、さかんに先のほうに圧迫を加える。
それもくねるような動きで。接触面積と圧力が強くなる
由紀の上半身はすでに半分反り返った状態になってる。
うわごとのように、同じことばをくりかえす。
「いい……いい……いい……」
「由紀……由紀……」
「いいの、そこが……とっても……ああっ、いいの……いい……いい……」
一気に登りつめていく由紀。
そのまま絶頂を迎える。

由紀の呼吸が落ち着いたところで、大きく動かし始める。
なだらかに降りてきていた由紀が、再び上昇を始める。
前と同じに、左足が余計に上がっている。
挿入角度を変えると、お約束のように由紀の声が大きくなる。
両足の角度がさらに上がっていく。
さらに奥までさらに激しく。由紀が無言で要求している。

由紀の手に私の手をからませる。強く握り返してくる。
口を開けたまま意味をなさない言葉が吐き出される。
私の分身は、入り口、中、奥、どこともつかない肉ひだにもてあそばれる。
とってもいいよ、由紀。

そして大きな絶叫と一緒に、2度目の頂上へと由紀は登りつめた。
熱くなったひだに包まれた私は、
その強烈な締め付けに、一気に射精へと導かれる。
由紀の中に、私の精液が何度も注ぎ込まれる。

時を経て、緩やかに由紀のこわばりが解ける。
私の腕に抱かれた由紀は、
アフロディテのように、おだやか表情をたたえていた。

体を離そうとしたら、由紀が止めた。
「このまま……」
「えっ」
「……このままがいいの……」

しばらくこうしていよう。
由紀がそうして欲しいのなら。

「お願い」
「なんだい」
「遠くに行かないで。わたしの手がとどかないくらい遠くへ」
「行かないよ」
「ほんとに?」
「もちろんだよ」
「死んだりしたら駄目」
「なんでだよ、こんなにピンピンしてるのに」

いつのまにか由紀の瞳に涙が浮かんでいた。

「あなたのそばで、あなたを見ているだけで、わたし、幸せだった。
 そう思うことで長い間自分の気持ちを押さえていた。
 でも、今は違うの。
 こうしてあなたに抱かれて、あなたのぬくもりを覚えてしまった。
 あなたの優しさを知ってしまった。
 あなたが死んでしまったら………
 わたしには何も残らない、何も……」

私の胸を由紀の涙が濡らしていく。嗚咽が止まらない。
「ここにいるよ、ずっと。だから、泣かないで。
 ほら素敵な笑顔が台無しだよ」

泣き笑いの顔を見せる由紀。
彼女に悲しい思いだけはさせたくない。そう思った。

Part.06

私はサンフランシスコから成田に向かう便に乗っていた。
由紀と2回目の夜を過ごしてから1ヶ月が経っている。

あの朝、自分の席でコーヒーを飲みながら、由紀の姿を複雑な思いで見ていた。
二人で過ごした時間、自分をさらけ出していた彼女が可愛いと思った。
私は、おそらく数ヶ月のうちに、心から彼女を愛してしまうに違いない。
たとえ、たどり着く場所が、出口のない迷宮であったとしても。

海外事業部長からお呼びがかかった。
話を聞いて、前の晩の余韻が一瞬にして吹き飛んだ。

シスコの支社長が急病で倒れた。
正式な後任が決まるまで、ピンチヒッターが欲しい、と現地から希望が来てる。
シスコ支社に何年か籍を置いたことのある私に、白羽の矢が立った。
次長がいるはずなのにと思ったが、そこの次長は現地採用のアメリカ人だという。
はんこを持ってないのが、支社長代理になれない理由なのか?
そんなジョークが浮かんだが、口にすることはやめた。
理事クラスに頭を下げて頼まれては、嫌といえるはずもなかった。
期限は1ヶ月。
即OKして、企画室の業務引継ぎに1日。支社の現状のブリーフィングに1日。
3日目には成田から飛び出すという強行スケジュールだった。

シスコ到着から4週間が経過した。つじつまだけは何とか合わせた。
きのう、最初の約束どおり本社から新支社長が到着した。
商工会議所の6Fで、夕方、地元の有力者を集めてパーティーを開いた。
一応の顔つなぎが終わって、窓の外の Golden Gate Bridge を見ていた。

街の景色を見ることもなく1ヶ月が経っていたことに、突然、気づく。
そして、日本で待っている一人の女のことも。不思議な切なさと一緒に。

到着ロビーから家に電話を入れた。軽い気持ちで、企画室にも電話した。
驚いたことに小山内が出た。まだ朝の7時半だというのに。

「お帰りなさい」
私はそのことばを聞いて、すべてを理解した。
確かに到着便は知らせてあった。
だが、私の声を少しでも早く聞くために、小山内はそこで待っていた。
来るかどうかもわからない私の電話を、彼女は待っていた……

「これからそちらに戻る。9時ごろの予定だ。
 お偉いさんに挨拶したら、すぐブリーフィング、」
「はい、昨日のうちに用意してあります」
「わかった。じゃ」

私の動揺をそのまま見せるのに、ためらいがあった。
由紀のようには素直になれない自分がそこにいる。

一月ぶりに出社する。
最初に帰国挨拶を済ませ、企画室に戻った。彼女を見る。
「もう、よろしいんですか? 会議室はおさえてありますから、いつでも」
「みんな。1時間で終わらせるから、電話は折り返しにしてくれ。頼む。
 行こう。大特急で済まそう」

書類を持った彼女と一緒に2フロア上の会議室に向かう。
由紀がテーブルに書類を置く。同時に、私が部屋の鍵をしめる音。
こちらに振り返った由紀を、思いっきり抱きしめる。
突然のことに、体をこわばらせている。
でも次の瞬間には私の背中に腕を回し、顔を胸にうずめてくる。
肩が震えている。素肌に着た私のシャツが濡れるのがわかる。
耐えてきたさびしさが私にぶつけられる。
由紀のかおりがした。

どれぐらい、そうしていたのだろうか。
あごを持ち上げるように由紀の顔を上向きにして、
軽いキスをしてからゆっくりと体を離した。

少し距離をおいて、彼女はハンカチで涙をぬぐいながら私を見てる。
上から下まで、記憶と照合するように。
突然、由紀が「クスッ」と笑った。なにがあったんだ?

由紀の視線を追う。
私のズボンの一部が変な形に盛り上がっていた。
そういえば仕事オンリーの1ヶ月で、こいつのケアはしてなかった。

由紀が近寄ってくる。無言で、私の前にひざまずく。
ズボンのファスナーに手を掛ける。

「由紀……?」

おもわず声を掛ける。
由紀は私を見上げて、先ほどの問いかけに答える。小さな声で。

「お願い」

ファスナーを降ろして、やんちゃ坊主をなんとか引き出した由紀。
なんのためらいなく、唇で迎え入れた。
いかにも普通のことのように、薄い紅色をした由紀の唇に、私のものが。
目の前に展開されるシーンの強烈さも手伝って、強い快感が私を襲う。
私の分身は強烈な硬さになる。実際、痛く感じるほど。
彼女の口の中で、とても激しくピクンピクンと脈打っている。
その脈動さえいとおしむように、由紀の薄紅色の唇が私にまとわりついている。

私の尻を両手でつかむようにして、由紀の顔が動き始めた。
唇が、舌が、そしてのどの奥も、
すべてのパーツが意志をもって、私を包み、粘りつき、さらに絡み合う。
私に快感を与えるために、由紀は体のすべてを投げ出している。

唾液と唇がもたらす卑猥な音の中に、かすかに由紀の喘ぎ声が混ざり始めた。
この行為そのもので、由紀は感じ始めているのか……
私は、呆然として、ただ由紀の髪を撫でていた。

今、由紀は、私の快感のための奴隷ではない。
自分自身が、この行為の中に快感をむさぼることに目覚めてしまっていた。
彼女の欲望は、より深い快楽を求めて加速する。自らのために。
そして、それは同時に私のためでもあった。

由紀のうめき声が響く。
「うっ、うっ、んんんっ」
私も押さえきれず声を出してしまう。
「由紀、いいよ……由紀、素敵だよ……」
由紀の唇は性器と化している。
私のものから、すべての快感を享受しようとして、あやしくうごめいている。

終わりが近づいてるのがわかる。
もう耐え切れない。
「由紀、出るから……」
由紀は小さく首を横に振る。このままでいいのか?
「由紀……本当に……」
由紀は喘ぎ声を大きくしながら、動きをやめようとしない。

Part.07

そしてそのときが来た。
由紀の口の中で、それは断末魔のように脈打ちながら、
大量に精液を吐き出し始める。
由紀は動きを止め、それを受け止めようとしている。
少し仰向きのその顔は、目を閉じ、
注ぎ込まれるものをいとおしむ、穏やかな表情をたたえている。

こんなにも私を愛してくれている由紀がそこにいた。
私をコントロールしていたものが、音を立てて砕け散る。
ありのままの自分が、言葉になる。
「大好きだよ、由紀」

由紀はゆっくりと口を離す。
私の目の前で、口の中のものをそのまま飲み込んでしまう。
私の精液が喉を通過すると同時に、首を傾げ、満ち足りた声を出す由紀。
そして、再び私のものを手にとり、先のほうを咥える。
キレイに舐めまわして、そして……

私を濡れた目で見上げる。

「欲しいのか?」
私は由紀に聞いたのだろうか?
それとも自分に?

由紀を立たせてテーブルのほうに向かせる、
ストッキングとショーツを、もどかしく一度におろす。
由紀は自ら上半身をテーブルに伏せ、無防備な下半身を私に向ける。
太ももまで透明な液体がたれている。
私が見つめていることで、余計感じているのか、
誘いかけるように、ひだがあやしく動いている。
次々と愛液が吐き出され、くさむらと太ももを濡らす。


由紀の背後から、一気に貫く。奥まで押し付ける。
満たされなかった日々を補ってやれるぐらい奥まで。
由紀は自分の右手を口に押し当てている。
それでも声が漏れるのを、完全には押さえ切れない。
くぐもった由紀の声と、私の息遣いが部屋を満たす。

少しずつ前後に動く。
不自由な体勢なのに、私の動きに合わせて、由紀の腰がくねる。
尻、そして腰をわしづかみにして、膣を蹂躙する。
由紀の体は喜んで私の暴虐を受け入れる。
手を強く噛んでいることが意味をなさないほど、由紀の声が大きくなる。

既に刺激の頂点に近いところにいた二人にとって、
そう長い時間は必要なかった。

「あっ、あっ、あっ……もう、ダメ」
「由紀……由紀……いくよ……」
私が再び大きな脈動とともに精液を吐き出し始めた瞬間、
「ああああああああっ……」
由紀の体が大きくのけぞる。由紀も絶頂を迎える。
私の脈動をつかまえるように由紀の収縮が同期する。
二つの動きがおさまっても、私たちは残る感覚に身をゆだねていた。

由紀の抱いていた愛情のエリアに、
私の感情は、完全に、隙間もなくオーバーラップしてしまった。
それは同時に、出口のない迷宮に二人が踏み込んでしまった瞬間。

Part.08

「ずいぶん殺風景だね。由紀の部屋って知らなきゃ
 男の子の部屋だって思っちゃうね、絶対」

古い女友達は、私の部屋に入るなり、そう言った。
ついこの間のことだ。

濃い茶色の柄のカーテン。
ダークなフローリング、中間色のソファー。
パイプベッド。グレーのベッドカバー。
黒とシルバーの配色のコンポステレオ。
ここまでで、女の香りがかけらもない。

そこにいる女というと、
デニムのスカートとフリースって、
いつもの、色っぽくない地味ないでたち。

唯一、女っぽいと言えるかもしれないのは、
テーブルの上のアロマ。
今日はカモミールの香り。これぐらいかな。

「由紀って、高校の時、全然男子に興味が無いって感じでさ」
「そんなこと無かったよ」
「うそ、だれから手紙貰っても、ゴミ箱にポイだったじゃない」

確かに、そうだった。でもそれは少し意味が違う。
読んでしまってその人の気持ちを知ってしまったら、
多分その人の好意を断れなくなる、と分かっていたから。

私は自分の弱さがわかっていた。
まわりの友達は、つかず離れずで男たちと付き合うすべを知っていた。
私はそれほど器用じゃなかった。みんながうらやましかった。

高校、大学と、私は特別な彼氏ができることもなかった。
一度だけ、なりゆきで夜を過ごしてしまったこともあったけど、
その人とはそれっきりだった。
私に残ったのは、好きでもない人と体をつないだ後悔だけだった。


会社に入って、企画室に配属。
あの人はそこにいた。自分でも情けないぐらいの一目惚れ。
既に結婚していて、私の気持ちを表に出すことは許されなかった。
少なくとも好きな人の為に精一杯のことをやろう。
気に入ってもらおう。

自分の感情を隠すために、クールに振る舞う芝居を覚えた。
たいして必要のない眼鏡をかけた。仕事のできる女になろうとした。
そうすれば、いつもそばにいて話ができる。
それだけが私の幸せだった。

そうだった。
あの日までは。

キスを交わし、腕に抱かれ、心も体も深くつながって。
決してそんな日は来ないと思ってあきらめていたのに。
あの人のぬくもりは、いつでも私にやすらぎを与えてくれた。

これでいいんだ。私が望んだことだった。
くよくよするなんてどうかしてる。

心の整理がついて、取り込んだままの洗濯物を片付け始める。
一段落したら、外の空気を吸いに出かけようと思った。

Part.09

一応、携帯も持った。何のために? 番号を教えてもいないのに。
言い訳は得意じゃない。特に自分には

エレベータを降り、外に出る。晴れている。
とりあえず、アロマショップに行こうと思った。

3連休もあと1日。明日は何しようか。
とりとめもなく色々なことを考える。

突然、着信音がした。
まさか?
そんなことはないよ、由紀。もう一人の自分が冷たく反応する。
見たことのない番号。歩きながら携帯を耳にあてた。

「もしもし」
この声は……
「もしもし」
「はい」
「由紀?」
「はい、そうです」
立ち止まってしまう。あの人だ。

「ちょっと、会いたいんだけど」
どういうことなんだろう?
大丈夫なの? お休みの日なのに。

「少し時間が空いたから」
理由なんかいらなかった。
会えるなら。今、会えるなら……

「今……どこにいるんですか」
「君の後ろ」

思わず振り向く。
そこに立っていたのは、まちがいなくあの人だった。
やっとのことで、かけよって抱きつきたい衝動を押さえた。
立ちつくす私を見て、近づいてくる。

「こんにちは」
「……こんにちは」
変な雰囲気。二人ともぎごちない。


沈黙を彼の言葉が破る。
「遠出しようか。車で来てるんだ」
「えっ」
「だめ?」
「そんなことない。全然」つい、大きく首を振ってしまう。
時間はもてあますほどある。

「じゃ、お泊りの支度しておいで」
予想もしない言葉に私は固まってしまう。
耳元に彼が口を寄せた。
「朝までず~っと、由紀を可愛がってあげたいんだ。いや?」
私は耳まで赤くなっていたに違いない。
ぎりぎりのところで自分を取り戻して、言った。
「車は?」
「さすが。立ち直り早いね由紀は。車は、ほらあそこ」
「じゃ、支度する間、車で待っててください。すぐ来ます」
「そうだね、そうするか」

部屋に戻って、荷物を詰める。
たかが一泊なんだから、たいした量にはならない。
下着をつめる時にふと手が止まった。
どれがいいだろう。
明るいところで見られても大丈夫なのは………
いやだ。なんてこと考えてるんだろう。
適当に下着を選んだ。
そして、このままではしょうがないので、それなりの服を選ぶ。
彼の服を思い出して、あんまりアンバランスじゃないのを。
ハートのイヤリングは忘れずにつけた。
鏡の前で、一応化粧する。すっぴんではあんまりだろう。

鏡の中の私はウキウキした表情を隠そうともしない。
はしゃぐ心が、手元を狂わせる。
口紅のラインが決まらない。やりなおす。
やっとできた。
時計を見ると結構時間がたってる。急がなくちゃ

助手席に乗ると、私を見て不思議そうに聞いてきた。
「あれ、眼鏡は?」
「コンタクトしてるんです、普段は」
「そうなんだ」
「なんか、違和感ありますか?」
「違和感はないけど……怖くなくて、とてもよろしい」
「そんなに怖いんですか? 私、会社で」
「いや、私にとっては単に可愛い女だから問題はない」
はぐらかされる。でも、返す言葉に困ってしまう。

沈黙を救うように車が動き出す。
どこへ?
私の疑問を雰囲気で感じたのか、話し始める彼。
「やっぱり定番なら熱海でしょう。行く先は」
「それってあまりにも古くありません?」
「そう。それが問題。ということで、那須のペンションにしたよ」
「この季節、寒そう」
「支障はない。ベッドの中で抱き合ってれば関係ないだろ?」
どうしてこう話がそっちに行くのか。男って嫌い。

車はかなりのスピードで走ってる。横顔を盗み見る。
この人と今、こうしていることが夢みたいだ。

「あのさ、」
「何ですか?」
「そのイヤリング、気に入ってくれてる?」
「ええ、とっても。それに初めて頂いたものですし……」
「それに、とても刺激的だし……って?」
私は彼の太ももを思いっきり平手でたたいた。

「ドライバーをそんなふうに扱っていいのか?」
「ヘンなこと言うから……」
「できれば、もうちょっと上のほうを、もっとやさしく……」
「知・り・ま・せ・ん!」

もう少し、あやしい雰囲気になるかと思ってたのに、
とんでもない成り行きだ。
でも分かってる。ちゃんと。
今、私たちは単なる恋人。他のことは何もいらない。
彼は、私にそう言いたくて、おどけて見せてる。
やさしさが私を包みこんでくれてる。

Part.10

那須インターをいつのまにか降りて、並木道を走っていた。
小さな道に入り、ゴルフ場の横を通り過ぎて、ペンションの前に止まる。
荷物を持って玄関をくぐる。夕暮れが迫っていた。

「東京から来た山賀ですけど」
「はい、こんにちは。確かに承ってますよ。一泊ですね。
 道、混んでませんでしたか?」
「途中、ちょっと渋滞に巻き込まれましたけど、なんとか」
平然と答えてる彼。やっぱり度胸あるな。
「じゃあ奥さん、疲れたでしょう」
え、私のこと? あ、そうだよね当然。
「いえ、それほどでも」
「よかった。じゃこちらにお名前を」

山賀 誠一
   由紀

不思議な思いで記入された名前を見ていた。
「ほら、行くよ」
現実に引き戻され、部屋に案内される。

部屋の中は二人きり。言葉のとっかかりが見つからずにいた。
「お風呂行こうか」
唐突に言われた。
「ここには露天風呂があるって言ってたよ。ちょっと汗流そうか」
そうしよう、今日は体中ピカピカにして……あっ……
「いくぞ。なにボーッとしてるんだ」
「あっ、はい」
着替えを持って、お風呂に向かう。

二つのお風呂があって、片方は露天風呂。
「いこう、あいてる」
「?」
「二人だけで、はいるんだ。鍵がかけられるんだ、ここ」
ひきずられるように中に入る。でも面白そう。

さすがにここで、彼の目の前で脱ぐのはつらい。
「先にはいってて。すぐ行くから」
無理は言ってこない。手早く脱ぐと浴室に消えていく。
脱いだものを、下着を下にしてたたんでから、
小さなタオルで気持ちだけ前を隠して、浴室のガラスをあけた。寒い。

木の床と、そのまますっと入れる檜のお風呂。
ふちだけがかすかな段差になっている。ちょっと幅広で。
真正面だけ壁がなく、外が見える。近くの小川の音がする。
外はほとんど薄暗いのに、浴室はかなり明るい。どうしよう。
「そこの左手にスイッチがあるから」
スイッチを押すと室内灯が消えた。
桶でお湯をすくい、少し流してからお湯に入る。

「もっとそばにおいで」
そばに行く。並んで座る。
彼の手が私の頭を肩に押し付ける。
肩にもたれて、並んで外を見る。顔だけが冷たい。
「気持ちいいね、露天風呂って」「そうだな」
ちょっと無言。
やさしいキスが降って来た。受けとめる。
唇を離して顔を見合わせる。
「来てよかった?」「ええ」

肩にあった彼の右手が、いつのまにか背中に降りていた。
背筋に不思議な感覚が走る。
てのひらが脇腹を通過して、タオルの下にもぐりこむ。
右の胸をさわってる。おだやかな気分になる。
「………、あっ」
突然乳首に触られて、声が出る。その声は暗闇に吸い込まれる。

今度は別の手がタオルをはいだ。そして左の胸をつかまれる。
そして首筋にキス。
だめ、ダメだってば。私、変になりそう。
「そうか、由紀、そんなに気持ちいいんだ」
ばれてる。なんでわかるんだろ?
やわらかく揺り動かすようにしている二つのてのひらが、
時折乳首を刺激する。予想できないタイミングで。
そのたびに体がビクッとなってしまう。壁に声が反響する。

左の胸に置かれた手が離れ、私の左手をつかむ。導かれる。
そこにあるのは、とても硬いもの。
手のひらで包んだ。
それは手の中で大きく暴れる。ピク……ピク……
「由紀のだいすきなもの……だろ?」
そう、私の中に押し入って来るときには、
とても幸せな気分にしてくれる。
動き始めると、今度は狂おしいほどの快感がもたらされて、
私はのぼりつめてしまう。
何度も、何度も……くりかえし……

「何考えてるのかな~、由紀ちゃんは。
 もしかして……これが入ってくるときの事思い出してた?」
だめ、どうして全部分かってしまうの?

「答えがない。しょうがない、ちょっとチェック」
彼の手が下のほうに伸びてくる。
「だめっ、やめてっ」間に合わなかった。
彼の指がひだの間に分け入る。
さっきからぬるぬるしてるのが、
自分でも分かるほどだったんだから……
「由紀って、こういう女だったんだ。すごくスケベで……」
「ちがいます……あなたがこんな風にしちゃったんだから……
 あなたの……せい……だから………あっ」

Part.11

入り口のとこを触られてしまうと、話なんか続けられない。
それが面白くてイジワルしてるんだ、絶対。
そう思いながらも、彼の指がもたらす快感に、私は身を任せていた。

あ、指が離れる。
「ちょっと、体冷やそう。つかりすぎた」
確かに、変なことするから、余計のぼせてしまった。
二人して風呂のふちに腰掛けて、ほてりを覚ます。
先ほどのタオルを見つけて、私は前を隠した。

彼は裸のまま。当然にょっきりと……
目のやり場に困る。やっぱり変な形だと思う。大好きだけど。
「出ようか?食事の時間だし」
「うん」
正直言って、助かった。
あまりにもむき出しの欲望と面と向かうのは、やはり恥ずかしい。
もうじき食事の時間だし。
先にあがって、服を身につける。くつろげそうなもの。
遅れて彼。待って、手をつないで部屋に戻る。あったかい手。

「すぐ食事に行こう。のども渇いたし」
「先に行って。これでも女には支度があるの」
彼を追いやってから、トイレに。
だって、あそこがぬるぬるで、ひどい状態だったから。
ショーツも濡れてて気持ち悪いから、新しいのにかえて。

食事はとてもおいしかった。地ワインの味もそこそこ良かったし。

部屋に戻って、なりゆきというのか、
セミダブルのベッドの上で、服を着たまま二人でたわむれる。
突然、真顔になって、彼の『お話』が始まった。

  とっても足の速いねずみがいました。名前はアシュトンといいます。
  広い野原をかけまわって……
  こら、くすぐったがって動いちゃ駄目だって。由紀。
  ちゃんとお話を聞いてなさい。そう。じっとして、御行儀よく。

  こうしてアシュトンは野原をかけまわって毎日を暮らしていました。
  いつものように走ってると、目の前にちょっとした山が現れました。
  結構な高さがあります。それもふたつも。
  頂上がなんだかとんがっていて、見たことのない形をしています。
  アシュトンはどうしても登ってみたくなりました。

  ふもとのほうから、アシュトンはゆっくりと登りはじめました。
  ヨイショ、ヨイショ。さすがのアシュトンでも、走ることはできません。
  なぜって?それは、けっこう急なのぼり道だったからです。
  ヨイショ、ヨイショ。歩きながらアシュトンは考えました。。
  まっすぐ登るから大変なんだ。ぐるぐる回りながら登れば楽かもしれない。
  さっそく行動に移りました。ぐるぐる、ぐるぐる。ほら、こうやってね。

  やっと頂上にたどり着いたとき、
  アシュトンは背中がかゆいのに気づきました。
  そこで頂上の大きな岩に背中をこすりつけ始めました。
  ゴシゴシ。ゴシゴシ。あれ、急に岩がふくらんできました。

おはなしはずっと続いていた。私の体の上で。
いつか、樹海を抜ける話にかわって、泉にたどり着く話へ。
そこには『ほらあな』があって………
この頃には、私、とてもひどい状態で、
残りのショーツの数を考えてしまってたぐらい。

アルコールのせいもあったんだけど、正直に言うと、
さっきお風呂で握ったものが欲しくなり始めていた。
こんなこと絶対、口にできないけど。

「はい、アシュトンの大冒険、前編はここまで」
突然話が終わった。彼の手が離れていってしまう。
「ちょっと一休み。お風呂はいろうか」
物足りないけど……… 今夜はずっと一緒なんだから。
それに私、露天風呂の誘惑には勝てなかった。いろんな意味で……

行ってみると、うまいことに誰もいない。
彼が脱がせてくれる。私は、さっきと違ってなすがまま。
横抱きにされ、お湯の中まで連れて行かれる。
赤ん坊のように彼のひざの上で抱かれた。
とても落ち着いてしまう。

しばらくして体が熱くなった頃、
湯から出され、湯船と床の境目のところに乗せられた。
背中にぬるぬるした木の感触。
ここで?うそでしょ……
すぐに、彼が入ってきた。
準備はできていた。十分に。十分すぎるくらい……
とてもスムーズに入ってきた。奥まで。

でも、ちょっと動きにくいみたい。
私も、背中が痛くなりそうで、集中できないし。
「部屋に戻ろうか、由紀。ここじゃちょっと、な?」
「うん」
同じ事、感じてたみたい。

Part.12

部屋に戻って、どちらともなく服を脱いで、
無言で二人してベッドに入る。
すぐに奥まで入れられて。私は幸せな気分になる。

今の私の気持ち。あなたに全て伝えたい。
心も体も全部満たされて、とっても幸せ、今。
あなたのことが、すごくいとおしく思えて………
大好き………大好きだよ。

不思議。どうして?
悲しいわけじゃないのに、涙がこみあげてきて、
次から次へと、あふれて、こぼれて、どうしても止まらない。
おかしいね、こんな幸せなのに。こんなにやすらいでるのに。
私、いつのまにか、子供のように大きな声を上げて泣いていた。
一度体が離れる。そのまま続けられる状態じゃなくなってる。
しゃくりあげている私。横から抱きしめる彼。なんで?

しばらく、私の髪をなでてくれていた。
私の高ぶった気持ちが、引き潮のようにおさまっていく。
彼の胸に頭を乗せて、鼓動をしばらく聞いていた。
おだやかな気分でいっぱいになって、目を閉じた。


のどの渇きを覚えて目がさめる。あれ、ここどこだっけ?
そばのあったかさに気づいて、彼と一緒だと思い出す。
そうだ二人で『お泊り』したんだ。二人で朝まで。

外の自動販売機でウーロン茶を買って、戻る。
窓際のソファーに座って、きのうの出来事を思い出してた。
突然の携帯。車。おしゃべり。お風呂。アシュトン……
そう、ねずみのアシュトン。とってもセクシーな童話だった。
あれ?結局二度目のお風呂のあと、私寝ちゃったんだ。
悪いことしちゃった。彼、気持ちよくなってないもの……

「今……何時……?」
かすれた声がベッドから聞こえる。私が立てた音のせいだろう。
ウーロン茶を口に含んで、ベッドの彼におはようのキス。
ゴクッゴクッっておいしそうに彼。
「ねっ。お散歩いこうよ」
枕もとの腕時計をみて「人が起きる時間じゃない……」
「でも、せっかく高原まで来たのに、このまま帰ったらつまんない」
聞こえてる雰囲気。
「それに、腕組んであるいてみたい。人の目を気にしないで……」
ちょっとしおらしいバージョンで言ってみる。窓の外を見ながら。
ベッドの上に起き上がる気配。私を見てる。
「よし、行こう。朝の散歩」
ひっかかった。単純だ、男って。

洋服を着て外に出る。すっかり明るくなっているけど、かなり寒い。
腕にぶら下がるようにして歩く。結構、本音だったし。
ところどころの野草が、可愛いい花をつけている。
空気もきれいだし、誰もいない。車も通らない。
どこまでも歩いていけたらいいのに。


横道にはいる。ちょっとした林の中の道。緑のにおい。
少し奥まったところで彼の足が止まる。キス。
あいさつで始まって、すこしずつディープへと。
私の体の奥のほうが、うずきはじめる。

背中の手が私のお尻にまわる。両手でわしづかみされる。
彼の腰にぐっと押し付けられる。硬いものが感じられる。
脈打ってるのがわかる。
そのままスカートをまくりあげて、ショーツの中に手が。
直接彼の手がおしりに触れる。だめだってば、そんなことしちゃ。
誰か来たら、恥ずかしい……

むこう向きにされる。
フリースの下からノーブラの胸へと手が移動する。
今度はお尻に硬いものがあたってる。両手が乳首をこねまわす。
「あっ」
刺激が強すぎて、下半身にダイレクトにつながってしまう。
濡れ始めた。たったこれだけの愛撫で。
片手がショーツの上からクリトリスをなでた、的確に。快感が走る。
「だめ、あぅ……」
今度は、入り口の近くを中心に、指が円を描く。
私の意識はどうしてもその中心部へ集中してしまう。
もう、ひだの中に粘液がたまり始めてる。

彼の指が入り口近くを強く押した。
ひだが押されて、中からあふれたものがショーツにしみていく。
「由紀、あそこ、びしょびしょだね、もう」
気づかれてしまう。その言葉で、また、よけいに感じてしまう。
「いじわる……」
彼の指が上下に往復を始めると、押さえようもなく声が出てしまう。
人に聞かれてはいけないと思うと、逆に高ぶってしまう。


ショーツが……ショーツがおろされてる。だめ。やめて。そんな。
「だめ、こんなところで……」
「ほらさわってごらん。
 由紀の中に入りたい入りたいって言ってるよ」
外に出された彼の固いものを握らされた。
指から受ける感触が私の心を乱す。
下半身に火がそそがれる。あそこが熱くなる。欲しくなる。
突然に指をいれられた。
「うぅっ」
「ほら、由紀のもいれて欲しいって……」
入れられた指を包み込むように、私の中がくねる。指を圧迫してる。
腰が動いてしまう。動きを止めようとするけど、できない。
抱え上げられ、ひざに引っかかってたショーツが脱がされた。

「ほら、体を前に傾けて、お尻突き出すように」
私はもう彼の言うがまま。だって……早く入れて欲しいから。
スカートがまくり上げられて、むき出しのお尻がひんやりする。
入り口にあたってる。彼のが。そして貫かれた。一気に。奥まで。
頭の先まで衝撃が走る。体中がばらばらになりそう。
私の両手がつかまれた。身動きできない。犯されてるみたい。
動きが始まる。ゆっくり、それからだんだん早く。
出入りのたびにピチャピチャと音がしてる。
あっ、わたしのすきなとこにあたってる。あたってるよ……
頭の中が半分白くなってしまって、
大きなあえぎ声が出てるの、わかってる。でも、止められない。

彼の動きが速くなる。こんどは、奥のほうが……すごく、いい……
「ああっ、だめ……もう……だめっ……いっちゃう、いっちゃう!」
「由紀! 由紀!」
彼が動きを止めて、ぐっと奥に突き入れてくる。
ピクンピクンってしながら、熱いものが私の奥にそそぎこまれて、
それが感じられた瞬間、私もいってしまう。

呼吸が元に戻って、彼が体を離した。
私の粘液と彼の精液が混じったものが垂れてくる。大量に。
何かがそこに押し当てられた。とりあえず止まった。
「ありがと」
「でも、それ、由紀のショーツ……」
当然ショーツはぬるぬる、着替えなんてもってないし……。
しょうがなく、ショーツなしで帰ることになってしまった。

歩き始めた途端、彼の手が後ろからスカートをめくる。
「やめてったら」手で後ろを押さえる。
「いや久しぶりのスカートめくり。いいなあ。
 子供の頃と違って、新鮮だし。
 なにより由紀のお尻、丸見えだし~」
「ばか!」
どうしようもないやつなんだ。こういうところ、やっぱり、男。
部屋に戻る階段だって、先に行かすのに一苦労。
それでも散々ぼやいてたっけ。

Part.13

部屋に戻ったら、そのまま私、ベッドに押し倒された。
「お掃除しなきゃ」
何言ってるんだろ?
「中のほう、ちゃんとね」
その言葉が終わらないうちに、彼のものが入ってくる。
グッと奥まで。ゆっくり引き戻されて、また奥に。
「あっ、うっ」
さっきの興奮がまだ残ってて、また火がついてしまう。
「だめだよ、感じたら。おそうじなんだから」
急に抜かれる。だめ、抜かないで、お願いだから。
枕もとのティッシュを抜く音。私のあそこに当てられてる。
「はい。お掃除完了」

たしかに散歩のときの分はすべてティッシュに吸い込まれた。
「すっきりしたろう?じゃ、朝ごはん食べに行こう」
「先に行ってて、すぐだから」
「いいよそのまんまで」
なんてこと言うんだろ。この人。自分の言ったことわかってる?
私、そんな趣味ないんだから。
「別に、誰にもわからないだろ?二人だけの、ヒ・ミ・ツ」

確かにこのぐらいの丈のスカートなら、外から分かるわけも無い。
大丈夫かもしれない……
「じゃ、合意ってことで。行こう」
ひきずられるように部屋を出る。
OKしてないんだけど、私。


ダイニングは、家族連れとカップルであふれてる。
一組のカップルは、こっちが見てても恥ずかしいくらい、
無言でうつむいたままトーストを食べてる。
ゆうべのこと、思い出してしまって、顔も見られないんだろ。
それに引き換え、こっちはとんでもない事態。
なんで、こんなことになってしまったんだろ。
何も覆うものがない状態って、なんか落ち着かない。

「あのさ、」コーヒーを飲みながら彼。
「な~に?」平然を装う私。
「今朝の散歩、気持ちよかったね」
魂胆みえみえ。
動揺を押さえ、「そうね」と軽く流す。ちょっと間があく。
サラダに手をつけたとき、また彼が話し出す。
「アシュトンの話、途中だったよね、そういえば」
思い出してしまった。つい。
「どこまで話したっけ、ゆうべ」
じわっ。濡れてくる。だからダメだってば。
「続きはまた今度でいいから。ね。今は違う話にしよ」
「そうだねこんどゆっくりとしよう、続きは」
私をじっと見つめながら言う。
その目が私を犯してる。
体を貫かれたような気がして、感じてしまう。

朝食の味なんて何もわからなかった。
彼の言葉だけで感じてしまった自分も情けないし。
「ごちそうさま」って言って、先にダイニングを出る。
追いかけるように彼。
さっさと階段を上る私。部屋に入る。彼も、遅れて。

「由紀、言いにくいんだけど……」
「なんですか。いまさら謝っても許しません。絶対に」
「ちがうよ。由紀のスカート……」
彼がスカートの後ろを指差す。
鏡の前に行って肩越しに見た。
ちょうどあそこのあたりに大きなしみができてる。やだ。
「もう、ばかっ!」


帰りの車で、いっさい口をきかなかった。
当然のむくいだ。私にあんなことしたんだから。
私のプライド、ずたずたにされたし。
スカートにあんなしみ作って、自分が女だと思い知らされて。
意地でも無視してやる。話し掛けられても無言。

彼、絶句してる。いい気味だ。もっと困らせてやる。
2日間、とぎれなく私をいたぶった罰だ。
それを全部感じてしまってる、わたしもわたしだけど。

無言のまま、車だけは東京へと近づいている、着実に。
右手一本だけでハンドルを握る彼。
そっと、あいてる彼の左手を握った。

私を見てる。怪訝な面持ちで。
「危ないから前を向いて」
あわてて正面を向く彼。考えてる。
「………怒ってないの?」
「もう、落ち着いた」
「よかった……」
そういうそばから私の太ももに手が伸びる。
「それがいけないんだってば!」
「はい、すみません」

私のマンションの前で車が止まる。
降りようとした彼を押しとどめる。
「ここでいい」「でも……」
彼にチュッとキスをした。
「とっても楽しかったよ。また行こうね。お泊まり」
荷物を持って降りる。ドアを閉めた。窓越しに手を振った。笑顔で。
彼、何か言いたそうだった。
未練を残して彼の車が発進した。
遠くの角を曲がるまで見送る。

部屋まで送ってもらったら、私、絶対言ってしまう。
「帰らないで……」って。
そして泣いて叫んで彼を引き止めてしまう。
そうならないようにする自信なんて……全然無い。

部屋に帰る。私一人の部屋。暖めてくれる人もいないベッド。
明日、また会えるんだよ由紀。だから、我慢するんだよ。
私は自分自身に、そう話し掛けていた。いつもと同じように。

Part.14

「山賀君とは、君のほうから別れて欲しいんだ」
私は自分の耳を疑った。

海外事業部長から社内メールが来たのは、今朝だった。
接客室に招かれ、そして突然、この言葉。

「私の友人が、那須に遊びに行っててね。
 山賀君を見かけたんだ。そして同伴の女性も。
 彼は、奥さんだと思ってたようだけど、
 話を聞いてるうちに、私には君だとわかった」

数秒の空白。
私は自分のひざの上の手を、ぼんやりみていた。
話が続く。

「山賀君にはニューヨーク支社に行ってもらう。
 支社長のポストだ。栄転になる。
 私が無理を言って企画室から引き抜く形をとる。
 根回しも済んでる。そして、君には企画室に残ってもらう。
 誤解しないで欲しい。ペナルティじゃないんだ。
 まして、人の恋路を邪魔する趣味は、私個人にはない。
 私は単純に、君たちの才能を惜しんでる。
 このままにしておいても、
 いずれ君たちのことは、どこかで分かってしまうだろう。
 そして会社は有能な社員を二人同時に失う」

ちょっとした偶然が、私たちを引き裂こうとしている。
目の前の役員が、彼の才能を惜しんでいるのは確かだ。
そして私に協力を求めているのも。
私が断れないのも。
そんな私が悲しい。すべてが終わろうとしてるのに。

「わかりました」

Part.15

人事異動が公表された。
「もう、会いたくない」私はそれだけ繰り返した。
私の思いを、それ以上の嘘で塗り固めることはしたくなかった。
1ヵ月後、山賀は奥さんとニューヨークに旅立った。
半年間、若い子たちに業務を教え込んでから、
私は円満退社した。

そして、全く分野違いの会社に入った。


そこは製造と販売の小さな会社だった。
雰囲気からして前とは全然違う。
何より騒がしくて活気があって。
忙しくて、つまらないことを考える間もない。

一人の男の人が私に気を使ってくれた。
名前は、吉岡 孝。年は私より少し上。
分からないことなんかをいろいろ教えてくれて、
冗談で私をリラックスさせてくれて。
なんかとっても楽な感じで話ができる人だった。
彼のおかげもあって、比較的早く会社になじむことができた。
なんとなくいい人だなって、その頃から感じていた。

Part.16

会社の忘年会の帰り。
なんか飲みすぎてしまって、足元がおぼつかない。
ナイト役を買って出てくれたのは吉岡さん。
部屋の前まで送ってくれた。

バッグから鍵を出したが、うまくささらない。
「ほれ、貸してみ」ガチャ。ちゃんと開いた。
「ありがとう。じゃここで」
と言いながらよろける私。彼が支える。
「待て、ベッドにおまえさんを放り込んでからだ」
「で、私はあなたに襲われる?」
「酔っ払いは相手にしないことにしてる」


ベッドまで連れて行かれ、そっと寝かされる。
掛け布団がかけられる。
「玄関のポスト鍵かかるだろ?
 かぎ閉めたら、あそこに入れとくよ。
 聞こえてる?小山内さん」

「……さっきのことだけど」
「なんだ、さっきのことって?」
「冗談じゃなくて……いいのよ、抱いて……くれても」
「おまえ、自分の言ってること、わかってんのか」
「でも誰かに抱いて欲しいの、今。そんな気分だから」

間があく。

「誰でもいいのか?」
言葉の強さに思わず彼を見る。
怒っている。とても。怖い。
こんな表情、今まで一度も見たことがない。
押し寄せる彼の強い感情に、言葉が出ない。

「誰でもいいのか?俺じゃなくても、誰でも」
ちがう。そうじゃない。
「帰る」
大きな音を立ててドアが閉まった。鍵の音。

ちゃんと素直に言えばよかった。
あなたが好き、って。

何日も前から、自分の気持ちに気づいていた。
でもこんな私を、彼の重荷にすることなんて、できない。
飲みすぎてしまったのも、
そんな出口の無い気持ちが原因だった。

ほんのなりゆきで、二人きりになれた。
私は彼に抱かれたかった。かりそめでもいいと思った。
その想いが言葉となったとき、彼をひどく傷つけてしまった。
私は最低な女だ。私は泣くしかなかった。ベッドの上で。


ノックの音がしたような気がした。もしかして……
もう一度、今度ははっきりと聞こえた。
「誰?」「俺」
ドアを開けた。
「ごめん」「ごめんなさい」
二人の言葉は同時だった。お互いの顔を見る。
「わたし、あんな言い方するつもりじゃなかった」
「俺も」
無言の時間。

「こんどさ」
「はい」
「小山内が素面のときに、ちゃんと口説くよ」
それだけ言って、彼は帰っていった。


「よーし、今夜は口説くぞ、由紀ちゃんを」
「あの……あんまりそういうこと、
 本人の目の前で言わないんじゃない?ふつう……」

土曜日。彼の部屋。テーブルの上にはワインと食事。
さっき、食事の準備してる時、私うきうきしてた。
久しぶり。こんな気分になれたの。
二人でテーブルをはさんで、ワインをついで。
そして、この言葉。変わった人だな、ってやっぱり思う。

テーブルの上では、おかしな話が次から次へと。
涙が出るほど笑ってしまって、
ワインを吹き出しそうになってしまった。

「そう、その笑顔が見たかったんだ。俺」
何も言えない。そう、久しぶりに私笑ってる。

Part.17

食事を終え、コーヒーを飲んで、
どちらから誘うともなく、
いつか、二人はベッドの中に、もぐりこんでいた。
私は裸で彼の腕の中にいた。

彼の手が私の髪を撫でる。肩に触れる手があたたかい。
でも、その手は私の官能をかきたてようとはしない。
この人にとって、それは今必要のないこと。きっと、そう。
そんな彼のぬくもりが、私の肌に伝わってくる。
ただおだやかに、私は包み込まれてしまう。

やっぱり聞いておきかった。

「どうして、私を……?」
「さびしそうで放って置けなかったんだよ、君」
「わたし……」
「いいよ、つらいことは話さなくて。
 というか、正直言うと、聞いたら嫉妬すると思う。
 だからいい」

私は彼の胸に抱きついた。
あふれだすとりとめのない感情を、そのままぶつける。
このままの私でいい、って言ってくれてるんだ。
何も飾る必要もない。今の私で。

髪をなでていた手が止まった。どうしたんだろう。見上げた。
タカシの目が優しく私を見つめてる。
「今日はこのまま寝よう。由紀」
「え?」
「野獣のように襲う気でいたんだ、さっきまで。
 でもそんなさびしそうな目をされちゃ、それも無理だわ」
「ということで、不肖、私、吉岡孝、
 ただいまより世界で一番優しい男を演じます」

言葉の一つ一つが、とてもうれしかった。
タカシは私を待っている。急がずに。
世界で一番優しい人の腕の中で、何も考えず私は眠った。


翌朝、私は家に帰った。
「そんなに急いで帰んなくてもいいんだろ。
 俺の作る特上のフレンチトースト食べてから帰れば?」
「ちょっとね、用があって。で、今日はずっといるの?」
「ああ、何の予定もないし、寝てるよ、多分」

2時間後、私はタカシの部屋の前にいた。チャイムを鳴らした。
「ふぁーい、いまいきま~す」寝ぼけた声。
ドアが開く。タカシのギョッとした顔。
「忘れ物か?」
私の手の大きな荷物を見て驚く。
「なんだそりゃ?」
「とりあえず、シャンプーとか着替えとか……」
「それって……」
「今日からお世話になります。小山内由紀です」

驚くタカシを玄関に残して、勝手に部屋に入った。
ベッドのとこに荷物を置いて、
散らかった服を拾って洗濯機にかける。
掃除機で、部屋の掃除を始める。

この部屋の主が遠慮がちに質問をしてくる。
「あの、すみません。事情が飲み込めないんですけど」
掃除機を止め、彼のほうに向いて話した。

「今朝、目がさめて。家に帰らなきゃって思った。
 でもタカシの腕の中から離れたくなくて。
 そうだ、一緒に住めば帰らなくていいんだ、って。
 これって、すごい名案。でしょ?」
「あっ、まあ……」展開に飲まれてるタカシ。
「で、必要なものだけ持って来た、というわけ」

ダイニングの椅子に座って考え込む彼。
私はかまわず掃除機で部屋の隅々まできれいにする。
今日からタカシと私の部屋なんだから。

「あの、すみません」
「はい?」
「だいたい雰囲気つかめましたので、こちらでお話を」
ダイニングで向かい合って座る。

「一緒に住むことは了承。俺も同じこと考えてたから。
 俺としては、君をひとりで置いておくの不安だったし。
 でもさ、由紀、なんでそんなに急に性格変わっちゃったの?
 きのうまでとてもそんなふうに見えなかったけど」
「それは……あなたのせい」
「俺?」
「だって、あなたの前では素直な自分でいようって。
 だから、あなたのそばにいたくて声を聞いていたくて、
 で、こうなっちゃったわけで」
「ちょっと論理の飛躍があるが、言いたいことはわかった」
「それで、あなたのそばにずっと居られたらいいなって……」
「ストップ!」
「え?」
あ、また何か余計なこと言ったのかな、私……
「それは君の口から言ってはいけない。そこのエリアは、
 俺から、また改めて由紀に言うから」
……それって、もしかして……。うれしい。
「泣くな。そのときが来たら泣け」
「うん」

タカシがこちらに来て私の肩を抱くように立たせる。
「順番が違ったが、第1章から始める」
「え?」
「第1章はキスの仕方だ」
言葉と一緒に彼の唇が私の唇に重なった。


その晩、私たちは第3章まで進んだ。

Part.18

私の中にタカシがいる。
それが… うれしい。
今、気持ちも体も、この人とつながっている。

その手はとぎれなく私の髪をなでている。
キスがくりかえされる。
時おり、じっと私の眼を見つめる。

タカシの思いは、じかに私の心の中に飛び込んでくる。
そして、私を包みこむおだやかな優しさに、思わず涙が出そうになる。

なにも捨て去る必要はない。
悲しかったこと、切なさに胸をかきむしられた思い出。
そして心に残された傷さえ、なにもかも。
この人は、あるがままの私を愛そうとしている。

幸せ… 今、とっても。
こみ上げる思いに操られるように、自分から唇を重ねた。

好き。
心の中で何度もくりかえす。
背中を抱きよせ、貪るように唇を吸う。

たかぶった感情が、全身につたわっていく。
タカシを受け入れている場所が、突然、妖しく動きはじめる。
この人の分身をいとおしむように。
うねり、もだえ、喜びをかくそうともせず。

「由紀… 俺…」
「タカシさん… お願い…」

ゆっくりとタカシが動き出す。

かきわけるように通り過ぎるものに、
私のひだがまとわりつこうとしている。
触れ合おうとする。

奥まで到達して埋めつくされるたびに、
大きな声が出てしまう。

すこしずつ動きが激しくなり、
私は次々と押し寄せる快感の波にさらされ、
何も考えることが出来ない。

突然、タカシの腰が強く押し付けられる。
「由紀!」
その言葉と同時に、奥のほうで熱いものを感じた。
その瞬間、私も絶頂を迎えた。

タカシの分身をとらえたまま、収縮がくりかえされる。
そこからもたらされる甘美な刺激に、
私は我を忘れ、ただタカシにしがみついていた。
ずっと……

Part.19

「行きたくないよ~」
「わがまま言わないの。
 お客様とゴルフするのも大事な仕事なんだから」
「俺が居ないほうがいいのか? 由紀は」
「もう、馬鹿なこと言ってないで。遅れるよ。行かないと」

やっとのことで大きな駄々っ子を送り出す。

あーあ、こっちだってつまんないんだから。
せっかくのお休みなのに、タカシがいない。
今日はひとりぼっちだ。
とりあえず、お洗濯しようか? それとも
ふぁー、眠いや。
ゆうべ、タカシ寝かせてくれなかったし……
もう一度ベッドに入ろう、やっぱり。

携帯が鳴った。

「由紀?」
この声………なつかしい……

「由紀なんだろ?」
忘れていた感情が瞬間的によみがえる。切なく。

「今、成田に……」
体があのときの刺激を思い出している。

「由紀、聞いてるのか?」
私の中でなにかが違和感を告げる。

何も言わず電話を切った。


迷い込んだラビリンス。
囚われの日々。
愛し合い、求め合った時間。
すべてが真実だった。あの人を愛したことも。

でもそれは、私の記憶の中で、
既に思い出の風景へと変わっていた。
そう、まるでセピア色の写真のように。

私がいるのは、陽のあたるこの場所。
やっと見つけたやすらぎ。タカシの腕の中。

遠いあの日々を、私は決して忘れることはないだろう。
でも、そこに戻ることはない。二度と。

Epilogue

愛するテセウスに置き去りにされ、
アリアドネは涙に暮れて、海に身を投げようとしたが、
そこに、ナクソス島を支配していた酒神デュオニソスが現れた。

デュオニソスはアリアドネを慰め、
やがて、アリアドネを妻に迎えた。

デュオニソスはアリアドネに妻の証しとして、
7つの宝石をちりばめた美しい冠を贈った。

アリアドネはその後、
デュオニソスの妻として幸福に暮らしたということだ。

             ギリシャ神話より

初出:おんなのこでも感じるえっちな小説2 2002/05/02